エピローグ2『長めのノリツッコミ』
「いや、ちがうやん」
カティアからクビ宣告をくらった俺たちは、これからどうするかを会議をするため、ひとまず同じテントに集合することにした。
そして全員が座ったと同時に、クロタコからツッコミが飛ぶ。
「なにしてんの? はよメルブレン行きいや」
「でも、カティアさんにはすごく助けられたし、ちゃんと恩返ししないと」
「リーフェンの言う通りです。借りは必ず返します。私はあなたと違って誠実なので」
「ていうか、お前もノリノリだっただろうが」
「ぜんぜん人のこと言える立場じゃないにゃ」
開口一番から集中砲火を浴びたクロタコだが、その態度は腹立たしいほどに飄々としていた。
彼女はあからさまにとぼけた表情で肩をすくめると、膝でふて寝していたブーカの頭を「よしよし」と撫でる。エルフ村ではブーカをハチの巣にしたくせに、今日は猫かわいがりか。やはりクロタコの思考回路はよくわからない。
「あれは、要するにカティアなりの優しさやないの?」
「……優しさ?」
「『もう借りは気にせんでええから、早く行ってくれ』っていうさ。始めから合格させるつもりなんか無かったやろ」
日和見主義的な受けとめ方に思えなくもないが、案外核心をついているような気もする。カティアだったらそれぐらいのことは考えていそうだ。
「ちなみに……もし出発するとして、何か問題があったりはするか?」
俺はキエリにそう尋ねてみる。
「私はもう大丈夫ですよ。予備の紅晶石までもらったので、万全です」
「山道はもうすこし続くけど、ほとんど下りだね。一週間もかからないんじゃないかな?」
「キエリも道のりも問題なしか」
「他に注意すること言えば……」
キエリはそう言いつつ、クロタコの方をちらりと見やる。
その視線に気づいた彼女は、はぁとため息混じりに声を発した。
「蒼龍王やな」
蒼龍王陣営、あるいはチームとでも呼ぶべきか。
蒼龍王と、その息がかかった転生者、それから聖教会。この三つで構成された、俺たちの明確な「敵」だ。
もっと具体的に言うと、転生者は「ヤエミカド」と「災厄の転生者」という、二人の特付き転生者が。聖教会は、「トリスタン・グレイ・ドルバロム」というけったいな名前をした騎士が、蒼龍王と繋がっているらしい。
奴らの目的は、自由国の征服。
蒼龍王は、紅龍王を殺すため。
聖教会は、自由国を潰して転生者に引導を渡すため。
転生者は各々の事情によりけり、だ。
対するこちら側は、紅龍、エルフ……それから、自由国の戦力が味方だ。
自由国の戦力は主に転生者で構成されていて、クロタコを筆頭に世界各地へ散らばって活動しているらしい。クロタコ以外にも、あと二人の特付き転生者が味方にいるんだとか。
心強いような、相手の大きさを見るとやっぱり頼りないような……微妙なところだ。
と、俺が脳内で勢力図をまとめ終わったあたりで、クロタコが悩ましげな顔で口を開いた。
「しかし、もう気づかれるとはなぁ」
「蒼龍王がナカムラを察知した以上、連中に狙われるのは避けられないでしょうね。今までよりも、ずっと危険な旅になります」
「チッ……十中八九、気づいたんは崇務のトリスタンやろな。あの知能バカ以外ありえへんわ」
知能バカ。冷静に考えると意味不明なワードだが、とにかくそのトリスタンとやらは厄介な敵らしい。
俺には、魔王の素質がある。
その素質が何か。何をどうしたら俺は魔王になるのか。その辺の具体的な話はわからない。
かなりしつこくキエリに問い詰めたのだが、彼女は「知るとよくない未来になるから」と頑なだった。そう言われると逆に気になってしまう。
これについては、自分でもかなり考えた。
そして最終的に俺が出した答えは、「あえて知らないようにする」だった。
気になるは気になる。でも、仮に俺が魔王だろうがなんだろうが、それはどうでもいいことだ。価値のない値札。俺は俺、それ以上の事実など存在しない。
そう、思うことにした。キエリを信じることにしたんだ。
「ねえ、もうちょっと楽しい話しようよ」
「リーフェンに賛成にゃ」
コニーとリーフェン。各チームの癒し担当二人が、重くなりかけた場の空気を浄化しにかかる。
俺が「楽しい話って?」と尋ねると、リーフェンは縦に揺れる謎のダンスを始める。たぶん、ワクワク感を表現したいんだと思う。
「メルブレンはね、すっっっごく大きな街なんだよ!」
「楽しい場所がいっぱいにゃー。赤レンガの建物。世界一大きな市場。夜は歓楽街やカジノで大賑わいにゃ!」
「それに、メルブレンは魔法の中心地でもあるんだ。魔法究明院の大きな支部があって、そこには魔法学校もあるんだよ!」
魔法学校。おお、いかにもラノベっぽいワクワクするワードだ。
「それにそれに、もうすぐ『龍祭』が始まるにゃ」
「ああ、もうそんな時期ですか」
龍祭。龍の祭り……か。字面だけでもなんとなく壮大そうなのがわかる。
クロタコの補足説明によると、龍祭は現世でいうところのハロウィンやお盆に近いイベントらしい。どこの世界にも「死者の魂が帰ってくる」タイプのお祭りはあるもんだな。
「龍祭といえば、やっぱりアレだよね! 魔法大会!」
「一番の見どころですね。私もそれがすごく楽しみ……いや、決して観光気分ではありませんが」
「俺は何も言ってないぞ、キエリ」
謎の言い訳を、なぜか俺にするキエリ。
なんだかんだ、みんなメルブレンが楽しみらしい。そんなワクワクする場所なら俺も期待が膨らんでしまう。
歓楽街とか市場とか楽しそうだな。昔から人が多くて賑やかな場所を散歩するのが好きだったから、少し興味がある。
魔法大会も面白そうだ。俺はもう魔法を使えないのが悲しいところだが。
「楽しみだなー。はやくメルブレンに……」
そう言いかけて、リーフェンはハッと口をつぐむ。
「その前に、カティアへ恩返しですよ」
「わ、わかってるよ……もう」
話が一周して戻ってきた。
「恩返し……なあ。さすがにもう一回チャレンジはさせてくれないよな」
「僕、カティアさんに一生のお願い使っちゃった。三回も」
「一生ちゃうやん」
「フツーにお金あげればいいにゃ」
「いや、それはちょっとアレだろ」
「そもそも、あげられるだけのお金もありませんし」
「あの性格やったら受け取らへんやろうな」
「にゃ……にゃあ」
いきなり方々から否定され、コニーはしおしおと小さくなってしまった。すぐに隣のリーフェンが慰めにかかる。
「コニーは、思ったこと口にしただけにゃ……」
「わかるよ、コニー。よくわかる」
まるで、俺たちがリーフェンを否定ばかりしているかのような言い草だ。
……あながち間違いではないか。
すまんリーフェン。これからは気をつける。
そんなことを考えていると、ふとリーフェンと目が合う。
何か言いたそうな目だ。左右に視線を動かしたかと思えば、閉じたり開いたり……何がしたいのだろうか。全くわからん。
「どうしたリーフェン。ドライアイか?」
「ウインクだったの!」
それとなく近づいて小声で話しかけてみると、そんな返事が返ってきた。
なるほどウインクか。「ちょっとやり過ぎなまばたき」にしか見えなかった。
「あのね、僕、いい考えがあるんだ。カティアの恩返しのことで」
さすが我がチームのアイデアマンだ。リーフェンはすでに案を思いついていたらしい。
「言ってみたらどうだ? なるべく否定しないようにするからさ」
「うーん……でも、自信ないし、ちょっと恥ずかしくて」
リーフェンはそうモジモジとする。
そしてまた何か言いたそうな上目遣い。今度のは理解できた。
「……俺に、ついてきて欲しいんだな?」
「お願いしてもいい?」
ようは、一人でその案を実行するのが不安なのだろう。そんな俺の推測はやはり当たっていた。
俺は首を縦に振る。深く。
「もちろんだ」
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