第14話:無常の闇を斬り裂かん 5
「性奴隷……ちっ」
龍斗は舌打ちした。赤髪の男が龍斗に問う。
「で、どうし、ますか、追いますか? それとも……見捨てますか?」
言葉を詰まらせたのは敬語に直すため。内容自体は悪い話ではない。この場から無事に立ち去ることを考えるならそれが最善の策である。
「なっ、それは――」
「それは無い。俺は追うぞ」
黒髪の男を遮って龍斗が断言した。その言葉に安堵した様子の男だったが、ふと思いついて龍斗に問う。
「理由を伺っても?」
龍斗は男3人を見渡しながら言った。
「俺は『全員助け出す』と言ったはずだ。『自ずから約しき盟を破ることなかれ』言った以上は実行する。それだけだ。文句がある奴は来なくてもいい」
龍斗の意気を感じてか2人が気圧されたように体をのけ反らせる。だがそれに屈しない者もいた。黒髪黒目の男である。
「フフフ、何と義理堅い。ま、我々は奴隷の身。主の命に従うだけです」
そう言って何故か片手を頭にかざす。だが一瞬眉を顰めて直ぐに腕を下ろした。
「何でもいい。取り敢えず奴らの気配を探って見つけ出さないと。森羅万象、無為自然、『即応の霧』」
龍斗は4人が走り去っていった方角を向いて意識を集中させた。声をかけた時に感じていた気配を探ると、指先ほどの点を感じた。
「ちょっと遠いか? でも動き回ってはいない……まっすぐ行けば良いかもだが、急がないとやばいな。普通に走って間に合うかどうか」
「それはまずいですね……ふむ、私に1つ考えがあります。お任せ願えますか?」
「策があるのか? なら任せる」
龍斗からその言葉を聞いた黒髪の男は片手を頭に口を歪めた。
「では……風の精霊シルフよ、我らに力を、『フェアウィンド』」
途端に龍斗は風を感じた。それは自然の風とは違う、質量を持って纏わりつくような風である。そしてそれは驚くべき効果を龍斗にもたらす。
「凄いな、体が軽く感じる」
「お前、ただもんじゃねぇとは思ってたが……」
「まさか魔法が使えるとは……」
他の2人も感嘆の声を上げた。だが黒い目はもう笑っていなかった。鋭い眼差しで3人を諌める。
「感心している場合ではありませんよ。それに効果は一時のもの。お急ぎになった方がよろしいかと」
「おっとそうだった。じゃあ行くぞ……其の速きこと風の如し、『疾走』」
龍斗はいつもの癖で忍術の文句を呟き、気配の方へと駆け出した。
「……今のは……」
「ああ……」
「フフフ、さて、急がなければ取り残されますよ」
あっけにとられている2人を尻目に黒髪の男が龍斗を追う。
「あ、ま、待てよ!!」
正気に戻った2人もその後に続いた。
「ハァ、ハァ……お、追いついた……」
「な、なんてスピード……」
「しっ、静かに」
たった一言で金髪、赤髪が一気に黙った。それには一瞥もくれず龍斗は前方にある洞窟を見続ける。山肌にポツンとあるその入口には2人の見張りが立っていた。それを見た金髪の大男が囁くような声で言う。
「あそこか……あの程度ならすぐ倒せるな」
「あれだけならな。どう考えても中に親玉がいるだろう」
その声を聞いた元冒険者という赤髪の男があ、と声を上げる。
「この辺で盗賊なら、デッツ辺りじゃない、ですかね、その親玉」
「どんな奴だ?」
「ぶっちゃけ単純な奴ですよ。欲に忠実で深く考えることはない。元々はそれなりに力のある冒険者だったとか。いつの間にか10何人程のチンピラを従えて盗賊になっちまいましたが」
「ならば、如何いたしましょうか」
龍斗は黒目に見据えられしばし沈黙した。
天然の鍾乳洞に少し手を加えただけの洞窟の中。その最奥へと1人の若者が歩いていった。濃い緑色のバンダナに茶色のシャツ、革製の胸当て――レザーアーマーというその格好は、見張りをしていた内の1人のものである。目的の場所には洞窟の端から端まで毛皮が敷かれている。壁際に並ぶのは、恐らく今までの盗賊稼業で得た物の中から選りすぐったのだろう、一目見ただけでも良質と分かる品々が並んでいた。
その中心に7人の人間がいた。2人は女性。顔を見る限り10代くらいで、両手には黒い革を巻いている。残り5人はすべて男性だった。床に転がされた女性を下卑た目でねめつけ、着衣の上から体を触りまくっている。その中心にいる大柄の男に若者は声をかけた。
「お頭!! お楽しみの所失礼ですが、1つ報告が」
「ああ? 何だよ人が楽しんでる時に!!」
「おい、デッツさんを怒らせるなよ。命が惜しいだろ」
今まさにズボンのベルトを外そうとしていたデッツは若者を睨んだ。伸びた無精ひげに涎をつけているが、その目は野獣のように荒々しい。しかし若者は威に屈さず言葉を返す。
「洞窟が冒険者に見つかりました。現在入口で交戦中です」
その言葉に全員の目が大きくなる。しかしそこは元冒険者という経験故か、立ち直りの早かったデッツがすぐに状況説明を求めた。
「それで、どうなってんだ」
「取り敢えずその辺にいた仲間達を応援に行かせました。1人は潰しましたが、あと3人と交戦中で予断を許さない状況かと」
デッツの顔に焦りが見えた。
(俺は盗賊になって日が長い。とっくに賞金首になってておかしくないな……)
「取り敢えず、相手は3人だな?」
「はい」
「なら12人で一斉に行け!! 念のため俺も行く。最悪それまでの時間稼ぎだ!!」
「あ、それなら良いものがありますぜ」
若者が取り出したのは一本の黒光りする棒だった。それを見た女性2人の顔色が変わるが、誰1人気付いた様子はない。
「潰した1人が持ってた武器です。かなり良いものみたいですよ」
そう言いながら若者は棒を両手に持ち、左手を動かした。現れた刃を見てデッツは驚愕した。
「こりゃすげぇ、なんて綺麗な刃だ……だがこいつぁお飾りのなまくら剣じゃねぇのか?」
「いや、飾りじゃありませんよ? 実際戦闘で使いますし、何より切れ味が抜群で」
デッツの目の色が変わった。武器として優れているという情報は彼にとって何よりも重要なことだからだ。デッツは若者が持つ短剣を受け取ろうと腕を伸ばした。良いものが手に入るという先走った気持ちから思わず顔がにやけてしまう。
「……ほう、どれだけすごいんだ、その切れ味は?」
「それは……こんだけだよ」
刹那、若者はデッツの手首を斬りつけ、踏み込むと同時に手首を返して首筋を斬った。あまりに突然のことだったので、デッツが倒れた後も沈黙が続いた。血が広がり、若者が左胸に止めの一撃を刺す頃ようやくその沈黙が解けた。
「デ、デッツさん!!」
「嘘だろ……」
「まさか、ここじゃ最強なのに……」
「さてと」
動揺を隠せない他の面々を他所に若者はバンダナを投げ捨てた。バンダナの影に隠れていた黒髪が露わになり、血糊を振り落とすと、藍色の鋭い目が残る男共を睨みつける。
「さて……こいつより腕のある奴はいないか。その命をかける覚悟あらば、お相手致す」
んー……まともな戦闘がない^^;
野獣と不意打ちかぁ
まともな戦闘の場はちゃんと考えてあります。でも全然たどり着けない
ポイント入れて下さる方、お気に入りに入れて下さった方、本当に有難うございます。
至らない点などあるかと思いますが、頑張って書いていきますのでよろしくお願いします。何かありましたら感想など頂けると嬉しいです。