表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/16

走る川

不良事件から2日がたった。


大晦日が明後日に迫ってきている。部活は年末年始のため今日から休みだ。俺は、朝食もあまり食べずにオンラインゲームをやっていた。


「そういやさ、皆さん」


中村の画面内のキャラは相変わらず敵を攻撃しているが、イヤホン内からは中村の声が聞こえる。通信会話ソフトを立ち上げながらゲームをしているからだ。


「なんだよ」「なに?」

俺と村上が返す。


「俺さぁ、女子の部屋の中を盗聴してんだぜ? いいだろー」


なんて変態発言してんだバカ野郎。


「マジで!?」


それに乗る村上もバカだな。


「ああ。大マジだ。しかも、かわいいやつだし!」


はぁ……こいつと友達なのがだんだん嫌になってきた。


「いくらなんでもそんな情報は俺には回ってこなかったぞ! すごい情報だ!」


てか、そんなこと村上に話したら、3学期が始まるまでには学年中に知れ渡ってるぞ。


「この3人の内緒だからな。親友だから言うんだぞ」


あ、中村からアイテムが渡された。


「わぁ、すげえ、何コレ?」


村上にも渡したようだ。


「それは、けっこう高価なんだぞ。売ったらすごいメントで取引されるけど、自分のキャラに使ってもいいと思うな」


メントとは、ゲーム内でのお金である。


「やったぁ! 誰にも言わないよ、約束する! だから……」


ものをあげたら村上は本当に誰にも言わない、ということを中村もよく心得てるようだ。


「盗聴してる女子を教えてほしいんだろ」


そうだな、その展開が妥当だろう。


「誰? 誰?」


だめだ、村上もだんだん中村にむしばまれてゆく……。


「それは――」

「ナナだろ」

間髪入れずに言えた。この瞬間を待っていたのだ!


「な……なぜそれを、まさかもうあれを渡したときから」

「知ってたよ」

「何? 何? 誰なの?」


村上は聞き逃したようだ。


「川崎奈々の部屋を盗聴してんだよ、中村が」

「そうなんだよ、今はナナの部屋に内山が来てるみたいなんだ」

「すごっ! 川崎?」


村上の驚く声の大きさに少々びくったが、その前の中村の発言に俺は食いついた。


「内山? ちょっと聞かせろ」

「はいはい、そうするつもりだったよ」


少し、雑音が大きくなった気がする。気がする程度で、気にはならない。



『ねえ、僕のこと好き?』


内山の声が聞こえる。


『……好きだよ、とっても』


『愛してる?』


『愛してる』



内山とナナの会話が聞こえる。


「……なんか、とっても恋愛が進んでるようじゃないか」

俺は今抑えてる。そのまま、抑えるんだ。


「そうなんだよ、なんか、いつもこうなんだよ」


そんなに好きなのか? なんか内山と太刀打ちしようとしてるのがバカみたいじゃないか。


「すげえ、マジで盗聴してる」

村上はまだ盗聴してるということだけに感動している。



『ホントに愛してるかい?』


『うん、愛してる』


『篠崎の肩に身をゆだねてたくせに』



ちくしょう、あの野郎、やっぱ見てたのか!


「そうなのぉ~?」


中村ここぞとばかりにさりげなくヴィ○○ージ武○風に驚いてんじゃねぇ!


「あ、そういえば先週のイ○テQ見た?」


村上は空気読まずに話展開しちゃだめ!



『脱ぎなさい、言うことを守らない子にはおしおきだ』


『やだっ殺さないで!!』



「ふざけんな!!!」



3人は沈黙、盗聴先の会話だけが聞こえる。


「おい、2人とも、ナナを助けにいくぞ」


「え?」「へ?」


「ナナの家に集まれ。早くな!」


PCの電源を切る。エアーガンを左手に持ち、右手には自転車の鍵を持った。

「母さん、出かけてくる」

「どこ? 何時に――」

「買うものがあんだよ。あそこのスーパー。遅くはなんない」

そう言って素早く家を出た。エアーガンが見つかったらどうしようもない。


前かごにエアーガンを入れ、自転車の鍵を差し込む。


全速力でこぐ。タイミング悪く、ひかれそうになる。クラクションが鳴り響く。軽く頭を下げ、再び前を見る。



ナナの家に着くまでそこまでかからなかった。まだ2人は来てない。インターホンを押す。


「早くあけろよ!」


3回目のインターホンを押したとき、2人が来た。


「親はいないらしい」

と中村が言う。


「美菜がいるだろ?」


誰も出ない。5回目のインターホンを押した瞬間に村上がすごいことに気づく。


「あそこの窓、開いてんじゃない?」

「ホントだ!」

俺はすごく大きい声を上げてから、少し恥を感じた。


感じている場合ではない。ナナを助けなければいけないのだ!


窓から簡単に入ることができた。父の部屋らしい。ワインの本がきれいに並べられている。


ナナの部屋はどこだよ! 2階かっ?


階段を上がり、奥の部屋を選んだ。後からくる2人は、近い部屋から探すと思ったからだ。



ドアを開ける。




ドンピシャ、ナナの部屋だった。




ナナは、上半身の洋服を脱がされ、下着姿だった。下のジーパンには内山が手をかけている。



一瞬……というかけっこう動揺した。それでも気は確かに取り戻した。



「ナナ、ゴメン!! ……お前ッ!!」


しのばせてあったエアーガンを内山に突き付け、硬直させる。


「ふざけんな!! 警察に通報するぞ!」

「うっ……うるせぇ! あっ、が、学級委員がそんなもの、もっ、もっていいのかよぉ」


それは確かにそうだ、的を得ている。しかし、そんなこと言える立場ではない。


内山を殴りたい気持ちもあったが、ここで怪我をさせてはいけない。エアーガンを投げ捨て、内山に一歩ずつ近づいていく。


「こ……こっちく――」

「大変だあ!!!」

部屋に入ってきた中村が大声を出す。ナナの姿には気づかないほど目が泳いでいた。


「なにが……大変だって?」

「とっ……隣の部屋で……死んでるんだよ!!」

「なんだって!?」




俺は全く状況が読めないでいた。




「くっ、首つり自殺!!!」




しばらくの沈黙のあと、ナナの叫び声が聞こえた……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ