第32話:大和の力
「それでは第3ブロックの対戦に入りたいと思います!! 暫く準備の時間を取りますので好きな立ち位置を選んでください!! 目立ちたがりは真ん中にどうぞ!! 何をやっても何処からでも丸見えですからねぇ!!」
観客席から爆笑の声が響いた。大和の着物姿で参戦する龍斗は腕を組んだ状態で壁伝いに移動し、自分の立ち位置を決めた。そこは観客が最も少ない位置。
(一応指向性は持たせるんだが……かなりの人を巻き込みやすいからな、念のため)
龍斗は目を閉じ、丹田から魔力を引き出した。外に漏れださないよう注意しながら、最初の攻撃のために静かにその時を待つ。そしてその時が訪れた。
「それでは第3ブロック、始め!!」
開始の号令と共に銅鑼が鳴った。雄叫びを上げ、己の出世に邪魔な周りの者を淘汰せんと一斉に動き出す戦士達。それは龍斗も例外ではなかった。
銅鑼の音が聞こえた瞬間、龍斗は目を見開いた。刹那、龍斗の体から膨大な魔力が放出された。まるで津波のようなその力に飲み込まれたほとんどの者は、一瞬体を硬直させて地に倒れ伏した。魔力の波が引いた後、グラウンド内で立っていられたのは龍斗を含め約20人ほどだった。
大和に伝わる伝説の1つによると、真の強者はその威圧感のみで相手を倒すことが出来るという。その幻の力の名は『覇気』。龍斗は魔力を使うことでこれを再現したのだ。
今回龍斗は体内に宿る魔力を爆発的に放出した。ただそれだけのことである。しかし魔力というのは文字通り「力」である。魔法発動のために消費されるだけのものという固定観念があるが、体力や筋力などと同じ、れっきとした力なのである。そして魔力というのは普通、体から自然に放出されていくので、人によっては敏感に感じ取ることが出来る。それが一般的に「オーラ」「プレッシャー」「威圧感」と呼ばれるものとなる。即ち、ただ放出されただけの純粋で膨大な魔力は、そのまま圧倒的な威圧感として相手に伝わるのである。しかもこの力は魔力を引き出し放出するだけで、消費したりはしない。体内に魔力を戻せばその分はまた魔法を発動させるのに使える。数頼みの相手には非常に有効な手段である。
(忍術を筆頭に大和で得た奇術の知識、大陸に来てから得た魔法、魔力という概念に、連から教わった気概空手の気概。この3つを学んだからこそ出来る技だな。さて、残ったのは……)
開始早々多数の戦士が倒れるという前代未聞の事態に、誰もがただ呆然としていた。覇気を受けてなお立っている戦士達には、ピリピリとした痺れのような感覚が残っていた。
その沈黙を破る者が現れた。龍斗の左手から砂煙を上げ猪突猛進の勢いで走ってくる。一瞬跳躍して避けようとしたが、構えに気付いて相手と向かい合った。軽く足を曲げ、胸の前で拳を合わせる。
「忠節尽くし只主の勝利が為我が身を盾と為す」
「隴西一刀流、霧払い!!」
一際大きな金属音が響いた。いつの間にか皆正気を取り戻して戦いを再開しており、その音に注意を向けるものは誰もいない。音を響かせた本人達を除いては。
「……生身で受け止めた、だと?」
「何人も傷つけること、能わず。『忠勝鎧身』」
下から掬い上げるように放たれた斬撃は龍斗の脇腹をしっかりと捉えていた。しかししかしその刃が血に濡れることは無かった。相手の手にあるのは、まるで鋼鉄の鎧を叩いたかのような感触。双方ともに後ろに下がり距離を取った。改めて互いの姿を確認する。
「お主、何者じゃ。よもや刀を生身で受けようとは。それにその格好……拙者、隴西一刀流を心得し坂本糺兆と申す者。お主、さては同胞か!!」
坂本と名乗った男は龍斗と同じ大和の着物を着ていた。頭に笠を被り、右手には、龍斗が背負っているのと同じような刀を持っている。『大和』の礼儀として、龍斗も名乗りを返す。
「これはこれはお侍殿、名乗りを賜ったこと痛み入る。我が名は東龍斗。確かに大和にて生まれ育った者。して坂本殿、貴方はいつこの大陸に来られたのですか?」
「約2週間前、といったところか。海に出た途端大きな野分に流されてしまってな。気付けば右も左も分からぬ異国の地よ」
龍斗は頷いた。時期は違えど、龍斗も同じようにしてここに流れ着いた身である。坂本が続けた。
「当てもなくここへ辿り着くと、武闘大会なるものに勝ち残れば、身分は保証され、城に仕えることが出来るという。城を守るが武士の務め、なればと思い参加した次第。ところでお主、得物を抜かんでいいのか」
「侵略すること火の如し、『蛍火』」
印を結んだ龍斗の周りに、ぽつぽつと青白い炎が浮かぶ。それは真っ直ぐ坂本の足元へと飛んでいき、着弾と共に小さな爆発と砂煙が上がる。飛んでいった炎10個ほどを跳躍でかわしていく坂本。最後の一個をかわし坂本が体勢を整える頃に龍斗が言う。
「生憎、我は忍。なおかつ今回は魔法の扱いを主としておる故」
「まさか忍術が本当に効果を持つとは……されど、是非も無し。東殿、お相手願う!!」
奇遇にもランドレイク大陸のエルグレシア王国という異国にて出会った2つの大和魂。剣劇と歓声が響く中、武士と忍の戦いが始まった。
えー、というわけで(予定にはありませんでしたが)大和人との戦いになりました。……はい。