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龍の逆鱗  作者: 銀狼
邂逅編
18/92

第18話:龍斗の危機

「……申し訳ございません、ご主人様」

「申し訳ありません」

 旅亭に戻り椅子に座った龍斗は首を傾げた。部屋に戻ってきた途端に2人が頭を下げる意味が分からなかったからだ。龍斗は素直に聞くことにした。

「何だ? 2人して……あ、その前に顔上げろ」

「はい……その、ご主人様は私たちの事をどうされるおつもりですか?」

「どうって、奴隷身分から解放したんだから、あんたらが自立するまでの面倒を見る。約束だしな」

 解放した黒髪の男との約束のことを持ち出す龍斗。それを龍斗は今言ったような意味だと解釈していた。だがそう思っていたのは龍斗だけだった。

「申し訳ありませんが……私達は真血の契りで隷属を誓いました。それはつまり、己の全てをご主人様に捧げたということになります」

「……私達はご主人様に永久隷属する身です」

「……何だと!?」

 驚きのあまり龍斗は立ち上がって声を張り上げた。それに一瞬体を硬直させた2人。レイアの鳶色の眼が藍色の眼を捉えた。だがそれも一瞬のことで、すぐに視線を下げてしまった。

「真血の契りは盟約神ミスラ、契約神ヴァルナという2つの神の名に懸けて誓うものです。神の名に懸けて誓った契りを破る事は出来ません」

「……マジか……ハァ」

 龍斗は力が抜けたように椅子に座り直した。暫く天井を見上げていたが、やがて2人に目を向け直した。

(後を引くとは覚悟してたが……まさか永久隷属とは……仕方ない、正直なところを話しておくか)

 そう考えた龍斗は口を開いた。

「……悪いが俺には従者は必要ない。俺が元いた国、大和では俺は忍として生きてきた。忍の最優先は弱点を極力減らす事。幾ら力があっても弱点を突かれたら終いだからな。だから忍は情を無くす。たとえ幼馴染が隣で死にかかっていようと見捨てる……俺はそういう人間なんだ」

 2人はただ黙って聞いていた。忍など聞き慣れぬ表現があるものの、何が言いたいのかは察しがついた。

「そういう訳だから俺は他人を従えるような器じゃない。取り敢えず考えといてくれないか、俺から離れて暮らしていく方法を。こっちはあんたらを解放するように言えば……!! ぐっ、あぁぁ……ちっ、こんな、時に……うあぁぁ……!!」

 龍斗は突然椅子から転げ落ちた。頭を抱え、うめき声を上げながら床で身悶える。ただならぬ容態に驚く2人。

『ご主人様!?』

「!! 来るな!!」

「し、しかし!!」

 龍斗の身を案じた2人が近付こうとするのを左手を出して止めた。龍斗の顔を見た2人は背筋が凍った。苦悶の表情を浮かべる龍斗の顔。だがその目は明らかに異常だった。右目はこの数日ですっかり見慣れた藍色の瞳。だが左目は充血し、血のような真紅の光を放っていた。その光には人間らしい理性など欠片もない。あるのは獣が持つような、あるいは怪物が持つような、本能的な欲しか感じ取れない凶暴な目である。

「物憑きだ……忍を目指す者に多いらしい……くっ、そして俺も例外じゃない……」

「そ、それはどのような病ですか!?」

 ミーアが叫ぶように言った。本当は龍斗の傍まで行きたいのだが、来るなと命令されている以上そこから近づく事は出来ない。レイアもまた同じである。

「ぐ……病じゃない、分からないかもしれないが、こいつは、……亡霊とか妖怪の類、が……俺の体を、のっ、取ろうとしてる……ぐぁ」

〈女だ!!〉

 龍斗の方から2つ目の声が聞こえてきた。龍斗の声ではない。それよりも低く下品な声。まるで私達が出会った奴隷商人のようだと2人に鳥肌が立つ。

「まずい、逃げろ!!」

〈犯す!!〉

「早く!!」

〈殺す!!〉

「この……」

〈喰らう!!〉

 龍斗が何かを言う度に謎の声も主張を繰り返す。片膝をつき、息を荒げ、歯を食いしばる龍斗の様子にレイアは覚悟を決めた。

「早く……視界から、消えてくれ……ぐぁ……出ないと……!!」

〈喰らい尽くす!! ひたすら殺す!! 殺す!! 殺――〉

 龍斗の中で時間が止まった。先程までの痛みも、声も、何も感じなくなった。いや、1つだけ感じるものがあった。温度だ。龍斗を包み込むように背中に回された腕の感覚。そして左半身に感じる熱。肩甲骨の辺りには胸の双丘が当たっているが、今の龍斗にそこまでの余裕は無い。驚きに目を丸くした龍斗はそのまま視線を左に向けた。そこには透き通るような金髪に鳶色の目、他ならぬレイアの顔があった。

「何故……逃げろと……」

「申し訳ありません、命令に背いてしまって……しかし、御主人様の事は我が事です。御主人様は全てを1人で抱えてらっしゃいます……理由はおぼろげに把握しましたが……私達では、駄目ですか? 私達では、支えることすら出来ませんか?」

 少し震える声で台詞が止まると、今度は右側に熱を感じた。見ればミーアが姉と同じように身を寄せていた。

「私も、頑張ります……お姉ちゃんよりは頼りないかもしれませんが……」

「2人共……くっ……マイカード・オープン」

 再び頭痛に襲われた龍斗は自身のカードを出現させた。正面に移動してきた2人を見ながら言った。

「悪いが、2~3日の間、この部屋には一切誰も入れるな。お前ら2人も入ってくるな。何があってもだ……それ、と……お前らは自由に生きろ。奴隷じゃなく、俺がいなくても自分で考え行動する、レイア、ミーアとして生きろ!! ……っ、俺の金は好きに使え。これが最後の命令だ」

『そ、それは……!!』

「いいから出ていけ!!」

 龍斗の怒鳴り声に従い、レイア、ミーアは部屋を出た。錠を掛ける音が鳴ると、堰を切ったようにミーアが泣き始めた。うずくまる妹を腕に抱きながらレイアも静かに涙を流した。

 その後暫く、この旅亭には呻き声と泣き声が空しく響きわたった。

一日2度更新…だと…正気か←^^;


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