1.私の能力
願いが叶わない、なんてことはない。叶う日は、ちゃんと用意してある。自分の行動で、ちゃんと。
2m、6y、12w。
街で行き交う人々の頭上を見る。数字に、英文字。これは全て、「願いが叶うまでの時間」を示している。
カフェの窓を挟んでも見えるそれは、私の能力。誰にでも、願いが叶う期限はある。叶わないというものは、期間に対して、寿命が先に尽きる時だ。そして、願いは内容によって色が違う。基本はみんなシャボン玉のように透明で、ぷくぷくしている。誰かの幸せや成功、ただ何となく、「これがあればいいのに」って願う時の色。それに加え、特に期待が大きかったり、叶ったときの嬉しさが特別だったりする時、黄色く輝く。基本は、叶った時のその人の感情で決まるらしい。けどそれは、された相手も嬉しい時に限られる。
誰かをいじめる、何かを傷つける。盗む、誰かを殺す。そういうことを願望にしている時、色は暗い。頭上の時間は、青い涙を流す。叶う瞬間に近づくにつれて色が流れる。いじめや傷つける行為は、時間の文字も傷ついている。
人を殺したいと願う時、文字は赤く黒く、常に溶けてその人の頭に滴っている。
恐らく、私自身の色の印象から来てるんだと思う。頭上に見える数字も、小さい頃は時計やカレンダーで見えた。それらを認識していたから見えただけで、どう使うかは知らなかった。カウントダウン方式になったのは、「じ」と「ふん」を習ったときだ。そこから漢字になって、英語になった。
ふと、自分の手元にある英語の薄いテキストを見る。毎日コツコツ進めた課題は、残り数ページあった。残りは家でやろう。シャーペンを筆箱に入れて、足元にあるリュックに私物を入れる。飲み干したグラスを返却口に入れて、カフェをでた。
あ、レジのお姉さん、今日いい事あるな。
しばらく歩く。桜が咲いてる季節なんだけど、片付けの観点からこの通りには常緑樹しかない。明日は始業式だから浴びるほど見るかも。
私は、私の時間が見えない。服屋のショーウィンドウでも、鏡越しでも見えない。自分の願いがいつ叶うかは、教えないよう配慮されてるらしい。誰に?誰かに。




