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三一、コンピュータールーム
ウインザーと湯田がいる。
湯田 「ここで使徒のバグの解析などをやっているのかね」
辺りを見渡して尋ねる。
ウイン 「はい、そしてバグの解析はほとんど終わっています。
ただ使徒との闘いの後に続く、神が望んでいるバグの修正をどのように行うのか、今はその作
業がほとんどです」
湯田 「神が全てのバグを修正した時に、どのようになるのかわかっているのかい」
無表情で尋ねる。
ウイン 「いえ、そこまでは辿りついていません。ただ神が作ったプログラムのバグを 修正した時に、
今後の世界でバグを持つ人間がいなくなる可能性があります」
湯田 「今の人間たちのバグがなくなったら、いったいどのような世界になるのかな」
ゆっくりと尋ねる。
ウイン 「さあ、ただ特異な能力を持つ人がいなくなり、人間の能力の差は、ある程度 に抑えられ、全
ての人たちが、その中で平和に生きていく可能性はあると思います」
湯田 「平等な社会か、確かに自分の能力だけに走る人間はいなくなるのだろう」
頷き答える湯田。
ウイン 「ただ現在は食物連鎖の最上位にある人間ですが、武器などを持たなくなった ら、最上位には
いられなくなるでしょうね」
ウインザーが眉をひそめて言う。
湯田 「そこまでの能力低下にならないように、神がバグの修正をする際の手伝いを 私たち修正者が
するという事か」
ウイン 「そうだと思います。修正者は使徒を倒すことが目的ではなく、神が作ったプログラムを修正す
ることのほうが本来の目的でしょうから」
ウインザーが言い切る。
湯田 「そうか、神のプログラムの修正か、それを可能にするためにも、そのバグを読み取れる準備を
ここでしているということなのか」
改めて辺りのパソコンに向かう人々を見渡す。
ウイン 「ええ、ただここで働いている人たちは、使徒のことは知っていても神のプログラムのことは知
りません。現在解析しているプログラムのバグをどのように修正したほうが良いか、私たち修
正者の能力を最大限生かすための手伝いと言った感じでしょう」
湯田 「まあ、なるべく綺麗にバグを修正できるようにしないとな」
ウイン 「ええ、それでなければ人間が今までと違う形で存在することはできないでし ょうから」
湯田 「まずは使徒を倒す。それを遂行することだな」
ウイン 「ええ」
二人が顔を見合わせて頷く。
三二、夜の港
使徒の男が、動かなくなっている。
衝撃波を当てるシェフチェンコ。
シェフ 「薫、どうだ」
キーボードを打つ薫。
薫 「これが最後のバグのようだ」
コードを打ち込み、赤字が黒字になることを確認する。
シェフ 「じゃあこれで終わりなのか」
薫 「ああ、これで残りの使徒は5人」
キーボードが消える。
使徒 「まあいいさ、俺のバグが修正されたことによって、鍵が生まれたようだから な」
座り込み、不敵に言う。
シェフ 「鍵だと」
疑問に表情を見せる。
使徒 「ああ、だがその鍵はお前たちに使うことはできない」
薫 「その鍵を使うのは、お前たち使徒だというのか」
使徒 「ああ、それが成功することによって、俺たちもお前たちも目的を達成できる だろう」
思わず鼻を鳴らす。
シェフ 「なんだかよくわからないな」
薫 「そうだな、お互いが共通の目的を持っているとは思わないからな」
首を傾げる。
使徒 「バグを修正したい神と君たち修正者、そしてバグを修正したくない私たち使 徒……それはど
ちらも正しく、間違いではない。現段階で間違っているのはただ一人……」
シェフ 「ただ一人……その一人とは」
使徒 「さあ、そのうちわかるだろう」
笑う使徒。
薫 「その間違えを犯している人が、いったい何を握っているんだ」
使徒 「さあな。俺にはわからない」
朝陽が昇ってくる。
使徒 「朝日か、今後の世に、太陽が残るのか、俺は使徒としての能力がなくなったが、それをゆっく
りと見させてもらうよ」
立ち上がり、朝陽を見る使徒。
薫 「太陽が残るかどうか……
まあお前の言っている意味はわからないが、俺たちは俺たちの与えられた使命を全うするだけ
だ」
シェフ 「その通りだな」
共感するシェフチェンコ
薫 「もう俺もシェフチェンコも犠牲者は出したくはないからな」
シェフ 「同感だ」
朝陽を眺める三人。
三三、とある場所
シリウスが立っている。
アーナンダとジャックリーンがやってくる。
ジャック「今、一人の使徒のバグが修正されました」
シリウス「やられたのか……残りの使徒はあと5人か」
淡々という。
アーナン「ええ」
シリウス「残り2人の使徒は見つからないのか」
ジャック「1人は見つかったのですが……」
シリウス「そうか、こちらへ呼ぶほうが良いな」
ジャック「呼んでもよいと思いますが……」
首を傾げるジェックリーン。
シリウス「思う……何か問題でもあるのか」
ジャック「はい、それが0歳児なのです」
シリウス「0歳児って、それは何かを意味しているのか……」
ジャックリーンに強い視線を向ける。
ジャック「わかりません」
下を向くジャックリーン。
アーナン「まだ乳飲み子……むりやり母親の元から連れてくることになります」
シリウス「仕方がないだろう。母親を殺してでも連れてくるべきだろうな。
多少の犠牲があったとしても、私たちは今現在の地球の姿を変えられるわけ にはいかないん
だ」
強く言うシリウス。
アーナン「わかりました。私が行ってきましょう」
シリウス「頼んだぞ」
消えるアーナンダ。
三四、民家
アーナンダが入口にいる。
アーナン「ここが最後の使徒である赤子がいるところなのか」
玄関へと近づくアーナンダ。
民家の玄関が開く。屈強の男が出てくる。アーナンダを見るなり
男 「あなたが神の使者の方ですか」
アーナン「神の使者……」
聞き返すアーナンダ。
男 「私たちはあなたたちが来ることをわかっていました」
表情を変えずに、敬うように言う。
アーナン「じゃあ私の目的も知っているのか」
男が首を縦に振る。
男 「はい、息子のテンペを連れていくことも承知しています」
男の後ろに子供を抱えた女が来る。
女が、アーナンダへと子供を差し出す。
アーナン「この子が、最後の使徒なのか」
不思議そうに見るアーナンダ。
女 「私たち夫婦に詳しいことはわかりません。しかし啓示を受けました。
今朝訪ねてくる男の方に、息子を渡しなさいと……」
息子を差し出す女。
子供を受け取るアーナンダ。
男 「私たちは、子供との血の繋がりよりも、神との繋がりを求めました。
きっと息子テンペは役に立つと思います」
アーナン「君たちは神を万能だと思っているのか」
表情を変えずに聞く。
男 「もちろんです」
強く言う。
アーナン「そうか、ならばこの子供を預かっていこう」
女 「信仰は、人の命よりも尊いものです」
男と女が祈りをささげる。
その祈りを受け取るように消えるアーナンダ。
三五、コンピュータールーム
ウインザーと湯田がいるところへ薫とシェフチェンコが現れる。
薫 「湯田さん、戻すなら戻すと言ってくださいよ、いきなりなんですから」
驚くように辺りを見渡す薫とシェフチェンコ。
湯田 「すまない、バグが修正されたのを確認したので、戻ったほうがいいと思って、すぐに転送をか
けてしまった」
湯田が笑っていい、軽く頭を下げる。
シェフ 「もう少し朝日を眺めていたかった気もするが、そろそろ最後の闘いが始まる んだろう」
何かを察し表情を引き締めるシェフチェンコ、
ウイン 「そんな感じだな。使徒と修正者、どちらが神の領域に行くのか」
その言葉に表情を引き締めるみんな。
薫 「神の領域……」
ウイン 「ああ、ある意味このコンピュータールームのような場所だと、私は思ってい るのだが……」
確信を持てないウインザー。
シェフ 「そこにはどうやって行くんだ」
首を横に振り、答えるウインザー。
ウイン 「まだそれがわからない」
湯田 「ただ神の修正するプログラムの全容が、ウインザーの部下たちによってだいぶ調べられている
ようだ」
シェフ 「ここはそのための物だったのか」
辺りを見渡す。
ウイン 「そう、もう少しでここは閉鎖だ。うちの従業員たちは、元にいた会社に戻ってもらう予定だ」
薫 「それにしてもよくこんなところで、バグの修正プログラムを解析していたものだ」
薫が驚愕するように言う。
ウイン 「それが私に課せられた使命だったみたいだからな」
薫 「神か、何だかあっという間に、自分の人生が変わっちまったな」
表情を緩める薫。
ウイン 「みんな知らないうちに修正者としての運命を背負わされてきたんだ。
兎に角、それを終わらせよう」
うなずく一同。
三六、警察署
色々な資料に目を通している祖恵村。
峰が通りかかる。
峰 「祖恵村さん、何をそんなに調べているのですか」
不思議そうに近づく峰。気づく祖恵村。
祖恵村 「ああ、峰か」
峰 「調べ物をしているなんて、珍しいじゃないですか」
祖恵村 「湯田さんの経歴を調べていたんだ」
峰 「湯田さんって、祖恵村さんの知人の……」
峰が納得するように言う。
祖恵村 「ああ、俺が知り合ったのは警察に入ってからだったからな」
峰 「それで、何か不審な点はあったのですか」
祖恵村 「いや、ごくごく普通の経歴だったよ」
首を横に振る祖恵村。
峰 「じゃあ、何が気になるんですか」
祖恵村 「樺島が湯田さんの事を気にしていたのでな」
首を傾げる。
峰 「樺島が、何か湯田さんとつながりがあったのですか」
驚く峰。
祖恵村 「いや、それが何もないんだ」
峰 「一体、樺島が湯田さんの何を……」
二人とも不思議そうな表情を見せる。
三七、とある場所
シリウス、アーナンダ、ジャックリーンに抱かれているテンペがいる。
シリウス「最後の使徒が、こんな赤ん坊だったとはな」
珍しく驚くシリウス。
アーナン「本当に驚きですよ」
ジャック「彼の存在は何を意味するか分かっているのですか」
シリウス「神の領域に入るために必要な存在だ。だが赤ん坊とは思っていなかった」
淡々という
アーナン「神の領域……」
頬を引き締める。
シリウス「ああ、それは神が地球を創生した時のプログラムルームだ」
ジャック「バグを含め、私たちが生まれる元になった場所」
シリウス「そういう事になるだろうな」
アーナン「そこに乗り込んで、私たちは何をするべきなのでしょうか」
シリウス「私たちは修正者の血を使ってセキュリティを強くしてきた。
そのデータがすべて神の領域へと送られているはずだ。
それが再構築されて、神の領域の中で、更に増幅されたセキュリティプログ ラムへと変わっ
ているはずだ。
最後に私たちが行くことによって、更にそれは強固になる。
強固になることによって、修正者たちは、バグを修正することが困難になる だろう。それが
私たち使徒に与えられた最後の仕事だ」
アーナン「それが終わったら、私たちは」
ジャック「この世を守ったことになるのですね」
シリウス「そういう事だ」
みんなが覚悟を決めた表情を見せる。
聖堂へと向かい、歩いていく一同。
聖堂の扉を開けて中へと入るシリウス。
続く一同。
天地創生の絵が飾られている。
シリウス「神がこの世を作った。
いくらバグがあろうと、それは神が作りし物。
何人たりともそれをいじってはいけない。
私たちは、現状の世界を守り、神の能力をそのままの状態で保たなければならない」
アーナン「すべては神の存在自体を守るため」
ジャック「私たち、現在の人間の権利を守るため」
シリウスが入口の扉の上に掲げられているもう一つの絵を見る。
湯田に似た人物がそこには描かれている。
シリウス「後は、この人物が目覚める時を待つだけだ」
完