ザコ達と試練 ザコなりのリッチ対策
side 功才
気が付いたらヤバい雰囲気が満点の通路にいました。
どうやらメリーが瞬足とザコ召還のコラボをしたらしい。
「異世界や神様の試練を乗り越えた恋人同士には距離なんて無意味なんだよっ!!ねっ、コウサ」
敵陣の真っ只中でデレデレスマイルを浮かべる我が最愛の人メリー。
「そ、そうだね…」
かたや冷や汗と苦笑いを浮かべてしまう俺。
この奥にリッチがいるらしい。
データボール参照リッチ
魔術が大好きで研究の為に自らをアンデットにした魔術師がリッチの正体です。
普通のアンデットと違い意識も知識もしっかりしているんですよ。
倒すにはただ1つリッチの魂を封じ込めた箱を見つける事です。
さあコウサ君、君がリッチを倒せば私がヘルに感謝されるんですから頑張って下さい。
ヘルさんは師匠の娘さんで地獄を管理してる女性。
ヘルさんの立場からすれば何時までも成仏しないリッチはファミレスでコーヒー一杯で粘る客みたいなものだろう。
しかし俺達の目的はあくまでイントルさん達の救出であってリッチを倒す事じゃない。
だってゲームと違って魔物を倒しても経験値や金は入らないんだし。
そんな事を思いつつも背中に感じるメリーからの"今回のコウサはどんな活躍ををするのかな"って視線に負けて歩を進めてしまう俺。
そして見えてきたのは、見慣れた2つの背中と…
(勘弁してくれよ。ホラー映画じゃねえんだから動く骸骨なんて見たくねっての)
ぼろ布をまとった骸骨リッチだった。
「ホウ。新タラシイ客人カ?オ前達ハ何ヲ望ム?望ムナラ騎士二推薦シテヤルゾ。何シロ私ハ元宮廷魔術師ナノダカラナ」
薄汚れたドクロの中、赤い舌だけが蠢いている。
「馬鹿じゃないっすか?骨になるまで引きこもっていた"元"宮廷魔術師に権限なんてある訳ないじゃないっすか」
「私ノ弟子ガ宮廷二仕エテオル、ソレニ私ハ王ニ魔術ノ手解キヲシタ」
「ならますますないっすね。魔物になった宮廷魔術師の実績なんて抹消されてるに決まってるじゃないっすか」
他国の王侯貴族に被害が出たりしたら難癖をつけられかねないんだし。
「ナラバ!!マジックアイテムヲ授ケテヤロウ。望ム種族二変ワレル道具ダゾ」
「嘘っすね。アンタはそんな道具を持っていないっすよ」
「愚カナ!!見モセズニ、ナゼ断言ガ出来ルノダ」
そりゃ出来るさ。
「そんな物を持ってたらアンタはリッチじゃなくエルフになってる筈っすよ。魔力も高く長命なエルフにね」
魔術の研究をするのなら全種族から警戒されまくりのリッチよりエルフの方が都合が良い筈。
「コウサ、それなら何でマジックアイテムの話が出て来たの?」
「その噂を流せば鉱山に冒険者が来るんだよ。リッチのご飯は人の魂なんだし」
ゴキブリホ○ホイならぬ冒険者ホイホ○。
「ペラペラト余計ナ事ヲ喋リヤガッテ。出デヨ、アンデット!!」
お前もアンデットじゃんって突っ込みは冒険者のマナーとして控えておく。
そして出て来る、出て来る。
アンデット化した猿人族の他に犬、猫、牛、ウーパールーパにカピバラまでいた。
「すいません、どなたが存じませぬが私を信じて共闘してもらえませんか?」
こんな時でも言葉遣いが丁寧なイントルさん。
「くっ!!自分とした事が危うくリッチに騙される所だった」
きっとハンナさんには記憶は無くてもイントルさん補正が掛かってるんだろう。
「メリーは鳥タイプのアンデットを撃ち落として!!イントルさんとハンナさんは他のアンデットの頭を潰して下さい」
「わざわざ頭を潰さなくても自分の武器はミスリル製だっ!!」
普通のアンデットはミスリル銀に弱い。
そう、普通のアンデットなら。
「そう言う事ですか。ミスリル鉱山でアンデットを作る事で聖耐性をもったアンデットになるんですね」
恐るべしチートトロル。
今の会話だけで俺の予測を見抜いてしまった。
そして俺を除く3人の活躍でアンデットが次々に減っていく。
「後はお前だけだぞ。リッチ!!」
何とも勇ましいハンナさん。
「クッ!!チャームヲ喰ライナサイ。オ前ハ私二仕エル騎士ニナルノデス」
どうやらリッチはターゲットをハンナさんに絞った様だ。
たまらず、うずくまるハンナさん。
「ハンナ思い出して!!何で騎士になりたかったのかを。弱い人を助ける立派な騎士になるのが夢なんでしょ!!」
流石は幼馴染みのメリー、見事な一喝。
「騎士道とは地位ではなく生き方です。それが騎士への正しい道です」
記憶をなくしていてもイントルさんはハンナさんを心配な様だ。
「トロルに騎士道を説かれるとは自分もまだまだだな。騎士は自ら主君を選び民の安寧を守るのが役目!!自分はお前の様な奴を主君に選ばない」
…これでハンナさんも騎士への誘惑を断ち切った訳だ。
「ソレナラ全員死ヌガ良イ」
何やら怪しい呪文を唱え始めるリッチ。
「もう遅いっすよ。時間を稼いでくれたお陰で細工は隆々。後は」
俺はメリーにアイコンタクトを送る。
「「細工をご覧じろっ!」」
良かった、以心伝心を使わなくても息がピッタリとあった。
それじゃ
「シールドボール・改」
掛けるのは俺達じゃなくリッチ。
生物ではなくなったリッチに呼吸は必要ない、つまり半永久的にシールドボールに閉じ込めておく事が出来る。
続いて
「イントルさん、この近くで鉄の匂いがする所はありませんか?」
リッチと言えど闇の魔物、ミスリルの箱に自分の魂を封じ込める訳がない。
「…あそこから鉄の匂いがしますよ。しかし呪いの気配もしますが」
イントルさんの指差した先には小さな鉄の箱があった。
「オ前ラに私ノ呪イヲ解呪スル事ハデキヌ。私ハ気長二オ前ノ魔力ガ尽キルノヲ待ッテイル」
そう言ってシールドボールの中で座り込むリッチ。
「そんなのは簡単すよ。蓋を開けなきゃ良いんすからね」
俺は時空リュックの中から電動ドライバーを取り出してダイモンドドリルを取り付ける。
流石は信頼の日本製工具にダイモンドパウダーで加工されたドリルのコンビは強力で簡単に鉄の箱に穴を開けた。
「フンッ!!ソノ小サナ穴カラ私ノ魂ハ出ヌゾ」
その余裕が何時までも持つやら。
続いて榊のオガクズにウェポンファクトリーを掛けて作ったのは木製の漏斗。
漏斗を鉄の箱に出来た穴に差し込む。
次に時間リュックから取り出したのはシールドボールに入れた師匠特製の聖水、それを漏斗の上に設置する。
「これは神様に作ってもらった強力な聖水なんすよね。さて、どれ位で箱の中は聖水で満たされるっすかね。まずは1個目、マジックキャンセル!!」
「ヤ、ヤメロ。私ノ魂ガ灼ケツク」
「上から目線は嫌いなんすよ。2個目、マジックキャンセル…次は大きいサイズにするっすね」
俺は漏斗に置けるギリギリの大きさのシールドボールを設置した。
「助ケテクレ。私ハマダ魔術ヲ研究シタイノダ」
いきなり低姿勢になるリッチ。
「どうします?イントルさん、ハンナはん」
「貴方は幾つもの命を弄びました。それは許される事ではありません。生きてる者は虫であれ魔物であれ日々懸命に生きてるのですから」
イントルさんの説教はかなり重い。
「自分ある人に教えてもらった。知識は自分や周りの人の人生を幸せに導く為の道標であると。知識で他の生命の道標を壊したお前には研究を続ける権利はない」
恐るべしチートトロル補正。
とても元脳筋娘のセリフとは思えない。
「と言う訳で…マジックキャンセル!!」
見逃したら俺が師匠に叱られるんだし。
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