ザコ≧勇者 黒幕
Side 功才
確実に厄介な相手だな、レクレールの総神官長アイディール・リュクスを見た第一印象はそれだった。
師匠に案内されたのは8畳程の大きさの質素な部屋。
部屋の殆どを占めているのは巨大な本棚で他には簡素な木の机と椅子、それと金色に輝く彫像が異彩を放っている。
「師匠、あれがアイディールですか?」
「ええ、彼が勇者計画やチャーム戦略の立案者アイディール・リュクスですよ」
師匠の目線の先では1人の中年男性が忙しそうに書類をしたためている。
アイディールは人の良さそう棚な顔をしていて、目を引く特徴は短く刈り上げた金髪ぐらい。
体格はゆったりとした麻のローブを着ているから正確には分からないが、顔や手を見る限り贅肉はなさそうだ。
早い話が付け入る隙があまりないんだよね。
「コウサ、本当にこのおじさんがあんな酷い事を考えたの?何か信じられないよ」
「欲じゃなく理想で動くタイプなんだろうな。昔話に出てくる建国の英雄は他国から見たらただの侵略者なんだし」
アイディールはレクーとレクレールの為なら汚れる事も地獄に堕ちる事も厭わないだろう。
「自分は汚れ役に徹して栄誉は勇者達に集中させる。よっぽどの事がない限りこの方は自分の道を進むのを止めないでしょうね」
でもアイディールやレクレールの国民の価値観を変えなければ戦に勝ててもまた同じ事が起きると思う。
「マジにどうすっかな…ガーグさん震えてるけど大丈夫ですか?」
やけにガーグさんが大人しいので見てみると体を震わせていた。
「見つけたぜ、ようやく見つけた。親父達の仇をよ!!こいつが親父達に依頼をよこしたんだ」
ガーグさんの一家はレクレールの策略で殆どの人が亡くなっている。
その手口は冒険者一家だったガーグさんの家族に魔物討伐の依頼を出して、魔物を倒した瞬間に精霊魔術で攻撃するというエグいもの。
「こいつがガー君の家族を…絶対に許さない!!」
ガーグさんの世話役兼 幼馴染み兼婚約者のセシリーさんからしたら、アイディールのした事は到底許せないだろう。
「イントルさん、アイディールの書いた書類で重要な物はありますか?」
俺はイントルが教えてくれた書類を携帯で撮影していった。
「さて、勇者達の所に戻りますよ」
師匠の合図でサン・エルフに戻るとヒイロ達が宝物庫を漁っている最中だった。
「うわっ!!これって魔法剣だよね。格好いいな、僕はこれにしようっと」
無邪気な笑顔で略奪をするヒイロ。
「とりあえず…を掛けて。師匠、アボー君の遺体はどうなっていますか?」
せめて手厚く葬ってくれてれば気が休まる。
「…適当に埋められたみたいですよ。勇者が幼馴染みを救えなかったとしたらレクレールとしてはマイナスですからね」
「ガーグさんお願いがあるんですけど」
「ザイツ早くしろ!!アボーの遺体を掘り起こして親父達の墓の隣に埋め直すぞ」
エルフじゃないましてや敵国の人間を埋葬するのはエルフィンの民から反感を買う可能性もあるって言うのに、この恩はきちんと帰さないとな。
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書類を見る限りレクレールが動けるのは早くて2ヶ月後。
最初に攻めるとしたらルーンランド辺りだろう。
ルーンランドを落とされたらかなり不利になる。
「残り2ヶ月、ガーグ冒険者隊で出来る事をやりましょう。ガーグさんはエルフィンの兵をまとめて下さい」
「分かった。しかし、うちは直接攻撃に不安があるんだよな」
確かにエルフは魔術を得意とするし、エルフ騎士団は守備の為に残したい。
「だからイントルさんとハンナさんにデュクセンに行ってもらって知り合いに声を掛けて欲しいんですよ」
「分かりました。私は知り合いの冒険者に声を掛けてみます」
「自分はフランソワ隊長にお願いしてみる」
「メリー、師匠に許可を取ってからになるけど日本に付き合ってくれ」
「駄目だって言っても着いてくからね」
この仲間を失わない為にもやれるだけやってやる。
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