ザコとエルフ 終結はダンスパーティー
いつもより少し長いです
side 功才
俺の座右の銘は分相応。
自分の実力や立場をきちんと自覚して動くのが俺なりの処世術である。
オーディヌスに来て奇跡的にメリーと言う美少女と恋人同士になる事ができた。
つまりこれ以上目立つ事や他人の嫉妬を買う様な事は絶対に避けたいんだけれども…。
「コッウサ、パーティーだよ。お城でダンスパーティーだよっ!!綺麗なドレスを着てーコウサとダンスを踊ってー、美味しい物を食べてー、コウサとゆっーくりお話をしてー、コウサのスーツ姿も楽しみだしー、もう夢みたいだよっ」
北エルフと南エルフの試合を記念して、ルーンランドのお城でダンスパーティーなるおぞましい物が開催される。
本来は腹痛か何かの仮病で欠席をしたいんだけれど、我が最愛の恋人メリーのテンションはウナギ登りで、とても仮病なんて使えそうにもない。
「ダンスパーティーねぇ…俺ダンス踊れないんだよな」
ちなみにこれは大嘘。
昔、姉ちゃんや美才の練習相手をした事があるから、それなりには踊る事はできるんだけど、お城でダンスをしている自分の姿を想像しただけでヘソで熱湯を沸かす自信がある。
「あーコウサ嘘ついてるー。あんなに約束したのに、またメリーに嘘をつくんだー」
そう言ってメリーは、ジト目で俺を見つめてくる。
「ちょ、嘘ってなんでだよ」
いや、嘘なんだけどさ。
「メリーはエイカ義姉さんからコウサが嘘をつく時の癖を教えてもらったんだよ。もうコウサには騙されないんだからね」
姉ちゃんの馬鹿…。
「ダンスを踊る事は出来るんだけども似合わなくて嫌なんだって。本当ならパーティーにも出たくないんだよ。俺みたいな不細工がダンスパーティーに参加したら雰囲気を壊すだけだって」
地味な容姿をしている俺がエルフや貴族に混じって、お城でダンスパーティーなんて滑稽以外のなんでもない。
「えー、メリーはコウサは誰よりも格好良いと思うんだけどな」
俺が格好良いなんて世間と間逆の評価をしてくれるのはメリーだけだと思う。
「それに俺はわざわざ笑い者になんかなりたくないよ」
本人が大真面目なのに笑われるの結構きつい。
でも試合にガーグ王子の側近として出場した立場上パーティーをサボる訳にはいかない。
そんな事をしたら試合の為の助っ人だって勘ぐられてしまう可能性もある。
「コウサの事を笑う人なんてエルフィンにはいないよ。コウサはガーグ王子の懐刀って言われてるんだよ。ちなみにイントルさんは盾なんだって」
多分、噂の出所はミッシェルさんだろう、自分は刃に返しがついてる様なえげつない懐刀の癖に。
「懐刀ね。身に余る光栄つーか買い被り過ぎつーか」
俺としちゃ使い捨て懐炉で充分なんだけど。
それに自分から俺は頭が切れますみたいなポジションは謹んでご遠慮したい。
だってザコだって誰も油断してくれなくなるんだぜ。
だからミッシェルさんも俺に懐刀の名前を押し付けてきたんだし。
「今回の試合でサン・エルフの策略を逆手にとってエルフィンを勝利に導いたのはコウサなんだよ。メリーはもっと自信を持って良いと思うんだけどなー」
「南エルフか。なんか徒労に終わる予感がするんだよな」
「サン・エルフから魔石がくるんじゃないの?」
「多分、チピーラは国に内緒で約束したんだと思う。あの魔石付きの剣も実家から勝手に持ち出したんだろうな。ほら子供の頃、親の道具を勝手に持ち出した事あるだろ」
ちなみに俺は爺ちゃんの刀を持ち出して、こっぴどく叱られた上に次の日から居合いの練習が開始された。
「メリーはお父さんの弓矢で勝手に獲物を捕まえてたなー。でも南エルフの人はみんな大人だったよ」
「エルフは長命だから中々親から一人前扱いされないんだってさ。ガーグさん達の方が異例みたいだぜ」
「それじゃ誘拐に関してもお咎めなしなの?」
「サン・エルフ国内の法律で裁かれるだろうけども特別扱いされる可能性は高いよ。まっ、チピーラ達は後2、300年は自国から出れないんじゃいかな」
よっし!話が逸れた。
嘘はついてないし、このままダンスをしない方向に持っていければ。
「でもそれならダンスしても安心だね。チピーラ達以外にコウサに文句をつけてくる人はいないでしょ?ルーンランドが招待してくれたんだし」
そう、エルフィンの民が俺を笑えばガーグさんの面子が潰れる。
ましてやルーンランドの貴族が俺を笑えば招待をした国王の面子が潰れてしまう。
「あちゃー、メリー気付いちゃった?」
俺は無言で素敵な笑顔を浮かべるメリーにルーンランドのお城へと連行された。
――――――――――
ルーンランドの城に着いたけど。
「これは変わった形をしたお城ですね。ザイツ殿は何の形かわかりますか?」
イントルさんが分からなくて当たり前だ。
この文明レベルで、この建物がある事自体がおかしい。
「あれはドーム型って言いまして衝撃とかに強いんですよ。ほら俺のシールドボールもあんな感じでしょ?」
ちなみにシールドボールは対象を中心に球体が展開される為、地面にいる時にはドーム状に見えてしまう。
「ルーンランドは魔法技術が発展しているからな。国交を正常化させてエルフィンの発展に繋げてえな」
ガーグさんの言葉には王としての気概が溢れていた。
会話だけを聞くと普段と変わらないんだけども、俺達を華麗に着飾った北エルフの方々がガードしてくれている。
善意は有り難いんだけども、イケメンや美人に囲まれたブサメンの切ない気持ちを考えて欲しかった。
ちなみにメリー達はお城に先乗りして準備をしている。
その為か鬼の居ぬ間にとばかりに、ガーグさんの周囲には女性エルフがかたまっていて隙あらばダンスパートナーに立候補しようとしている。
イントルさんとの雑談タイムも予約で一杯らしい。 俺の予定はヤ・ツーレ所長やミッシェルさんとのお話し合いだったりする。
早く話を取りまとめてメリーと合流しないと俺の胃が持たないと思う。
――――――――――
「ミッシェルさんこちらが魔法研究所の所長のヤ・ツーレさんすよ」
「ヤ・ツーレ様、この度は色々とご尽力ありがとうございました。ガーグに代わりお礼を申し上げます」
「いえいえ、こちらこそ一歩間違えば大事に至るのは回避できた事を我が王も大変喜ばれていました」
お互いに王の代理としての立場を鮮明に打ち出してきた。
「ここで腹の探り合いをしていても時間の無駄っすから単刀直入に言うっすよ。サン・エルフからは何を取れると思うっすか?俺の予想は国宝の魔石は避けたいんすよ。サン・エルフ本国としては寝耳に水の可能性が高いっすからね」
「エルフィンとしては約束を反故にされたら今後の他国との兼ね合いもありますから重文級の魔石を複数か魔石を使った武具と言った所ですかね」
うん、ミッシェルさんはむしり取る気が満々と。
「ルーンランドとしても自国民が被害に合ってますから最低でも複数の魔法陣や触媒をもらえなければ国民に示しがつきません」
ヤ・ツーレさんも狙う品は決まっているみたい。
「お二方の送った使者は何時ぐらいにサン・エルフに着く予定っすか?後チピーラ達の身柄はどうするっすか?あの中じゃウルフェンかブーレインの家柄が高いと思うっすから拘束するなら手伝うっすよ」
「それならご安心下さい。ブーレインさんとジューベーさんは治療の為に研究所にいますし、チピーラ王子が療養している宿もきちんと私の部下が警護しておりますから」
きっとジューベー達は何重もの結界に囲まれての治療なんだと思う。
「それなら私はこの後サン・エルフとの交渉へ旅立つ事にします。ガーグ王子からシルフィードホース使用の許可をもらいましたので直ぐに追いつくと思いますから」
多分、ルーンランドの使者も追い越すつもりなんだろう。
「それじゃエルフィンとルーンランドは、これからも仲良くして行く方向で良いんすよね?エルフィンからは魔術や触媒の提供、ルーンランドから魔法技術の提供をお願いしたいっすよね」
俺が提案できるのは方向性だけ、同盟なんて越権行為をする気はない。
「ええ非公式ですがガーグ王子様と我が王の会見を予定しておりますので。残念ながら私もミッシェル様も立ち会えませんが」
お膳立てはしておいてるから、次の行動にでるんだろうな。
「それじゃ雑談はこれで終わりっすね。メリーが待っているから失礼するっすよ」
後は大人2人が中身を煮詰めると思う、そんな所にいたら聞いちゃいけない話が出て来そうだから俺は退散する。
――――――――――
待ち合わせ場所に着くと、メリーは大勢の男に囲まれていた。
その表情は俺には見せる事がない醒めきった物。
メリーは声を掛ける前に俺を見つけたらしく、一転して笑顔になる。
「コウサー待ってたよー。さっ踊りに行こっ!!…メリーの大好きな彼氏が来たんだから避けるのっ」
冒険者メリーの一喝で取り囲んでいた男達がモーゼの十戒ばりに避けていく。
それも、もどかしいらしく男達の間をすり抜けてきたメリーが俺に飛びついて来た。
「コウサ待ってたよー。さっダンスしに行こっ」
俺の腕を掴んでズンズンと進むメリー。
ダンス拒否権発動は自粛としておく。
途中見知った顔とすれ違った、イ・コージだ。
「ザイツさんですね。この度は」
「お礼はいらないっすよ。俺は貴方を利用しただけっすから。その代わりに今度何かあったら俺の依頼を受けて下さいっす」
「分かりました。それならおじさんの老婆心から一言、宗教国家レクレールに気をつけて下さい。動きが活発になっています」
とりあえずおじさんの老婆心って言うオヤジギャグは無視して先に進む。
「あっ、そうっす。自分の幸せを否定するのは自由っすけども。それって罪滅ぼしじゃなく、ただの自己満足っすよ」
side メリー
コウサとのダンスは今まで踊ったダンスとは比べものにならないぐらいに楽しかった。
2人の息はぴったり、直ぐ側にコウサがいる、音楽とメリーとコウサだけの世界、繋いだ手から感じるコウサの温もり。
セシリーさんが言ってた、コウサは好むに関わらず茨の道を歩いて行くって。
それでも、この手はもう離さない。
私はこれからずっとコウサと人生を歩いていくんだから。
次からは幕間です
山田さん、ビルクーロの幕間の他に読みたい幕間があればできる範囲でリクエストに答えたいと思います