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改訂4

 本当に、ここは異世界何だろうか?

 オーガを倒した翌日の事。

 俺が何時もの様に朝飯の仕度をしていると、どこからともなく師匠の声が聞こえてきた。


『ピンポンパンポンパン、弟子のコウサイ君、今すぐ私の部屋まで来て下さい。これにて塔内放送を終わりますピンポンパンポンパン』

 ちなみにピンポンパンポンパンは師匠が自分で喋っていた。 

 そして部屋に入って唖然、思わず何回も目を擦ってしまった。 

 部屋一面に張り巡らされた紅白幕。

 どこからともなく流れてくる蛍の光。

 壇上でスタンバっている桜模様のスーツを着た師匠。


「師匠、何がどうなってるんすか?」


「あれ?もう忘れたんですか?君は昨日卒業試験に合格したじゃないですか」

 この人にまともな答えを期待した俺が馬鹿だった。


「ここはオーディヌスっすよね。日本じゃないっすよね?」


「今更何を言ってるんですか。それと蛍の光はスコットランド民謡です。この豆知識は、話題に困った時に使って下さいね」

 異世界(オーディヌス)の、どこでそのネタが通じるのか聞きたい。


「卒業って…まさか、ここから出て行けって言うんすか?」

 冒険者として生活する自信なんて全くない。


「大丈夫ですよ。卒業記念に新しい魔法を教えてあげます」


プチサンダー

雷系魔法、威力はちょっとビリっとする位。

師匠曰く 慣れると癖になるらしい。


ライトソード

対象物を軽くする事が出来る。

師匠曰く引っ越しに役立つとの事。


ヒートハンド

手で触れた物を温かくする事が出来る。

師匠曰く、お年寄りや冷え性の人の人気者になれるとの事。


シールドボール

対象者を中心にして球形の結界を張れる魔法。

敵の大抵の魔法・攻撃を防げるらしい。

熟練度が上がると展開が早くなるとの事。


アイスハンド

触れた物を冷やす。

師匠、曰く 風邪の看病をする時には喜ばれるとの事。


プチヒーリング

スリキズぐらいなら治せる治癒魔法。

ちなみに止血効果はないらしい。


プチデス

殺菌作用満点。

師匠曰く、食中毒の予防が出来るとの事。

ちなみにヤク○トに掛けると、ビフィズスさんも殺してしまうらしい。

 …相変わらず、使えない魔法しかないんだから。


「まともなのシールドボールぐらいじゃないですか」


「あっ、シールドボールを使う時は気をつけて下さい。毒を防ぐ為に気密性を高めてあるんで、長時間使うと酸欠になりますから 。後、頑丈にしすぎて中からも壊しにくいですし」

 死の棺桶ならぬ、死の球と。


「それならせめて装備は強力なのをお願いしますよ」

 出来る事なら、武器より強力な防具が欲しい。


「良いんですか?功才君が強力な装備を身に着けていたら賊や貴族に直ぐに目をつけられますよ」


「賊はともかく、貴族はなんでっすか?」

 俺みたいな三下を貴族が気に掛ける事はないと思うんだけど。

 

「簡単ですよ。あの人達が大事なのは名誉。ポッとでの一 般市民冒険者が強力な装備を身に着けていたら妬みますよ ー。難癖つけて奪い取るか、配下に命じて強奪するでしょ うね」


「マジっすか?」


 ザコの癖にこんな凄い装備を、身に着けているなんて生意気だ、○○様に献上しろ。

 ○○様、これをお納め下さい…多分、そんなやり取りになるんだろう。

 どこの世界でも点数稼ぎは重要と。


「マジですよ。大概の貴族はそんな者だと、思っていた方 が安全ですよ」


「皮の鎧と鉄の槍をお願いします」

 俺が鉄の鎧なんて着たら筋肉痛まっしぐらだろうし。 


「流石は功才君、物分かりがいい。特別に砥石もつけて上 げます。そして更に卒業30分以内に申し込むと、お金とデータボール、パーソナルカードもあげちゃいます」

 生活をするのにお金は必要だから、これは素直に嬉しい。


「データボールとパーソナルカードってなんすか?」


「データボールには、オーディニスの魔物や植物のデータが入ってます。功才君の戦い方には情報が重要ですしね。それに折角卒業した弟子が毒キノコを食べて死んだじゃつまりませんしね 」

 師匠、俺が死んでも悲しいんじゃなくつまらないんすね。


「持ち歩きに便利な図鑑って感じですか」


「そんな所です。パーソナルカードは重要ですよ。平たく 言えば身分証明書なんですけど、なくしたら市民から奴隷に堕とされかねませんから気を付けて下さい」


 再び…


「マジっすか?」


「マジですよ。まぁ、それは犯罪者とか妬まれてる人限定で すけどね」

 同情される事はあっても、妬まれる事は絶対にないから大丈夫だと思う。


「それじゃ盗まれたりしたら、ヤバいっすよね」


「それは大丈夫ですよ。パーソナルカードを体に埋め込こんであげますから」

 何やら不安を煽りまくる言葉が聞こえてきた。


「へっ?埋め込むってなんすか?」

 埋め込んだら、取り出せないと思うんだけど。


「そのまんまの意味ですよ。手とかに埋め込んだら斬り落とされて手事持っていかれちゃいますか。頭に埋め込ますね」


「ヤバいですって。頭はヤバいっすよ」


「動いてずれたりしたら、それこそヤバいですよ。ついでにデータボールも一緒に埋め込んであけますね」

 カードと球が頭にめり込んでいく光景は恐怖以外の何物でもなかった。


「パーソナルカードはどうやって見せるんすか?」

 一回一回、頭から取り出せって言われたらどうしよう。


「読み取り用のマジックアイテムを使うか念じれば出てきますよ」


データボール参照 パーソナルカード

パーソナルカードはオーディヌスで広く普及しているマジックアイテムです。

簡単に言うとパスポートですね。

パーソナルカードを提示しなければ入れない町も少なくありません。

 試しに念じて見たら手の平に名刺サイズのカードが現れた。


 ちなみに俺のデータは

名前 コウサ・ザイツ

種族 人間・猿人族

年齢 彼女いない歴=16

身分 一般市民

職種 無職

 …やばい、なんか泣けてきた。


「師匠、頭に埋める必要はあったんすか?」


「功才君にあげたパーソナルカードは私の特製なんですよ。もし、既製品のパーソナルカードを手に埋めたら”異世界人”って表記されるんですよ。その点、私のパーソナルカードはフェイク機能着きですし、手をマジックアイテムにかざしてもチェックを受けれます」

 手を経由させる事で、マジックアイテムのチェック機能を無効にする事が出来るらしい。

 こんな所だけチートなんすね。


「次にお金ですよ。愛弟子への餞別ですからね。奮発して十万デュクセンあげちゃいます」


データボール参照 デュクセン

デュクセンは、デュクセン皇国で使われているお金の単位なんですよ。

1デュクセンは1円と思って下さい。

計算しやすく良かったですね。

 データボール、なんかむかつく。

 しかし10万円とは、何ともリアルな金額。


(これが無くなったら飢え死に一直線だよな) 


「功才君、安心して下さい。サバイバルキットも着けてあげますから。いざとなったら、リアルサバイバル生活です」


「師匠、前から思っていたんすけど、人の気持ちが読めるんすか?」

 

「だって私は凄い魔導士ですから。あっ、私は研究に邁進していたから無名ですんで、ロッキさんの弟子と名乗ってもネームバリューは期待できませんよ」

 怪しい、 この人が本当に魔導士かどうかも怪しい。


「とりあえず、近くの町に着いたらギルドに登録して下さ い」


「はい。それで?」


「後は仕事をこなしながら、野となれ山となれです」

 なんか、野晒しになりそうなんだけど。


「魔王を倒せとか、姫を救えみたいな具体的な目標はない んすか?」


「そんな都合いい目標なんてないですよ。依頼をこなして自分で目標を作って下さい」

 もう、行こう。

  師匠の事は忘れて、とりあえず前に進もう。

  でなきゃ、何にも変わらない。


「分かりました。それでは行ってきます。それとお世話になりました」


―――――――――――――――

 ロッキは功才が、いなくなったのを確認すると指をパチンと鳴らした。

 次の瞬間、空中に炎が生み出された。

 炎はまるで生きてるかの様に蠢き、魔方陣を構築していく。

 それは高名な魔導士が何年掛けても構築するのが不可能であろう高位の魔法陣であった。

 そして魔法陣から呼び出された者も、力や誇りの高さから決して人間に従う事はない種族。


「お呼びでしょうか?」


「貴男、功才君の動きを逐一私に教えて下さい。馬鹿貴族や精霊に殺されそうになったら助けてあげて下さいね。でも 普段は決して手を貸さないで下さい、彼は追い詰めれた時の方が、面白い事をしてくれますから」


「はっ、わかりま した。しかし何故そこまで気にかけるのですか?たかが猿人族一人ですぞ」 


「見たいんですよ。最弱が階段を駆け上がり、最強と渡り合う瞬間を。そしてそれが私の目的にも繋がります」

 

――――――――――――――――


 師匠の住んでいた塔を後にした俺は地図を片手に街道を目指した。

 地図を見る限り森を縦断した方が近道になる様だ。

  しかし、魔物はマナの濃い地域に多く出没するらしい。

  マナの濃い地域=自然が豊かな地域って事。

  当然、人の手が入っている街道には、魔物は出没しにくいらしい。 

 あくまで、らしいだから今の俺はフル装備。

 皮の鎧を身につけて、手には、鉄の槍を装備。

 背中には、荷物一式を詰めたリュックサック。

 幸い、魔物に出会う事もなく街道に出る事が出来た。

 街道を行き交う人々は、普通の格好をしている人が多いからフル装備の俺は目立ちまくっている。

 農家のおばちゃんや近所のお子さまの視線が痛すぎる。

 恥ずかしいけれども、安全には変えられない。

 獅子は兎を襲うのにも全力を出すと言う。

 だったらザコが、身を守る為には世間体なんて気にしていられない。

  この街道を進んだ先のにある街、ブラングルまでの辛抱なんだし。

  そしてブラングルで冒険者ギルドに登録をすればフル装備でいても 、ただ今冒険中の大義名分が出来る。

 ギルドに登録をして依頼をある程度こなしたら、どこかの パーティーに加入をする予定。

 俺としては、直ぐにでも、パーティーに入りたいんだけれども、実績のない冒険者をいきなり加入させてくれるパーテ ィーなんてある訳がない。

 あるとしても下心を疑った方が安全だ。

 装備品の強奪、下心による暴行、身代わり等々。

 …俺を暴行するマニアはいないと思うけど。

  逆にある程度の実績があれば、周囲の目があるから大丈夫らしい。

 俺としては簡単な採集やゴブリン退治で生活を維持 できるんなら、それが一番だ。

 それが無理ならバイトをする予定。

 俺の冒険方針は、身の丈にあった冒険なんだし。

 何とか夕方前には大きな街に到着する事が出来た。

 看板とかが無いからブラングルと言う確証はないけど、ブラングルだと信じておく。

 その街は周囲をグルリと、高い塀に囲まれていた。

 街に入る人達を観察していると門をくぐった時にパーソナルカードがスキャンされる仕組みの様だ。

 畑帰りの農家の人達や観光客もいるみたいだから、目視でチェックするより効率が良い。

 仕組みが分かればこっちの物。

  門を通る前に、槍に布を被せて革の鎧から布の服に装備を変更しておく。

 だって、俺のデータは無職の一般市民なんだし。

  今は夕方、冒険者ギルドは明日にする。

今から新規登録なんて行ったら、ヒンシュク者確定だ。

 目指せ、ギルドに可愛がられる冒険者。

 それより俺が今しなきゃいけないのは宿屋探し。

 当たり前だけど、どこに宿屋があるかさっぱり分からない。

 そこで俺が目を付けたのが、普通のパン屋さん。

  高級な宿屋なら、自分の所でパンを焼くだろうけども、普通の宿屋なら客に提供するパンは、地元のパン屋から買っ ている可能性が高い。

 夕食を兼ねたパンを買ってパン屋の親父に尋ねる。


「ここのパンは凄く美味しそうですね。明日の朝も食べたいから 、このパンが食べれる宿屋はありますか?」

 パンを誉めれたら上に、宿屋に客を紹介できるとあって店の親父は大張り切りで教えてくれた。

紹介された宿屋は一泊3千デュクセン 。

ちなみに宿屋の受付も親父だった。

 異世界のパン屋や宿屋に可愛い看板娘がいるっていうお約束は俺にはないらしい。

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