第95話 VS 陽炎
だが、牙王の拳はリューの頭部を捉える事なく空を切った。
リューには危険予知能力がある、当然、後頭部にパンチが飛んでくるのも予知していた。ギリギリまで引きつけて、頭を横にズラしてパンチを空振りさせたのである。
顔の横をブオンと音を立てて通過していくパンチ。それを見送りつつ、リューはついでに足を出して襲撃者の足を引っ掛けた。
倒れた牙王は勢い余って地面を長々と転がっていく。数十メートル進んだところでようやく止まったが、牙王は擦り傷だらけのボロボロになっていた。
牙王 「ツ……てんめぇ、やりやがったな……」
不意打ちは完全に失敗である。
しかし、直情型の牙王はそのままリューに突っかかっていく可能性が高い。このままではまた牙王がダンジョンに飛ばされてしまうかも知れない。
慌てて雷王達もリューの居る場所へ駆け出していく。どうせ再び転移で飛ばされるのなら、全員一緒に行き、また仕切り直すほうがよいとの判断であった。意外と結束が固いパーティなのである。
リューの前に揃った陽炎の烈傑の五人。
リュー 「戻ったか、随分早かったな。さすがAランク冒険者、実力は本物か。しかし不意打ちとは、随分卑怯な手を使うな?」
鳳王 「…黙れ。お前のほうこそ転移トラップなど卑怯な真似を使ったであろうが。」
リュー 「転移トラップ? なるほど、また転移させられるのを警戒して、不意打ちを狙ったわけか、少しは考えたな。だが……」
再び雷王達の足元に魔法陣が浮かぶ。
雷王 「くっ!」
雷王がダメ元で剣を抜き、足元の地面を斬りつけてみたものの、土を削っただけで魔法陣は消える事はなかった。
次の瞬間、もう全員、ダンジョンの中であった。。。
……だが今回は、前回とは違った。
場所は前回と同じ、草原のフィールドであったが、魔物の気配がない。そして、なんと、リューが一緒に転移してきていた。
雷王 「……どういうつもりだ?」
リューが居る事を確認した雷王が言った。
リュー 「いや、深い理由はないが。また戻ってきて不意打ちを狙われるのも“うっとぉしい”ので、ここで決着をつけてしまおうかと思ってな」
雷王 「愚かだな、痛い目を見たいという事らしい」
リュー 「それはこちらのセリフだ。どうせまた、口で言っても理解できないのだろうからな、体で体験して理解して貰おう」
リューの手の中に魔剣が現れる。
祥王 「気をつけろ! なんかヤバい! 全員で掛かろう!」
祥王は魔法使いであるが故か、魔剣の禍々しさを感じ取り警告を発したのだったが、それが分からなかった仲間の反応は鈍い。
雷王 「何を言っている、Fランク相手に全員で掛かるなど、Sランクパーティの恥であろう」
牙王 「俺がやる! 先程のやられた借りを返さなけりゃ気がすまねぇ」
リュー 「勝手に襲いかかってきて勝手にコケただけだけどな?」
牙王 「テメェ……半殺し程度で済ませてやろうと思っていたが、ぶっ殺す」
雷王 「おいおい、殺すなよ。依頼失敗になる。」
聖王 「まぁ、原型残しておいてくれれば、死ぬ前に回復魔法で命だけは助けられる……と思うが」
リュー 「お前は拳闘士だったな」
牙王 「そうだ、両の拳が俺の武器よ! だが、お前はその剣を使って構わねぇぜ! お前が剣を振るより早く殴り倒してやらァ!」
リュー 「いや。せっかく出した剣だが、俺も素手で戦ってやろう」
リューの手から魔剣が消える。それを見て雷王達が驚いた顔をしていたが、牙王は気にしていないようだ。
牙王 「いい度胸だ、行くぜ!」
一気に走り込んでくる牙王、神速の走法である。さらに、リューの数メートル手前で縮地を発動し、突如リューの前に現れてパンチを打ち込んでくる。牙王はこの“飛び込み突き”で、ほとんどの敵を屠ってきたのだ。
だが、心を読めるリューには事前に攻撃が分かっている。リューは牙王の右ストレートを紙一重で躱すと同時に牙王の走線から外れるように横に移動しながら拳をボディに叩き込んだ。
カウンターパンチ、しかも牙王が走り込んできた勢いも合わさっている。さらにリューの膂力である。
くの字を通り越してUの字を横倒しにしたような形になった牙王は、そのまま地面に落ち、前屈の姿勢のまま動かなくなった。
リュー 「あ、死んだかな?」
二つ折り状態の牙王の上半身を足で押してひっくり返してみたが、死んではおらず、気を失っているだけのようであった。
だが、倒れた仲間を足蹴にされたと思った鳳王が怒る。
鳳王 「貴様、倒れた相手を足蹴にするとは! 転移トラップといい、つくづく卑劣な奴だな。」
リュー 「卑劣って……不意打ちとか卑怯な真似してるのはそっちなんだがなぁ」
鳳王 「次は俺が相手になってやる」
鳳王は剣を抜くと続けた。
鳳王 「先に言っておいてやる、俺はお前と違って卑怯者ではないのでな。俺は魔法剣士だ。魔法も剣術も両方使える。これは魔剣マズルフィ。魔法の攻撃力を上昇させると同時に、持ち主の魔力を増やす効果を持っている」
リュー 「そうか、ではこちらも」
再びリューの手の中に現れる魔剣。
リュー 「この剣はフラガラッハ。これで斬れないモノはなく、またこの剣で斬られた傷は治癒魔法でもポーションでも治らない。」
魔剣の特殊効果を聞き鳳王の顔色が変わった。
鳳王 「……武器も卑劣なのだな……」
リュー 「あー……、まぁ、言われてみれば、ちょっと強力過ぎるかな? そうだ、普通の剣も仕入れたんだった。そっちで相手してやろうか」
王子との決闘の時に騎士から剣を借りたが、魔剣を使うほどではないケースの時に使うよう、通常の武器も店に行って何種類か購入しておいたのである。買ったはいいが、使う機会がなかったので丁度よい。
リュー 「えーっと……これでいいかな?」
リューは亜空間収納から一本の剣を取り出した。リューの膂力に合わせた、とにかく頑丈そうな鋼鉄製の剣と言う条件で選んだ剣は、巨大な大剣であった。
鳳王 「お前……その剣を振り回せるのか?」
片手で軽々と大剣を振り回してみせるリュー、恐ろしい風切り音がしている。人間の10倍以上の筋力を発生するリューの膂力であれば、丁度よいくらいなのであるが。
リュー 「お前はそのまま魔剣を使っていいぞ。魔法剣士なのだろう?」
鳳王 「お、おう……」
リューが魔剣を引っ込めたので自分も魔剣を使うのを控えたほうがいいのか一瞬迷った鳳王だったが、リューの大剣を振る速度を見て、リューの言葉に甘えてそのまま魔剣を使わせてもらう事にしたのだった。
雷王 「あれでFランク? 奴自身が言った通り、ランクなど当てにならんな。」
祥王 「簡単な仕事だと思って引き受けたが、とんでもないヤバい依頼だったんじゃ……」
聖王 「だから言ったろう、Fランク相手にAランク以上指定の依頼など、絶対おかしいと」
雷王 「なぁ、奴はどうして牙王が拳闘士だって知ってたんだ? 鑑定のスキルを持ってるのか……」
祥王 「アイツの目(金色の瞳)……魔眼の持ち主かも知れんな。」
仲間たちの呟きは、リューと対峙している鳳王には届いていなかった。
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次回予告
陽炎の列傑、リューに歯が立たず涙目に……
乞うご期待!




