7.急な再会
あの殺人未遂事件から約1ヶ月が経った。今は6月、天気がいい日の方が少なくなってきている。梅雨だ。
でも今日は、珍しく晴れている。梅雨って、入ってから明けるまで何度か終わっているような気がする。この後はだいたい大雨大荒れ。嵐の前の静けさってやつかもしれない。
事件と言えば、金髪のツキさんとも、あの時以来、会っていない。突然現れた命の恩人に、とにかくお礼を言うことしかできなかった。他に言うことあったのかって言われると、まあ無いんだけども。
でもあの人、数字が見えてた。私の同じものか分からないけど、たしかに、あの人も何かしらの能力を持っていた。横にいた2人はなんのことか分かってなかったっぽかったし。話せるなら話したかったけど、そんな余裕もなかったし、まあ仕方ないんだと思う。友人と歩いてた道やここから行けるバイトの範囲を考えれば、生活圏は同じのようだ。また偶然、どこかで会えるだろう、そう思っていた。
思っていた、ということは今は違う状況にいる、ということだ。
6限の終わりまであと5分。この前の席替えで手に入れた窓側の席で、いつもはザアザア雨を眺めたり聴いたり、晴れていればカーテンを閉めるか、やはり外を眺めるかなんだけど。
ここから見える校門に、誰かいる。ダボッとした私服、黒いリュック。そしてあの金髪。極めつけに頭上には「2h」とご丁寧に時間が書いてある。学校名が書かれている石に寄りかかっている姿からして誰かを待っているようだ。誰を?
まだ判断するのは早い。実は弟妹がここの学生かもしれない。というか、そもそもツキさんじゃないかもしれない。同じ時間を持った人かも。
うだうだ考えてるうちにチャイムが鳴る。授業の終わりだ。
掃除当番じゃない私は帰る準備を始める。部活も入っていない。好奇心一家に生まれてはいるがあれもこれもするような性格はしていない。なんとなく勉強して、大学に入って、その時になったら好きなこと見つけてやればいいという考えだ。
机を下げて、同じクラスの友達に挨拶をする。詩保と同じ部活のその子はお昼も一緒に食べるようになった子だ。
下駄箱に行くと詩保がいた。
「あれ、詩保部活は?」
「泉璃ー!今日ちょっと喉が痛くって休むことにしたの。希葵ちゃんにも言ってあるからだいじょーぶ!」
マスクをしている詩保は、喉に手を当てる。希葵ちゃん、というのは私がさっき挨拶した子ではなくて、詩保のクラスの子だ。私たちは4人でお昼を食べている。
「そう、お大事にね」
「うん、ありがとー!」
相変わらず詩保はふわふわしている。玄関を出ると、詩保はあの金髪の人を見た。そして小声で私に耳打ちする。
「あの人6限もいたよね?」
「うん、誰か待ってるっぽいよね」
「彼女とかかなぁ」
呑気に笑う詩保を横に、私は本格的に焦りだしていた。
うわ、近くで見れば見るほどツキさんに似てる。1度見た顔をよく覚えられるようなタイプじゃないけど、あの金髪具合はツキさんだ。あの、真っ黄色じゃない感じ。
いや、まだまだ、私じゃない誰かに用があるかもしれないし。それだったら結構恥ずかしいけど。
校門までやってきてしまった。けど男の人は私に声をかけることはない。じっと見られているような気がするのは気のせいだ。
「あ、私近くに迎え来てもらってるから!」
詩保はそう言うと、私の家の方向と反対側に進む。ツキさんらしき人物が寄りかかっていない方だ。
「じゃあねー泉璃」
私に向かって詩保は手を振る。私も「ばいばい」と振り返し帰路につこうとしたときだった。
「せんりちゃん」
学校でも、すれ違う時にも聞いた、あの声で、名前を呼ばれた。反射的に声の方を向くと、やはり金髪の男がこちらを向いていた。
「せんりちゃん、で合ってるよね?」
「は、はい」
何、今の会話で名前がバレた?そもそも、なんで来たんだ。私に用があるの?
「ちょっとカフェ行かない?」
命の恩人に対して、おそらく最も失礼な振る舞いをしただろう。半眼で睨みつけ、まるでツキさんが悪いことをしたかのような顔を向けて言ってしまった。
「はあ?」