ザコとイントルさん その5 イントルさんの正体
side 功才
「この馬鹿イントル。今まで必死に隠してたもんを自分からバラしてどうすんだよ」
ガーグさんの必死の叫び声が響いた。
そりゃ隠すよな。
「ほう、トロルですか?どうりで私の魔法が効かない筈です」
覆面を脱いだイントルさんの顔は、どっからどう見てもトロル。
確かにあのでかさ、力の強さ、猿人族じゃないのは予想はついてた。
でも
「違うっすよ。あの人はイントルさんっす。ガーグ冒険者隊の良心イントルさんっす」
後ろにいるフランソワ乙女騎士団の方々もざわついている。
「あの醜い容姿はトロルではありませんか?」
「トロルは討伐対象の魔物ですよね」
「あんな醜い魔物と一緒に行動してたなて」
うん、いくらメリーの友達がいる騎士団とは言え、ここは怒っていいよな。
「トロルだからなんだって言うの?イントルさんが貴方達に何かした?イントルさんはメリー達の大切な仲間なんだから。自分の秘密をバラしてでも、みんなを助けようとしてくれた大切な仲間なのっ!」
メリーやるねー。
それなら俺も頑張りますか。
幸いイントルさんが、ゴブリン達を抑えてくれているし。
紫色の気体がなぜ薄れたのかを考える。
あの気体は当然、猿人族であるイ・コージにも効くんだよな。
ある程度意識的に放てるとしても、、自分もいる空間に充満させる訳がない。
………だから天井が高いのか。
「メリー、次は俺が出る。俺が合図をしたら5を俺に向かって撃て」
「コウサ待って。細工は流々なんでしょ?だったらメリーも仕上げに参加する」
「いや、まだ安全が確定した訳じゃないから」
「安全じゃないならメリーは、コウサが出るのを認めないからね」
メリーが俺のズボンを掴んだ。
「いや、大丈夫と思うから行くんだし」
「それならメリーも、一緒に出る」
「だーかーら、あくまで可能性が高いだけで、メリーを危険に晒したくないんだよ」
俺とメリーのやり取りにフランソワ乙女騎士団の方々が唖然としてる中、ガーグさんだけが突っ込んできた。
「こらこら、こんな場所でいちゃつくな。ザイツどっちにしろ今動かなきゃ300匹のゴブリンとケンカする羽目になるんだぜ?俺はとっと片を付けて、イントルに酒を奢らせなきゃいけねえんだよ」
「わかりました。それならガーグさんはイントルさんに加勢して下さい。メリーは俺に5を何本か撃ったら後ろのクリスタルを壊してくれ。それとシールドボールの中のハンナさん達が息苦しいようなら直ぐに教えてくれ」
気体が薄くなった。
先ずは
「マジックキャンセル」
素早くガーグ冒険者隊が動く。
続いて
「シールドボール」
ハンナさん達をシールドボールで囲みなおしたら
「ウインドアーマ×3」俺達を風の鎧が取り囲む。
風を下から上に巻き上げるイメージにする。
「自分達からやられに来ましたか。それっ」
紫色の気体が俺達に襲いかかる。
しかし紫色の気体は俺達が身にまとった風の渦に巻き込まれると消えた。
やっぱり、イ・コージが使った気体魔法は空気よりも軽くしてある。
風向きで毒の気体が自分に来たら自滅しかねない。
だからイ・コージは天井を高くしたんだな。
多分、天井には気体を排出する窓も設置しているだろう。
気体に色をつけたのも、間違って自分が吸わない為の安全策とみた。
敵が風の魔法とかで、跳ね返したら背を低くしてかわすつもりだったんだろう。
「それじゃガーグ冒険者隊、一気に決めにいきますか」
「いくよコウサ。ウインドアロー」
メリーの放った魔法の矢が俺の周りの風にのる。
名付けてウインドアローアーマ。
「ガーグさんはイントルさんと一緒にゴブリンを倒して下さい。俺はイ・コージと戦います」
「そんな貧弱な装備で私に勝てるとお思いですか?」
それなら見せてあげましょう。
俺は懐から、ミスリル特殊警棒を取り出す。
一気に伸ばしてイ・コージに近づく。
「その輝きはミスリル銀?そんな物で魔術師を殴ったら危ないんですよ」
いや、イ・コージさん、気体魔法の方がヤバいんじゃないの。
「わかってるっすよ。
だから俺が殴るのはこっちすよ」
俺はビビっているイ・コージを無視して後ろのクリスタルを壊しまくる。
ゴブリン操作、結界、猿人族限定魔法、これだけの強力な魔法を同時に使うには触媒が不可欠。
触媒は、多分俺が壊しまくっているクリスタル。
イ・コージは慌てて、この部屋に逃げこんだんじゃなく、この部屋でしか紫色の気体魔法を使えないから逃げてきたんだ。
特殊警棒と体にまとった矢が次々にクリスタルを破壊していく。
メリーの矢もクリスタルを壊していく。
どれがどの魔法のクリスタルなんて分からない。
それなら片っ端から壊すだけ。
気体の魔法を使わない所を見ると、もう壊したのかも知れない。
それでも手は緩めない、だって他にどんな魔法を隠しているか分からないんだから。
ちなみにイ・コージが俺に襲い掛かろうとしたらメリーが威嚇射撃をしてくれた。
流石はメリー、俺の考えはわかってるのね。
「さぁ触媒のクリスタルはもうないっすよ。覚悟するんすね」
俺とガーグさん達に挟まれてビビりまくりのイ・コージ。
でもあれは演技だ。
「イントルさん、ガーグさん多分どこかに、まだ触媒のクリスタルを隠していると思います。ひんむいちゃって下さい」
多分、イ・コージが死ぬと同時に発動する魔法。
パンツ一丁にしたイ・コージをハンナさん達に引き渡す。
side ハンナ
自分は目の前で繰り広げれた光景が信じれなかった。
絶対絶命のピンチを切り抜ける作戦を考えついたのは弱い男。
その男を信じて、己の命を危険に晒した親友。
死闘を繰り広げて起きながら、あっさりと手柄を渡そうとするリーダー。
そして己が必死に隠し通してきた秘密を、仲間の為に自ら暴露してみせたトロル…いや素晴らしい戦士。
考え事をしている所を見つけたのか、メリーがニヤニヤしながら近づいて来た。
「ハーンナ。ヘッヘー、わかったでしょ。凄いでしょ。あれがメリーのコウサなんだよ」
「そのコウサの彼女に聞く。自分達は今回何もしていないんだが、なぜ手柄を譲るんだ」
「コウサ風に言うと、¨俺達が欲しいのは実利の報酬だけっすからね。それにフランソワ乙女騎士団にこれ以上目を付けられるのは勘弁して欲しいっすもん¨って感じかな」
「そ、それだけの理由でか?」
これだけの手柄を建てれば色々な栄誉が手に入ると思うのだが。
「後は¨何も活躍できなかった事を広めて欲しくないなら、イントルさんの事もお願いするっすよ¨かな」
「わかった。あの御方の事は決して口外しない」
魔物とバレたら討伐対象にされるかもしれないのに、自らそれを晒した素晴らしき方の事を話す訳がない。
イントルさんの経緯ば次話で明らかにします。
そして次は幕間を数話。
見たい幕間を募集中…ってないか