表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/32

14.帰り道

「どういうことですか」


 私は耳を疑う。真っ黒?女と同じ?たしかに、ファミレスで聞いた話だと、月緋さんが見た女の人の色は私と違った。けど、女の人と柚希先生が同じ色って、どういうことなんだ。


「どういうことも何も、あいつの数字は真っ黒だった。何か、事件を起こしかねない」


 頭の整理が追いつかない。私と月緋さんの色の表し方が違うのは何となく気づいていた。だけど、柚希先生はしゃぼんのような色だった。間違いない。こんなに真逆なことがあるか。


「ちょっと、考えさせてください」


 詩保と行ったスイーツビュッフェを計画する時も、彼女の数字はしゃぼん色だった。このことから、しゃぼんは人を傷つける色じゃないって分かる。


「……詩保、校門で私が別れたあの子の色、見ましたか?」


「あのくせっ毛ボブの子?見たよ。絶対いい子でしょ、黄色く光ってた。どしたの急に」


 やっぱり。月緋さんと私で見える色は異なるけど、いい子の区別はつく。じゃあ、なんで先生には差があるのか。バグ?そんなゲームみたいなことないだろ。


「泉璃大丈夫?」


 全身が熱くなる。ぶわっと汗が吹き出すような感覚。取り乱していることが体に表れる。


「……大丈夫じゃ、ないかもです」


 目の前が真っ白になる。ショックを受けていることを、体が教えてくれる。


「よし、どっか店入ろう」


 ちょうどよく、目の前にカフェがあったので入る。月緋さんに肩を支えられ、席に座った。


 貰った水をゆっくり飲む。視界が安定してくると、心配そうに顔を歪める月緋さんが目に入った。


「ありがとうございます。もう大丈夫です」


「本当に?」


「はい」


 深呼吸をして、落ち着く。


「話を戻しましょう」


「いやあいつのことなら話さなくたって」


「月緋さんと共有しなきゃいけないことです」


 まっすぐ月緋さんと目を合わせる。月緋さんは仕方なさそうに頷いた。


「大丈夫じゃなかった理由は、月緋さんと私の能力は、完全に同じでないということに気づいたからです」


「どういうこと?」


 今度は月緋さんが首を傾げる番だ。


「詩保の数字は、私にはしゃぼん玉のように見えます。そして、女の人は血のように赤かった」


 ここまで話すと、月緋さんは目を見開いた。


「俺と違う」


「そうです。あと、あの件の女の人は、数字から血のように雫が垂れて見えました。月緋さんはどうですか?」


「それは俺もそう。だけどなんで色だけ」


「分かりません」


 だけど、共有して、互いに知っておくべきだと思う。


「……あいつの色は?」


 目線だけこちらに寄せてくる。再び深呼吸をして、私は口を開いた。


「……しゃぼん色、です」


 月緋さんは口を手で押さえた。「ありえない」と小さく呟き、細かく首を横に振る。


「吐きそう」


「吐かないでください」


 月緋さんも水を飲み干し、珍しく取り乱していることがうかがえる。深呼吸の後、落ち着に取り戻し小さく頷いた。


「泉璃、よく倒れなかったね」


「倒れかけましたよ、けど今は元気です」


 分かってくれる人に打ち明けると、不思議と気分が軽くなる。「ならよかった」と、月緋さんも笑ってくれた。


「でも、そうなると謎が増えたな」


 ひとつはなぜ私たちで色が違うのか、そして、柚希先生の色が違う理由。


「そうですね」


「とりあえず、あいつには注意して。いつでも」


「分かってます」


 よかった、いつもの調子を取り戻せたようだ。


「事件は私の方でもう少し調べてみます。何かあれば連絡するので」


「おっけい」


 にんまりと月緋さんは口角を上げる。そして「あ」と間抜けな声を出した。


「木曜、高校に寄るから。何の日か分かってるよね」


 何の日か。前に言っていた「暴れてもいい日」だ。いや暴れないし。


「なんの用ですか」


「正規ルートだよ」


 人差し指を口に当て、にやっと笑う。嫌な予感しかしない。これ以上言ってくれないけど、どうせ重要なものじゃないんだろう。気にしてらんない。この人のすることは意味が分かんないから、せめて松さんとかに報連相がされていればいいのに。


「ああ!」


「どうした?」


 自分でも大きな声を出したことに驚くけど、そこじゃない。せっかくチャンスがあったのに。


「松さんと連絡先交換したかった……」


「好きなの?」


「そうじゃないです」


 机に突っ伏し、うなだれる。


「月緋さんより、警察の方が情報が速いはずなので」


 知るのも伝えるのも、直接な方が互いに助かる。現在、事件についてメッセージを送ることができるのは月緋さんにだけだ。


「今から行く?」


「めんどくさいのでいいです」


 本当に歩けばすぐ近くなんだけど、今更戻りたくもない。


「じゃあせっかく来たし、なんか奢ってあげる」


 メニューを開き、鼻歌まじりでページをめくる月緋さん。まさか、わざと交換の機会をくれない?


「泉璃、目が怖い」


 疑うのはよくない。睨むだけで我慢する。


「松さんのなんか要らんでしょ」


 メニュー表から覗き、ウインクしてくる。わざとかよ。


 私もメニュー表を開く。どでかいフルーツ盛り盛りパンケーキを注文し、来月の月緋さんのバイトのシフトを増やしてやった。それぞれ飲み物を注文し、到着を待つ。しばらくして、でかい皿に乗ったでかいデザートが、机の真ん中に置かれた。ご丁寧に、取り分け皿もついてきた。


「俺のバイト代……」


「奢るって言ったのはそっちです。半分あげます」


「全部食べるつもりないんかい」


「多いので」


 いざ実物を見ると、写真よりずっと大きかった。お金のことを気にしているのか、月緋さんは自分用のデザートを頼まなかったので、私なりの謝罪でもある。


「うわめっちゃおいしそう」


 さっきと違い、お金のことを忘れたように目を輝かせている。


「甘党ですか?」


「うん。超がつくほど」


 私が頼んだのに、先にナイフを入れる。私も負けじと自分のお皿に盛り、ほおばる。


「知り合いいたら困っちゃうね」


「なんでですか?」


「だって、俺のこのポジション、まんま彼氏じゃん」


「意識してないので問題ないです」


 ばさっと切り捨てるが、一応奢って貰う身なので補足する。


「見られたくないだけなので。悪い気はしないです」


 ご馳走になってるこの状況も、嫌ではない。ただ、噂にされたくないだけだ。


「彼氏いるんだっけ」


「いませんけど??」


 私が強く否定すると、ひひひと意地悪そうに笑う月緋さん。やっぱり高いパンケーキを選んでよかった。


 でも、こうやって事件以外で関わるのもつまらなくはない、そう思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ