第24話:魔法と忍術
「そうか……忍術は魔法だったのか……」
そう呟いて1人笑う龍斗に困惑する姉妹。
「あの、龍斗様? ニンジュツとは一体……」
「ん、ああすまん。そういやこっちには忍がいないんだったな。分かるわけもないか」
そう前置きしてから龍斗が説明した。
「忍術ってのは忍と呼ばれる人間が使う術のことだ。中身は色々あるが、主に身体能力強化だな。感覚を研ぎ澄ませて気配を探る『即応の霧』、通常の何倍もの力を発揮することが出来る『金剛鉄身』、それから普段よりも速く走ることが出来る『疾走』なんてのもあったか。気を集中させる事によって発動すると教えられているが、正直誰も本気で発動を信じてはいない。呪文を唱えて集中力を高めることで動きが良くなる。それを呪文のお陰だと錯覚する。そういうもんだと思っていた。それと忍術の中には到底実現不可能と思われるものもあった。山のように大きい蛙を呼び出すとか、水の上や空中を走るとか、口から火を噴くとかな。そんなことできるはずがないと思っていた」
「な、なるほど。……思っていた、て過去形ですか?」
ミーアの問いに龍斗は笑みを深くした。
「そうだ。ついさっきまではな。だがレイア、ミーアが使う魔法ってのと、俺が教えられてきた忍術ってのはかなり似ていることに気付いた。そしてさっきの、レイアの感覚強化で確信した。即ち、名前が違うだけで力としてはやっぱり魔法なんだろうな。だが、何か特別な発展の仕方をしたんだろう。所謂強化系の魔法に特化してるんじゃないだろうか」
未だ訳が分からないという様子を見た龍斗は一つ頷いた。
「よし。百聞は一見に如かず。今度は俺が実演する番か」
そう言って龍斗が取った行動は姉妹にとっても不思議としか言いようが無いものだった。脇を閉めずに胸の前で手を組んだ。それもただ手を合わせているだけではない。指を絡ませ、人差し指を伸ばし、それと対をなすように親指も合わせる。その状態で呪文を唱える。
「森羅万象、無為自然、『即応の霧』」
途端にレイアは、自分の感覚強化を感知した時の龍斗と同じような顔をした。隣のミーアも同様の顔をいている。但し、感じたものは龍斗とは違っていた。
(……嘘、これは、感覚強化? でも、何か……)
その心の声を汲み取ったかのように龍斗が説明をした。
「これが今言った忍術の1つ、『即応の霧』だ。効果はさっきレイアがやったのと同じで、周囲の気配の察知。だが決定的に違うことがある」
「……もしかしてこれは、面ではなく空間で把握、できるのですか?」
「ご明察」
目を閉じたままの龍斗が、背後に移動したレイアに笑みを向ける。自分がやったのと同じ効果だと分かってはいるが、見えてないはずの人間に突然、しかも正確に顔を向けられることに軽く恐怖を覚えた。
「ハハハ、まあそんな怖がるなって」
「え……な、何故」
「自分で分かっただろ、『即応の霧』は地面の上だけじゃない。空中も含めた一定範囲内の空間の気配を察知することが出来る。そう、空間で相手を感じ取るが故に表情を読み取ることも不可能ではない。まあ、普通そこまで気にしないけどな。とまあ、前置きは置いといてだ」
姉妹が首を傾げるのを感じ取った龍斗。次に言う言葉の反応を楽しみにしながら龍斗が言った。
「じゃあ2人共、槍構えて」
『え?』
「この状態で、一丁手合せ願おうか」
『ええええーーーー!?』
果たして、龍斗の予想通りの反応だった。
「あの、本当によろしいのですか? というか、さっきも全然当たらなかったんですけど……」
「ああ、構わん。てか、さっきのあれは本当にやばかったぞ。途中で脇差抜いたろ。あれで防いでなかったら確実に喰らってたぞ。というわけで、今回俺は武器を持たない」
「そ、それって……」
「そう。俺は全てを避ける。そして武器を手で止めたら俺の勝ち。2人は俺に一太刀でも浴びせられたら勝ち。負けた方は勝った方の言うことを1つ聞く、てのはどうだ?」
その提案に驚いた2人。だが姉妹は互いを見て1つ頷くと、龍斗に槍の穂先を向けた。因みに2人の格好は膝が隠れる程度の丈がある色違いのワンピース。その中にはレギンスを穿いているため戦闘行動でも難なく動ける。
「ようし、なら、始め!!」
「やっ!!」
開始の合図と同時にミーアが槍を突き出した。だが目を瞑っている龍斗は直ぐ反応し、右腕を隠すように半身をひねる。
「不意打ちとはやるねぇ」
そう言うが早いか龍斗は左足を曲げて姿勢を傾ける。先程まで背中があったところにはレイアが槍を縦回転させて斬りを放っていた。
「足元への突きから足払い」
龍斗が後ろに一歩下がると今言った通りの攻撃がやってきた。レイアの上段突き、ミーアの薙ぎが同時に襲いかかるも上体を逸らして上手く避けた。
その後も2人は流石のコンビネーションで突き、薙ぎ、回転斬りを繰り返す。だが龍斗は目を瞑ったまま、時折何処をどう攻めてくるのかを言い当てながらことごとく避けていく。そして、手合せが終わりを迎える時が来た。
「肩を狙って振り下ろす」
左右から振り下ろされた槍を龍斗の手のひらが掴んだ。そう、龍斗の勝利条件が満たされたのだ。
「……参りました」
龍斗が手を離すと2人は槍を引き寄せて地面と垂直にした。多少は腕に自信のあった姉妹は術を使っているとはいえ目を瞑ったままの相手に負けたことで気落ちしているようだった。2人は、そよ風が吹いた時肌に感じるようなあの感覚が無くなっていくのに気付いた。龍斗が術を解いたからである。
「分かったろ。この術は相手が何処にいるかだけじゃない。どう動くかも分かるという代物だ。で、勝負の報酬なんだが……レイア、ミーア、俺に魔法を教えてくれ」
『えっ……!!』
俯いていた2人は顔を上げて驚いた。いや、驚いて顔を上げ、そこで更に驚いたといった方が正しい。それに構わず龍斗は続ける。
「忍術としての教えしか受けていないからあれだが、ちゃんと教えてもらえば俺にも魔法は使えるんじゃないかと思ってな。……駄目か?」
「あ、いえ、その、それは……約束なのでいいんですが……その目は……」
「眼?」
龍斗が首を傾げたところへミーアが近寄ってきた。腰の辺りにあるポケットのボタンを外し、中から小さな手鏡を取り出す。どうぞ、と渡されたそれを見て、龍斗は眉にしわを寄せた。
「……何だ? 紫の……目?」
鏡に映った龍斗の眼の虹彩は、普段の藍色から紫へと変わっていた。