ザコとお上品王国 ザコのゴーレム対策
side 功才
当たり前と言えば当たり前なんだけれども、お祝いの式典で国宝の魔石が盗まれた所為で会場は大騒ぎとなり強制閉会となった。
俺達も宛てがわれた宿屋でエルフィン代表兼ガーグ冒険者隊の話し合いを開催。
「それでザイツお前はどう動けば良いと思う?」
そして俺には見事なまでのガーグさんからの丸投げが届いた。
「どうすもこうするもエレガンスの皆様にお任せですよ、下手に手を出したらエレガンスの国の威信を傷つけちゃいますし。何より気になる事が多過ぎなんですよ」
「コウサ、ヤ・ツーレさんが言ってた事だよね」
ちなみに大事な話し合いなのに俺の隣にはメリーが座ってるし、ガーグさんの隣にはセシリーさんイントルさんの隣にはハンナさんが座っている。
…日本にいた時に、こんな集団を見たら間違いなく"リア充消えろ"の呪文を遠くから唱えていたと思う。
「魔石を奪っていった男キヨ・ワーグはルーンランドで作られている転移用のマジックアイテムを使ったみたいなんですよ。でもこのマジックアイテムは事前に簡易魔石を転移する場所に設置しておく必要があるそうなんです」
当然、式典の壇上は事前に塵一つも落ちてないぐらいに掃き清められている筈。
「俺が壇上に上がった時にはそんな魔力を感じなかったぜ」
ガーグさんは、ヤクザみたいな見た目だけれども中身はしっかりエルフだから魔力には敏感だ。
「多分、誰かが後から置いたんでしょうね。下手に置いて後から来た人に蹴られでもしたらおじゃんですから。それにキヨ・ワーグはこれでもかってベストポジションに現れたんですよよ。そう魔石の近くに…言い方を変えれば姫様の近くですね」
「でもコウサさん、あのお姫様が自分の国の魔石を奪わせて何か得があるの?」
セシリーさんは将来のお妃としても気になるらしい。
「得はともかく動きが不自然なんですよ。もしセシリーさんが同じ立場ならどうします?」
「一番手っ取り早いのは相手をボコるか押さえ込むわね。最悪でも魔石を取り上げるわ」
そう、お姫様が台の上から魔石を転がすだけで防げるんだよな。
そしてガーグさん、未来のお嫁様が強くなってますよ。
「でもセシリー姐さん、自分達と違ってあのお姫様は気が弱そうだからそんな勇気がなかったんじゃないですか?あの時も身動き一つしかなったし…あっ!!イントルもしかして」
「ハンナそうですよ。トロルの私が見る限りあのお姫様は不自然なぐらいに微動だにしなかったんです。予めキヨ・ワーグが現れるのが分かっていたぐらいにね」
森の中で暮らすトロルは、当然猿人族よりも視力が優れている。
「普通はいきなり人が現れたら驚いてなんらかのリアクションが出るんですよ。それは本能的な条件反射だから出ない方が不自然なんです。予想としては魔石を設置したのお姫様でしょうね。その証拠に王子様はキヨ・ワーグの名前を呼びましたけどお姫様はそれすらしなかった」
顔見知りなら"キヨ・ワーグなぜ貴方が"とか言ってもおかしくない。
「それでその予想の上でも何も動かねえなか?」
「当たり前ですよ。分からない事が多いし何より今動いても何の得にもならない。動くとしたらエレガンスが頭を下げて来てからです」
まずは調べれる事を調べておいて予防策を張っておくのが先決。
俺は他人の騒動を無償で解決してあげる様な優しさもナルシストっ気も持ち合わせていない。
「コウサ、分からない事ってなに?それなら調査も兼ねてメリーとデートしよ」
「分からないのはこの策や魔石を誰がキヨ・ワーグ達に授けたか。勇者達は俺達の前に船が着いたみたいだから不可能だし。それとデートはしたいけど、しばらくは外出禁止だろうな。今の所はキヨ・ワーグの動き待ちしか出来ないよ」
「しかしネクロマンサーにクレイゴーレムですか。最悪の組み合わせですね」
データボール参照クレイゴーレム
その名前の通り粘土の人形に死者の魂を封じ込めたゴーレムです。
力は弱いですけども木や石と違って斬撃も打撃も効果が薄いんですよね。
斬ったら増えるし叩いても潰れたまま動くゴキ並みのしぶとさがあります。
あっ、功才君、ゴーレムの頭文字を消すと元に戻る設定は輸入しなかったので気をつけて下さいね。
それとエレガンスの輸出品には陶器もあるんですよ。
…つまり粘土層が豊富にあると。
まあ、だからエレガンスは兵士を必要としなかったんだろうな。
クレイゴーレムで足止めをして王侯貴族が魔石を使い魔術で相手を攻撃するのが伝統の戦法なんだろう。
「とりあえずはエレガンスと同盟国のワルキュレアにお任せですね。後はヤ・ツーレさんにお願いしておいた事が分かり次第です」
俺がお願いしているのは、エレガンスへの入国履歴の調査。
勇者達より先にレクレール関係者がエレガンスに入国していたら今回の黒幕がレクレールの可能性が高い。
それと御札の事を山田さんに相談をしてみるか。
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先ずは時差や山田さんの都合を考えてメールを送信しておく。
どうもザコです、お久しぶりです。相談がありますので、暇が出来た時で良いのでメールを下さい。
我ながらの低姿勢メール、これがトンマなら相談がある、電話を寄越せで済むんだけど。
それから30分程ぐらい経ってから山田さんから電話が掛かってきた。
「ザコ、相談ってのはなんだ?」
「山田さんちーす。あの貰った御札ってゴーレムにも使えますか?」
ここは外国じゃなく異世界、密教の御札が通じるか疑問だ。
「ゴーレムか、なんでユダヤ教のゴーレムが異世界にいるんだよ。ゴーレムの種類にもよるけどゴーレムの体に彫られている頭文字を消すか魂を封じ込めてる核に札を貼り付けるかだな」
頭文字消しは師匠の企みで無理だよな。
「クレイゴーレムなんすけど粘土だから何とかなりますよね」
「クレイゴーレムか。数が増やしやすいから厄介だぞ。札は一体につき一枚しか効果がないからな」よし、決めた!!
俺はエルフィンに帰る!!
そんな不安な賭けにメリーや仲間を巻き込む必要はないんだ。
山田さんの口調が本編と違うのは功才が相手なのと山田さんが自分の師匠の口調を真似ていたからです