第17話:翌日
翌日、3人は朝から馬車に乗って移動していた。街の通りは馬車のための道というわけではないのであまりスピードを出す事は出来ない。龍斗たちも他の馬車と同じようなスピード、人が歩くより少し早い程度でゆっくりと進んでいた。もっとも、龍斗達は周りに合わせて速度を落としているわけではない。馬車があまりに重すぎてそれ以上速度が上がらないだけなのだ。本来オリジアから出てエルグレシア王国に着くまで馬車で2日かかるというアサンの森。その途中から出発したにもかかわらず王国に着くのに2日かかった原因もここにある。
何故そんな荷馬車が重くなっているのか。それはレイア、ミーア曰く重量オーバーだからである。ではなぜ重量オーバーなのか。それは盗賊団が抱えていた物品を龍斗が全て積み込んだからである。武器や鎧を始め、デッツの盗賊団は様々なものを溜めこんでいた。その中には宝石類など明らかに高額と思われるものも混ざっていた。このまま寝かせておくのももったいないということで龍斗が無理やり積み込んだのである。因みにこの時、レイア、ミーアの2人は龍斗から適当なレザーアーマーをつけるようにと言われた。薄汚れた真っ白な服だけではあまりにみすぼらしくて目立ってしまう。かといって盗賊団の隠れ家に女性用の服など置いてあるはずもない。仕方が無いので龍斗はそれをつけさせ、見た目だけ冒険者として誤魔化そうと考えたのだ。因みにその後龍斗は一度も外せと命令していない。故に今の今まで、夜寝る時ですら彼女達はレザーアーマーを着けたままであった。
一行の馬車は銀行の横にある小屋のような場所に止まった。龍斗は馬車から降りると、近寄ってきた男に声をかけた。
「買い取りってここでいいんだよな?」
「はい、左様でございます」
「なら馬車の中身全部売りたいんだけど」
揉み手をしながら笑顔でやってきた男は失礼します、と断って馬車の荷台にかかる幕を開けた。
ランドレイク大陸の銀行は商人ギルドが経営している。そして大陸全土の金の動きを掌握しているわけだが、それだけではない。当然ながら商人は元々物を売買してお金を儲ける人間で、物の動きも掌握していると言える。そんな商人達が作った銀行だ、ただ金を動かすだけではなく普通の商人のように物の売買を行う場所も付属しているのだ。
これは普通の商人としての側面なので銀行でしか物を売れないなどということはない。寧ろ個人商店に行って売った方が物によっては銀行よりも高く買い取ってくれることもある。……逆に悪徳商人に安く買いたたかれる心配もあるが。龍斗の場合は良い意味で言えば効率を重視した。悪く言えば店回りが面倒だからである。
商人は暫く顔を動かして中身を確認した後、再び龍斗に向き直った。
「申し訳ありませんが、少々お時間を頂きませんか」
「ああ、別に急ぎってわけでもないし、銀行にも用があるからな」
「では鑑定が終了次第お呼びいたします。失礼ですが、カードをご提示願えますか」
龍斗は呪文を唱え、カードを出して相手に渡した。隅々まで目を通した男は両手でそれを返してきた。
「冒険者ギルド所属、東龍斗様ですね。では、また後ほどご連絡させていただきますので」
そう言って商売人がよく見せる所謂営業スマイルをたたえた男に背を向け、龍斗はレイア、ミーアを呼んだ。
「レイア、ミーア、銀行行くぞ」
『承知しました』
馬車から降りた2人は既に歩き出していた龍斗の一歩後ろまで移動し、歩調を合わせて歩いていった。と、突然龍斗は立ち止まった。ほぼ同じタイミングで後ろの2人も歩みを止める。何だろうと不思議に思っていると龍斗が振り向いて男に問いかけた。
「そういや、その馬車自体も売れるのか?」
「ええ、まあ買い取りは可能ですが」
「んじゃ馬車も買い取ってくれ」
「分かりました。では、いってらっしゃいませ」
その言葉を背に3人は銀行へと入っていった。
「東龍斗様、いらっしゃいますか?」
銀行内に女性の声が響いた。長椅子に腰かけていた何人かが反応したが、チラッと一瞥しただけで視線を戻す。銀行ではよくある光景である。呼ばれた者とそれに従う者が銀行員の前まで移動した。
「ああ、はいはい、俺ですが」
「鑑定が終了しましたのでお知らせに。……そうですね、4番窓口が空いておりますので、そちらまで」
3人は4番窓口まで行ったが、そこに銀行員はいなかった。あれ、と思っていると先程龍斗を呼んでいた銀行員がその場所に座った。
「では鑑定結果を報告いたします。幌馬車が一台、ナイフが10本、レザーアーマー4着……」
「あー、その辺省略でいいよ、結果だけ教えて」
「そうですか、では買い取り価格の合計は……400万8044ドルク、です」
その金額にレイア、ミーアは息を飲んだ。だが龍斗は全く動じなかった。未だにこちらの金銭価値に慣れていないし、そもそも彼が最初に聞いた自身の貯金額より少ないため、ああそうとしか思わなかったのだ。額を聞いた後、龍斗は振り返って2人を見た。
「さて、じゃああんたら2人のカード貸して」
「え……承知しました」
『マイカード・オープン』
実は鑑定が終わるまでの間に、2人に銀行口座とカードを作らせていたのだ。当然戸惑っていたが、耳元で命令だと告げると2人は従わざるを得なかった。出来て間もないカードを受け取った龍斗はそれを銀行員に見せて言った。
「その金さ、この2つのカードに分けて入れることって出来るかな?」
「可能ですよ」
「じゃあ幾らだ、200万ずつ? 平等に入れといて」
「分かりました。ではお預かりします。レイア・フォルデント・マーティス様、ミーア・フォルデント・マーティス様、それぞれ200万4022ドルクですね」
「ついでに……マイカード・オープン」
龍斗は自分のカードを出現させ、銀行員の前に出した。
「俺の口座から2人の口座に、それぞれ100万ずつ、動かせる?」
「……分かりました。200万ドルクですね」
額に一瞬驚いた銀行員だったが、すぐ事務的に処理を始めた。だがレイア、ミーアはまだ目を丸くしていた。
「あ、あの」
ご主人様、と言いかけたレイアだったが、その口は龍斗の人差し指と眼力で止められた。黙って見ていろ、という意の視線はミーアにも向けられた。彼女もその意を察したらしく、開いた口を閉じて小さく頷いた。
「東龍斗様」
銀行員に声を掛けられ、龍斗はそっちに顔を戻した。3枚のカードが龍斗に返される。
「ではこちらをお返しします。東龍斗様734万2011ドルク、レイア・フォルデント・マーティス様、ミーア・フォルデント・マーティス様それぞれ300万4022ドルクです。ご確認ください」
「だってよ。じゃあこれで」
「有り難うございました。またのお越しをお待ちしております」
カードをしまうと龍斗達3人は銀行を出た。馬車も一緒に売り払ったために、宿までは歩いて帰るしかない。その道中で龍斗はある看板に目を止めた。寄り道してくかと言って店内に入っていく龍斗。女性2人も入っていくとそこは仕立て屋だった。龍斗が2人の方を向いて言った。
「んじゃまあ2~3着を選ぶといいよ。金は出しとくから」
「!! ご、ご主人様、そ、そこまでして頂かなくても……!!」
「あ、あの、さっきのお金がありますし……」
「気にすんな」
「しかし……」
「じゃあこれは命令だ……それと、昨日辛いこと思い出させちまったからな。詫びのつもりということで」
そう告げられた2人は黙るしかなかった。その後2人は店員によって採寸され、1つ2つ生地を選んで注文した。ミーアの方はレイアが選んだよりも少し上等そうな生地だったが、それでも遠慮して選んできたような感じだった。龍斗は上等な方の生地で3着ずつを注文し、現在泊まっている旅亭の名を伝えて店を出ていった。
軽いからか直ぐ3000字いきました。心理的なもので取り敢えず分けてみます。まとめた方がいいのかなとも思ったんですがね……