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第6話 ギャル、多様性を主張


「なんの文明って、それは――ギャル文明だよっ☆」


ミラはウインクしながら、キラキラのネイルを光にかざした。


「だから、なんだその文化はぁぁぁ!! 誰がそんなものを広めてくれと言ったよ!! 俺はなぁ! お主の世界の最新の技術や、経済の知識、文明の根幹となるシステムとか、そういうのを変えてくれと頼んだんだぞ! それなのになんで国中がネイルとピンクに染まっているんだ!?」


その言葉に、ミラはぷくっと頬を膨らませた。


「えー? ミラ的には、ちゃんと〝最新〟だし! 〝自分らしさ〟で生きてくって2020年代のアップデートしてきたギャル文化を広めたよ!☆」


「知らねぇよ!! というか、お主は最初に言っておられただろうが! 私は頭脳派だって! 俺はもっとこう、例えば、その〝すまほ〟とやらを大量生産するとか……」


「あっははははは! そんなのIT社長みたいなことミラができるわけないじゃなーいwww どこのジョブズだしwww」


「こ……この……ガキャァァ……俺をおちょくりやがって……」


するとそこに、兵士の一人が駆け込んできた。


「ミラ様~っ! 見てください、この新しいマニキュアッ!」


彼は両手の爪をミラに見せながら、キラキラと目を輝かせていた。


「わぁ~チョーカワイイ~~っ☆ そのグリッター、昨日のやつ!? めっちゃセンスあるぅ!」


「で、でしょうかっ!?」


嬉しそうに顔を赤らめる兵士。

そしてその様子を見ていたカイルは――


「おいッ!! 貴様!!」


鋭い声に兵士がビクリと立ち上がり、「へ、陛下!!」慌てて敬礼する。

その者に――。


「男がそんなもんに現を抜かしてるんじゃなぁぁぁぁいッ!!!」


声を裏返してツッコむカイル。

だが、その時。



「古いっ!!」



ピシャァッと、空気を裂くような声が飛んだ。

思わずカイルの言葉が途中で止まる。


「なっ……!」


気圧されて一歩後ずさるカイル。

見れば、ミラが指をビシッと突きつけて仁王立ちしていた。


「今はね! 男だって爪の手入れをする時代なの! マニキュアだって、オシャレだって、自由にしていいんだよ! 誰がやってもいいの!」


まるで〝お姉ちゃん〟のような圧倒的説得力と空気の掌握力。

カイルは気づけば額に汗を浮かべていた。


なんだコイツのこの迫力……! 思わずたじろぎそうになる……。一見するとフワフワポワポワしているような女に見えたが……どこか一本筋の通った信念もある……。

何者なんだ……このギャルは……。


だが、カイルは首を振る。


――いや、負けん! 俺は一国の王だ!


ぐっと胸を張り、声を張り上げる。


「――よいか、聞け!」


カイルは堂々と前に出て、一同を見渡した。

その瞳には鋼のような意志が宿っていた。


「このランツバルト王国を支えてきたのは、歴代の王たちと、そして――命を懸けて戦場に立った、勇敢な〝男たち〟である! 国が危機に瀕したとき、先頭に立ち、血を流し、剣を取り、盾となったのは――強き男たちの誇りと矜持だった!」


場内の空気が、ぐっと張り詰める。


「我ら男はいわば剣だ! 一振りの鋼でなければならない! 甘さを捨て、己を研ぎ澄まし、国を守るために己の肉体と精神を鍛え上げねばならぬ! 国難に直面した今こそ、柔ではなく剛を――装飾ではなく精神を――戦場に立つ覚悟と責任を、我ら男たちは背負わねばならないのだ!! そんな身なりの格好を気にするような態度では、この国は救えんぞッ!」


堂々たる演説。居並ぶ兵士たちも一瞬、神妙な顔をする――



その時だった。



「あー! バリカ~~~ン! キュウリ~~~☆」



ミラが遠くに向かって手をぶんぶん振り始めた。


「……ふっ。たわけたギャルだ……だが、我が忠実なる腹心たちなら、きっとわかってくれる……」


 カイルはゆっくりと振り返る。そこには――



「…………」



全身黒とゴールドでまとめられたド派手なマニキュア、ツヤツヤの頬、襟にピンクの羽根飾りを添えたバリカンことゴルド・ヘルマン。


そして、長い緑髪を緩やかに巻き、グロスできらめく唇、肩にふわふわのケープを羽織ったキュウリことセディオ・ノアの姿があった。


「陛下!」


キュウリは華麗に片手を上げ、



「その価値観、アップデートの必要がありますわぁ~♡」



そしてバリカンも、キメ顔でひとこと。



「時代は変わるのですよぉ、陛下ぁ……♡」



変わり果てた、腹心にカイルは……悲鳴をあげた。



「なにやっとんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁおのれらあああああああああああッ!!!」



とんでもないビフォーアフターに気絶しそうになりながらもカイルは二人に問う。


「ゴ、ゴルド・ヘルマン……! お前は、かつて〝黒鉄の戦斧〟と呼ばれた戦場の猛将であり――この国が誇る不動の男……それが貴様だったはずだ!!」


カイルの声が震える。


「それなのに……なぜそんなに腰を……クネクネと……! なぜ隙あらば、手をヒラヒラさせているのだああああ!!?」


続いてカイルの視線は、ノアへと移る。


「セディオ・ノア……! 貴様は王国随一の知恵者。七歳で魔術書を独学で読み解き、十歳で王国魔法学会に論文を提出し、わずか十五で第参謀の地位を得た天才中の天才……!」


その瞳は苦しげに揺れる。

「それなのに……なぜ女装を……! なぜ長い緑髪を巻き上げている!? なぜ唇が紅色に染まっている!? お前たち……どうしてそんな姿に……!!」


カイルは両手を握りしめ、叫んだ。


「目を覚ませ! ギャルの魔法にあてられるな! お前たちはもっと、こう……! 元の姿に――!」 


その時だった。


「カイくんッ!! 違うよ!!」


ミラの鋭い声が、空気を裂いた。

普段の明るい声色ではない。真っすぐで、まるで刃のように鋭い声だった。

ミラは一歩、前に出る。

その目は、王に向けるとは思えないほど、強く、真剣だった。


「バリカンは、男の子が好きだったの! ずっと、昔から! キュウリはね、心が女の子だったの! 小さい頃から、そうだったの!」


カイルははっと息を呑む。


「でも二人は、それをずっと……言えなかったの! 〝男はこうでなきゃいけない〟って空気があったから……〝王国を守る者は、強く、硬く、男らしくあらねば〟って言われ続けてたから……!」


ミラは、二人の肩を組み、堂々と胸を張った。


「でも、これは〝変わった〟んじゃない。〝戻れた〟だけなんだよ。最初から、こうだっただけなの!」


「そ、そんなバカな……」


カイルの声が震えていた。


長年ともに戦場を駆け抜けてきた、忠実なる腹心たち――彼らの〝本当の姿〟を前に、思考が追いつかなかった。


「お……おい、お前たち……!」


カイルは一歩前に出ると、懇願するように呼びかけた。


「思い出せ……我らの誓いを……!」



言葉と共に、脳裏に蘇る。

あの夜のこと。冷たい風が吹く、戦場前夜。疲れた兵たちが焚き火を囲み、酒を酌み交わした。あの時――互いの命を預け合う覚悟を込めて、三人で掲げた杯の記憶。 



――「「「光栄の王冠に、栄えあれ……民の誇りと、剣の冴えに、栄えあれ……大地の実りに、風の恵みに、栄えあれ……――この杯を、我らの名誉に捧ぐ!」」」



あの時、肩を組んだ。泥に塗れても、名誉を汚されても――この国を守ると、誓った。



「我らは……あの時、誓い合った筈だ……〝ランツバルトに、永遠あれ〟と……! あの重くて尊くて、歴史と血と涙にまみれていていた……王の俺と立場を越えた、〝漢同士〟の乾杯を我らは……ッ!」


すると……バリカン――ゴルド・ヘルマンが、静かに口を開いた。


「……私は……本当は、ずっと昔から……男が、好きだったんです」


いつもの鋭い眼差しが、今はどこか柔らかく揺れていた。


「けれど……それを言えば、戦友たちがどう思うか……国のために命を懸けてきたこの身が、否定されるのではと……私は……誰にも言えずに、生きてきたのです」


隣でキュウリ――セディオ・ノアも、ゆっくりと前に出た。


「……私も、心はずっと……女性でした」


いつも冷静なその口調には、わずかな震えがあった。


「だけど、〝男として生まれたから〟という理由だけで……〝王国最年少参謀〟なんて称号に縛られて……誰にも、本当の自分を見せられなかった……。ずっと、隠してきたのです……」


二人の声に、空気が静まりかえる。

その沈黙を、ミラが破った。



「――大丈夫!」



ミラはにっこりと笑いながら、二人の肩をガシッと組む。


「これからはね、自分らしく生きていいんだよ! 〝普通〟とか〝男らしく〟とか、そんなの時代遅れっしょ? 今は――多様性! SDGs!!」


その言葉に、ヘルマンもノアも目を見開き――そして、涙がぽろぽろとこぼれた。


「ミラ様が……私たちを、縛られていた想いから、解き放ってくれた……」


「そうよ……! 私たちは、私たちらしく、生きるわ!!」


ミラは満面の笑みで両手を掲げる。


「それじゃあ~~~! 二人の新しい一歩を記念して……はじめま~~す! はい、せーのっ!☆」


ふたりと声をそろえて、腕を突き上げた。



\ミラたん発信☆ 乾杯コール!/

「K、K、K、KP~☆! 

 K、K、K、KP~☆! 

 K、K、K、K~! K、K~! K、K~! KP~~!!」


\せーのっ!/



「カンパ~~~~~~~~イッ☆!!!」


\Cheers to 自分らしさ~~♡♡♡!/



――カチャッ。


三人はどこからか取り出した謎のカラフルなジュースで乾杯した。



「なんだそのチャラついた音頭の乾杯はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああッ!!!」



王国を揺るがすほどの絶叫が、カイルの魂からほとばしった。


さらにカイルにとっての悲劇は続く――す



「ごきげんよう、お兄様!」



現れたのは、どこからどう見ても渋谷の女王だった。

まばゆい金髪を巻いた髪に、ラメ入りメイクに、ハート柄のミニドレス。

足元には「LUCY」って刺繍された厚底サンダル。

そして何より――その顔には、清々しいほどの自信が満ちていた……妹。


「……ル、ルシア……?」


言葉を失うカイルに、ルシアはまっすぐに告げた。


「わたくしも、外見を変えることで、少しずつですが……勇気を持つことができましたの。ずっと家に閉じこもっていた私だったけど……今、ようやく、ここに〝立てた〟んです」


「そうか……お前……引きこもりだったけど……ようやく外の世界に……」


「お兄様……今まで心配をかけてごめんなさい……。でも、これからは大丈夫です。今のわたくしなら……きっと……大きな声で叫べますわ……」


その言葉に、一瞬だけ感動しそうになるカイル。


が――



「KP~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~☆♡」



ルシアがまたもや、謎の色をした杯を持って走り出し、あのわちゃわちゃしたミラ軍団に入り込んだ。


「うおおぉぉぉぉぉいぃぃぃぃぃぃ!!!?」


カイルは、その場にガクンと膝をついた。

肩が震えていた。

拳は固く握られ、血がにじむほどに地面を殴る。


「なんてことだ……! 妹のルシアまでも……っ。ミラという異界の小悪魔に取り込まれてしまった……。もう……亡き父上にも、母上にも、合わせる顔がない……!」


地面に額をこすりつけ、崩れ落ちる。


「男は――剣のごとく鋭く、理と勇を貫くべし! 女は――誇り高く、清楚と優美を携えてこそ、美しく! ……それこそが、我らがランツバルトの〝文化〟であり、〝誇り〟であり――三百年の歴史が紡いできた民たちの〝価値観〟だったのだ……!! ――だが、今や――男たちは爪を塗り! 女たちは踊り狂い!乾杯の音頭は〝KP~~☆〟だと……!? なんだそれはぁぁぁあああッ!!」


顔を上げ、虚空を睨むカイル。


「やはりこの王国の価値も、矜持も、伝統も……異界の者には通じぬ! 文化も歴史も知らぬ者に、〝改革〟という国家の根幹を任せた俺が……ッ! この国を三百年以上も守り続けてきた先人たちに…… 偉人たちに……英霊たちに……いったい、どんな顔をして報告すればいいというのだぁぁぁぁぁあああああ!!」


彼は拳を震わせながら、叫んだ――。



〇 



──だがその数日後。



「……なんだと? 税収が……過去最高額……? 失業率も過去最低……だと!?」


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