第104話 リュージーン、ついに王都へ!
リューはバットが女性である事にはまったく気づかなかった。神眼を使えば分かったはずだが、バットに興味がなかったので調べなかったのである。
神眼を使えばおよそ分からない事などないが、リューが能動的に調べようと思わない限りは何も知る事はない。つまり、リューに興味を起こさせなければ、余計な情報を知られずに済むという事になる。
いつも戦闘時にはリューは相手の情報を確認していた。しかしなぜか今回はそれも行っていない。それは、実は、外見を変える魔法と同時に認識阻害の魔法が使われていたためである。それも、バットのスナイパーとして身を隠す術のひとつであった。
エルフの少女は、先程漏らしてしまったのを気にしていたようで、さり気なくクリーンの魔法を使って身体をキレイにしてから、事情を話し始めた。
少女は本名をリーンと名乗った。
バットというのは死んだ兄の名前なのだそうだ。
兄はとあるダンジョンに潜った時に死んだという。バットと共にリーンと仲間の冒険者達のパーティでダンジョンに挑んだのだが、兄も仲間も、リーンを残して全滅してしまったのだという。
ダンジョンボスを倒し、伝説の弓は手に入れたが、そのために、兄と仲間達全員を失うことになってしまった。
兄のバットはせめて妹だけは助けようと、命を捨てた強力な自爆魔法でダンジョンボスのドラゴンを道連れにして死んだ。そしてダンジョン攻略のドロップアイテムである魔弓だけがリーンに残されたのだという。
それ以降、Sランク冒険者になるという兄と仲間達の夢を叶えるため、リーンは兄に化けて冒険者バットとして生きる事にしたのだ。
兄の残してくれた魔弓は、Sランク冒険者として活動するための必須の武器でもあるが、リーンはこの弓を持っていると兄と繋がっていられる気がしていた。魔弓はリーンにとっては兄と仲間達との大切な絆の証であった。
その大切な弓を破壊されてしまった事で、思わず動揺してしまったのだ。
リーン 「そもそも、剣で斬りつけたくらいで壊れる弓じゃないのに……何なの? あの剣は?」
リュー 「あー、魔剣フラガラッハで斬れないモノはこの世にはない……ほとんどない、からな。」
リーン 「それにしても、とうとうこの日が来てしまったのね。」
リュー 「?」
リーン 「Sランク冒険者のバットは今日死んだ。これからはリーンとして生きるわ。」
リュー 「なんでだ?急に?」
リーン 「正体がバレてしまった以上、バットは続けられないでしょう。一人に知られてしまったら、いずれ広がっていくわ」
リュー 「別に俺は喋らないぞ? 興味ないしな」
リーン 「興味ないって……王都の英雄、Sランクのバットよ?」
リュー 「知らん、今日初めて聞いた」
リーン 「と、とにかく! 勝負に敗れる日が来たら、バットはやめようと決めていたの!」
実は、リーンも相当無理してバットを演じ続けていた。どこかでやめるきっかけを探していたのだった。
リュー 「まぁ、どうでもいい。好きにすればいい。悪いがお前の身の上話に興味はない。俺は王都に用があるんでな、もう行くぞ」
リーン 「アンタ、一体何したの? ギルドに捕縛依頼が出されるなんて、よっぽどの悪人なの?」
リュー 「悪い事は何もしていない、つもりなんだがなぁ……強いて言えば、極悪な貴族を殺したくらいかな?」
リーン 「ああ……なるほどね……」
リュー 「とりあえず、俺を捕らえるよう依頼した奴をとっ捕まえて〆る。そう言えば、お前は誰からの依頼だったのか知らないのか?」
リーン 「残念ながら知らないわ。依頼主について秘匿されたままの依頼だった。ま、ギルドを通しての依頼なのだから、依頼主が誰でも問題ないからね、みんなあまり気にしないわ。依頼達成の報酬もギルドが責任持って払ってくれるだろうしね。」
リュー 「やはり、王都のギルドマスターを締め上げるしかないか」
リーン 「王都のギルドマスターは元Sランクの冒険者だったシルバー・バンクスよ? ってアンタなら問題ないか」
リュー 「大分無駄な時間を過ごした。もう行くぞ」
リーン 「王都まで案内しようか?」
リュー 「いらん、転移で移動する。一秒後にはもう王都だ」
そう言ったリューの足元には既に魔法陣が浮かんでいた。
リーン 「あ、ちょ待っ……行っちゃった。王都にいくならアタシも連れてってくれればいいのに」
だが、リーンも俊足のスキルを持っている。馬で数日掛かる道のりも、リーンなら一日で走破できる。
リーンも王都に帰るため走り出した。
* * * *
転移で王都についたリュー。
商業ギルドのカードを見せて街の中に入ったリューは、まっすぐ王都の冒険者ギルドに向かった。
受付に行くと、呼ばれるまで待てと番号の書いてある札を渡された。
仕方ないのでベンチに腰掛けたリュー。暇なので待つ間、冒険者ギルドを観察してみた。
王都だけあって、冒険者ギルドの建物はミムルに比べるとかなり大きい。ミムルの受付窓口はひとつしかないが、王都のギルドは5つもあった。
ちょうど空いている時間帯であったせいか、開いているのは二つだけだったが。
前世の記憶にある銀行の窓口みたいだなぁと思っていたら、番号を呼ばれた。
受付に行くと、受付嬢が決り文句で出迎えてくれる。
「ようこそ王都の冒険者ギルドへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
リュー 「ギルドマスターに会いたい、取り次いで貰えるか?」
受付嬢 「アポイントメントはお有りですか?」
リュー 「約束はしていない」
受付嬢 「マスターにどのようなご用件でしょうか?」
リュー 「それは……マスターに会ったら直接話す」
受付嬢 「失礼ですが、冒険者の方ですか?」
リュー 「そうだ…いや、違った。商業ギルドのカードなら持っているが。」
カードを見せるリュー。それを見た受付嬢が少し侮蔑の笑みを浮かべた。
受付嬢 「遠いところからいらしたのですね、王都は初めてですか?」
リュー 「ああ、初めてだ」
受付嬢 「そうですか。……ご存知ないかも知れませんが」
なんだか意地悪そうな笑みを浮かべた受付嬢は言った。
「ミムルのような田舎ではマスターにもすぐに会えるのだろうと思いますが、王都の場合、アポのない方はマスターに取り次ぐ事はできないのですよ?」
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次回予告
王都のギルドマスター、戻ってきたAランクパーティから依頼失敗の報告を聞かされる
乞うご期待!




