ザコとドワーフ 証拠とガーグ・チョマー
ようやくガーグさんの過去が明らかに
side 功才
さて、どうしよう。
ヒュドラ討伐の証拠になりそうな物。
鱗だと偶然に剥がれる可能性もあるからインパクトとして弱い。
とりあえず体は燃やしてしまったって言えばなんとかなる。
そうなると牙とかか。
燃えた体、牙、牙は白い、白いは…
そう証拠がないんなら作れば良いんだ。
それでは捏造スタート。
まずは残った生石灰に水を入れたシールドボールを埋める。
そして
「ウエポンファクトリー」
イメージは鋭い牙。
実際のヒュドラには牙なんてないと思うがイメージは大切。
「おい、ザイツ。その牙みてな物はなんだ?まさか…」
「これをヒュドラは倒しましたって言ってギルドに提出するんですよ」
「おい、コウサ嘘は不味いと思うぞ」
ハンナさんがちょっと待てと言わんばかりに俺の肩を掴んできた。
「嘘?ハンナさん、俺はこれがヒュドラの牙だって言うつもりはないよ」
あくまでもヒュドラを倒しましたって言ってからカウンターに置くだけだし。
肝心のヒュドラちゃんは遠いお空の下だから確認するすべはなし。
「でもコウサ、ドワーフさんがその牙を素材として使いたいって言ったらどうするの?」
「メリー、ヒュドラは魔法生物だったんだよ。だから倒したら煙になって消えちまったんだよ。この牙は偶然残っただけなんだよ」
つまり俺がマジックキャンセルで水を解放しちゃえば牙も煙と消えてしまう。
「駄目ですよ功才君。ヒュドラの牙がそんなに真っ白な訳ないじゃないですか?ちゃんと汚しをいれないと」
「さっすが師匠、ヒュドラが歯磨きをする訳ないですもんね」
「功才君もうっかりさんですね。それでは私もお手伝いしますよっ。燃えろっ炎よ」
師匠の掛け声に合わせてヒュドラがいた場所に大きな火柱が立つ、そして見事に地面には焦げた跡が残っていた。
「あの師匠にして、この弟子在りだよな」
ガーグさんの呟きに何故か全員頷いている。
ギルドに焼け跡と牙を証拠として提出。
俺達がカウンターから離れるとギルド内が騒然となった。
「ヒュドラの呪いだ」
「カウンターが焼け焦げでいやがる。あの地面と同じだ」
「魔法生物だから俺達の武器が通じなかったんだ」
ありがとう、ドワーフの皆さん自己完結してくれて。
―――――――――
次は王様に会う方法か。
「イントルさん、ドワーフの王様ってどんな人なんですか?」
「アドバンリ・ブラックスミス王は豪放磊落な性格で多くのヘイムランドの民に慕われていると聞いています。実直を好み世辞や嘘を嫌うそうです」
俺オールアウトじゃん。
下手な小細工はヒンシュクを買うかもな。
「大丈夫だ、当てはある」
低く何かを吹っ切る様にガーグさんが呟いた。
「ガー君、良いの?」
「俺が守らなきゃいけねえのは過去の誓いじゃねえ。今生きているエルフィンの民だ」
何故か涙目になっているセシリーと眉間に深いシワを刻んだガーグさんを先頭にしてヘイムランドのお城についた。
かなり空気が重いです。
そんな中ガーグさんが門番に近づいていく。
「アドバンリ王にお会いしたい。…チョマーの小倅が来たと伝えてくれ」
チョ、チョマー?
(コウサ、チョマーって何?)
(多分、ガーグさんの名字だと思う)
(ガーグさんの名字ってエルフィンローズじゃなかったっけ?)
(エルフィンローズはエルフのシャルレーゼ女王側の名字。シャルレーゼ王女はガーグさんの曾お爺さんに嫁入りしてるだろ?だからチョマーは猿人族としてのガーグさんの名字だと思うよ)
うん、ガーグ・チョマー…、この空気じゃなかったら笑い転げていただろう。
(それなら何でガーグさんはチョマーを名乗らなかったのかな?)
(流石にそこまでは分からないよ。でもさっきのセシリーさんの涙を見る限り、ヘビーな展開が待っていると思うよ)
――――――――――
「ガーグ久しぶりではないか。ますますガープ達に似てきたな」
玉座の間に通された俺達を待っていたのはフル武装のドワーフさん達と他のドワーフより一回り体がでかいドワーフ、アトバンリ・ブラックスミス王その人だった。
想像して見て欲しい、筋肉ダルマな人達がフル武装でお迎えしてくれているところを。
(愛想が欠片もねー。お城もそうだけどもドワーフって隙がなさ過ぎ)
ドワーフの城は堅牢その物で城塞としての機能以外は一切の無駄を排除している。
今まで見てきた城を車に例えるなら、エルフィンは居住空間としての快適さを取り入れたファミリー向けのワゴン車。
機能を追求しているルーンランドの城はスポーツカー。
無駄に贅を凝らしているデュクセンの城はVIPな高級車。
そしてここヘイムランドの城は戦車といった感じ、守りの機能は凄いが快適な居住性は皆無。
つまりドワーフからも城からも威圧感しか感じられない。
「ありがとうございます。今日は願いがあって参りました」
恭しく頭を下げるガーグさん。
「同盟の話か。儂等ドワーフとお主等エルフとでは間逆の存在だぞ、同盟がうまくいくとは思えねえ。何故にそんなに焦る?」
「今回のヒュドラの騒動の陰にレクレールが動いておりました。あそこの暴走を止めるには他の国が同盟をする必要があります」
「確かにな。しかし俺も民を納得させなきゃいけねえ。ドワーフの流儀で行かせてもらうぞ。ガキだから泣いたら許してやんよ」
拳をポキポキと鳴らし始めるドワーフの王様。
「ああっん!爺が寝言をほざくなよ。
引退試合にしてやるよ」
悪そうな笑顔を浮かべるエルフの王子様。
あの2人種族は違うけど同類だと思う。
……
何でドワーフって自分の王様が血を流すのを見て興奮できるんだろう。
ドワーフの流儀は殴り合いだった。
所謂肉体のコミニュケーション。
殴り合いで気持ちを確かめるって何時の時代の中学生なんだ?
この後、2人で夕焼けが見える河原に行ってくんないかな。
結果的にはダブルノックアウト。
ガーグさんが気絶している間にセシリーさんがポツリポツリと語り出した。
「ガー君のお父さんもお母さんも兄弟もお爺さんもお婆さんもシャルレーゼ様を除いたチョマー家は全員がレクレールの連中に殺されたんだ」
レクレールは自分達で召還した魔物の討伐依頼を冒険者一家であるチョマー家に出したらしい。
かなり強力な魔物だったらしく幼いガーグさんとガーグさんを見る為に残ったシャルレーゼ様以外のチョマー家全員で討伐に出かけた。
無事に魔物を討伐した瞬間に上級精霊魔術の標的にされて皆殺しにされたらしい。
ガーグさんの父親ガードさんが途切れ掛けの意識の中で念話でシャルレーゼ様にそれを伝えたとの事。
これで納得が出来た。
なんでガーグさんが冒険者になったのか。
怪しまれるのを覚悟で名字を名乗らなかったのか。
惚れ抜いているセシリーさんがいるのにエルフィンに帰らなかったのか。俺が下級精霊フローラルと相対した時怒ったのか。
全部、理解出来た。
書きため作らなきゃ
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