ザコとエルフ イントル
イントルの試合です
side 功才
次はイントルさんか…
うん、今回は相手が可哀想だ。
イントルさんはハンナさんが卑怯な倒され方をしたのを見てジェントルメンモードからモンスターモードにチェンジしている。
つまりイントルさんのストッパーが外れた訳で、俺の仕込み通りでいくと相手に待っているのは悲劇でしかない。
まぁ幸いハンナさんはお腹に青痣ができたぐらいで大きな怪我はなかったらしい。
「サン・エルフ帝国中堅、輝く英知ブーレイン・テンサーイ」
ブレーインは神経質そうな顔立ち、お約束の様に眼鏡の真ん中をクイッと押し上げながらステージに上がった。
「エルフィン帝国中堅ガーグ冒険者隊イントル…種族トロル」
イントルさんの種族が告げられると会場がざわめきだした。
そりゃ魔物が登場したんだから仕方がない。
「ご静粛に、イントル殿に関してはルーンランドの複数の方が保証人となっています。先ずはルーンランド国立大学教授ペルーセン教授、宮廷魔術師フリードマン様、宮廷詩人のクリスティーヌ様、指揮者のファンドン様、画家のピルーネ様、そして私ガドイン・ロックオーガも彼の人柄を保証いたします」
名前を呼ばれた保証人の人達が立ち上がり一礼をする、全員かなりの有名人らしい。
「コ、コウサもしかしなくても詩人のクリスティーヌ様とイントルさんってお友達なの?メリー大ファンなんだよー。しかも指揮者のファンドン様も知り合いなんて凄すぎだよ!!」
メリーの反応がそれを如実に表していた。
だってイントルさん、進化論も直ぐに理解してオーディヌスならではの独自解釈をしたし、最近は俺が持ち込んだ物理学や力学の専門書を読破したんだもん、そりゃ大学教授とも親しくなれるよな。
「私は構いませんよ。さぁ試合を始めましょう」
ブーレインは何かを企んだ様な笑みを浮かべる。
(コウサ、イントルさん大丈夫かな?なんかブーレインは凄い自信だよ)
(そりゃブーレインは自信があるから特殊なルールを提案したんだろ。普通に考えたらエルフがトロルに知識で負ける事はないからな)
(でもコウサはイントルさんを選んだんでしょ)
(まあね、この試合だけは相手のやり口が予想できたし)
(どうゆう事?)
(南エルフより北エルフの方が知識を重んじる。そんな中わざわざ知識対決にしたのはブーレインは北エルフよりも自分の頭の良さに自信を持っているから。そして今回は北エルフからは戦士職が出てくる可能性が高いんだよ。ブーレインが確実に勝つには自分の頭の良さを利用した攻撃方法が必須になると思うんだ)
「今回の試合はルールが特殊なので事前に説明をさせてもらいます。まず私共が問題をだします、先に正しい解答をした方に攻撃権があたえられます」
早い話が良くテレビでやっている叩いてかぶってジャンケンポンのクイズ版。
「攻撃にはサン・エルフ側から提供された理知の杖を使用してもらいます」
データボール参照 理知の杖
これは自分の賢さを攻撃力に変換する武器です。
さらに防御する際にも賢さが必要となります。
単純に言うと賢さ100の者が賢さ50を攻撃すると50のダメージを与えれる訳です、逆の場合は0になってしまいます。
ちなみに功才君の賢さは…これは悲しい現実ですね。
でもご安心下さい、功才君には卑怯補正や姑息補正が入りますので。
ちなみに理知の杖は物理攻撃用にも切り替える事もできますよ。
良いんだ、英文法や数学の証明なんて実生活に必要ないんだ。
でもなんか師匠の声が近い感じがするんだけど。
(ふわっ、コウサ凄い。予想通りだよっ)
(ブーレインがイントルさんがトロルでも反対しなかったのは理知の杖は腕力を必要としないからだろ。これでわざわざイントルさんの正体をバラした甲斐があるってもんさ)
(えっ!コウサがお願いしたの?)
(うん、だからイントルさんに挨拶周りのついでに知り合いの人に保証人になってもらう様にお願いしたんだよ。…ほらっ始まるよ)
あいつらのやり口は良く分かった、そして先から観衆はどん引きしている。
利用できる物は利用しまくってやるさ。
「先ず第1問サン・エルフ帝国の初代王の名前は」
客もドン引きだけど、俺も引いた。
南エルフの身内問題って。
下手すりゃ南エルフと傭兵隊の癒着と取られかねない。
「フッ、キンピーラ・サンシター様です」
あのブーレインさん、それを格好つけて答えるのはどうかと思うんですけど。
不正解な訳もなくブーレインに攻撃権が渡る。
「醜い魔物よ、英知の一撃を喰らいなさいっ!!」
ブーレインが英知の杖をイントルさんの体に叩きつける。
…あっ、ノーダメージっぽい。
師匠の説明からするとイントルさんの方が賢いんだろう。
「流石は魔物しぶといですね」
あー、イントルさんの方が賢いって認めたくないから倒せないのは魔物の生命力が強いからって決めたのね。
「第2問サン・エルフ帝国の首都の名前は」
まさかのサン・エルフ問題の連チャン。
「簡単ですよ。サンピーラです」
そりゃ自分の住んでる町だから簡単だろ。
「今度こそ喰らいなさい…グォッ」
攻撃を加えたブーレインが腕を抑えている。
(コウサ、ブーレインはどうしたの?)
(多分普通に攻撃したらノーダメージだから物理攻撃用に切り替えて攻撃したんだろ?だけどイントルさんの筋肉が硬くて自分の手を痛めたってとこだろ)
(もしかしなくてもイントルさんに負ける要素なし?)
(正確に言えばブーレインの大怪我が確定なんだけどな)
「第3問ジャネット・シャルルの光の小径はどこの街道の事か」
「私は分かりますよ、ルーンランドからデュクセンへの道です」
シーンと静まりかえる場内、やがてクスクスと笑い声が聞こえ始める。
「違いますよ。バルドー聖王国の首都ロディーヌからリーゾンまでの道です。あの詩は大切な夫を亡くしたシャルルが2人思い出の地リーゾンに向かう街道で木々に反射した光の中にありし日の幸せな光景を重ね合わせて詠まれた詩です。ちなみにルーンランドからデュクセンまでの街道で詠まれたのは在りし日の光です。まぁ50年位前の書籍では混同して表記した物もありますが」
場内は割れんばかりの拍手に包まれた。
そりゃね、トロルが詩の解説をスラスラとしちゃったんだから。
「さて覚悟しろよ。俺の女にふざけた真似をして恥をかかせたんだ。くだらない筋書きを書いた奴が悪いんだからな」
南エルフで参謀役はブーレインしかいない。
ちなみにその参謀は賢さバージョンの理知の杖でイントルさんに攻撃されて吹き飛んだ。
「第4問古代精霊時空竜ビルクーロの鱗の色は?」
あー鱗持ってます。
涙の形が着いた鱗も。
「漆黒です。ビルクーロの黒は光が生まれる前の暗黒を具現化した物と言われています」
イントルさん大正解、つーかブーレインは立ってるだけで精一杯。
ちなみに、この間リュックを枕にして寝たら黒い竜が無惨な姿で泣いてる夢を見た。
「さて薄汚い魔物の直接攻撃で頭をかち割ってやるぜ」
イントルさんが理知の杖を頭上高く掲げ一気に振り下ろした。
……
すげっ、ブーレインの頭の寸前で止めている。
「この会場には女性も子供います。わざわざ凄惨な光景を見せる必要はありません」
でもブーレインの耳には届いていないだろう。
あれ失禁&気絶してるし。
ちなみに師匠の部下の名前はイ・コージに出しました