俺の心の中で
あの日から、俺は努力という言葉を怠らなかった。
ナナが、小学校時代に学級委員に憧れていたから、中学に入ってすぐに学級委員になった、という話を聞いたことがある。辛かったから前期だけでやめたが、いつかまたやりたいと言っていた。
そのことを踏まえ、今の俺が学級委員になったらどうだろうか。
「クラスをまとめる学級委員に自ら立候補するなんて素敵! 内山なんて放っておいて、やっぱ遼大好き!」
なんて想像をしなかったでもないが、俺は学級委員になることでナナを取り戻すためのマイナス材料になることはまずないと思い、立候補した。
「ん、じゃ後期の学級委員決めます。前期男子の増本君は生徒会に出たので続投できないです。立候補する人、前に出てきてください」
一瞬ためらったが、これ以上のチャンスはないと前々から思い続けていた言葉が脳裏をよぎり、起立し、黒板の前に出た。
後期学級委員に立候補する者は、男女合わせて俺しかいなかった。頬らへんに熱が起きる。今まで、班長にさえなったことがない俺には、ハードルが高すぎかもしれない。しかし、しかしだ!
「僕は、団結力があるこのクラスが大好きです。その団結力を活かし、このクラスで合唱コンクールの優秀賞を受賞したいです。学級委員になったら、みんなをまとめて、最高の2-3にしたいと思います!」
内山を一瞥し、
「みんなの、清き一票を、よろしくお願いします!」
拍手が、巻き起こる。そのとき俺は、顔が赤くなってないか心配で、ナナのほうを見れなかったので悔しかった。
しかし、開票では、みんな誰も俺以外の男子を投票しなかったことが分かった。その中には、内山も入っているのが不思議だったが、そのことはあとで容易に想像ができた。内山にはそんな勇気などないのだ。しかしそれ以上に、ナナから一票をもらえたのが本当にうれしかった。ナナはどんな気持ちで、白紙に「篠崎 遼」と書き、その紙を折り、投票箱に入れたのだろう。そう思えば思うほど、顔に出てないか、ナナへの気持ちが本人に伝わってないか心配で怖い。
それからは学級委員として、みんなをまとめた。みんなのいろいろな表情が見れて、また頑張る気持ちがわいてくる。その中には、ナナの本心からの笑顔や、内山の少し照れる顔もあった。そんな、クラスの新たな一面を見ていくうちに、昨日までの俺はなんてちっぽけだったんだろう。俺の存在が、どんなに小さいか、再認識させられた。と同時に、内山をただ単に恋のライバル的な存在にしか見なくなっていた。俺は内山を軽蔑している。そのことが、どんなに小さい心から出たものか、少しずつ分かってきたような気がした。
そして、冬休みの初日。月曜日である。
午前中の部活も終わり、年賀状の作成に急いでいた。そのとき、
「年賀状、自分の分買いに行ってきて。年賀状私の分でギリギリだったのよ」
そう言って、千円札を2枚出してきた。
「余った分で、なんか買ってきて。少し休憩しよう」
「うん、わかった」
そう言って、俺は家を出た。
学校のウインドブレーカーを着てきてしまったが、問題ないだろうか。
郵便局前で売っていた普通の年賀状を買い、近くのコンビニに移動する。
コンビニが見えてきた途端、俺は足が止まってしまった。
……不良が、誰かをいじめている。