里帰りラプソディー 〜タイミング〜
幕間を消した方が良い気もしてきました。
side 功才
タイミングが問題だ。
荷馬車の前が非常に盛り上がっている。
どうやらハンナパパがイントルさんの事を認めたらしく、お祝いムード一色。
俺も祝いたいんだけれども、盛り上がり過ぎていて出辛い。
これはあの時と似ている。
数合わせで参加させられた合コンで俺以外はカップルが成立。
そして俺がトイレに行ったら、もの凄い盛り上がって戻り辛くなったんだよな。
side ハンナ
親父に言われたキノコと酒、その他にイントルと自分が好きな食べ物を持ってきたんだけれども親父とお袋は輪の中に入れずにいた。
親父に目配せして自分の指定席を目指す。
「イントル来ちゃった」
そう言ってイントルの隣を確保。
「ハンナ、こっちに来て大丈夫なんですか?」
「自分はもうエルフィンの人間だよ。それに皆様がイントルに会いに来てくれたんだからきちんと挨拶をしておかないと。皆様、よろしかったら自分の父アクスト・ハンネスがジュンゲルの森から採ってきたキノコをご賞味ください」
親父が採ってきてくれたのは、ジュンゲルでは白と呼ばれているキノコ。
正確な名前は分からないキノコだけど味も良く珍しいので村では大人気だ。
「イントル殿、このキノコは」
ペルーセン教授が驚いている、いや教授だけじゃなくみんながキノコを見て驚いている。
(やっぱりみんなはキノコなんかじゃ喜ばないのかな?)
「ええ、シュヴァーンビルツ(白鳥茸)です。ハンネス様、私達の為にこんな素晴らしい茸をありがとうございます。ご存じの様に私はトロル、森の生まれです。だからこの茸の貴重さは良く分かっております」
そう言ってイントルは深々と頭を下げる。
それはデュクセンの貴族でも中々出来ない折り目正しいデュクセン皇国の礼法にそった動作。
「な、なに。俺にとってこの森は庭だから大した事ねえよ」
照れた様に頭を掻きながら話す親父。
「皆様も遠方のルーンランドからのご足労、感謝に堪えません。」
次にイントルは、立ち上がるとペルーセン教授達にむかって胸を手に当て頭を下げた。
(ハンナ、婿殿はどうして俺にだけ座ったまま頭を下げたんだ?)
(確かデュクセンでは目上の人を見下ろす行為が嫌われてルーンランドでは目上の人に対して座ったまま挨拶をするのが嫌われるんだって。これはデュクセンは騎士道が重んじられるのに対してルーンランドは労働を重んじるから座ったままの挨拶がタブーなんだって)
それを聞いた親父とお袋がポカンとしている。
「ハ、ハンナ。あの騎士に余計な知識はいらないとか言って勉強しなかったお前に何があったんだ」
「まさかガサツの塊だった貴女から礼儀作法を教えてもらえるなんて」
そう言って涙ぐむ親父とお袋。
「何時までも昔の自分じゃないよ。礼儀はイントルに教えてもらったんだ。イントルはただ教えるんじゃなく、どうしてそうなったかまで教えてくれるんだ」
イントルは各国の礼儀作法や法律に詳しいだけじゃなく、詩人としても、学者としても、音楽家としても、優れた才能があって、弟子の希望者は後を絶たない。
だから今の自分の状況はもの凄く羨ましがられる。
「婿殿、ハンナをこれからもよろしくお願いします」
親父がそう言ってイントルに頭を下げてくれた。
礼法も何もない不器用な姿だけれども、それを見たペルーセン教授達も涙を流してくれた。
「私なんかで宜しいのでしょうか。もしハンナさんとの仲を認めて下さるなら絶対にハンナさんを幸せにして見せます」
そう言ってイントルも親父に頭を下げてくれる。
自分はイントルに出会えて色々な事を知る事が出来た。
知識、礼儀、計算、音楽、美術、詩、そして恋。
これからは幸せな結婚生活を知る事が出来ると思う。
side 功才
出れない、今は絶対に出れない。
今出たら空気を読めない奴の烙印を押されてしまう。
夜明けを待つべきか、みんなが解散するのを待つべきか、それとも誰かが開けてくれるのを待つべきか。
この状況で荷馬車の扉を開けるのが許されるのは1人しかいない。
それはメリー。
そうなると待つ間に何をしてたかが重要になる。
果報は寝て待てと言うが、今寝ていたらふて寝と思われるから嫌だし。
まあ、どっちにしろ人がいるうちは自分から出ちゃ駄目なんだけど。
side メリー
荷馬車の近くに行くとハンナが涙を流しながら近づいて来た。
「メリー、親父とお袋がイントルの事を認めてくれたんだ。次はメリーの番だよ」
お父さんが認めてくれるかどうか何て関係ない。
ウッドの相手をして疲れた私の心を癒してくれるのは大好きなコウサ。
きっとコウサは荷馬車の中でメリーを待っている。
だから、いざ行かんコウサの元へ。
荷馬車の扉を開けてコウサにダイビング。
「コッウサー、メリーとイチャイチャしよー!!」
コウサは私の顔を見ると喜色満面に。
「メリー、向こうは大丈夫なの?」
「シャイン様がジン子爵にきちんと話をしてくれたから大丈夫だよ」
そう言いながらコウサに抱きつく。
コウサが1人で寂しかったからじゃない、私がコウサと離れて寂しかったからだ。
「流石はシャイン様。これでデュクセンは立場を悪くせずに済んだと。メリー、ジン子爵の性格を教えて」
「そう言われてもジン子爵とは今日初めて会ったんだよ。村の人は理不尽子爵とか言ってたけど」
「それは私で良いかね。確か名前はザイツ君だったね」
そう言って荷馬車に入って来たのはお父さんとお母さん。
うー、まだコウサを堪能したいのに。
side 功才
メリーが荷馬車に入って来てイチャイチャしていたらメリーパパとメリーママまで荷馬車に入って来た。
ったく、今時ドラマでもこんなベタなシチュエーションはないぞ。
「プルングさん、教えてもらって良いですか?」
俺にここでお義父さんとか言える度胸はある訳ない。
「俺の名前はボーゲン・プルング。こっちは妻の・ヴァルト・プルング。領主様は一言いえば現状維持を好むお方だ。メリーの言った理不尽子爵は"理不尽な"が領主様の口癖だからだよ」
妻ね、メリーの母親とは紹介しないと。
そしてボーゲンさんは現状維持としか言えなかったんだと思う、自分の不運を嘆いて理不尽と嘆くだけで何もしないんだな。
「そうですか。統治者としてジン子爵はジュンゲル村に何かしてくれましたか?」
「この村に来るのも10数ぶりだよ。税も配下の方が集めに来ている」
つまりジン子爵にとってジュンゲル村は重要ではないと。
今ジン子爵はパニック状態になっていると思う。
最近、デュクセンではドンゲル伯爵やイース公爵が罰せられている、下手すりゃ貴族仲間からその黒幕として俺の名前を聞くかもしれない。
それで何もないと疑心暗鬼になり、ジュンゲル村を逆恨みしかねない。
「分かりました。それならシャイン様と話をしに行かなきゃ。
ボーゲンさんシャイン様はまだ向こうに行ましたか?」
「いたよ、その前にメリーと君との事を聞きたいんだけどね。本当に君とメリーは付き合っているのかい?」
まあ、自慢の娘が連れて来たのが、俺じゃ疑いたくもなるか。
「信じてもらえないかも知れませんが娘さんとお付き合いをさせてもらっています。将来的は結婚も許して欲しいと思っています」
俺は荷馬車の床板に額を擦り付ける様にして頭を下げた。
「メリー、お前もか?」
「お父さんが駄目だって言ってもメリーはコウサに付いてくからね。言っておきますけど、コウサの家族はメリーとコウサの事を心からお祝いしてくれたんだよ。
それなのにコウサを疑うなんて信じられない」
メリー、あまり興奮すると俺が頭をあげるタイミングが掴みづらいんだよね。
しかも、このタイミングで師匠から電話が掛かってきた。
師匠、さすがに今は出れないです。
「コウサ君、緊急事態だから用件だけ話しますね。君を弓で狙っている人がいますよ」
師匠、携帯の意味が…。
それよりも今は
「荷馬車とイントルさん達にシールドボール」
流れ矢がルーンランドの人に当たったら国際問題。
そしてたて続けにシールドボールが矢を弾く音が聞こえた。
「メリー、矢が放たれた場所をイントルさんに教えて」
俺とメリーは直ぐに荷馬車から飛び降りる。
「ハンナさん、ルーンランドの人達を荷馬車に誘導して護衛をお願い。イントルさんメリーから狙撃地点を聞いて人物の特定をお願いします」
「分かりました。ザイツ殿はどうされるんですか?」
「俺は荷馬車に大きめのシールドボールを掛けたら、ガーグさん達の所に行きます」
中の人が酸欠で死亡とか洒落にならないし。
「コウサ、矢で狙われるよ」
「メリー、こうすりゃ大丈夫だよ」
俺はジャンプをしながら自分にシールドボールを掛ける、俺を中心にして球形のシールドボールが展開された。
ここから村までは一本道。
地味に中から転がしていく。これはシールドボールを空中で掛ける事で、移動を可能にした技。
ただし方向を決め難いし、坂道に弱いし、勢いがつくと中の俺がシェイクされてとんでもない目に合うから今まで封印をしていたんだ。
移動中も矢は俺を狙ってきた。
(こりゃ犯人は確定だな)
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