幕間山田先輩
こんな感じの話で進めていこうかと
ある高校の昼休み。
「なぁ、今日さ俺ん家で飲みやろうざ」
長い髪を金髪にしたチャラい感じの男子が机をくっつけて弁当を食べていた女子に話し掛ける。
「えー行きたいけど、今日バイトなんだよねー」
答えたのはショートの元気が良さそうな女子。
「飲み終わったら、今噂の廃屋に行こうぜって話になってんだよ」
「あっ、あれでしょ。隣町ちにある殺人事件があったっていう家でしょ。どうしようー、怖いけど行ってみたいんだよなー」
「行けばいいじゃん。バイトなら私が代わったげる」
バイトの提案をしてきたのは髪を明るい茶色に染めている女子。
「麗奈、今日ダンスの日でしょ?…あー今日は火曜だから山田さんが早いシフトだもんねー」
ニヤリと笑ったショートカットの娘は麗奈をからかう様な口調で話しかける。
「おい麗奈、その山田って誰だよ?男なのか」
「健児あんたウザい。山っちは男だよ、大学生。なんか近くにいると安心すんだよねー」
「麗奈は山田さんのファンだもんね。それなら親友の為に代わってあげるか」
「美保なに言ってんのさ。山っちとはそんなんじゃないの」
口では否定しているも麗奈の口元は緩んでいる。
山田大明は麗奈や美保と同じコンビニでバイトをしている大学一年生。
年上相手でも態度を変えない麗奈が唯一と言っていい程に懐いている相手であった。
「その山田って野郎は格好いいかよ。どんな顔してるんだ」
麗奈が男相手には滅多に見せない笑顔を見せたのが気に入らないらしく健児は不機嫌さを露わにしている。
「山っちの良さは見た目よりも中身なんだって。美保それじゃ私が店長に電話いれとくから」
麗奈はバイト先に電話を掛ける為に教室から出て行く。
「ほらこれが山田さん、格好はともかく大人なんだよ。麗奈の前で山田さんの文句は禁句だよ。あの娘、山田さんと兄妹みたいに仲が良いんだから」
美保が取り出した携帯には嬉しそうに笑う麗奈と1人の男性が写っていた。
「これが山田かよ。ただのデブじゃん、眉毛も太いし上野にいる西郷みてえな」
確かに山田はごつい体型で太い眉毛に糸目をしており、西郷隆盛と風貌が似ていた。
「それ以上山田さんの悪口を言うなら今日行かないよ。麗奈ほどじゃないけども私も山田さんには世話になってるんだから」
――――――――――
「山っちチース。ねえ山っち美保じゃなく私がバイトに来て嬉しいでしょ?」
レジにいる山田に麗奈が元気良く挨拶をする。
「麗奈お前今日ヒップホップの練習だろ?良いのか?」
「山っち、その返事つまらないー。せっかく可愛い女の子が山っち会いたくて来たのにさ」
今の麗奈を同じクラスの男子が見たら驚くだろう。
学校では男子に媚びる所か愛想の欠片もない麗奈が山田に拗ねた態度をとっているのだから。
「はいはい、ありがとよ。ほらっお客様がいるんだから早く着替えてレジに来い」
―――――――――――
客足が落ち着いたのを見計らって麗奈が俺に話しかけて来た。
「ねえ山っち、隣町にある噂の廃屋っ知ってる?」
知ってるもさ何もつい最近チェックをしに行ったばかりだ。
「ああ殺人事件があったって所だろ?なんだ麗奈は怖い話とか好きなのか?」
「好きな訳ないじゃん。美保がクラスの男子と遊びに行くんだってさ。あり得なくねえ?」
「それで良いんだよ。人様の不幸があった場所に遊びに行くなんて誉められた趣味じゃねえからな」
それにあそこはやばい。
場合によっては依頼対象になってもおかしくはない。
「山っちって考えが堅いよね。あっいらっしゃいませー」
――――――――――
バイトが終わり帰り支度をしていると麗奈の携帯が鳴り響いた。
「美保どうした?ちょっと落ち着きなって…はっ馬鹿じゃないの?早く帰って来な…美保っ、美保っ」
電話をしていた麗奈の顔が青ざめていく。
「山っちどうしよう。健児がバカやって廃屋から出れなくなったんだって。美保泣いてた」
「落ち着け、できるだけ詳しく話してみろ」
涙目の麗奈から聞いた話をまとめると、健児って男が調子にのって廃屋にある物を壊したり、事件の事を笑っていたら、うめき声が聞こえてきて廃屋のドアや窓の鍵がしまったらしい。
あまり良い流れじゃないな。
「麗奈、俺はこれから美保を迎えに行って来る。お前は真っ直ぐに家に帰れ、それとお袋さんに電話して塩を準備しといてもらえ」
愛用のビックスクターに跨がりエンジンを掛けようとしたら腰に手がまわってきた。
「山っち、私も行く」
「馬鹿言ってないで早く降りろ。お前まで面倒事に巻き込まれる必要はないだろ?」
「美保は私の小学校からのダチなんだよっ。泣いてるダチはほっとけないの」
麗奈は格好や話し方で誤解されがちだけれども、しっかりとした考え方を持っている。
「とにかく一回降りろ。じゃいとメットが出せないだろ?ノーヘルで捕まる馬鹿はしたくないからな」
「さっすが山っち、話せる」
――――――――――
三十分程走ったら、例の廃屋が見えてきた。
案の定、家の住人はかなりご立腹な様だ。
「麗奈、この札を身につけて絶対に離すなよ」
「うわっ、山っち準備良すぎない?」
「俺の名前を聞いて気付かなかったか?これでも寺の息子なんだよ。札の1枚や2枚は持ってんだよ」
まぁ、俺が札を持ち歩くのには理由があるんだけども。
「山っち、ドアは開かないんだよ。どうやって中に入るの?」
俺は真言を唱えながらドアに手を掛けてゆっくりとノブを回す。
ドアはきしんだ音をたてながらゆっくりと開き、中からは生ぬるい空気が溢れ出して来た。
「山っち、今のお経?さすがお坊さん!」
「今のは真言だよ。まっお経の一種なんだけどな。すいませんが知り合いがご迷惑を掛けたみたいで迎えに来ました」
「山っち、ここは廃屋だから誰もいないよ」
「いるんだよ。ほら人の家に入るんだから麗奈も挨拶しろ」
「お、お邪魔しまーす」
ここであった事件は当時高校生の女の子が襲われた上に殺されたという痛ましい殺人事件。
「や、山っち、あれ…」
麗奈の指さす先には髪をサンバラに振り乱し痩せ衰えた女性に組み敷かれた美保達がいた。
「そいつらが馬鹿をやって貴女の怒りに触れた事は謝る。だけどそいつらは生者なんだよ…解放してやってくれないか」
女性は怒りと恨みと悲しみが入り交じった視線で俺を睨みつけてくる。
「ちょっとあんた何か言いなさいよ。それと美保を離せっ」
「麗奈止めろっ!!悪いのは美保達だ。もし美保が振られた側で誰かが惚気話をしたらどうする?」
「そりゃ怒るに決まってんじゃん。…あっ、そうか、そうだよね。私のダチが迷惑を掛けたんだね、ごめを」
いきなり見知らぬ男に乱暴された上に殺された少女の悲しみや怒りは計り知れない。
美保達はそこで少女の気持ちを踏みにじる事をしたんだろう。
死者は肉体を持たないかわりに生者の心に敏感だ。
本来なら美保達はこのまま見捨ててもおかしくないぐらいの愚行をした。
「理不尽かもしれないが君が生者を呪い殺しでもしたら地獄行き必定となる。俺は君を救いたい、だから俺の声に耳を傾けてくれないか」
そう言うと山っちは真言とか言うのは唱え始める。
それはお寺で聞くお経と違って優しい暖かなお経だった。
「お爺ちゃんとお婆ちゃんが迎えに来てくれている。さぁ行きなさい」
山っちがお札を女の子の頭に乗せると淡く暖かな光が溢れ出す。
その光の中にはお爺さんとお婆さんに抱きしめられて泣いている女の子の姿が私には見えた。
ちなみ健児達は山っちにボコボコにされた、5人もいたのに山っちに手も足もでなくてワンワンと泣きじゃくっていた。
でもその涙と女の子が最後に見せた涙ではまるで違うと思う。
美保も迎えに来てくれた親にこっぴどく叱られたらしい。
「ねえ山っち、山っちてマジで何者なの?」
「お前のバイトの先輩だよ。ちょっとばっかり人と違う経験して来ただけのな」
「何よそれー。ちゃんと答えてよー」
不思議な事に私は一切の怖さを感じていなかった。
多分それはビックスクーターを運転する姿がまるでサーカスの熊を連想させる暖かな先輩がいたからだと思う。
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