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わざとではない

わざとじゃない。


「失礼しました……」

かしこまったような態度を極力見せながら、会議室の戸を閉める。


思わずため息が出てしまった。


すべて、今、俺と肩を並べて歩いているこいつのせいだ。


「ったく、呼び出しくらうなんてよぉ。めんどくせえな」

舌打ちひとつして、続ける。

「わざとじゃないってのに。ただ足がそこにいっちゃっただけだし。なぁ? 篠崎」

嘘だ。わざとだろ。俺はちゃんと見てたぞ、つま先がこっちに向いていたこと。



……なぁんて、言えるわけがない。


大将とは小学校の時からの知り合いだったが、それでも、友達という域にはまだ至ってない。オーラというものがあるのか。そのせいで、小学3年の頃から、大将に話しかけるやつは限られていった。



「……おい、篠崎? ……にしても、お前が呼び出しされんのって珍しいよなぁ。まー、あれじゃ仕方ない、か」

そう言って、ヘァヘァ、という独特の笑いを見せる。

「いいモン見せてもらったぜ! サンキュ!」

と言いながら、男子トイレに入っていった。



はぁ……

本日何度目かのため息を吐く。帰りの学活はもう始まっているだろう。だからといって、教室まで急ぐという訳ではないのだが。



階段の1段目に足がひっかかる。危うく転びかけた。冷や汗が一気に出たし、体中がカァーッと熱くなったので、足を少し休める。


再び足を動かす。廊下を静かに歩く。自分のクラスの教室前に立った瞬間、体が硬直してしまう。まるで転校生のようだ。思わず、教室の窓から見えないところに移動してしまう。


これじゃだめだろ、と自分を奮い立たせ、扉に手をかけた瞬間、またもやひるみが襲ってきた。しかし、もう遅かった。扉が半分開いてしまう。先生の話が止まり、教室中から視線が集まる。



気にしない。必死にそういう顔を作りながら席に着いたが、なんとも言えない視線は、今もなお半数近くある。


いやだ、いやだ。子供になりたい。何をやっても怒られるだけで済むだろう。


"何を考えてるんだ。今を生きろ。罪を少しずつ償うんだ。"


神なんていやしないのかもしれないが、天の声がきこえたような気がする。


そうかい。じゃあ償うよ。


お前のために……


俺の視線の先には、ただうつむいている1人の女子がいる。




掴もうとしたのは、手だ。


決して、ナナの体育着を掴もうとしたわけではない。


全員リレー。俺はナナにバトンを渡して、間もない時。


今までずっと先頭で走っていたクラスは、大将にバトンが渡っていた。


内側から出てきた大将は、ナナをゆうに抜かすと思った。


相手クラスを内側から抜かすことは審議の対象であり、失格になってもおかしくなかったのだが、さもそれを悲劇の序章に過ぎないかのように大将は大惨事を起こした。



ナナを転ばしたのだ。



足が伸びていくのを、俺は見ていた。バトンを渡した直後だったから、ナナの後ろで見ていた。


案の定、ナナの足は大将の罠に引っかかり、体制を崩し、倒れていった。


手を掴もうとした。救おうとした。ところが、焦っていたのだ。ロックオンしていた「手」は俺の手と交わらず、「腰」にいってしまった。


ナナのハーフパンツに手がかかり、ナナが倒れたとき、ハーフパンツがめくれた。



黒とピンクの下着がのぞいた。



血の気が失せた。ナナは急いでハーフパンツを腰に戻し、赤面のままトラックを半周した。内山に渡すが、内山が走り終わる頃にはすでに半周差がついていた。


まともに歩くこともできず、ただ、めまいや立ちくらみに耐えた。




「早く教室から出てください! 委員会で教室を使います!」

はっと目を覚ます。とっくに帰りの学活が終わっていたようだ。


急いで荷物をまとめ、教室から出る。皆、いやな目で俺を見る。誰かとなりにいてくれないか。無理だ。村上は学級委員で副学年委員長であるから、運動会の片付けをやらんといけないそうだ。中村もその手伝いを頼まれていた。


早歩きで学校から出る。手伝えたら手伝う、と村上に言っておいてしまったが、あの事故があった今、人前でがんばれない。申し訳ない、村上……


自転車のキーを挿し込み、逃げるようにして自転車を加速させ、乗る。


このまま死ねたら、どれだけいいか……


この世からいなくなりたいが、死への恐怖が少なからずあることには嘘がつけなかった。



スピードをあげてゆく。信号は、全て都合のいい、青だった。まるで、街中が俺の道を切り開いているかのように。


抜かす、抜かしてゆく。1年、2年、3年の先輩、俺に気づいているか? だとしたら、ちょっと残念。

スピードも調子も最高潮に達し、車通りの少ない裏道に入った瞬間、思わず俺は少しずつブレーキをかけていった。


気づかれないように、遅くこぐ。



前方に、ナナがいる。お供には、内山。ナナの家に向かっているようだ。だとしたら……


俺は今すぐUターンをする。右折をし、隠れて2人を見る。


ナナの家の前で止まっている2人は、何やら話している。ナナはハーフパンツに手をかけて話しているから、今日の事故のことだろう。俺は胸が痛くなる。


2人の話が一区切りした後、また明日、って言ったと見ていたのだが、内山はナナに招かれたのか、ナナの家に入っていくではないか。




……おいおいおいおい待てよ…………




そこまで発展しているのか?



俺はしばらくその場でナナの家を見ていた……

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