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なにもかも

「んで?」

「・・・・・・いや、んで、って?」

「だから、お前はどう思ったのよ?」

今日は運が悪い。そう答えようとしていた。


あの後の休み時間、女子たちには「ふられたんだってね?」と俺をじろじろ見ながら遠くで話を繰り広げ、俺たちは会話の場所を変えなければいけなかった。そして俺の入っている陸上部での活動では、厳しい顧問に「お前の走りにキレがない」と指摘を受け、連帯責任でほかの部員たちと共に追加メニューをさせられた。


車通りが少ない道に入った。しかし、運が悪いときはとことん悪いものだ。自転車での並進はしない。並進しているところを先生に見られたら、間違いなく減点ものだ。


前を走っている中村透は、俺と同じクラス。科学研究部の次期部長的存在であり、パソコンを自在に扱える。そして、夜遅くまでパソコンをいじっているということもあり、授業中はよく寝ている。ただし、先生を選ぶのだが。

ちなみに、科学研究部といっても、冷房のきいたPC室で自分が好き勝手にネットを使って遊んでいるのだ。なんとうらやましい。


中村は俺の返答を待たずに続けた。

「結局、お前のことをふったんだろう? 心配そうに見てた? 錯覚だろ。お前は寝ようとしてたんだから」

「いや、そりゃ、あいつが俺のことを注意したから注目受けて・・・・・・。一気に目が覚めたさ」

中村がこっちを向く。呆れた顔をしてみせる。前向けよ。危なっかしい。俺は今、疫病神なんだから。

「俺は恋人をふったことも、女になったこともないけどな、ふった次の日に後悔すると思うか?ほかに好きな人がいるんだぞ?それに、後悔してても、そんなに明らかに心配そうにするとは、俺は思わないけどなぁ」

ん~、そうだろうか。後悔しないのか。今思うと恥ずかしいあの告白、あれを無しにしてしまうのに。


「まあ、気にするのは分かるけど、誰でもふられるんだ。完璧な人間じゃなきゃな。俺、いいこと言ったあ~~~~~っ」

どこが。


「今日、これるよな?」


気がつくと家の前だった。


このあと、ネットで落ち合おう、ということだった。なんの予定もなかったので、俺は頷いた。

「んじゃ、後で」

「ああ・・・・・・」



気になって仕方がなかった。

一年間付き合ってきた俺とナナを分かつ男・・・・・・。


先輩だろうか。


それとも、やっぱり同学年のやつだろうか。


ナナの新しい恋のうわさは、そう簡単にはまわってきそうにない。


俺の部屋にはパソコンがある。苦労してゲットした代物だ。いつもここでオンラインゲームをする。


マイクとイヤホンをセットした。ゲームをする最中、中村たちと会話をするためだ。


通信会話するためのソフトを立ち上げる。もう中村と村上がグループを作っていた。「参加する」をクリックした。


「おお~来たか」

中村の声だ。


「おい篠崎! 分かったんだよ!」


急にでかい声が聞こえたので、音のボリュームを下げた。


「・・・・・・うるせえよ。で? 何が分かったの?」

「川崎のこと!」

間髪入れずに返ってきたので、よく聞こえなかった。


「川崎の新しい彼氏のことだよ。村上がうわさを聞いたんだ」


・・・・・・ナナの彼氏・・・・・・か?


こんなに早く知れるとは思わなかった。さすが情報屋。


村上は2年の情報網そのものだった。2年生で携帯電話を持っている人のほとんどが、村上のメアドを知っている。つまり、村上のアドレス帳はものすごいことになっている。それだけに、2年生からの支持は厚いが、本人はあまり高みを目指さず、いつも「副委員長」などの「副」役柄につくことが多い。というか、もう「副」というイメージしかない。


「そうそう! 聞いたらびっくりするぜ? まあ用心して聞けよ?」

「早く言ってくれ」

早く。ナナが俺よりも好きなやつを、早く聞きたいんだ!


「おいおい、知らねーぜ? まあ、いいけどよ。俺も、この名前はあまり口にしたくなかったんだが・・・・・・」

「早く!」


中村は2人のやり取りを面白がって聞いているだろう。村上も多分、俺のことを気遣って言ってくれてるのだろう。しかし、今の俺にはブレーキが効かなかった。ブレーキすらなかった。


後から言うと、俺はこのとき、うかつだった。


「・・・・・・分かった。言うよ。今、川崎が付き合っている人は・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


俺は固唾を呑んで聞いていた。いつしか、俺は音のボリュームを上げていた。


「・・・・・・誰だと思う?」

「いい加減にしろよ!!」


俺は完全に「イカれて」いた。ナナのことをいつもナナ本人から聞いていたあの時に戻れないことは知っていた。自分のことを惜しげもなく俺にいろいろ話してくれたあの時。負けじと、俺もたくさん話した。もう、ナナの口からは聞けない。そう考えると、いつの間にか俺は自分のブレーキを見失っていた。


「おい、早く教えてやれよ」

そういう中村はかすかに笑い声だった。

「分かった」

「早く」


中村にムカついてもいたが、今はそれどころではない。


そして俺は、聞いてしまった。


ナナの、好きな人を。


「・・・・・・内山ふみや・・・・・・だよ」



・・・・・・・・・・・・内山・・・・・・?



忘れるはずもなかった。


しかし、俺はまともに返事すらできなかった。



・・・・・・冗談だろ・・・・・・・・・・・・?


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