ザコとガーグさん その11話 闘わない戦いと闘った後の戦い
side 功才
いた。
つーか、見事なまでに物見役の作業に没頭している。
「……コウサ、もしかしなくてもあの人」
「……多分つーか絶対そうだよな」
周りから浮きまくっているし。
「お祭り騒ぎなんだから、楽しむ演技も取り入れなきゃ駄目なのにね…」
笑わなくても眉間に皺を寄せて街道をガン見するのは止めて欲しかった。
ちなみに俺はメリーの隣に立ってメリー越しに相手を観察している。
反対側ではイントルさんハンナさんコンビも待機を始めた。
んでもって物見役は馬車を見た途端に慌てて走り出した。
「メリー行くか。あの様子じゃ後ろに気を配ってなさそうだし」
いやさ、今まで馬車を待ってる振りをしてたんだからさ、馬車を確認した途端に慌てて走り出したら全部が水の泡になっちゃうんだけどね。
「うん。それじゃメリーの後に付いて来て」
森の事は猟師に任せるのが一番。
久しぶりに見ましたメリーのハンターモード。
獲物に気付かれない場所を常にキープしてるんだから流石だよな。
俺の後ろからは、イントルさん達も付いて来てくれているし。
(コウサ止まって。あそこにいるよ)
メリーの指差す先には、盗賊風に扮装した男10人が待機していた。
今回のターゲットを発見。
戦闘の為に連れて来た僧兵だろう。
1人だけ体格がずば抜けた男がいる。
人数と装備から推測すると、先ず何人かが飛び出して馬車を止める。
そして僧兵が壁役となり、その間に術者が精霊術を詠唱する。
そんでもって回収役が精霊石を素早く回収する作戦なんだろう。
馬車が近付いて来た。
牽制役が飛び出した、次に動き出した僧兵の足元を狙って
「アーススタン」
狭い森の中で、体格のデカい奴が転べば先頭は押し出されて、後ろの術者達はけつまずく。
流石はマコーリーさんの私設兵の皆様、物音にすぐさま反応して戦闘体制を整えている。
飛び出すのをためらっている襲撃者達の後ろの木に向かって
「シールドボール」
シールドボールで背中を押してあげる。
いくら強力な精霊術を使えても詠唱中に弓矢で狙われちゃ勝てる訳がない。
牽制役や僧兵が抵抗していたけども、戦闘のプロに勝てる訳もなく直ぐに捕縛、術者は戦闘になると同時に弓矢で殺された。
俺達は馬車が無事に動き出したのを確認して街道へ戻る。
「鮮やかなお手並みですな。さすがはマコーリーさんの私設兵ですね」
人を殺すのに、ためらいが全くなかったもんな。
「イントル殿、自分もそう思います。しかしあれなら自分達でも勝てたのでは?」
「ハンナ違うんだなー。コウサはワザと戦わなかっんだから。何でか分かる?」
いや、メリー俺の作戦って、姑息な手段が多いから誇らしげにされると辛いんだって。
「う〜。イントル殿〜。メリーが苛めます、助けて下さい〜」
ハンナさん露骨にイントルさんに甘えているな。
「ハンナそれはですね。マコーリーさんの私設兵の面目を保つ為ですよ。彼等は自分達の仕事である護衛役を私達に奪われましたからね。襲撃者の戦闘まで横取りされたら面白くないでしょ?」
あの堅物イントルさんが、ハンナさんを呼び捨てに?
「それにまだ襲撃者の素性がわらかないでしょ?ミッシェルさんしか後ろ盾がないメリー達じゃなく色んな貴族にコネがあるマコーリーさんに任せた方が安心なんだって」
「後はミッシェルさんかマコーリーさんが黒幕とうまく交渉してくれるさ」
俺なんかが、交渉しに行ったら直ぐに闇討ちされてお終いだと思う。
side ガーグ
「ガー君、ガー君の所って本当に冒険者隊?」
「ザイツが加わってから、ずっとあんな感じだよ。でも面白れーぞ。セシリーお前も入らねーか?」
セシリーはヒーラーで神聖魔法が使えるから加入してもらえると助かる。
「ガー君それって一緒にいたいって言う告白?」
「どんだけ深読みしてんだよ。勧誘だよ勧誘。うちの連中は仲間の危機になりゃ直ぐに無茶をするからな、優秀なヒーラーが必要なんだよ」
「うわっ、ガー君。リーダーみたい」
「みたいじゃなく俺はリーダーだ。まっ無理にとは言わねえさ、お前の立場もあるからな」
「いいよっ。私がガー君って呼ぶのを認めてくれたら加入してあげる」
……………
「2人っきりの時限定じゃ駄目か?」
「駄目」
こいつ、速攻拒否した上にそっぽを向きやがった。
「それならせめてデュクセンに戻ったらガーグって呼び捨てしてくれ」
「嫌。ガー君はデュクセンで聞かれたら不味い女でも出来たの?」
「んなもんいるか!デュクセンじゃ荒くれ者のガーグで通ってるんだぜ」
「ならいいじゃない。私にとってガー君はガー君なんだから。誰かが怪我をしたらキチンと治療するからさ。
昔よくガー君の治療もしてあけだじゃない」
「わかったよ。ただし俺の昔話は厳禁だぞ。彼奴等にはまだ何も話してねえんだよ」
俺の面倒事に巻き込むつもりはなねえからな。
side 功才
無事に精霊石が大聖堂に届いてから数日だったある日の事。
マコーリーさんが、わざわざ訪ねて来てくれた。
本当は居留守を使いたい相手なんだよな。
「いやいや、この度は大変お世話になりました。お陰様で精霊石と沿道の露天商で中々の利益をあげる事ができました」
「そうですか。お忙しい中わざわざその話をしにきてくれたんですか?」
商人が動くのは利益がある時、よっぽどの事がなきゃわざわざ来る訳がない。
「これは話が早くてありがたい。こないだ無傷に近いギガントスネークの皮が市場に出たんですよ。できたら、あの様な貴重な品はウチの店で取り扱いをしたいもので」
「売り物は市場原理が鉄則ですよ。それを補う魅力があれば冒険者も優先的に売りたくなるんじゃないでしょうか?」
「それでしたらウチの店の品を割り引いて差し上げますよ」
確かミッシェルさんにもらった資料だと、マコーリーさんが取り扱っている品は、宝石・武具・奴隷・食料品など多岐に渡っているらしい。
つーか奴隷・宝石なんて扱うから私設兵が必要になるんだろうな。
「割り引きなんて申し訳ないですよ。それならマコーリーさんのお力をお借りしたい事があるんですけども」
奴隷を扱っているなら、これのコネをもっている筈。
「なんでしょうか。私にできる事ならなんなりと言って下さい」
私設兵を持たなきゃいけない位に恨まれている人と親しくするのはデメリットが多すぎる。
だからこちらかのお願いはこの1回だけにしておきたい。
「いえね、暫定でもいいですからバルドーの市民権が欲しいんですよ。貴族特権が効かない様なのをガーグ冒険者隊全員分」
「コウサさんは、利益より安全を好みますか」
「過ぎたる利益は嫉妬やら何やらで身を滅ぼしますからね。貴族の方々とも親しいマコーリーさんが保証してくれた市民権が、あれば色々と動きやすいですからね」
「いいですね。ミッシェルさんが気に入る訳だ。ここで金・武具・宝石・奴隷なんかを要求されていたら付け入る隙を見つけられたのですが。わかりました、馬鹿貴族が一切手出しをできない様にしておきますよ」
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「ねえ、コウサ今の付け入る隙って何の事?」
「メリー。そりゃ金や武具を要求すりゃ物欲で、宝石を要求すりゃ名誉欲で奴隷を要求すりゃ色欲で付け入るつもりだったんだろ」
本当に怖い人だよ。
「ったく。また腹黒が増えたな。ミッシェルとザイツだけで充分だってのによ」
いや、俺もあの2人は充分きついんですけど。
次からは幕間が続きます
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