ザコ帰る 功才とメリーの
ザコの100話目です
side 功才
こっちに来てから久しぶりに恐怖を味わっています。
今爺ちゃん家に向かっているんだけど…
(美才、姉ちゃんって、いつ免許とったんだ)
(確か、お兄ちゃんがいなくなって探す為にとったから一ヶ月前くらいかな…お兄ちゃん、美才達無事にお爺ちゃんのお家に着けるよね)
(それはありがたいな。それで実際の運転歴はどれ位なんだ?)
………
(美才はお姉ちゃんが運転している所初めて見たんだよ)
おいっ!そんな人がベンツのVクラスなんて運転したらやばいだろ。
幸いな事に、周りの車は姉ちゃんの運転の荒さとベンツ効果で、あっちの方と勘違いしてくれたのか車間距離をとってくれている。
確かこの車は親父の愛車なんだよな。
ちなみにメリーは既にグロッキー状態で、俺にもたれかかりながらも手をギッチリと握っている。
それと山田さん…
本当に申し訳ありませんっ!
メリーと美才が俺の隣を確保した所為で山田さんは助手席へ。
普通なら財津栄華の助手席は嬉しいんだろうけども、お互いほぼ初対面な為かあまり会話もなし。
さらにジェットコースター並みの恐怖感が味わえる運転なのに、山田さんは表情一つ変えずに姉ちゃんの飲むペットボトルの蓋を緩めたり、隣の車に頭を下げてくれている。
帰りは山田さんには電車で戻ってもらおう。
じゃないと俺が安心してオーディヌスに戻れない。
無事に爺ちゃん家に着けたのは姉ちゃんだけで、後は車酔いを通り越して車酩酊って感じに。
いや、下手すりゃ車二日酔いになりそうだ。
プチヒールの連発で、何とか行動が可能に。
「おお、みんな良く来たの。」
事前に連絡を入れておいたお陰で爺ちゃんと婆ちゃんは家の前で待っていてくれた。
「爺ちゃん、婆ちゃん心配を掛けたみたいでごめん。でも俺は大丈夫だから。それと2人に会って欲しい人ができたんだよ。俺の恋人のメリー・プルングだ」
「メ、メリー・プ、プルングでしゅ。お爺しゃまお婆しゃまコウサ…じゃなくコウサ君とお付き合いさせてもらっていましゅ」
車疲れと緊張からかメリーは噛みまくっていた。
「あらあら、お人形さんみたいに可愛らしいお嬢ちゃんだこと。こちらこそ功才がお世話になったみたいでありがとうございます。功才、こんな素敵なお嬢さんを大事にしないと罰があたるわよ」
婆ちゃん、正確には罰の前に矢があたるんだよ。
「さて皆様、長旅で疲れたじゃろ。あがってお茶でも飲んで下され」
爺ちゃん、正確には車疲れなんだ…
「功才、何か言いたそうな顔をしてるわね。お姉ちゃんの顔を見ながら言ってごらんなさい」
爺ちゃん、旅の疲れをとらせてもらいます。
side 万才
功才の奴は、すっかり一人前の男の顔になっておった。
「功才、元気そうで安心したぞ。しかも外人の嫁とは中々やるの」
「爺ちゃん、メリーはまだ嫁じゃないって。確かに将来的にはそうなって欲しいんだけどさ」
「ったく、面構えは立派になりおった癖に、ウジウジと情けない。男ならビシッとせんかい」
そんなんじゃ、これから始まる儂等の贈り物の時についてこれるかの?
side 功才
小一時間も休んだ時だ。
「メリーちゃん、ちょっと私と一緒に来てくれない?あっ、お爺ちゃんは功才をお願いね」
姉ちゃんと婆ちゃんはメリーを連れて別室に消えて行った。
「美才は山田さんのお相手を頼むぞ。さて功才、お前はこっちじゃ」
――――――――――
えーと、何故か紋付き袴を着せられてしまいました。
チェックと言う名目で姉ちゃんも部屋に合流。
「馬子にも衣装ね。功才似合うじゃない」
「姉ちゃんなんだよ、これは。俺に落語でもしろってのか?」
「これからするのは落語じゃなく結婚式よ」
「結婚式?誰のだよ?」
「アンタとメリーちゃんの結婚式に決まっているじゃない」
何でも爺ちゃんと婆ちゃんは昔から俺の結婚式をとても楽しみにしていたとの事。
それなら向こうに戻る前に正式じゃないけども、こっちで結婚式の真似事をしてメリーに財津家の一員になってもらおうと。
「でもメリーの意志はどうなんだよ。こうゆうのはプロポーズをしてからだな」
「メリーちゃんと一緒の部屋に泊まって何もしないで寝不足になったヘタレのプロポーズなんて何時になるかわからないでしょ。あくまでこれは向こうに戻る為の儀式だと思いなさい」
「功才、ありがとな。儂が生きているうちにお前の結婚式を見れるとは思わなかったぞ」
つまり俺の結婚には期待していなかったと。
しかも断りづらっ。
「分かったよ。でもメリーと話してからでも良い?」
それでメリーが待機している部屋まで来たんだけども……
やべっ、滅茶苦茶緊張してきた。
何て言おう。
(俺の味噌汁を作ってくれ)
メリーは作り方を知らないよな。
(黙って俺に着いて来い)
でも黙って居なくなったのは俺です。
「えーい、モジモジして気持ちの悪い。サッサッと入りなさい」
部屋の中にいたのは白無垢衣装に身を包んだ天使じゃなくメリーだった。
「コ、コウサ、メリー変じゃないかな?」
「綺麗だよ。爺ちゃんや山田さんに見せたくないぐらいに綺麗だよ。メリー、今の俺は男としても冒険者としても半人前だ。だから一人前になった時に正式にプロポーズさせて下さい」
「喜んで。でもメリーの中ではコウサは最高の男性で一人前の冒険者なんだよ」
「功才、この指輪をメリーさんにはめてあげなさい。これは昔お爺さんから結婚する時もらった指輪。メリーさんみたいな若い人には地味かもしれないけども受け取ってもらえますか?」
婆ちゃんがくれた指輪にはまっていたのは小さな水晶。
昔、貧乏だった爺ちゃんが山で探してきた物を爺ちゃんの友達が指輪にしてくれた物らしい。
「そんな大切な物、いただけません」
メリーは指輪の大切が分かったらしく遠慮をしている。
「メリーさんは、功才のお嫁さんになってくれるんですよね。だから指輪を受け取って欲しいんです。大切な指輪だから私が死んだ後にお墓に入れられるよりも誰かに持っていて欲しいんですよ。ほらっ功才」
婆ちゃんは俺の掌に指輪を置いてくれた。
指輪は古くなって色もくすんでいるけども、大切にされていたのが分かる。
「メリー手を出して」
メリーの指に指輪をはめる、指輪はメリーのサイズに直してあった。
「うんっ。将来この指輪は私と功才の子供に渡します」
メリーは愛おしげに指にはめられた指輪を眺めていた。
それは結婚式とは名ばかりの質素な物だった。
白無垢をきたメリーと紋付きを着た俺が並んで、みんなの前にはお膳が置かれて。
美才は途中までは、ふてくされていたけど途中からは泣いていたし。
みんなの笑顔に包まれた小さな小さな結婚式だった。
そういや世間は年末なんですよね。
さぁ明後日も仕事だ