5/9
暴かれる善意
欲望の渦に呑まれ、施設は亀裂を深めていた。
杉山による記録の改ざん。
陽子の自己申告の記録ファイル。
三宅の過去のクレーム事案まで、匿名で投書が舞い込んだ。
そしてそれらの“証拠”の中に、ひときわ異様な書類が紛れていた。
「……これ、なに?」
高峰が差し出したのは、一通の茶封筒だった。
中には、日付のない“遺言補足書”。そこには――
『遺産の譲渡先については、私の手記を見て判断されたし。
最もよくしてくれたのは、“あの子”だ。』
名前の記載は、ない。
しかし、「手記」とされた日記帳には、日々の記録とともに、“名前ではなく、呼び名”で綴られた文章が残っていた。
「天使の子」「嘘つきの仮面」「昔の男」「長い時間を生きた犬」「孫のような青年」……。
誰が、どの人物なのか?
関係者たちは推測し、互いを牽制しながら、次第に“誰が悪か”を暴くゲームへと変質していった。