第18話 ギャルのカリスマはすごい
「「「……………………………………」」」
空気が凍る。
それに気付かずにカイルは謝る。
まあ、謝れば大丈夫っしょ! アゲ~! 的なノリで。
「マスカラ増税? あれね、あれあれ、サプライ~~~ズ! いやー、冗談冗談、嘘だよ嘘♡♡ もぉ~~~、みんなマジになりすぎだってば! ほらミラちゃん、ちょっとその日サロ砲しまってよぉ♡」
しかし――そのときだった。
ミラが、ガタリとメガホンを置き、ゆっくりとカイルに歩み寄る。
「カイきゅん……」
「ああ、ミラたん! もーう、これで喧嘩はおしまい!! さ……仲直りを……」
ミラはぴたりと足を止め、顔を上げる。
その目は――ギャルとは思えない、静かな怒気に満ちていた。
「――こっちは、マジギレしてんだけど、なにふざけてんの?」
ミラの目が殺意にギラリと光る。
それにカイルは完全に縮こまってしまった。
「え……ミ、ミラ殿……あ、あの……」
「――笑い事じゃねーんだよ。マジ、うちらのこと――舐めてんのか? ちゃんと謝れよ。潰すぞ?」
それからマジぶっころ、ぐらいの勢いで睨みを効かせるミラにカイルはとうとう悲鳴を上げた。
「ひぃぃぃぃぃぃいいいぃぃぃ!!」
……カイルは知らなかった。
ギャルは、結構……ケジメに厳しいことに!
カイルはガクガク震えながら――地面に、土下座で崩れ落ちた。
「み……みなさん……! 申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁぁッッ!! 今後は、このような市民を不安にさせるようなことは起こさないように精進してまいりま~~~~すぅぅぅぅううッ!!」
カイルの土下座をしっかり見届けたミラは、ふんっと鼻息を鳴らして立ち上がった。
くるりと振り返り――高らかに、右手を天に掲げた。
「みんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
ギラギラのネイルが陽光を反射する。
「悪は――滅んだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!!!」
それに呼応するように民衆は雄叫びをあげた。
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!!!」」」
「――悪っ!?」
カイルが顔を上げ、土下座の体勢のままツッコんだ。
が、その声などかき消すほどに――王都の民たちの熱狂が爆発する。
カイルは唾を、ごくりと飲み込む。
「な、なんだこの空気は……!? これだけの民衆を……一つの熱気に導いている……!?」
ギリギリと指で土を握りしめる。
それは、自分にない力だった。
自分がどれほど政策を駆使しても、民の熱狂は得られなかった。
だが、目の前のこのギャルは――叫び一つで、群衆を掌握している。
カイルは、ようやく――気づいた。
ただの騒がしい異界の小娘とどこかでミラを、舐めていた……。
王政の場には不釣り合いな、浮かれたギャル。
……だが、違った。
あの熱狂。あの民意の奔流。
彼女の一声が、王都を動かした。
そのカリスマ性、影響力、そしてなにより――民衆からの〝絶大な支持〟。
「そんな……頼れる存在が――味方にいる。これは……これはつまり……」
カイルの心の中でなにかが変わっていくのを感じた。
それを王宮から見ていたルシアはくすりと笑う。
「そうですよ……お兄様。きっと、ミラたんはお兄様の助けとなってくれます。これからは……ミラたんを頼ってくださいね」
ルシアは頑固で、いつも孤独にひとりで戦っていた兄が、本当に頼りになる味方を見つけたことが嬉しかった。
きっと兄はこれからもミラを頼ってくれる……。
そう思っていた。
だがぁぁぁぁぁぁぁ――、カイルのその胸の内では、まるで逆方向の感情が猛スピードで育っていた。
「――あの女は危険だ……!!!!」
カイルの瞳がスッと細まり、ギリ、と奥歯が鳴った。
「一条美羅……。コイツを放っておくと……下手をすればランツバルト王国を俺とギャルで二分化するやもしれん……。そうなって笑うのは、我が領土を虎視眈々と狙う侵略者だけだ!! このギャルのカリスマは……我が〝玉座〟を脅かす!!」
カイルは今回のミラの騒動で信頼とはほど遠い確信を抱いた。
そして、彼の心には決意が宿る――。
「――ならば……反乱の芽は、いまのうちに摘むしかない……! 国をまとめる者は二人もいらぬ……。この女は……今すぐ――排除せねば……!! この国のため……この俺の剣で……ッ!! 」
ゴゴゴゴ……と陰が――王を包んでいく。 静かに、ゆっくりと、夜が忍び寄るように。
その一方で――ミラは、頬をぷぅっと膨らませながら――
「ふんっ……! カイきゅんなんて……もう、だいっっっっっきらいっ!!」
地団駄踏んで完全にすねていた。
その背後で、王が剣に手をかけることも知らずに……。
次回――忍び寄る暗殺! ミラ……死す!?