ザコとお上品王国 死者の洞窟
side 功才
死者の洞窟は海辺にポツンとあった。
その見た目も雰囲気も気持ち悪くて、写真を撮ったらオカルト雑誌から金一封が貰えると思う。
ぶっちゃけあんな不気味な洞窟には入りたくない、入ったら何かに取り憑かれるに決まってる。
「これ以上、エルフィンが独断専行をしたらエレガンスの体面が丸潰れです。ここは他の国が到着するのを待ちましょう」
そして出来たら他の国の人達に洞窟へ入ってもらいましょう。
「ザイツ、なに悠長な事を言ってんだ?とっとっと中に入るぞ!!」
そりゃガーグさんは神聖魔法が使えるし、見た目が死者もビビるぐらい怖いから平気だろうけどさ。
「宗教関係の場所に無断で入るのはまずいですって。それに勇者パーティーの姿が見えないし」
ここに来るまで奴らとはすれ違わなかった。
「待って下さい。あそこの岩場から勇者パーティーの匂いがします」
イントルさんの指差した岩場の先は遠浅の海が続いている。
俺の予想だと急がないとヤバい展開だ…でも怖いから入りたくないんだよな。
「俺達は光源を持っていません。ここは無理をしないでおきましょう。俺の国には急がば回れ、急いては事を仕損じる、って有り難い言葉があるんですよ」
正直に言うと時空リュックの中にはライト付きヘルメットも手回しタイプの懐中電灯も入ってるし、俺はフラッシュなんて魔術が使える。
頑張れ!!俺、後はゴールを決めればオッケーだ。
「ザイツ殿、私が洞窟が苦手だから気を使ってくれたんですね。私なら大丈夫です」
しかし、イントルさんに善意ブロックを決められてしまった。
「コウサ、今のイントルには自分がいるから大丈夫だ。イントル、手を繋いで入ろ。それなら怖くないよね?」
嬉しそうに頷くイントルさん。
イントルさんの善意ブロックに加えてハンナさんのいちゃつきカウンターで俺がピンチ。
「コウサ、メリーも洞窟が怖いから手を繋いで欲しいな」
そしてメリーの上目使いシュートを決められてしまった。
正直に言おう、俺は洞窟よりメリーに嫌われる方が何倍も怖いんだ。
――――――――――
洞窟は人の手が入っている様で、地面は平らに加工されていて歩き易いし壁には松明が設置されていた。
ちなみに天井は、やたらと高い。
多分、ジャイアントクレイゴーレムを収納する為だろう。
さらに
「コウサ、この洞窟怖いよー!!手だけじゃ無理、腕も組んでー!!」
メリーが怖がるのも無理はない、何しろ洞窟の壁一面に人の顔にそっくりな岩が彫られているのだから。
「イントルさん、この岩って、まさか…」
「ええ、死者の魂を封じ込めおく為の物です。恐らくは洞窟の岩壁を加工したんでしょう。ガーグさん、何か感じますか?」
普段は人面岩に死者の魂を封じ込めておいて、何かあった時にはにネクロマンサーがクレイゴーレムに魂を入れるんだろう。
「この辺りのやつには魂は入ってねえよ。多分、さっきのクレイゴーレムに使われたんだろうさ」
お願いします。山田さんの有り難いお札で成仏したんだから俺達を恨まないで下さい。
「ガーグさんは霊魂にダメージを与える神聖魔術は使えますか?」
「使えねが安心しろ。ネクロマンサーは霊魂自体で攻撃する手段は持ってねえからよ」
「キヨ・ワーグは普段からこの洞窟にいたんですかね?」
洞窟は薄暗い上に海の側という事もあり、かなり磯臭くジメジメしている。
こんな所に何時もいたらストレスが凄いだろう。
「死者の洞窟の管理もエレガンスのネクロマンサーの仕事ですからね…人がいますよ、2人です」
やっぱりな…
洞窟の奥の突き当たりにいたのは祝賀会に乱入してきたキヨ・ワーグとアーキ姫だった。
「ジャイアントクレイゴーレムもライオンクレイゴーレムも足止めになりませんでしたか。姫様だけでもお逃げ下さい」
「キヨ様、なぜ何時もの様にアーキと呼んで下さらないのですか?アーキはキヨ様と一緒におります」
「アーキ、良いのか?」
「はい、キヨ様」
見つめ合う美男美女の2人、その前に立ちはだかるのは強面に魔物に三下の男達。
場面だけ見たら完璧に俺達が悪役だよな。
「コウサの言う通りだったね。ねえ、これからどうするの?あの2人は見逃してあげれないの?」
メリーは恋人と引き離される辛さを身を持って味わっているから何とかしてあげたいんだろう。
「ガーグさんとあちらの2人次第だな。エルフィンで身柄を保護する代わりに魔石2つを渡してもらうのが条件だ」
ぶっちゃけ、うまくはいかないと思う。
エルフィンであの2人を保護すれば余計な火種を抱える事になるし、キヨ・ワーグは俺達を信用しないと思うし。
「信用出来る証拠はあるんですか?」
「証拠はここにガーグ・エルフィンローズ王子様がいるってことだけっすよ。2人にはエルフィンで畑仕事か家畜の世話をしてもらう事になるっす」
「アーキに下々の真似をしろと言うのか?」
キヨ・ワーグの言葉から感じられるのは怒りと戸惑いと迷い。
「真似じゃなく下々の者にしかなれないんすよ。それにはその王族意識を無くしてもらわないといけないっすね。犯罪者を破格の待遇で迎えるって眉唾な話より、よっぽど信用が出来ると思うんすけどね」
今やあの2人の価値は持ってる魔石にしかない。
むしろエレガンスとの関わりを考えるならマイナスでしかないんだし。
「私はキヨと一緒にいれるならどこへでも行きますし、何でもします」
キヨ・ワーグにすがりつくアーキ姫。
「しかし、ここから逃げる手段を考えると…出でよ!!クレイゴーレム」
チャームの所為か好条件に目がくらんだのか、文字通りお姫様育ちのアーキ姫の事を思ってかキヨ・ワーグはレクレールを選んだようだ。
喚ばれたクレイゴーレムは5体、洞窟だからストックの粘土が少なかったんだろう。
「ガーグさんお願いします!!」
ガーグさんにお願いをしながら
(メリー、キヨ・ワーグの手の動きを見ていて)
以心伝心でメリーにもお願いをする。
ガーグ冒険者隊でクレイゴーレムの核の位置が分かるのはセシリーさんかガーグさんしかいない。
セシリーさんに指示を仰いでる暇があればガーグさんなら5体を倒せると思う。
「イントル、ハンナネスの嬢ちゃん、みぞおちの辺りを壊せ。ザイツ、お前は下がってろ!!」
言われた通りにすぐ退避をする。
案の定、倒し終わるころには、キヨ・ワーグ達の姿は消えていた。
「コウサ、キヨ・ワーグは壁をいじってたよ。場所もバッチリだよ」
いわゆる隠し扉ってやつだろう。
クレイゴーレムを壁代わりにしてスイッチの位置を隠したかったんだろう。
「コウサ、ここをいじってたよ」
メリーの言う場所を探ると壁がズレて隠されていたレバーが現れた。
レバーを動かすと壁が消える。
「あの壁は幻術か。追うぞ!!」
その時だった。
「ア、アーキ何で…グフッ」
声がした場所に俺達が駆けつけると、アーキ王女が恍惚とした表情で血塗られたナイフを持ってたたんずんている。
「おい、ありゃキヨ・ワーグじゃねえか」
ガーグさんの言う通り、アーキ王女の足元には血と涙で顔がぐちゃぐちゃになったキヨ・ワーグが倒れていた。
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