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第2話 ギャル、王宮に入る

「へぇ〜、ここが王宮ってやつ〜? でっっっけ〜〜!!」


朝日が差し込む広大な中庭に、金髪のギャル――一条美羅がその場でくるくる回って両手を広げる。


「えっ、ねぇ、あれ! ドア金ピカ! マジお城って感じ! え、ミラ、アニメの中入っちゃった系~?」


その横では、王妹ルシアが丁寧に説明を添えていた。


「ここは、我がランツバルト王国が建国三百年を迎えるにあたり、王家の象徴として整備された中央庭園ですわ。この場所は、代々の王が国の安寧と繁栄を祈る儀式を執り行ってきた、非常に由緒正しき場でもありますの。単なる庭園ではなく、この王国の『始まり』を象徴する場所で――」


「へ~、すげ~……うん、なんか、すっごい……歴史ってかんじ?」


ミラは分かったのか分かっていないのか、ひたすら「へ~」「マジ?」を繰り返しながらキョロキョロしていた。

けれどその顔は笑顔でいっぱいで、ルシアもそれを見てふふっと嬉しそうに笑った。


「ルーシー、見て見て! この銅像、なんかオシャレじゃない? 写メとろ、はいチーズ☆」


パシャパシャと音が鳴り響く。

片目をつぶってピースするミラの横で、ルシアは慣れぬながらも、嬉しそうに微笑んでいた。


その様子を、数メートル後ろから見守っていた男たちがいた。

カイル・フォン・ランツバルト――そしてその忠臣たちである。


「い、いいんですか……?」


配下の一人、ゴルド・ヘルマンが恐る恐る問いかける。


「あの怪しい〝ギャル〟とかいう女を、由緒ある王宮の中に簡単に入れてしまって……!」


「言いわけあるか!!」


カイルが鋭く返す。が、すぐに少し視線を逸らして言葉を継ぐ。


「だが……ルシアが是非にと言って聞かなかったんだよ……」


カイルは思わずミラたちを見る。


ミラは「ルーシーかわいすぎ! ウチの妹にしたいんだけど!」と肩を抱いていた。


そしてルシアは、頬を赤らめながら「そんな……でも、うれしいですわ……」とぽそり。


「……あの人見知りの妹が、あそこまで打ち解けるとは……くそ……完全に、籠絡されている……!」


カイルはギリ、と奥歯を噛みしめた。


「ルシアは……あの女の魔法にかかってしまったのだ……」


「えっ、魔法って……?」


「〝ギャル魔法〟だ……。あれは男の目を惑わし、心を乱し、そして……妹の心までも虜にしてしまった……おそらく淫夢魔法の系統なのだろう…」


そして、配下のもう一人であるセディオ・ノアが恐る恐る問いかける。


「は、はぁ……。でも陛下、良かったじゃないですか。ルシア様に、はじめて友達ができて」


「言いわけあるかあああああ!!!」


カイルの怒号がまた響く。


「はじめての友達が淫夢の小悪魔のギャルだと!? ルシアが悪い道に進んだら、どうするつもりなんだ! そんなの俺は! 断じて認めん!!」


彼の目は血走り、拳は震え、剣の柄がギシリと鳴った。


「……だが、下手に手を出せば、ルシアを人質に取られるかもしれん……。今は、まだ見極めの時だ……」


そう言って、カイルは唇をかみ、再びミラたちの方を睨む。


「……じ~~~~~」


その視線に、カイルはびくりと肩を震わせた。


横を見ると、ミラがじっと、まるで魂まで覗き込むように王を凝視していた。


「ねぇ~……さっきから、すっごい視線感じるんですけど~? 血走った目でさぁ~、またミラの足、ガン見すんのやめてくれる~?」


カイルの顔が真っ赤に染まった。


「な、なにを言っている! バ、バカな! そんなことは――」


「まぁっ!!」


甲高くも凛とした声が響いた。

振り返ると、ルシアが頬を膨らませていた。


「お兄様っ! ミラ様になんたる無礼な態度ですか! わたくし、見損ないました!」


「ル……ルシア……? お、お前まで……」


カイル、深いダメージを負う。


「へ~、ルーシーのお兄さんって、足フェチなんだ~?」


ミラが追い討ちのようにクスクスと笑いながらウインクした。


「な、なななななななな……!!!」


「陛下、足フェチだったのですか?」


「ほお……これはまた王道なフェチですなぁ。王だけに」


「お前たちは黙っていろおおおおおお!!!」


真顔で聞いてきた配下にカイルが怒鳴りつけたその瞬間――


「はい、それパワハラ~~~!!」


ミラが人差し指をぴしっと立てて言った。


「パ、パワ……? ……ハラ? なんだその怪しげな言葉は!」


「あーやっぱり異世界にはこういう言葉はない感じ? パワハラっていうのはね、そうやって偉そうに部下を、イジメることを言うの!」


「ふん、いじめだと?」


カイルは、あまりにも軟弱な主張に鼻で笑う。


「なにをバカな。俺がやっていることは国を統べる者として当たり前なことを、しているであって――」


だが――


「ミラ様あああああ~!」


その時、配下たちがばばばっと美羅の足元に集まり、泣きついた。


「怖かったんです! 陛下、いつも〝剣を抜け〟とか〝根性で何とかしろ〟とか……」


「無茶ばかり言われて、魔獣退治に3日絶食で行かされたことも……」


「あ、お前たちなにを!」


カイルは醜態を晒す配下に叱責するが――。


「よーしよしよしよし!!!」


美羅はその場で、配下たちの頭をなでまくる。


「がんばっててえらい! つらかったよねぇ? うんうん、ウチが味方だからね~」


「ミラ様ぁぁ……!」


「理解してくれるだけでも嬉しいですぅ……!」


配下たちは涙をこぼしながら、完全にギャルに心を持っていかれていた。


その光景に、カイルは頭を抱える。


「く……くそ……こいつ……! 我が忠実なる両翼の護衛隊まで〝パワハラ〟という淫夢の魔法で虜にしたのか!?」


カイルが「俺は絶対にかからん!」と防御魔法の準備をしていた時に、ミラが突然思いついたように配下たちに言った。


「ねぇねぇ、あんたは〝バリカン〟ね! そのヒゲ可愛いし! で、そっちの細い人は〝キュウリ〟! 細長いから~♪」


「「あだ名……!? ありがたき幸せ!!」」


「お、お前たち……っ!」


自軍の兵士たちが、〝ギャル〟の掌の上でコロコロ転がされている現状を目の当たりにし、カイルの声が震える。


そんな彼の元へミラは走ってきた。


「ねぇ、王子」


「ち、近いっ!! あと、王子じゃない! 俺は王!」


カイルは赤面し、半歩後退した。


「と、というか……お、お前……まさか……俺まで誘惑するつもりか!? そ、そうはいかんぞ! 俺はこの国の王……臣民の命と誇りを預かる者だ。今は、魔界領からの軍の侵攻という非常事態――そんな……ギャルの太ももごときで戦意を喪失されてたまるかあああああ!!」


そう叫ぶと、彼は両手で目を覆った。……が、指の隙間から、ちょっとだけ見ていた。 

ミラは嬉しそうにウインクすると、くるりとターンして言った。


「ねぇ、この国って魔王に襲われてるんでしょ? じゃあ、ミラが国を救ってあげよっか?」


「……なに?」


カイルの目が、カッと開かれる。


「国を……救う、だと……?」


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