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そばにいることのできない勇者と勇気のない側近

通り過ぎる人たちは誰も近寄ろうとはしなかった。見て見ぬふりをしているだけだ。


不良たちの中から、か細い腕や足の男子が投げ飛ばされた。



内山だった。



俺は、血の気が失せた。自分のクラスメイトが絡まれているということも十分驚いたが、内山が絡まれているということは、今不良に囲まれている中にいるのは、ナナだという可能性があると気づいたからだ……。


やがて、不良のかたまりはコンビニの裏へと逃げ去っていく。内山を置いて。




その時、俺は確かに見た。ナナが嫌がって、掴まれている手を振りほどこうとした姿を。




無我夢中で走っていた。俺は喧嘩に勝つ術を知らない。喧嘩を起こさずにナナを取り戻せるような和解のしかたも当然ながら持ち合わせていない。だが、ナナをあの中からなんとか助け出そうという気持ちが、今の俺を突き動かしている。


俺はいつの間にか追いつき、不良のうちの1人のふくらはぎを思い切り蹴っていた。


「痛って!」


その言葉とともに、蹴られた不良が崩れ落ちる。同時に、他の不良がこちらを見る。崩れ落ちたやつも合わせて全部で5人いた。

「オィ、お前なにやってくれとんだァ!? 上等だ、や――」

不良のリーダー格と思われるやつが全てを言い終える前に、俺はそいつのすねを蹴った。ナナを拘束している2人の不良にも、すねを蹴ってやった。最後の1人は、すねを防御しながら蹴られた仲間を気遣っていた。


そんなに痛いのか、不良たちはすねをおさえて痛がっていた。しかし、それが演技だとわかると、俺はナナの手を強引に引っ張り、

「こっちだ!!」

と叫んだ。



不良が追いかけてこなくなるまで、家から遠ざかるが裏道にいつでも逃げられる道をひたすら走っていた。



「ちょっと……もうダメ……」


ナナがそう言っていることに気づき、昔遊んだ小さな公園のベンチで息を落ち着かせていた。



「……大丈夫?」



こんな言葉しかかけられない自分に腹が立つ。


「うん、大丈夫。怖かったけど……」


再び、俺とナナの息遣いが場の空気を制す。俺の口から出た白い息に、ナナのほうから出てくるかすかな白い吐息が重なって、どこかへとんでいく。それを見ていくうちにだんだんと、俺の頬が赤くなっていく。


「怖い……こわ……よ」


ナナの小さな声で驚き、ナナのほうを見ようとした瞬間、ナナの頭が肩に乗っかってきた。


「りょ……じゃな……と……め…………」


「え?」


うまく聞こえなかったので聞き返す。しかし、返ってくるのは、怖い、怖いという言葉だけだった。


ひとけがない公園だからまだいいが、それでも俺の心臓の鼓動は再度、速くなっていった。



ナナの頭の重みがなくなると、俺は反射的にナナの顔を見てしまった。


「ごめん……びっくりさせちゃった?」


そういうナナは少し涙目だ。


「内山のとこに戻らないと」


「大丈夫かよ、俺がついてく」


ナナは無言でかぶりを振る。


「だめだよ、さっきの不良にまた会ったらどうす――」


「ごめん……」

俺の言葉をさえぎってナナは謝った。



ごめんの意味が分からず、戸惑っている俺を残して、ナナは行ってしまった。



俺は、どうすることもできない。やっぱり止めるべきだったとナナが行ったほうを見ると、ナナも、通行人も、誰もいなかった。


内山がどこかで見ているかもしれないと思った俺は、360度すべての方向を見渡したが、どこにも人影は見えなかった。



ようやく歩き出す。さっきのコンビニは避けようと一瞬思ったが、ナナがいるかもしれないという期待におされ、コンビニまで歩いた。しかしナナはおらず、車が駐車場に慌ただしく出入りする様子が目に映るだけだった。

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