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龍の逆鱗  作者: 銀狼
邂逅編
10/92

第10話:無常の闇を斬り裂かん

総合評価10ポイント

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いやはや、有難うございます。本当に嬉しい限りです。

 鬱蒼(うっそう)と生い茂る緑の中、草一本生えていない一筋の地面が蛇行していた。その道の真ん中に1人の少年が立っていた。鋭い眼光で周囲に目を走らせた少年――龍斗は麻袋をたすき掛けにし、腰を落として構えを取った。左腰には祖父の形見である脇差が、紐を通して括り付けてある。左手で鞘を固定し、右手で(つか)を逆手になるように軽く握る。そのまま目を閉じ、周囲の気配を探りながら呟く。

「森羅万象、無為自然……『即応の霧』」



 忍の世界にはその道を歩む者にしか伝授されない秘伝の技というものがある。それらを総称して「忍術」という。今龍斗が呟いたのはその忍術の一つ『即応の霧』。霧のように意識を広げ、より広範囲の気配を察知するという技である。

 しかし木陰や落ち葉の中に隠れる『葉隠の術』、話術によって相手を翻弄する『五車の術』あたりなら実際に使うことが出来るのだが、口から火を噴くなど攻撃としての『火遁』、蝦蟇(がま)を呼び出す『幻術』、分身を作り出す『分身の術』など、忍術と呼ばれるものの大半はおよそ人間業とは思えない物ばかり。『即応の霧』も現実的にはあり得ない術の1つと認識されている。しかし気配の察知には精神の統一が必要となる。故に今では短時間で精神統一するためのまじないという認識で『即応の霧』発動の呪文が唱えられる。龍斗が唱えたのも本気で効果発動を信じているからでなく、精神統一の認識からであった。



 迫る気配を探り当てた龍斗は左足に体重をかけ、右足を滑らせて構えを直す。

「無常の闇を切り裂かん……『暁』」

 脇差の銘を語り、左手の指で鯉口を切る。その刃が露わになった瞬間、森の陰から唸り声と共に一匹の犬が現れた。大きな犬歯をむき出しにし、尻尾を立てて龍斗を威嚇するその姿は、遠目に見てもかなりの大型であることが分かる。その膂力も並大抵ではない。一瞬身を屈めたかと思うと、次の瞬間には龍斗の喉を噛み千切らんと彼の身長よりも高く跳躍する。

(やはり狙いは喉笛か、甘いな)

 龍斗が野犬と戦うのはこれが初めてではない。玲角島にいた時、忍の修行の一環として山籠もりをしたことがある。それは大陸の言葉で言えばサバイバルと呼ばれるもので、人里離れた山の中たった1人で1ヶ月間、自給自足で生き延びねばならない過酷なものだった。その修行によって野生動物との戦い方や自然の中で生きる術、薬草の知識などを学ぶのである。

 野犬は短期決着を好む。跳躍して上から攻撃すれば相手の視線もそれを追うために顔が動く。顔が上を向けばどうなるか。狙いである急所の喉笛が無防備に晒されるのだ。

 だがこの戦法には1つ弱点があった。

 龍斗は体重を右足に移動させ、右腕を斜め上へと振り上げた。逆手に握られた脇差の刃が、戦法の弱点――無防備となった野犬の腹に突き刺さる。勢いそのままに腕を振り切ると、野犬は自重によって刃から抜け落ち、地面に叩きつけられた。腹から赤い血を溢れさせ、血だまりを広げながらもなお立ち上がろうとする野犬の首筋に脇差を当て、龍斗はその喉笛を引き裂いた。

(さて、あと何匹だ)

 動かぬ死体となった野犬から目を離し、辺りを見回す龍斗。その顔には、その目には人間らしい情など欠片もない。命を奪うことに慣れ、殺すことに何の躊躇(ためら)いもない殺戮者(さつりくしゃ)の目である。だがそれは同時に、相手にやられて自分が命を失う覚悟がある、ということも意味している。

『忍たるもの、生死あらば情を断つべし』

 やはり龍斗には忍の教えが染みついているのだ。そして忍である以上、一切の油断は禁物。野犬が単独で動いているというのは楽観的すぎる思考である。少なくとも五~六匹、多い時には数十匹という単位の群れを形成しているはずなのだ。

 複数の気配が迫るのを感じ取った龍斗は腰を落として構え直し、脇差『暁』を握る手に力を入れた。



「ふぅ、終わったか」

 血だまりに沈む10匹の野犬を見ながら龍斗が言った。気配を探ってもこちらに向かってくるものはない。着物と違い、大陸の服は肌に密着する作りであるために体がどれだけ動かせるか不安だったが、実際戦闘をしても問題はなかった。龍斗は足を曲げ、野犬の顔に近付いた。

(これが、ハウンドドッグか……確か上顎の牙2本を取るんだったか)

 龍斗はオリジアを出るにあたって1つの任務(クエスト)を受けていた。その内容は、ハウンドドッグ及びワイルドボアの討伐。次の街に行くために必ず通らなければならないこのアサンの森でのクエストだったので、ついでに受けていたものである。

 討伐系のクエストを受けた際は、対象を仕留めたという物的証拠が必要となる。何を何体倒したか、その証明のために対象の体の一部を持ち帰るのだ。ただ持ち帰ればいいというものではない。ギルドが指定した特定部位を持ち帰ることで初めて討伐完了となる。今回討伐対象となっている2種の特定部位は牙。なので龍斗はその部位を回収する作業に入った。他の歯より幾分大きい犬歯の上に脇差の刃を突き刺し、歯茎から抉り取った。

 残り9体のハウンドドッグからも牙を回収すると、龍斗は死体の前足を両手で掴み、森の中へと投げ捨てた。野生の肉食動物は死肉を食らうものが多い。人が通る道路のど真ん中に放っておけば、その肉を食らうために本来道路まで出てこないはずの野生動物が道路に出てきてしまう。そうなれば通行の邪魔どころの話ではない。なのでギルドの規則として道路上に死体を残さないことが定められている。道路上にさえ残さなければ後はどう処分しても構わないとのことだったので、龍斗は文字通り、好きなように放り投げたのだった。



 死体を処理した後、龍斗は地面に耳をつけた。こうすることで近くに川があるかどうかを探ることが出来る。幸いにもすぐ近くにありそうだったので、龍斗は森の中へと入っていった。途中で自分が放り投げたハウンドドッグの死体を1つ見つけた。龍斗は再び横に放り投げ、更に進んで川に出た。

 着いてみると川というよりは小さな清流であった。しかし龍斗にとってはそれで十分だった。回収したハウンドドッグの牙を1本1本水にさらし、脇差を使って歯茎の肉をそぎ落としていく。血や肉は時間の経過と共に腐敗が進み異臭を放つ。大抵の冒険者は気にせずにそのままにする。ギルドとしても部位の回収さえできればそれでいいので、特に気にすることはないというのだが、龍斗は道中で悪臭が移るのを嫌った。

 20本の牙を全て洗浄し、オリジアで買った2つ目の麻袋に詰め込んだ。

(さて、そろそろ戻って進みますかねぇ)

 そう思って歩き出したその時、遠くで派手な破壊音が響いた。

今更ですが……このタイトルのつけ方どうなんだろう←

いいのかなこれで…?


忍術についてですが『即応の霧』は自分で考えだしたオリジナルの技です。実際にはそんな技はないです。

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