里帰りラプソディー 〜誤解と汚名〜
幕間の軽さがなくなっています
side 功才
甘かった、俺が甘過ぎた。
噛んだのは恥ずかしかったが、それで場が和めばって、期待をしたんだけれども、メリーのお父さんと隣にいるイケメン君が俺をにらんでいる。
メリーのお父さんは精悍な顔付きに引き締まった肉体で正に猟師といった感じで、"お義父さん娘を下さい"とか言ったら"お前にお父さんと呼ばれる筋合いはない"とか怒りそう。
お父さんの隣にイケメンは"僕の方が君よりメリーを幸せに出来る"とか言いそうだし。
ちなみに戦力比でいけば顔はイケメン君100とすれば俺は30。
純粋な強さでいけばイケメン君が100なら俺40。
勝てる要素は卑怯さと人脈ぐらいか。
メリーは信じれるが俺の男としての魅力には不信感が満載。
「メリー、お友達を連れて来たの分かるが今ジュンゲル村は大事な客を迎えなきゃいけないんだよ」
きました、メリーパパからのお友達訂正が。
「娘の旦那様より大事なお客様って誰?」
メリーがさらに旦那様訂正で火に油を注ぐ。
「メリーちゃん、領主のジン子爵様、シャイン伯爵様、バルドーの宮廷魔術師のミッシェル様、ルーンランドからも色んな人が来るし、エルフィンの女王様や王子様も来るんだよ。だから」
「ウッド、だから何よ」
「いや、エルフは美しい者を好むって言うから彼みたいな猿人族がいたら不快に思うんじゃないかなって」
うわっ、俺は不快物扱いかよ。
でも否定が出来ない自分も哀しい。
「コウサの事を何も知らない癖に馬鹿じゃないの?その女王様と王子様はメリーとコウサの為にジュンゲルに来たの」
いや少なくとも俺の顔は見ての発言だと思う。
その王子様の笑い声が馬車の中から漏れまくっているし。
「ウッドさんでしたね。今の言葉を訂正して下さい。ザイツ殿は私の大切な友人です。いくらハンナと同郷の人とは言え聞き逃す事が出来ません」
いやいやイントルさん、嬉しいけれど第一印象を悪くしちゃ駄目だよ。
「おい、お前そんな怪しい覆面を着けて俺のハンナを呼び捨てにするとは何者だ」
それに喰いついたのが恐らくハンナパパ。
「挨拶が遅れて申し訳ありません。私の名前はイントル、ハンナさんとお付き合いをさせてもらっているトロルです」
そう言ってイントルさんは覆面を脱ぎ捨てた。
当然、ざわつくジュンゲル村の皆様。
「魔物が人の娘を恋人だぁ?俺の斧で叩き割ってやる」
ハンナパパもヒートアップ。
「おい、このクソ親父。自分の大切なイントルを魔物扱いだと?言っておくけどもイントルは親父の数倍いや数万倍は、頭が良くて、優しくて、理知的で、強いんだ」
どうやら直ぐに熱くなるのはハンネス家の血筋らしい。
さて、どうするか。
今ガーグさんが出て来ても偽王子扱いされかねない。
そうしたらエルフィンの近衛兵の皆様が黙っていないよな。
ヤ・ツーレさん達、ルーンランドのメンバーはジュンゲル村に顔を知られていない可能性が高いし。
そうなると有効なのはシャルレーゼ様かシャイン様なんだけれども、そこに文句をつけたらジュンゲル村の村民に罰が下る可能性が高い。
仕方ない、ここは俺が悪者になりますか。
(メリーごめん。このままだとヤバいから俺が嫌われるよ)
(ううん、メリーがコウサに謝らなきゃいけないんだよ)
(メリーは悪くないよ。それより…するから…して欲しいんだ)
(分かったよ。コウサお父さん達が許してくれなくてもメリーはコウサと結婚するからね)
さてと、大事な彼女の故郷の為にもやりますか。
「ジン子爵はいるっすか?この対応の事をきちんと説明して欲しいっすね」
「私がジンだ。君は何者かね」
向こうの集団から男と兵士が出て来た。
「聞いてなかったっすか?俺はザイツ・コウサ、エルフィンに世話になっているしがない冒険者っすよ」
俺もジン子爵一行に向かって歩を進める。
「私は貴族、子爵だぞ。たかが冒険者が口を慎め」
計算通り、ジン子爵は苛立ちからご機嫌斜めだ。
「口?馬鹿じゃないっすか?何回も言うように俺はエルフィンから来た人間すよ?なんでデュクセンの貴族に礼儀を尽くす必要があるんすか?全く領地召し上げの危機から救ってやろうと思ったのに」
「何を言ってるんだ。そんなの出鱈目だ!なんで私の領地が召し上げられなきゃいけないんだ?」
「その言葉で充分貴族失格になるっすよ。デュクセン、バルドー、ルーンランド、エルフィン、この4カ国は同盟を組んだばっかりなんすよ。そのエルフィンからの客人をもてなさいばかりか村人に充分な情報を与えずに混乱させたんすからね。それともジン子爵様は同盟を破棄させたいんすか?」
さらに一歩前に出る、ジン子爵一行の剣が届く範囲に。
side メリー
みんながコウサに注目しているうちに私は脇道から村に入る。
お目当ての人は集団の後ろにいた。
(お母さんお願いがあるの。村のみんなに後ろに下がる様に伝えて)
(メリー、どうしたのいきなり帰って来て。それより貴女の彼氏は領主様を脅かすなんて何者なの?)
さすがはお母さん、コウサを彼氏と認めてくれた。
(ああでもしなきゃ村の人達が罰せられるんだよ。それとハンナとおじさんをケンカさせない為にあえてコウサが悪者になったんだよ)
(詳しい事は後から聞くよ。領主様の兵と武器も持たずに向き合うなんて良い男を捕まえたわね)
(うん、それは自信を持って言えるよ。コウサより良い男なんてオーディヌスにはいないんだから)
他人の為にあえてすすんで汚名をきれるのがメリーの大切なコウサなんだから。
(随分とベタ惚れだね。お父さんはお母さんがなんとかするからメリーは彼の所に戻りなさい)
side 功才
メリーがうまくやってくれた様でジュンゲル村の人達は後ろに下がってくれた。
いきなり緊縛した雰囲気になったんだから戦いに縁がない村人達が後ずさりしても不思議じゃない。
それをスムーズに行う為にも後ろの人に後退してもらったんだけどね。
「腰の剣を抜けば良いいっすよ。部下に命じれば良いっすよ、俺を殺せってね。領地を失う覚悟が出来たらの話っすけどね」
出来るだけ憎々しく話す、この場の恨み辛みを俺に集める為に。
「ジン様ご命令を、これ以上リフ家が愚弄されるのは耐えられません」
いや、抜いたらリフ家が無くなっちゃうんだよ。
つうか、早くミッシェルさん気付いてくれないかな。
side ガーグ
あの馬鹿、あれじゃ嫁の話なんて出来ないだろうが。
「ガーグ、今すぐに行ってコウサさんを殴ってイントルさんに拘束させろ」
「ミッシェルなに言ってんだ?ザイツは好き好んであんな事をしてんじゃねえぞ」
「だからだ!!コウサさんの思いを無駄にするな!!今一番大切なのは同盟を維持する事なんだよ」
ザイツを殴るか、国の為に悪者を演じている弟分を殴らなきゃいねえのか。
「ガーグ辛いじゃろうが、それが国を動かす者の定めじゃ。お前は良い部下を持ったの」
ババアも俺を守る為に国に戻り親父達の敵討ちを諦めたんだよな。
「ガー君大丈夫だよ。ここに天才ヒーラーがいるんだからっ」
俺は大きな溜め息をつくと馬車から降りた。
「この馬鹿野郎が!!騒ぎをでかくしてどうする」
そして俺は、ザイツを思いっ切り殴りつけた。
「イントル、そいつを荷馬車に放りこんどけ」
情けねえぐらいに手も心もいてえ。
イントルがザイツを担いだのを確認してジン達の方を向く。
「うちの部下が迷惑を掛けたな。すまねえ」
俺はジン子爵とジュンゲル村の村民に向かって頭を下げた。
新規連載を始めました
下忍の権蔵が異世界で手に入れたモノ
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