恵みの雨
その日照りはずっと続いていた。
川は干上がり、木々は枯れ、生き物は干からびて倒れ伏した。
そんな状況の中にあって、人々は天を仰ぎ見て叫ぶ。
「神よ。一体なぜ、このようなことを我らに成すのでしょうか」
「ここまで苦しまなければならないほどに我らは罪を犯したのでしょうか」
しかし、空は答えない。
当然だ。
この世界に神など居るはずもないのだから。
それでも、人々は天に向かい呪詛を吐く。
最早、出来ることは何もないから。
どれだけの月日が経っただろうか。
ある日、不意にぽつりと雨が空から落ちた。
夢ではないかと空を見上げる人々の顔に向けて雨はぱらぱらと落ちてくる。
「神よ! 感謝いたします!」
掠れた声で人々は恵みの雨を傍受する。
喉の渇きが潤い、体に張り付いていた煤や埃が落ちていく。
それは、まさに神のもたらした雨だった。
あぁ、それは。
まさしく神のもたらした雨だった。
あの長き日照りと同じ期間だけ雨は降り続けたのだ。
雨を喜んでいた者達の姿はもうどこにもない。
降り続ける雨で起きた洪水に嘆き、悲鳴を上げて命を落としたのだから。
人々は皆、亡くなる前に空へ呪詛を吐いていた。
「神よ。一体なぜ、このようなことを我らに成すのでしょうか」
「ここまで苦しまなければならないほどに我らは罪を犯したのでしょうか」
しかし、今や世界にそのような煩わしい恨み言を吐くものは一人たりともいない。
あぁ、それは。
疑いようもないほどに間違いなく、神のもたらした雨だ。
何せ、この星の寿命を削り続ける人間を一人残らず殺しつくしたのだから。
雨が降り、やがて止む。
そんなあまりにも自然な世界の中を。
空を飛ぶ鳥が。
野を這う獣が。
海を泳ぐ魚が。
誰一人、文句を言うこともなく、今日もまた自然と共に生きていた。