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第一章24 『最後の試練』

「はてさて、どうしたものか」


 一方、ローラー・ペグ・ロイギラファ。


 こちらでは、ちょっとした()()()が発生していた。



「はてさて、どう始末をつけてくれるんだ? 席騎士の少年」


 彼の前には、銀髪のダークエルフ。


「お前が邪魔をするから、リーフェンを逃してしまった」

「あの冷徹なダークエルフの仲間かと思いまして、つい」

「……逆だな。ソーンは私の敵だ」

「そのようですね」



 ――――


 それは、半刻ほど前のこと。


 足手まといのチーシャを置き去りにした彼は、聴覚と勘を頼りに、あてどなく転生者を探し回っていた。


「木よ!」


 そこでふと、声が聞こえる。

 知っている声ではないが、転生者かもしれない。ローラーはひとまずそこに向かった。



 しかしその直後、何かが彼を捕らえる。


「おっと……?」


 それは、リーフェンの枝。

 流れに溶け込んだミストを探していた彼は、接近するローラーの流れをいち早く察知し、そこに攻撃を加えた。


「木よ!」


 そしてもう一度魔法を唱える。リーフェンは必死だったので、「自分が何を捕まえたか」まで考える余裕はなかった。

 とにかく遠くへ投げる。

 兄を殺せないと悟った彼は、がむしゃらに枝を動かして、そのまま振り返ることなく逃走した。



 しかし、それが奇跡のような幸運を生む。


 ローラーが宙を浮き、落下した先には、偶然ミストがいたのだ。


「ん?」

「おや」


 そして、邂逅。

 「ん?」という声を聞いたローラーは、そこに気配を消した何者かがいることを察知した。


 ――キィン!


 すぐさま攻撃。そこから二人の戦闘が始まった。


 ――――

 


「……興が削がれました」


 時間の無駄だった。それを悟り、ローラーは熱が冷めていく感覚を覚える。そして腰の袋から、淡く輝くポーションを取り出した。


「崇伐の使命に殉じることが私の喜び。関係のないエルフを殺しても、それは崇伐にはなりません」


 つまらなさそうに、白く懸濁したポーションを混ぜる。

 その姿は年相応の子供のようだった。


「崇伐が望みなら、私に一つあてがある」

「あて……ですか?」

「クロタコだ」


 リーフェンの狙いも、クロタコの狙いも、あの転生者。今ごろ全員が一ヶ所に集結しているだろう。


 それを読んでいたミストは、不敵に案を提示する。


「お前は転生者。私はリーフェン。獲物は被らないのだし、ここで一つ、手を組むというのはどうだ?」


 クロタコに情が無いわけではない。彼女を売ることに、ミストは若干の引け目を感じてはいた。


 しかし、元よりそういう関係だ。

 収容所への侵入を手伝う代わりに、ソーンを殺すことに協力する。そんな取引で繋がった、一時的な利害関係。あの時ソーンを仕留めた時点で、彼らの取引は終了していたのだ。



「ふふ、はははっ! 魅力……魅力的な、提案です……!」


 片手のポーションを飲み干し、ローラーは痙攣した笑い声をあげる。

 狂気に飲まれた、彼本来の姿。


「私が転生者たちを見つける。お前は邪魔をせず、粛々と崇伐をすればいい」

「それは素晴らしい、素晴らしい……待ち遠しくなってしまいます」


 ローラーの手から空の薬瓶が滑り落ち、パリンと音を鳴らす。

 その薬が狂気の引き金か。ミストは一瞬、割れた薬瓶とローラーをえも言われぬ感情で見つめた。


「……では、交渉成立だな。よろしく頼む」

「ええ、ええ。我が神の声が聞こえます。痛みが足りません」

「そうだな」


 ここに、歪な利害関係が結ばれた。




 ――――――



「……そろそろやな」

「は?」

「ああ、気にせんといて。()に備えて、ゆっくり休んどき」


 こちらを勇者サマと呼んだかと思えば、急にわけのわからないことを言い始めるクロタコ。相変わらず意図が読めない。


「はぁ……しかしまあ、予想の一億倍くらい難易度が上がったな」

「一人で話すなよ、クロタコ。こっちは意味わかんねえんだけど」

「コレやコレ。このどアホ」


 クロタコはうんざりした様子でタバコに火をつけると、足元のブーカをつま先で蹴る。


「想定の範疇とはいえ……どうしよ。誰か死ぬかも」

「だから意味わかんねえって……」


 そこで、パキッという音と共に、腹から血を流したリーフェンが転がり出てくる。


「はぁ、はぁーッ……や、やっと、見つけた……」

「リーフェン!」

「その傷、何があったんですか⁉︎」


 二人で慌ててかけ寄る。

 まさか、リーフェンまで襲われているとは思わなかった。


「兄さんに、やられたんだ……僕を狙ってるから」

「……ミストが?」

「僕……また怖くなって、逃げて……!」


 震える声でそう言って、リーフェンは唇を噛む。彼は彼で色々あったらしい。


 いったんクロタコの様子を確認し、またリーフェンへと向き直る。急に静かになったクロタコも気になるが、それは後だ。リーフェンの取り乱し方は尋常じゃなかった。


「落ち着け、リーフェン」

「ご、ごめん……」

「ここにいるのはミストじゃなくて、俺とキエリだ。だから大丈夫」

「クロタコもいますけどね」

「……空気読んでくれ、キエリ」


 しかし、そんなキエリの無神経さが逆に安心だったようで、リーフェンは少しだけ落ち着きを取り戻す。



「はっはっは」


 それを見届けて、タイミングを計ったかのように笑い出す、クロタコ。

 感情がこもっていない。それは笑いと言うより、注意を引くための咳払いに近かった。



「ええやんか」


 やがて、ふうと煙を吐く。


「三人とも、ええチームや」

「……チーム?」

「そう。まさしく勇者サマ御一行。

 龍の武闘家キエリ。エルフの魔法使いリーフェン。そして勇者ナカムラ。種族も特技もバラバラやけど、どこか似た物同士の三人組!」


 両腕を振り上げ、後半にかけてセリフに熱を帯びさせる。しかしやはり、感情が一切こもっていない。ただ台本を読んでるだけ。

 あまりの三文芝居。


「それぞれ敵と戦い、見事に生き残った。うちはこれが見たかった。舞台は整った。後は冒険に繰り出すだけ!」

「この状況こそが、あなたの目的……」

「ただし」


 キエリの質問を無視して、クロタコは人差し指を立てる。


「最後の()()が、残ってる」


 こちらの反応を味わうかのように、一時停止。


 俺たち三人の間に動揺が走る。しかし考えていることは全員同じだった。


 ――試練。


 つまり、今までのことも、大体はこいつ(クロタコ)が仕組んだことだった。キエリの遭難も、箱庭も、ブーカも、ミストも……もしかしたら、俺が異世界転生したのだって、こいつの仕込みだったのかもしれない。


 目的はわからない。しかしわかったこともある。


 クロタコは、俺たちを試している。

 そして、何か一つの()()へ導こうとしている。


「最後の試練の内容はァ……」


 恐ろしく趣味の悪い、結末へと……!



「チィムワァーーック!!!」



 のけぞり、空を仰ぎ叫び散らす。


 肺の空気を使い切るまで声をあげる。瞼が裏返るまで目を見開く。腕が千切れるまで手を広げる。

 まるで、別人のようだった。



 その時

 ザッと二つの靴音



 奥の暗闇から影が飛び出したかと思うと、その内一つが回転してクロタコの心臓を貫いた。

 間髪入れずに肉の音。


 彼女の喉笛から伸びる、釘のような……なにか。


「あぁ、あっけなぃ……こんなものは崇伐、崇伐ではない。我が神も喜びません」


 クロタコから鮮血が飛び散り、唖然とするこちらを赤く染める。


「ふふ、ふふふハハハッ! アハハハハ!」


 金切り声。ゴポゴポと黒血が湧き出す喉笛を、さらに抉る。



 ――バシュッ!


 続けて銀髪のダークエルフが回転し、心臓から刀を引き抜いた。その勢いのまま彼女の骸は地面に叩きつけられ、跳ねる。


「悪いな、クロタコ」


 そう呟き、穏やかに微笑。


 リーフェンが小さく「兄さん……」と言ったのが聞こえて、ようやくその正体を理解した。


 あれが、ミスト……?


 笑顔を浮かべる二つは、どちらも同じにしか見えない。血濡れた狂人どもだ。とてもリーフェンの兄だとは思えなかった。



 しかし「なぜこの二人が?」と考える前に、恍惚と顔を上げる()()が目に入る。


 なんの躊躇もなく、死体を踏み抜く、それが。



「あなたを、求めていました……!」


 その声、その釘、その目、その笑顔ッ……! 


「崇伐の、お時間です!」



 潰す。



「ローラー・ペグ・ロイギラファ――ッ!」


 跳ねるように躍動。体が勝手に動いた。


「そうです! やりましょう!」


 ――ドシュッ!

 ローラーの釘がみぞおちを貫いた。


 が


「関係ねェ!」


 呼吸を止め、思いっきり顔面にフックを叩き込む。ゴシャッと音がしてローラーの顔がよじれるが、それを右手で掴み、左手でもう一発


 ――ドシュッ!


 そこへ、黒刀が突き刺さる。


「私を無視しないでもらおうか、転生者くん」

「邪魔すんじゃァ……」


 ローラーを突き飛ばし、「ねぇよ!」と拳を振り下ろすが、それは空を切った。


「は……?」


 雲を掠めたような感覚。自分は幻影と戦っていたのではないか。ふと、そんな考えが湧いてしまった。


 経験したことのない違和感。一瞬、思考が止まる。



 その隙を逃さぬローラー。


「次邪魔したら、あなたから殺します」


 心臓、右肺に激痛。釘が差し込まれる。

 目の前が暗転し、一度即死。気合いで目を覚ますが、ローラーは掌底打ちの構えをとっていた。


「あなたを伐するのは私だけ! そうでしょう⁉︎ 転生者様ァ!」


 ――ドッ


 みぞおちの釘が掌底で押し込まれ、また暗転。

 即死。


「さぁもっと! 声ッ! あなたの声が聞きたい!」


 とっくに絶息していたナカムラだが、ローラーは一切気にしなかった。

 前方に倒れこむ彼の顔面に回し蹴りを喰らわせ、そのまま腕を振り回し、釘を手に後頭部へ狙いをつける。



「ッ……!」


 その横から、炎。怒涛の追撃が中断される。


「ゲホッゲホッ! ……ッ、リーフェン!」


 限界ギリギリで炎を吐き出したキエリが喉を抑えて崩れ落ち、代わる形でリーフェンが身を乗り出す。


 二人とも、何か考えがあって動いたわけではない。ただその時動けた人間が、ただその時にできたことをした。

 それだけだ。それが精一杯だった。


「はぁ、はぁっ! ナカムラッ!」


 リーフェンはがむしゃらに彼の元へ走る。腹の痛みが彼の足を一瞬もつれさせたが、「前へ」と気合いで食い縛った。


 辺りの木は焦げている。魔法は使えない……!


 流れと視覚で打開の術を探るが、得られる情報はどれも絶望的だった。


 でも、ナカムラが死んだら……! 



「みんな、私が嫌いなのか?」

「がっ……あ……!」


 その思考を頭上から割る、ミストの踵落とし。「まあ知っているが」などとふざけて、リーフェンの喉を容赦なく踏みつけた。

 「ヴっ!」と、屠殺される鶏のような声。


「そこを動くな、龍」

「……ッ!」

「私にもエルフの矜持は残っている、多少はな。だから無抵抗な自然の命を奪うつもりはない」


 キエリは迷った。

 自分は今にも失神しそうで、たとえ攻撃が可能だったとしても、それが有効的な一打になることはない。ただ危険を犯し、意識を失うだけ。それは明白だった。


 遠くではローラーが復活し、白く輝くポーションを飲み干さんとしていた。彼の魔法は知っている。だから、()()が何かもすぐにわかった。

 一方のリーフェンは、喉にめり込むミストの足を必死で叩いていた。しかしキエリが悩めば悩むほど、彼の力はみるみる弱まっていく。

 すぐに手を打たなければ、二人とも死んでしまう。


 無謀な攻撃で命を捨てるか、機を伺って全てを失うか。

 判断がつくはずもない。



 そうこうしている内に、パリンと薬瓶が割れた。

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