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道化の疑問

4章「道化の疑問」


俺と直江は、テスト期間中、学校の規則で開けることができない部室を掃除し終わると、それから他愛無い話をしながら帰宅することにした。

坂を下っていく途中の帰り道で、ポツンと置いてある自販機のそばでジッと立っているスーツ服姿の男がいた。

俺らをずっと見ているようだ。

「不審者か?我が領内で悪事を行うとは・・・許せん・・・」

自販機を通りすぎながら小声で直江に言う。

「ああ。なんか最近、通り魔が出るとかクラスで言っていたわね。行方不明者も多いとか」

「ふむ・・・。よし。なら、あの男を討伐するか・・・」

「待ちなさい!」

「なんだ?」

「討伐するとか、あんたが通り魔になるでしょ?なんなの?馬鹿なの?」

「疑わしきは斬れ!と我が師は言っていたぞ。それにここはわが領内。切り捨て御免オッケーなのだ」

「なんで斬るのよ・・・。せめて何をしているのか聞きなさいよ」

「それは名案でゴツね・・・。誤チェストしたら怒られるでゴツ」

「あんたの騎士道ってわからんわ・・・」

不審な男は、俺たちの後ろを歩いていた女生徒になにかを聞いていた。名刺を見せてなにかやりとりしている。

「なんだろう?」

直江が小首を傾げる。

俺たちは電柱にそうっと隠れて聞き耳を立てる。しばらくの間、女生徒と男が話していた。

男の話し声が大きく、こちらにまでよく聞こえた。

どうも、アイドルとかのスカウトのようだ。たしかに生徒の顔をみたらそれなりにかわいい。人さらいとかに見えた。

男は女性徒にやんわり断られると、そのすぐそばを通りすぎようとしていた眼鏡の男子生徒に声をかけていた。

「なんだ・・・。スカウトだったのか・・・」

「そうみたいね」

「待てよ?なぜ、俺がスカウトされないのだ。身長180センチ以上あるし、顔もいいし完璧ではないか!言ってはなんだが、あんな眼鏡よりいいじゃないか!?」

「身長はあっているけど、顔はどちらかというと並だろ?キリッとした顔しているけど、髪はぼさぼさだし・・・。後ろにいつも寝癖できているし・・・」

「やれやれ、この魅力がわからんようでは、おまえも駄目だな。一度眼科行ったほうがいいぞ?」

「あんたは一度鏡をみたほうがよさそうね・・・。今日なんか、鼻から鼻毛がでているわよ・・・」

「なに!?どこだ!」

「はい」

と言って直江が手鏡を渡してくれる。確かに出ていた。しかも両穴に。

俺は、両穴の鼻毛を思い切り抜き取った。力一杯抜き取ったので、涙も出てしまう。

「ふっ・・・。これで、完璧だろ?」

「汚な!鼻クソも取れているわよ!」

鼻クソを近くの電柱にピトリとつける。

俺は、直江に手鏡を返した。直江はそれをハンカチで拭き取る。

「失礼なやつだな。おまえも鼻クソぐらいとれるだろう?」

「と、とれるけど・・・。あんたみたいに汚くしませんっ~」

「いいや。鼻水かくときに鼻くそとれてそれをもぐもぐ食っているね」

「なッ!?ガキみたいなことするのあんたでしょ!?それでも、もう少し女性の前で、配慮しようとか思わないのかしらねぇ~?騎士様?」

「まあ、そう怒るなよ?」

「あんたは、もう少し常識というものを知りなさいよ!この!この!」

直江はどこから取り出したのかピコピコハンマーで俺の頭を叩く。

「あんま、怒ってばかりいると肌が荒れるぞ?」

「荒れたら、あんたのせいよ!」

「それはそうと・・・」

「なによ?急に真剣な顔をして・・・」

「昼休みのことだが・・・資料室にはおまえしかいなかったんだよなぁ・・・」

「まだ言っているの?魔女?その設定ダサいからやめない?」

「やっぱいなかったんだよな・・・」

「やれやれ・・・重症ね・・・邪気眼まんどくせ」

「じゃ、邪気眼じゃねーよ・・・」

直江とそれから口論しながら、帰宅することにした。


             *


夕飯を食べ終わった後、二階の自室に戻った俺は椅子に深く腰掛けながら今日起きた魔女との幻想的な出会いを思い出していた。

結局、あれはなんだったのだろうか・・・。あの転送体験となんか関係あるのか。あれも今思えば白昼夢だったような気がするが・・・。

そうか。これもあの闇の組織が関係している・・・。

そういうことなのかなぁ・・・。

「円卓機関か・・・」

そうポツリとつぶやいて俺は立ち上がってベッドに横たわった。

魔女エナト・・・。あの女は円卓機関と関係があるのだろうか。それともまた俺の変な妄想なのだろうか。いずれにせよ・・・。

好きな女は奪われたくはない。むくっと起き上がった俺は、暗闇の外に出て倉庫に封印してあったそれを解放することにした。

翌日の朝。

いつもより早く起きた俺は、たまには静香ちゃんと一緒に登校しようと静香ちゃんの登校ルートで待ち伏せしていた。

朝起きたときは、蝉の声も聞こえずどこか静かで清々しい朝であった。どこからか来たのか懐かしい匂いの風が吹いてそれを嗅ぐと騎士アロンゾとして超絶覚醒してしまう。

「俺は・・・征く!」

と、大声をあげて騎士としてふさわしい格好をして登校したのだ。

本来の自分になった・・・。そんな朝であった。

しかし、待ち伏せして30分もたつとさすがに出てくる汗が半端ない。

めちゃくちゃ汗が出てやばい状況。どこかで水分を補給しなければ倒れてしまいそうである。

隣の従者が五歩ほど離れた位置でこちらに背を向けていた。

「おい。直江。おまえ従者だろう。もっと、ちこうよれ」

と言ってみるが首を横にふるだけである。

いつものポニーテールが揺れて美しい。うなじのあたりを見てしまうとドキッとしてしまうがいつもそこは目をそらして「フッ」と冷笑を浮かべながらチラチラと直江の身体を見ている。

俺も騎士だ。仕方がないのだ。男の子だもの。いつも小憎らしいことを言ってくるが直江も黙っていれば少佐と同じセクシー美少女なのだよ。

と心の中で直江の身体を褒めていると、

「その恰好・・・あなたはおかしいと思わないの?」

と直江はようやくこちらへ向きなおって聞いてきた。なんだか哀れなものを見る目である。

「なんだ?直江よ?主人の格好がそんなにも気になるか?」

「いや・・・ふつうに気になるでしょう・・・職質されるレベルよ。その恰好・・・」

と直江に言われても、なにがおかしいのか理解に苦しんだ。

「うーむ。従者よ。おまえ頭大丈夫か?戦には普通この格好だろう常識的に考えて」

やれやれと外人のように手を広げる。

「は?常識・・・?あんたが常識を言う?じゃあ指摘してあげるけど。なんで・・・。あんた甲冑姿なの?」

「うん?そんなにこの甲冑が格好いいので聞きたいのか?」

「いや聞いていないのだが・・・?」

「いいだろう。まだ姫と賊が来ていないので話してやる。いいかよく聞け。こいつは、十四世紀の騎士たちが着たものをモチーフにしたレプリカだがそれなりに重たい。この甲冑は、プレートアーマのゴシック様式の装飾がなされていて、兜は眼の部分には細い覗き穴が空いていて、正面だけは視界が利くようになっているのだ」

と俺は兜を外して見せてやる。

「へぇ~あ、意外と装飾もしっかりしている」

と直江は割と感心していた。うむうむ。いい心がけである。

「この兜の上には、白い飾りの羽がつけられている。俺、この部分気に入っている」

と、俺は兜をかぶって頂を指さす。

この兜の重さが俺には心地よい。俺の好きな鉄の匂いがして落ち着く。 

間接は曲げやすく改造を施されており動きやすくしているが、装甲は薄くなっている。

着替え終わってから鏡で自分の姿を見たが久しぶりに着るので、重たさに慣れるのに時間がかかりそうだった。

「で・・・騎士、守様・・・あなたのその腰に帯びているものは?」

と直江はしかめた顔をしながら聞いてきた。

「こいつはデュランダルだな」

「え?あんたいつからローランになったの?」

ローランとは「ローランの歌」に出てくるシャルルマーニュという王様のめっちゃ強い騎士のことである。デュランダルという超絶強い武器を持っていたのだが・・・。俺は鞘をポンポンと手で叩きながらため息をつく。

「うむ・・・これはなぁ・・・。亡きローランからもらったのだ」

「マジで?」

「ああ・・・。こいつは結構高かった・・・ローランももう少し安くしてくれればいいのに」

「安く?あ、思い出した。ローランってあんたがよく買っていた武器屋の名前ね・・・もう三年前に潰れてないっけね・・・」

 と直江は苦笑した。

「それで、騎士様はどうしてそんな恰好でここに私まで巻き込んで待ち伏せしているのです?」

と直江は眉をつりあげて聞いてくる。

「ああ。今日はこの格好で姫と登校する。賊、早風がくれば我が聖剣でもって屠ってくれん」

「・・・。駄目だこいつ早くなんとかしないと・・・」

「なにがだめなんだよ?」

「それは・・・」

と言いかけて直江は近くを通る生徒たちの姿を見ると恥ずかしそうに眼を伏せて頬を赤くする。

「ああ・・・。あのさ、登校する生徒の視線が痛くて私もうこの場から離れたいのですが・・・」

と、述べる直江の言はあまりよろしくない。

「馬鹿なことはよすのだな。従者よ。戦場から逃げるとは末代までの恥ぞ?」

と俺は腕を組んで注意してやる。

「いや、もうこのさいそれでもいいのですが。もうあんたと関わるとろくなことない気がする・・・」

直江の士気がゼロになって壊滅寸前である。ここはこやつの好きなものを与えて士気を回復する必要があるな・・・。

「まぁ、そういうな。こんどローソンのスイーツ驕ってやるから」

「・・・。じゃあ、五分だけよ」

スイーツに弱い直江である。

と直江が五分だけいてくれることが決定したまさにその時、姫、静香ちゃんがこちらへ歩いてきた。

「ようやくご到着されたようだ。姫!」

と俺は大声をあげて静香ちゃんに駆け寄った。

「えっ・・・と・・・?あなたは・・・?」

と静香ちゃんは小動物のようにおびえていた。

「む。お忘れか?あなたの騎士アロンゾでありますぞ?」

「え・・・あ、あのう・・・・どなた・・・ですか?」

 と静香ちゃんは困惑していた。

「ふむう。やはり記憶が蘇ってはおらぬようだな。フラグメントメモリアエを一刻も早く集めなければ・・・」

 と俺は低い声で言う。

「フラグ?は・・・?え、え、あ、あの私・・・忙しいのでこれで・・・」

と足早に立ち去ろうとしてしまう姫の腕をつかんで止める。

「姫。アロンゾとどうかそうお呼びください」

「アロンゾ・・・さん・・・?その私、これから学校へ行かねばならないので・・・」

腕を振りほどく姫。こんなにも不安そうな顔で。道中が心配であった。

「それでは姫。お供しますぞ?」

「いえ、あの結構ですので!」

姫の声が大きくなる。少々驚く。今の姫はおかしい。

「その考えが甘い!」

と俺は喝を入れる。

「ふええ・・・?」

「美しいあなたはいつなんどき変質者に声をかけられるかわからないというのに。御身になにかあれば我ら騎士団はどうすればいいのです?」

「あの意味不明なんですが・・・騎士団って・・・なんですか?」

「静香~」

と我が姫を呼ぶ声がした。

「この声・・・まさか・・・!」

声があるほうを向くと早風が走ってきていた。

「早風・・・これが貴様との初めての邂逅というやつか・・・」

俺は不敵に「ゲヘヘ」と笑って見せると早風はひるんだ様子で俺を見ていた。

「って、うわ・・・騎士・・・?静香・・・この人だれ・・・?」

と早風は開口一番無礼な一言を浴びせる。

「いや、私もよく・・・」

と静香ちゃんも困っている。

ほら見るがいい。早風の登場で静香ちゃんが混乱しているではないか!?

早くこの悪魔を倒さなければ!と、俺は腰の剣に手をかけながら

「おのれぇぇ。賊徒早風!ここであったが百年目!我が聖剣の錆びにしてくれん!」

「えッ!?な、なに?」

と早風は我がただならぬオーラにたじろぐ。

「こ、この人・・・最近よく出るっていう変質者かな?」

と、静香ちゃんは早風の後ろに隠れながらそうごにょごにょいう。

やはり洗脳されているか・・・。

「う、うん・・・もしかしたら・・・」

と頷く早風。

「ぐうううう・・・。やはりなぁ・・・。早風。貴様が円卓機関のラスボス・・・姫を操りフラグメントメモリアエを破壊する魔王かッ!」

正体を見た!俺は早風を少年探偵がごとく指をさした。

「は?え?あんたさっきからなに意味がわからんことを」

と早風はその舌先三寸で俺に挑もうと近寄ったので俺はチャンスと腰を捻った。

「うおおおおおおおおおおおお!」

咆哮とともに抜刀し、剣を振り下ろす。

早風はすんでのところで躱した。

「あ、危ないだろう!あんた!」

静香ちゃんをかばうようにして立ちふさがる早風。

「ふん。ナイトを気取るとはなぁ。滑稽だなぁ早風!」

 皮肉を言いながら「ククク」と笑う俺。

「いや、あの・・・」

 早風は返答に困った顔をしていた。見れば周囲にギャラリーができている。

 ここでいいところを見せて、早風を無様にさせてやろうと秘儀をつかうことにした。

「だが、次の我が一撃を避けきれるか?我が秘奥義、ゴッドビーストブラストを・・・」

「少年漫画にでてきそうな必殺技ね・・・ダサ・・・」

と横で見ていた直江が呆れた顔で言った。

「う、うるさい!」

俺はいいところを台無しにする従者に注意する。

直江がいるところを見た静香姫は

「その直江さんよね?いつも守といる・・・。もしかして・・・この甲冑の変質者と親しそうだけど知り合い?」

と体を震わせながら直江に声をかける。

「いいえ・・私もさっきから付きまとわれて困っているんです・・・」

と直江は俺からススッ――と音を立てて遠ざかる。

「貴様!ユダりやがったな!?」

俺は直江を指さして怒鳴るが直江はそっぽを向いていた。

とそこへ

「二人とも安心してくれ!いま、警察呼んだから!」

早風はどや顔でスマホを見せた。

い、いつのまに!?

「おのれぇ!官警を呼ぶとは!貴様!卑怯だぞ!」

このような非道な行いをするものを俺は知らない。一騎打ちで戦うのが騎士道。

「貴様!それでも騎士か!」

「いや、俺は学生なんだが・・・」

とつまらぬ返答をする早風。

彼は騎士としての素質がゼロのようだ。

「くっ・・・だが、ポリスが来るまで時間がある!その首もらい受ける!」

早風より早くその間合いを詰める。

「え・・・?はや・・・」

驚く早風。

だがもう遅い。西洋剣術を習いにはるばるドイツとフランスへ旅に出て現地の爺さんから剣術を習った俺ではないのだ。

「死ねええええええ!」

と叫んで振り下ろす。もちろん彼を傷つけるつもりはない。すんでのところで止めて腹を殴って気絶させ、己が静香ちゃんを守にはふさわしくない存在であると自覚させるのが目的だった。

しかし、その瞬間に目の前の早風は消えていた。

青々とした水面が浮かんでみえた。

「あ・・・?」

と気づけば、ドブンと水の上に落ちていた。

「ゲゲゴボ・・・」

と俺は溺れてしまう。

「ここは・・・?また校舎のプール・・・だと・・・?」

何時ぞやの瞬間移動の事件を思い出す。

やはり・・・あれは夢じゃなかったのか・・・。

甲冑の中に水が入り込んで重くなっていく。

「ぐ・・・やべぇ・・・鎧が重くて・・・沈む・・・ぶくぶくぶく・・・」

と、その時。ものすごい力で体ごと引き揚げられた。

「ゴホッ・・・ゴホッ・・・」

兜を脱いでせき込んでいると

「やはり・・・。また、あなたですか・・・」

と言われた。

「む・・・?」

周囲を見渡すとさっきのプールからあの“資料室”へと移っていた。

「い、いったいこれは・・・また、夢・・・?明晰夢・・・?」

と俺が呟くと

「いいえ、夢などではありませんよ。小島守」

と、目の前にはテーブルの上で足を組んで座っている魔女がいた。

「む。おまえは・・・エナト・・・だったか・・・くそ・・・やはりこれは俺の夢なのか・・・」

バコッと魔女の杖が俺の頭に当たる

「いてっ」

「どうです?」

「なにをするッ!?」

「痛みを感じるでしょう?」

「あ、夢じゃない・・・」

「これでわかりましたか?」

「いや、でも現実とはわからんぞ・・・実は神が見せているまやかしの映像でしかなく、いわゆる胡蝶の夢の可能性も・・・」

「小島守は面倒くさい性格ですね」

「う、うるさい!夢ではないのならなんなの!?これ!?どういうトリックだ!さっきまでプールにいたのに!それに・・・あの転送・・・あれは・・・なんだ!?」

「魔法です」

「いや・・・そんなものは現実には・・・それは断じてないのだ・・・」

「姫を守る騎士でしたか・・・?小島守。あなたの妄想こそ現実にないはずですよ?」

「なッ!?おのれぇ・・・我が前世の記憶をおぬしはバカにするのかっ!?」

「小島守・・・。あなたとの話は疲れますね」

「それはよく言われるが・・・。で、なんで俺はここにいるの?どういうトリックだ?トランポリンか?はたまた落とし穴か?そうかぁ・・・。ドラム官からドラム官へ移動できるシステムなのか?」

「あなたは、静香と早風の関係を妨害した。そのため、あなたをプールに転送しました。なんのトリックもありません」

「だにっ!?」

「ダニ?」

「ちょっと噛んだんだよ・・・じゃなくて!え?それってマジ?」

「マジです」

え、なに?あれってこいつがやったの?やはりこいつあの円卓機関の関係者か?まさかなぁ・・・。

都市伝説的存在がこんなところに引きこもっているコスプレ魔女だったとは・・・。

しかし、どうやってあの場からプールへと移動させたんだろうか。

「ふ・・・む・・・。どういういトリック?あいや、魔術なのだ?」

「・・・。ですから。転送魔法です」

「あ、そういうことねぇ・・・」

どういうことなんだよ俺・・・。よくわからんが、なにかのトリックを使って俺をプールに追いやったのだろう。そうじゃないとおかしい。

「なんで邪魔したんだ?」

「どうか、彼女たちのことはほうっておいてあげてください」

「ほうっておくって・・・またそれか・・・いったいどういうことなのだ?」

「早風という存在が選ばれたのです。さすれば、彼女もこのままずっと忘れたままここで人間として朽ちて消えるでしょう」

「なにがなんだかいったい・・・」

「これで二度警告しました・・・」

「え・・・。次やったらどうなるの・・・?」

「・・・。燃やします」

「俺、燃やされるの?」

「灰にします?」

「やめてください。死んでしまいます。てか、なぜ疑問形?」

「なら、彼女たちのことはほうっておいてください。いいですね?」

「うーむ・・・」

「小島守。そのちんけな鎧を脱ぎなさい」

「え?ちんけだと!?貴様、我が鎧をバカにするとは万死に値するぞ!」

と、言っている間に魔女は杖を宙に振った。するとおれの着ていた鎧は勝手に分離して宙を舞ったかと思うと、甲冑の表面が赤く変色しドロドロになっていった。

「あ、あわわわわわ・・・」

 ガタガタと俺が震えていると、エナトは微笑を浮かべ

「次やったらこうなります」

とぐにゃぐにゃになって見るも無残になった鎧を俺の傍に落下させた。

「あ。がががががが・・・」

「わかりましたね?」

「は、はい!って、ちょっと!?まだ聞きたいことがあるんだが・・・今、それどうやってやったの・・・」

――プツン。

真っ暗闇。そこで俺は、寂しい冬の風の臭いを感じた。


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