第58話 五黒星への警告
ロンディは、リュージーンのアパートへ向かったシン達を隠れて見ていた。
後を尾いて行き、可能であれば、シン達とリュージーンの戦いをこっそり見学するつもりだったのだが、リュージーンがシン達ごと、全員を転移してしまったため、一人、取り残されてしまった。
残念ながら戦いが見られなくなってしまったのだが……
それどころではない。目の前で起こった事にロンディは驚愕していた。
幻の「転移魔法」が目の前で使われたのだ。
しかも、あれだけの大人数を同時に転移させるなど……
そんな事が現実に可能であるなら、あらゆる戦いの概念が変わってしまう。
その能力ひとつだけで、リュージーンを何としても仲間に引き入れる価値がある。敵に回すなど、とんでもない事である。
リュージーンに手を出そうとしているシン達も即刻止めたかったロンディであったが、どこに行ってしまったのかも分からず、途方にくれるしかないのであった。
どうしようか迷ったが、ロンディはアパートの前でしばらく待ってみる事にした。リュージーンがすぐに戻ってくるのではないかと考えたのだ。
転移の能力が本物なら相手をどこか遠くに相手を置き去りにして、リュージーンだけ戻ってくるという事もありえる。
転移能力がある者を捉える事などできるわけがないし、自分だけでなく、相手をまとめて転移させる能力があるなら、まともに戦う必要などないのだ。
リュージーンの転移にどこまでの能力があるのか分からないが、高所や海中、あるいはダンジョンの中など危険な場所に転移させてしまう事だって可能かも知れないのだ。
そして、ロンディの予想は当たり、リュージーンは小一時間ほどで戻ってきたのである。
ただ、予想と違い、シン達は転移魔法で置き去りではなく、斬られて死んでいたのであるが。
「リュージーンさん」
ロンディはリューに声を掛けた。
「誰だ?」
夜も遅く、街灯などもないスラム近くの街角は真っ暗である。晴れていれば月明かりで顔の判別もつくだろう―――この世界は月が3つもあり、うち2つは非常に明るい。3つすべて出ている夜は月明かりで本が読めるくらい明るいのである―――が、今日はあいにくの曇り空であった。
リューは神眼の能力を使えば暗闇の中でも周囲を肉眼以上に視認する事ができるが、その前にロンディが魔法で灯りを作り出し空中に浮かべたので不要であった。
リュー 「ロンディと言ったか?」
ロンディ 「……シン達は……どうナリマシタカ?」
リュー 「貴様の差し金か?! 覚悟はできているのだろうな?」
ロンディ 「ち、違イマス!! 違イマス!! シン達が勝手にやったこと、私がやらせたわけではないのです、ドウカ誤解しないで下サイ!!」
リュー 「さて、どうだかな?」
ロン 「本当です!」
シンのあの調子である、リューも、おそらく勝手な暴走だろうとは予想していたが。
リュー 「命じてはいないが、止めもしなかった、というところのようだな……?」
リューは神眼で相手の心が読めるのである。リューに嘘や誤魔化しは通用しない。
金色に光るリューの瞳を見て怯えながらロンディは必死で弁解する。
ロンディ 「止めましたよ、止めましたが、結局言う事を聞かなかったのです。」
嘘は言っていない。確かに止めた。だが、強引に強権発動で止める事まではしなかったのだ。
止めたというロンディの主張も、命じてはいないが止めもしなかったというリューの解釈も間違いではない。
微妙ではあるが、ロンディは必死でうまく誤魔化したのであった。
リュー 「ふん、まぁ、細かいことはいい。ただ、雑魚どもはスラムにかえしておいてやったが、シンと五剣とやらは死んだぞ?」
ロンディ 「そ、ソウデスカ。それは……仕方がないですね。」
リュー 「これに懲りたら、もう俺に関わらない事だ。」
ロンディ 「いえ、元々ワタクシはあなたと敵対するつもりなどないノデス。できれば仲良くしたいなと。」
リュー 「仲良くする気もないと言ったはずだが?」
ロンディ 「困りましたね。私もシンと五剣を失ってしまったのは痛いです。どうです? 代わりにアナタが仲間になってくれるならありがたいのデスガ? ワタシの部下を殺した責任をとって、力を貸してくれまセンカ?」
リュー 「責任? 俺は襲われたから身を守っただけだ。正当防衛だ。襲ってきたほうが悪い。何の問題もない。違うか?」
ロンディ 「……おお、シンと五剣は無駄死にですね、可哀想に……」
リュー 「そうして相手の罪悪感を煽る下手な交渉術は不愉快だな。お前もシンたちの後を追いたいのか。」
ロンディ 「ひっ、スミマセン! 決して煽るとかそのような事は……」
リュー 「俺は仲間になる気はない。次に絡んできたら遠慮なく消す。」
ロンディ 「分かりました。ワタシはアナタに手を出さないと約束します。」
リュー 「私は? お前一人じゃなく、組織の全員に周知徹底しておけ。」
ロンディ 「それは……、残念ですが、組織全部に号令をかけられるほどの力は私にはないのデス。私の他に、4人幹部が居マスが、彼らとその部下は、私の言うことなど、聞く耳持たないでしょう。」
リュー 「そいつらがまた襲ってくる可能性があるという事か? まぁ襲ってきたなら返り討ちにするだけだが。面倒事になるなら組織ごと潰したほうが早い。組織が大事なら必死で説得するのだな。」
ロンディ 「努力はしてみましょう、多分無駄ですけど。まぁ別に、それほど大事な仲間というわけでもないんで……むしろ他の幹部を潰してくれたらワタシがトップになれるから助かります。」
リュー 「組織内の権力争いに俺を利用しようなどと考えるなよ。もしそうならお前も一緒に潰すからな。もう近づいてくるな、関わるな、以上だ。」
背を向け、アパートに入っていくリュー。
肩を竦め、ロンディは引き下がっていった。
次回予告
手を出してはいけないモノに手を出した結果
乞うご期待!




