ザコの罠
功才が暗躍します
side 功才
データボール参照ミスリルゴーレム
ミスリルゴーレムはとにかく硬くて、ミスリル製品でも傷をつけるのは難しいでしょう。
コウサ君ならミスリルゴーレムのデコピン一発で帰らぬ人になっちゃいますよ。
そりゃね、鉄の壁に鉄の剣で斬りつけても、刃こぼれするだけだしな。
つうか、ミスリルデコピンなんて誰でも一発で昇天だっての。
「鉱山では何でわざわざミスリルゴーレムを使ってたんすか?」
「あそこの鉱石は純度が高いですから、アイアンゴーレムやロックゴーレムだと直ぐに駄目になるんですよ。歩く度に鉄や岩が削られてしまいますから。それ以上に今回のミスリルゴーレムには特別なんですよ」
何でも今回のミスリルゴーレムは半生物で、ミスリルを主食として動くらしい。
主食と言ってもミスリル銀が起こす魔法反応を糧としており、その時に取り込んだ他の鉱物は排泄してしまう。
それでもって半生物であるミスリルゴーレムは成長もするらしい。
早い話がミスリルゴーレムは純度の高い生きた成長するミスリル鉱石、ちなみに生きたミスリルゴーレムは術者の一族の秘伝との事。
「それでミスリルゴーレムで、どうやって採掘をさせていたんすか?下手すりゃゴーレムが削れちゃうっすよ」
「爆裂系の魔法をかけて、他の鉱物が砕けた所にゴーレムがミスリル鑿とミスリルハンマーで砕いていたらしい」
ミスリルノミって。
高度な魔法の割に、地味な採掘だな。
「次に術者の情報を教えて欲しいっす」
術者の名前は、トム・チキーンー。
青白い顔をして細身。
性格は他人行儀で、臆病。
当然、ケンカや格闘技の経験はなし。
うん、トムとは絶対に友達になれる。
「トムは食料や水はどうしてるんすか?」
「トムは何があっても良いように、普段から水や食糧を備蓄しているんだとよ」
トムと親友になれるかも。
「それなら今は待機っすね」
side シャイン
「シャイン様、コウサ君じゃなく…コウサから手紙が届きましてございます」
ミントは私の側仕えになってから、さらに大袈裟な言葉遣いをする様になっていた。
「ミント2人きりの時は、言葉は普段通りで構わないんだよ」
その言葉を聞いて安心したのか、私にしか見せない少女の自分をみせてくれる。
「だってはしたない奥様って思われたくないんだもん」
「今のミントなら大丈夫だよ。あの旅で色んな事を学んだろ?」
「うん。コウサ君みたいな人は中々いないから。良くも悪くもね」
「それで手紙はっと、珍しくぶ厚いな」
あれ以来、功才は私に何回も手紙を出してくれていた。
手紙の内容は旅で得た情報を私の政治に役立つ様にまとめてあり、滅多に城を動けない私にとって今や貴重な情報源となっている。
「ふむ……………ミント見てみろ」
「これは…許せません」
今回、コウサがシャインに寄越した手紙は3通。
ゲードの犯した罪が、いかにデュクセン皇国に不利益をもたらすかをしたためた斬奸状。
ミントの行動指針。
術者に対する処遇。
先ずはデュクセン皇帝のに報告をしなければならない。
「シャイン、それは真か?」
「信じがたいが事実の様です。部下に裏をとらせました。ちなみに情報をもたらしたのはコウサ・ザイツです」
「ゲース・ドンゲルを呼べ。今すぐにだ」
side ゲース・ドンゲル
皇帝からお呼びだしが、かかったと喜んだら、またシャインの奴がいた。
「ゲースよ。そなたの息子のゲードは元気か?」
そうか、皇帝は我が息子を覚えておられたか。
「はいっ。元気であります。ちと過ぎる程ですが」
「それは安心。ゲードは旅で、女を得たらしいな」
「ええ、確かドルムーンの者と聞いております。私に似て好き者で困ります」
「その女に婚約者がいたらしいですね」
「婚約であって、既婚ではありませぬ。シャイン殿それに何か問題がおありと?」
平民の婚約なんて、貴族が歯牙にかけるものではない。
「その婚約者の男性がミスリル鉱山に立て込もってしまいましてね」
「それがどうした?そんな人騒がせな民は誅せばよかろう?」
「わかった、もう良い。シャイン、斬妖状を読み上げろ」
斬妖状?
息子にどんな罪があると?
「ゲード・ドンゲルの罪その1・越権行為、ドルームンはドンゲル伯爵の領地ではなく、故に貴族特権は効力をなさない。これは明らかな越権行為である。
罪その2・ドルムーン領主への侮辱行為。ドルムーンの領主であるグラン子爵は民に対する仁愛を常としている。その民の婚約を貴族特権で破棄させたのはグラン子爵への侮辱以外の何物でもない。
罪その3・デュクセン皇国の経済を損なわせた罪。ドルムーンのミスリル銀はデュクセン皇国の重要な輸出物である。この度の一件で、それが途絶えたのは皇国の経済に重大な影響を与える。
罪その4・デュクセン皇国の戦力を減少させた罪。ドルムーンのミスリル装備は皇国騎士団の重要な装備である。此度の一件で、それを入手できなくなり皇国騎士団の戦力減は必須である。
罪その5・デュクセン皇帝への反逆罪。
デュクセン皇国は法治国家であり、民の模範たる貴族が自ら法を破ったのならば、それは即ちデュクセン皇帝への反逆に等しい。
罪その6・デュクセン皇国から貴重な魔術を失わせた罪。ドルムーンのチキーンー家は、生きたミスリルゴーレムを秘伝の魔術とし、永年皇国に仕えた忠臣である。そのミスリルゴーレムの秘伝を失うのは皇国の損失を通り越して、他国からの嘲笑を招くものである」
まずい、このままでは息子ゲードだけでなく我が誇り高いドンゲル家が取り潰しにあってしまう。
「この罪をもって、ゲード・ドンゲルを貴族から民に降格。その罪を法廷で明らかにする為に、デュクセン皇国騎士団女性騎士団を派遣し、身柄を捕獲させる」
ゲードは見捨てるか。
しかし何故、女性騎士団なんだ?
side ミント
今の僕の格好はフルアーマに純白のマントを身につけている。
そして僕が率いるのは、憧れていた皇国騎士団の女性騎士団。
(コ、コウサ君。背中に集まる視線が痛すぎるよ、本当に大丈夫なんだろうね)
僕は憧れていただけ入団をするのは無理だった。
その僕に率いられると、あっては、女性騎士団の方々も面白くないに違いない。
その女性騎士団の皆様はゲードの邸宅への襲撃も、あっさりと終わらせる。
コウサ君の手紙では、ゲードの家を探索した時にこそ、僕の活躍の場があるらしいんだけども。
生き残りの関係者を問い詰めると、地下に隠し部屋があるらしい。
地下に降りていくと、そこには
「これは酷い…。これが人のする事が?」
地下には鎖に繋がれた半裸の女性が大勢いた。
そして露出し肌はムチで打たれた様で、赤くミミズ張れになっている。
流石に騎士団の皆様を唖然としているようだ。
僕は素早く自分のマントを切り裂き半裸の女性にかける。
「何をしている。早くこの方達を保護したまえ」
マントは騎士の誇り。
それを民の為に、躊躇なく切り裂く行為を行えば女性騎士団の僕に対する態度も変わるらしいのだけど……
コウサ君、僕は時々キミが怖いよ。
女性騎士団の皆様の態度がコロッと変わったし、キミのもう1つ狙いも成功だ。
騎士団の皆様は、高貴な家柄の女性が多い。
父が男爵であったり、男性騎士団の団長を婚約者にもつ人もいる。
その女性達が、ゲードに嫌悪を露わにした。
つまり自分の家に戻れば今回の事を、自分の身近で一番権力をもつ人間に報告するに違いない。
そうしたらドンゲル一族に味方する者は殆どいなくなるだろう。
僕もシャイン様に事実を伝えるし。
side 功才
「ねっ、コウサ。本当にゲードのした事は罪になるの?」
「わかんね。俺はこっちの法律は詳しくねーもん。あれはゲードのした事がどれだけデュクセン皇国に不利益をもたらしたかっていう難癖みたいなもんだし」
「な、難癖ね。それなら何でミントに女性騎士団を率いさせたの?」
「ミントじゃなきゃ俺のやり口を納得しないからな?それに多分ゲードは強引に連れてきた女性を軟禁しているだろう。それを男の騎士団が保護しちゃヤバいだろ?」
「確かに、そんな状態なら男性を怖がるもんね」
「ああ、後はミスリルゴーレムを倒せばいいだけだ」
次はいよいよミスリルゴーレム編です。