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4.事件は起きた

 5月に入り、明日から本格的なゴールデンウィーク、旅行まであと2日、といったときだ。


 私は珍しく寝坊した。


 ベッドの中で、大きく伸びる。謎の満足感に包まれながら、時計を見る。10時半。


 10時半。


 眠気は一気に吹き飛んだ。


「10時半」


 そういえば、夕璃もママもパパも、みんな早く出かける日だからよろしくねって、昨日の夜言っていた。おかげでいつもより静かで、起きる材料はなかった。スマホのアラームより目覚まし時計派だし、だから二度寝すれば起きられないのも事実だけど。今は原因をかんがえてる場合じゃない。


 ベッドから飛び起き、ブラシで髪をとかしながら1階に下りた。ラップされた朝ごはんが目に入る。そしてお弁当も。


 とりあえず朝ごはんを温めている間に洗面台へ行って顔を洗い、保湿する。


 ピーと電子レンジが鳴り、キッチンに戻る。お箸とお茶を用意して、椅子に座り、漬け物を口に入れ、ご飯をかきこむ。消化不良だと腹痛を起こすのでよく噛む。けど急ぐ。玉子焼きとおみそ汁も忘れずに無事食べ終える。食器は1度水盤に入れ、洗面所で寝癖をなおす。コテを温めながらキッチンで食器を洗う。水滴を拭いて元の場所に戻し、髪を巻く。2階に上がって制服に着替える。


 慌ただしく動いたので少し休憩。時刻表を調べようとスマホを手に取ると、ママから多くのメッセージが。「寝坊しました」と送るとすぐさま「やっぱり」と返ってきた。「気をつけてね」と続く文字を確認して電車の時間を調べると、10分ほど余裕ができていたのですっぴんに少々手を加えてから出発した。


 寝坊した日って新鮮だ。朝の騒がしい雰囲気が消え、ゆっくりと時間が流れるよう。いやただ寝坊してるだけなんだけど。


 いつもは乗らない電車に乗る。通勤ラッシュもとっくに過ぎていて、座席に座れてしまった。ガタンゴトンと揺れる時間さえ永遠のようだ。ゆるやかに、ゆるやかに時間が流れていることを実感する。


 駅に到着し、私は学校へ急ぐ。着く頃には、3時間目の始めだろうか。


 ここで、思いついてしまう。授業中なら、いつ来たとしても出席簿は遅刻の扱いになる。最初の方でも、終わる10分前くらいだとしても。それなら、終わりに来た方がなんかお得ではないだろうか。


 他の人ならここから天使と悪魔が登場して唆し合うんだろうけど、残念ながらこれは悪魔の意見ではなく、私の思いつき。もちろん、天使サイドは存在しなかった。


 通学路にあるコンビニに寄る。軽く店内を1周した後、何気なくアイスコーナーを眺めて、何気なくチョコアイスバーを買った。別に暑いわけではないけれど、ただ何となく、おいしそうに見えた。


 コンビニを出て、歩きながらアイスを食べる。大通りの信号に引っかかり、立ち止まる。


 アイスは生チョコが中に入ってるようで、滑らかな食感。おいしい。食べ終えて、棒はパッケージの中に入れ、お弁当を入れた袋にしまった。


 この調子で計画通りに、と思っていたときだった。


 どんと、突然、空気が全て落ちたかのような衝撃を感じた。皮膚が強ばる。震える隙もないほど、ただ固まり、呼吸するので精一杯だ。周りはそんなことないようで、車も普通に走り、通行人も歩いている。能力によるものらしい。


 原因は、すぐに分かった。背後の空気が、より重くなっていく。何かが近づいている。


 逃げる足も出ない。振り向いて確認することも出来ない。ただ、その何かは、私を追い越し、私よりも前で立ち止まった。


 怖くて確認することが出来ず、俯くしかない。


 その「何か」は黒いワンピースを着ているようだ。ただ、足元を広く囲うように黒い煙が出ている。誰も反応しないので、やはり私の能力が感じるものだ。願いに、時間に関係はあるのか?


 この人の頭を見なきゃ、数字を見なきゃ、と思っても、首は動かない。


 すると、足と歩道と煙だけの私の視界に、変化が起きた。


 その人の足元に1滴、赤黒い雫が滴った。


 信号は青に変わり、その人の足は動き出す。


 見なきゃ。頭を。数字を。時間を。


 けど、顔は上がらない。肺に入れる空気が重たい。深呼吸をしようとすれば、肺から地面へと体の中で穴が空きそうだ。


 私はただ呆然として、いつの間にか信号は赤になっていた。


 今のは、何。血?いや、煙と同じ、私にしか見えないものだ。それなら、答えはひとつ。


 あの人は、誰かを殺そうとしている。


 止めなきゃ、と思うけれど、あの物々しい、おどろおどろしい雰囲気、私がひとりでどうにかできるだろうか。私があの人の意思を知っても、事件が起きるまで警察は動かない。通報も意味ない。


 能力で事前に事件が起きると知ることができても、未然に防ぐことはできない。何かなきゃ警察は動かないし、周りに伝えたところで信じてもらえる可能性なんか無いに等しい。


 そもそも、あんなに空気が重くなるなんて知らなかった。殺す願望があんな色をしてると知ったのは、役にのめり込むのが得意な俳優をドラマで見たことがあったからだ。しかもあれは演技で、演技による感情で。本物とは違う殺意だから。色はあれでも、もっと軽かった。


 でも、ここで見て見ぬふりはできない。大変なことになってから、自分の行動を悔やむことはしたくない。


 信号は青に変わる。私は前を向き、歩きだす。


 あの人を追いかけよう。学校に間に合わないとか、そんなことよりも重要だ。


 まだ近くにいるはず。微かに残る煙を辿って、私は歩く。

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