第25話:清算
ユニーク3500人越え
お気に入り登録44件
読者の皆様本当にありがとうございます
「うーん、紫な……」
「もしかして、魔力の使用が原因では?」
そう言われた龍斗は目を閉じて意識を集中させた。体の中に何か表現できそうにない物を感じる。これが気、こちらで言うところの魔力。龍斗はそれに意識を向け、体の中心に集まる様子を思い浮かべる。胸の辺りに大きな球体のような物を感じた龍斗はそれをへその辺り、丹田と呼ばれる場所まで移動させ、そして消滅させた。なお、この作業にかかった時間はほんの数秒ほどである。
「治ったか?」
「……ええ、そうですね、元に戻ってます」
ミーアの確認を取った後、改めて手鏡を見る。そこにあるのは馴染みのある藍色。1つ息をついた龍斗は礼を言って手鏡をミーアに返した。ミーアがそれをポケットに戻す間にレイアが声をかける。
「しかし、紫、ですか」
「何か問題なのか?」
「ああいえ、そういう訳では。以前、紫の眼について何か聞いていたような気はするのですが……申し訳ございません」
頭を下げようとするレイアを途中で止めさせ、龍斗は軽く肩を回した。
「まあ何でもいいや。害は無い感じだからな」
「はい、呪いとかそういった話ではなかったので大丈夫だと思います。それにこれは一般にはあまり知られていない話ですし」
「何でそんな情報を、てそうか。貴族出身だったか」
「はい」
彼女らの出自を確認したところで龍斗は気付いた。いつの間にか空は赤に染まろうとしている。
「ああ、もうこんな時間か。んじゃあさっさと戻るか」
『はい』
3人は旅亭へと戻っていった。
翌日、龍斗達3人は長く世話になった旅亭を後にした。勿論、請求された料金を支払ってである。この時誰がお金を支払うかで結構もめたのだが、最終的にそれぞれ1部屋分の料金、龍斗はそれに加え賠償金もということで収まった。
暫く大通りを歩いていくと、龍斗は白い石造りの建物の前で止まった。その入口の上には堂々と「冒険者ギルド」の看板が掲げられている。
「俺についてくるんならやっぱ、同じ職の方がええわな。て、本当にいいのか?」
「私達の事ならお気になさらないで下さい」
「そうですよ、それに、自分で決めた事ですから」
「……なら、もう何も言わんさ。じゃあ2人の登録をしとかないとな。それともう1つ。んじゃ行きますか」
『はい』
龍斗は両手で木の板を押しながら建物の中へ入っていった。
「すいません、討伐クエストの清算をしたいのですが」
「かしこまりました。ではカードと特定部位の提出をお願いします」
「ああ、はい。マイカード・オープン」
龍斗はカードを出現させ、背負っていた麻袋の1つと共に事務員に渡した。その女性は傍にあった水晶にカードをかざした。水晶から淡い緑色の光が現れ、空中に文字を浮かべていく。魔法というものの存在を理解し始めた龍斗は、流石に表情には出さないものの内心はやはり驚いていた。事務員の女性は宙に浮かんだ文字を読み上げる。
「ええと、クエストは……アサンの森での、ワイルドボアとハウンドドッグですね。では特定部位の確認をさせて頂きます。2、4、6……ハウンドドッグの牙が20本、ワイルドボアのが18本。単価は……あ、あった。ハウンドドッグのが1本30ドルク、ワイルドボアのは1本50ドルク。1500ドルクですね」
「へぇ、そんなもんなのか」
「はい。まあこの程度の野獣はさほど強くもないですし。……にしてもこれ、綺麗に洗ってありますね」
女性は牙を見て感心していた。それもそのはず、龍斗はその全ての牙を洗浄していたからである。
「普通はしないでしょうけど、血や肉が腐って臭いを出すのは、ちょっとね」
「わかります。私も仕事の関係上こういったものをよく扱いますが、皆さん血肉をそのままにしてるからもう臭いが凄いのなんのって。こちら側としてはこれは有難いことですね」
そう言って笑っていたところに、龍斗の後ろから小声で声をかける者がいた。
「龍斗様、登録完了いたしました」
「ん、ああ、ご苦労さん」
それはレイア、ミーア姉妹だった。ギルドは役所仕事のため、仕事の内容によって窓口が変わってくる。登録の間ただ待っているのもなんだからと龍斗は精算窓口で清算をしていたのだ。
と、姉妹を見た時ふと思いついたことを事務員に尋ねてみた。
「あ、そういや盗賊退治とかってクエストにあったりするんですか?」
「ええ、あると思いますよ。ああ、私はまだクエスト窓口を担当したことが無いので。詳しくはクエスト窓口でお願いします」
龍斗は2つ隣の窓口に行った。そこは突き当りの壁際にある窓口だった。壁には淡い光を放つ魔法掲示板が掛けられており、黒い活字で「冒険者ギルド 依頼一覧」という文字が浮かんでいる。龍斗が手で触れるとその文字は粒子となって消え去り、代わりに別の文字が画面いっぱいに浮かび上がった。それは横並びになっており、よく見てみると「オルボラ帝国傭兵募集」「パルコール王国ゴブリン討伐」「トズロ山でのアミカラタケ採取……」という感じに読める。つまりこれは現在ギルドが受け付けている依頼の一覧なのだ。下まで目を通し、何度か指先を上に跳ね上げて画面をスクロールさせる龍斗だったが、面倒なので直接聞くことにした。窓口にいた事務員に声をかける。
「すみません、ちょっといいですか?」
「はい、何でしょうか」
相手の女性は手元の書類から顔を上げて対応した。因みにギルドも銀行も、応対する事務員は女性が多い。印象を良くするための心理作戦だろうと龍斗は頭の片隅で思った。
「ちょっと気になったんですけど、盗賊の討伐クエスト……てあったりします?」
「盗賊はですね……アルドバール、ザザンクス、ソベンの3地方から依頼が来てますね。あ、あとアサンの森も」
「ではそのアサンの森の依頼を受けます」
「分かりました。ではカードをご提示願えますか」
カードを渡すと女性はそれを水晶にかざした。中に溜まる黒い粒子が、カードに吸い上げられる。暫くすると粒子が下に沈み始めた。女性からカードを受け取る龍斗。
「これでクエストの登録が完了いたしました。お気をつけて」
その言葉を背に龍斗は再び清算窓口に向かう。既にアサンの森の盗賊は倒した後である。窓口担当は交代制のようで、今は30代と思われる男性が担当していた。
「アサンの盗賊退治の件、清算したいんですけど」
「分かりました。ではカードのご提示を」
了承の意を伝えると龍斗は2枚のカードを出した。1つはもちろん龍斗自身のもの。もう1つのカードは盗賊の頭デッツのものである。
(あの時解放した黒髪の男、あいつに言われるがままに死後現れたカードを回収しといたが……まぁ、金になりゃ儲けもんだな)
野獣を倒せばその証拠として体の一部を提出しなければならない。それと同じで盗賊討伐の場合も証拠となる物を提出する必要がある。その最たるものがカードだ、とあの男は言っていたのだ。
「ほう、デッツが堕ちましたか。どれ、記憶を探ってみましょうか」
男が手をかざすと、デッツのカードは一瞬で真っ黒に染まった。何をしたのかと尋ねると、男はあっさりと答えた。
「このデッツという男は冒険者ギルドに登録していましたから、ギルド規約を違反した行為が無かったかを調べたんです。カードは所有者と同化するでしょう。だから所有者が経験したことをそのままカードが記憶しているんですね。盗賊行為は当然規約違反ですから、すぐ結果が出ましたよ。ギルドの人間じゃなかったら他の魔法で色々調べないといけませんが。色が黒に変わったということは盗賊だと認められた、という認識でいいですよ」
「なるほど」
男はデッツのカードを水晶に突き刺すようにした。カードが触れている部分から黒い粒子が砂のように落ちていき、男の指が水晶に触れる時にはカードは無くなっていた。その粒子は水晶の中で渦を巻き、次第に数字を形成していく。
「この一件の報酬は50万ですね。あ、そうそう。盗賊が銀行口座にお金を預けていた場合、それを倒した人にその口座にあるお金を受け取る権利がありますが」
「へぇ、盗賊が預けてたお金を、倒した俺がもらえるってか。つっても、期待は出来ないな」
「そうですね、盗賊のほとんどは銀行なんかに預けるより手元に置いときますし……あ、ちょっとはありましたね。5万2000ドルクです。取り敢えず受け取る、にしますよ」
了承の意を伝えると、事務員は龍斗のカードを水晶にかざした。一瞬水晶が、その後にカードが光って元の色に戻った。返却されたカードを見る龍斗。といっても元々持っている金額が金額、しかも様々な出費のために細かい額など覚えていない。龍斗は50万増えていることだけ確認すると、クローズ、と唱えてカードをしまった。
建物を出た龍斗は体を伸ばし、辺りを見回した。少し先の噴水の周りには取り囲むように木製のベンチが置かれている。龍斗がその1つに座ると、左右を埋めるように姉妹が座った。
「……あれ?」
「? どうかしました、龍斗様?」
「いや、何か違和感が……ま、いいか……?」
ミーアの無邪気な顔に違和感を誤魔化された龍斗は空を見上げた。今日は雲が多く、太陽は出たり消えたりを繰り返している。雲に語りかけるように、静かに口を開いた。
「さて、これからの課題は魔法の習得か。今まで無意識とはいえ使ってたんだから、身につけようと思えば身につけられるよな。まぁ、宿代くらいは……あー、防具も武器も金は要るか。まあ、それを補えるだけ稼ぐかね。無理に稼ぐ必要はないか。……まぁ何にせよ、これから暫く魔法の事を学ぶ必要があるんだけど」
「あ、その差し出でがましいですけど……」
「私達でよければある程度のことはお教えできますが……」
「ああ、もちろん最初からそのつもりだ」
そう言うと龍斗は椅子から立ち上がり、振り向いたかと思うと立て膝を突いた。幸いにも今はお昼時、大通りから1本外れたこの噴水通りにはあまり人がいなかった。1人2人を除けば驚いているのは姉妹のみ。
「つーわけで、これから宜しくお願いしますよ、師匠」
「え、あ、いや、こ、こちらこそ!!」
「よ、よろしくお願いします!!」
時が止まったかのように静まり返る3人。だが次第にこの空気の可笑しさに耐えきれず、龍斗が笑いで体を震わせた。それにつられて姉妹も互いの顔を見て笑いあった。
「さて、形式だからやったけど茶番はもういいや。休憩は終わりだ。行くか」
『はい!!』
この日以降、龍斗は定期的にクエストをこなし、必要経費を稼ぎながら、魔法習得に向けてマーティス姉妹からの指導を受けた。また姉妹の方も龍斗の戦闘技術を学びたいと言ってきたため実戦形式で稽古をつけた。急がば回れ、石橋を叩いて渡る、という龍斗の意向で、3人は特に大きな動きを見せることなく、徐々に力をつけていった。
そして、光陰矢の如し……気付けば2年の月日が経っていた。
はぁ、やっとここまで来た……
後半少し懸念がありますがこれで、第一章とでもいうべき部分が終わりました←
次からはバトルとかもっと増やせるのではと考えてます。
拙い作品です。不定期更新ですが、なんとかかんとか頑張って書いてます。ご支援いただければ幸いです。