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騎士の非日常

2章「騎士の非日常」


・・・気付けば放課後になり、直江と一緒に帰ろうとしたが、図書委員の直江は、雑用があると言うので図書室に行ってしまった。

直江には終わったらメールを送ってくれ、と言い、「部室に待っているぞ」と告げて俺も、部室に行くことにした。

靴箱近くの購買部の隣の隅に狭い廊下がある。その奥には使われていない狭い空き教室があった。

今では俺が作った「白銀騎士団の会」の部室となっている。

鍵を開けて中に入る。

俺が持ち込んだ中古の古びたソファや、ブラウン管のテレビ、ゲーム機器、椅子、テーブル、など綺麗に並べられているがここのところ来ていなかったからか、テーブルには埃がたまっていた。

本が全く入っていない本棚などは、埃だらけだろう。暇だし掃除しようかと思ったが、箒と雑巾、塵取りを探すのが面倒なので掃除するのを止めた。

窓を開けて空気の入れ替えをして扇風機を起動させる。

「暇だな。直江の図書の仕事終わるまで、ゲームでもやるかな・・・。でも、一人ではなぁ・・・。こんな時に柿崎少佐、いないし・・・」

「貴公・・・。呼んだか?」

閉めたばかりのドアがキィィっと開いて、この部活の顧問、柿崎里奈かきざきりなが入ってきた。

「び、びっくりするじゃねーか・・・」

「カカカ。これしきの気配を察知できぬとはおぬしもまだまだのう・・・カカカ」

このへんてこな笑いをする柿崎里奈は、長い金髪に青い目が特徴的な教師である。童顔な顔で身長170以上あるたぶんどっかの国のハーフ。巨乳でセクシーな人である。

年齢は細かくは知らないが、外見から見て、20代後半だろう。若く美人でいつもニコニコ笑っているから生徒の人気も高いが、この人の本質を皆さん、知らない。

この女曰く、前世はどっかの国の軍人で陸軍の少佐だったらしい。だから、俺は柿崎を先生ではなく、「少佐」と呼んでいる。

高校入って部活を作るのに奔走していた時、暇な教師を探していたらたまたま廊下でぶつかったのがこの柿崎少佐だったので、運命を感じた俺は、勢いで「顧問になってくれ!」と頼んだ。

部活を作る動機を聞かれたので前世は騎士であると言ったら信じてくれて柿崎少佐も「自分も昔は軍人だったのだ」と言って思った以上に気があって顧問になってくれた。

柿崎少佐はいつも軍服を着てこの部室に来る。毎日着てくる軍服は違うが、今日はドイツ軍の黒い将校服だった。しかも、勝手に黒いミニスカートをつけていていた。片手には鞭を持っている。如何わしい店とかにいそうな女だ。

その淫靡さもあってか、綺麗な白い脚が目につく。

柿崎少佐はソファに座って脚を組み、

「アロンゾ。戦争しようぜ、戦争!今日は戦車戦の気分だわ!この間は艦隊戦やったから今日は陸戦なのだぜぇ!」

と、部室に入るなり狂ったことを言ってくれた。まあ、いつものことである。

「生徒の前でその発言は危ないだろう。少佐に心酔している生徒、今の発言聞いたら驚くぞ?ま、とりあえず、今は、シュミレーションゲームで我慢するのだ。騎士団が増えたら試合とか合戦ができるから。たぶん」

「ええマジでぇ?騎士団早く増やしたいなぁ。私のような美少女が戦車に乗って戦うとか萌えるじゃない?」

と、少佐は帽子をクルクル指で回す。

「どうなのだろう?まあ、いいか。とりあえず「ドキ!萌え萌え美少女だらけの戦争。今日も元気に砲撃!」あるからそれやるか」

「まあ、素敵ね。それやりましょう」

「うむ。この戦いで貴様に騎士道のなんたるかを思いしらせてやる」

「ふふふ。中世の古臭い騎士に近代戦のなんたるかを思いしらせてやるわ」

ということでさっそくゲームスタート。

ゲーム開始三十分後。柿崎使節団から同盟のお誘いが来た。

「え?俺と同盟?」

「いいでしょ?別に?ねえ仲良くやりましょう~」

それでは対戦にならないが、まあ。いいか。

さらに、三十分後。

「ねえ。少佐。なんで国境付近に軍を展開しているのです?あの、私たち同盟国ですよね?攻めませんよね?」

「そうよ。安心して。これは演習だから。そう演習だから・・・」

「マジ?神に誓っていえる?騎士道に反さない?」

「神に誓って言える。キシドウハンサナイ」

「そうか。そこまで言うなら信じよう」

「でさ。友情の証として、資源頂戴よ」

「え?俺があげるの?」

「いいでしょう?」

雌豹のポーズをとって色気を出しながら、俺にねだる淫乱な少佐。

「残念だったなぁ!俺は色気に敗けない!」

資源をたらふくくれてやった。

それから五分後。

「うおおおお!柿崎の機甲師団が全てを飲み込んでいくぅう!俺の貴重な騎兵隊がぁああ!俺の国がぁああ!」

「我奇襲ニ成功セリ」

「だましたな―――!よくもだましてくれたな―――!宣戦布告無しで、不意打ちをするとは!」

「か――かっかっか!ヤーイヤーイ!」

「騎士道に反するとは!卑怯者め!」

「私、騎士じゃないもん。教師だもん」

「ああ。俺の国が滅んだ・・・クソ・・・」

「ああ。楽しかった。やっぱ、戦争は勝利するのが一番楽しいね。私の前世の軍人としての血がたぎるわ。ふーふふふ」

「おのれ――!こんなやり方、絶対、友達無くすぞ!せい!」

俺はテーブルの上にあったおもちゃのライトセイバーを手に取る。

「柿崎!その邪悪な心!この俺が浄化してやる!」

「来るか!白銀の騎士!」

柿崎少佐もテーブルの上にあったライトセイバーを手に取る。

「くらぇええ!」

「あちょ――!」

ポカポカ戦う俺たち。

善と悪の戦い。

不毛な争いは三十秒で飽きて終わった。

「飽きたな。こんな世界飽き飽きだ。暑すぎてアツアツだ・・・。てか、のど乾いた・・・」

ソファの上で涅槃像のように横になる柿崎少佐。

「おい。そこの敗北者。飲み物買ってこい」

と、えらそうに命令する涅槃、柿崎少佐。

俺は眉をしかめながら腕を組んだ。

「騎士に命令するとは・・・。無礼な。自分で買って来るのだ」

「暑いし、動きたくない」

「情けない。それでも軍人だったのか?」

「こまけぇこたぁいいんだよ!昔は、私にも部下がたくさんいたのだ。今は部下がいないからアロンゾに頼んでいるのだよ」

「ほう部下か・・・。少佐だから結構な数を率いていたのかな?」

 少佐の階級で率いることができる人数って何人だ?500人くらいだったか?

「なにせ、戦場で皆死んでしまったからな・・・。前世の記憶を引きついでいるものも知っているだけで数十人しかおらん」

「へー結構いるではないか」

「今でもサバゲとかみんなで集まってやるんだ」

「ってサバゲかよ・・・」

「で、いいから買ってきてよ――!」

ソファの上でじたばたする柿崎少佐。

「仕方がないな・・・」

俺は暑い中、自販機に行ってコーラを買って来る。

戻ってみると扇風機に当たりながら大人しく体育坐りをしていた。こうしていると可愛いいのだが・・・。

「はい」

キンキンに冷たいコーラを渡す。

「おっ。て、これコーラじゃない。私、炭酸無理なのよ・・・」

「なんだとぅ!早く言え!たく、ならそのコーラは俺が飲もう。で、なにが良いのだ?」

「メロンソーダかな?」

「それ炭酸だろ!」

「こまけぇこたぁいいんだよ!」

「そればっかり言っていればいいと思っていたら大間違いだぞ!まったく・・・。少佐と言うよりは、わがままなお姫様だな・・・。もう少佐が買ってくるがいい」

少佐は、よく外人がやるやれやれと両手を大げさに広げて首をふる。

「ほならね・・・。君が買ってこいと私はいいたいのよ」

「いや、その『ほならね理論』意味がわからんから・・・。結局俺が買いにいくことになっているじゃん?なにドヤ顔で言っているの?」

「ほならね。ジャンケンで決めようじゃない?」

「よし・・・それならいいだろう・・・」

結局、ジャンケンでも見事負けた俺は、再び飲み物を買いに行くことになった。

その道中・・・。

廊下に、何者かが昇降口の柱にもたれていた。ちょうど陰になっていて暗く素顔はみえない。しかし、このシルエットには見覚えがあった。

ちょうど少年漫画に出てくる謎の敵のような登場シーンに身震いする。

「ふ。待っていたぞ」

影はぬうっと伸びてその素顔を表した。

特徴がある眼帯をつけたその顔を俺は知っている。

「げぇ・・・夏候惇・・・」

「ふふ。久しいな貴公・・・」

「あ、ああ・・・」


                   *


場所は移って放課後の屋上。

 吹奏楽部の楽器のパーパーとやかましい音と運動場では、陸上部や野球部の練習するうるさい声がまじって響いていた。

 屋上の手すりはところどころ錆びており、柵も壊れかかっており大変危険である。

そんなデンジャラスな場所で、俺は隣のクラスの夏美と話していた。

ちなみに、屋上は入室してはいけない。この夏美が、カギをぶっ壊して勝手に開けやがったのだ。俺は普段では真面目でクールな生徒を演じているのでこのようなヤンキーな行動は看過できなかったが、夏美の黒いオーラに惑わされて屋上で話すことになった。単に屋上で中二会話に憧れていたとかそういうわけではない。

そういうわけではないのだ。

「で、夏候惇・・・話とは・・・?」

と俺は夏美に聞いた。夏美は俺の隣で錆びついた柵にもたれながらポケットに手を突っ込んでポーズをとっていた。

ちなみにこの夏美は小学校のころからの腐れ縁。所謂、痛い娘でいつも黒い眼帯をしたぽっちゃりとした体系の女の子だ。

ある時は夏候惇。

ある時は、次元の超越者。

ある時は、絶対遵守の王の力を持つ者。

ある時は、霊が見える娘。

またある時は、宇宙からの使者。ちなみに宇宙名は「カコウ・トン」。宇宙名ってなんだよ・・・つか、宇宙名まんま夏候惇やん。

と、まぁ、いかれた子なのだ。直江が言うには俺も同類らしいが一緒にしないでいただきたい。こんなに設定を多く持つやつとは違うのだ。

ちなみに、今はお気に入りの夏候惇モードだ・・・。三国志好きな彼女は俺のことを曹操的な人だと思っている。

まぁ、俺も好きなんだけどね・・・。先ほど廊下でばったり会ったとき、「ふっ・・・惇よ・・・昨日ぶりだな・・・」って言っただけでこういう話をやたら振って来るのよ・・・。

「孟徳。実はなぁ。おまえに見せたいものがあるのだ・・・」

と、喫煙者のようにふうと息を吐く夏美。タバコ吸ってないのにタバコすっているような仕草をする。

俺には見えない不可視タバコが指の間に挟んであるのだろう。実に不良ですな。

つか、息くせぇ・・・。

歯磨きしているのかな?この子・・・。本当に不可視タバコ吸ってんじゃないのか?にんにく味なのか!?それっ!

「へぐ・・・」

「どうした?鼻を抑えて?この時期に花粉症かな?」

「へ、へっくしょん・・・うん・・・実は・・・ね・・・」

俺はそう言ってわざとらしいくしゃみをして、顔を逸らした。

「それで、話を戻すが、これは一旗上げる好機かもしれんぞ」

と夏美はニヒルに笑った。

「え?なに、いきなり一旗あげるって?見せたいものがあるって言っていたじゃん」

「ああ。見せたいものがある。だが、見せたらおまえは、乱世に身を置かなければならないだろう」

「ど、どういうことだ・・・?」

「円卓機関がふたたび活動を開始した」

「なっ!?円卓機関・・・だと・・・!?」

円卓機関とは、学校一美少女であり俺のメインヒロインであり前世は姫様である静香ちゃんを愛でるために勝手に何者かが作った秘密結社だ。

起源は不明だが、いつの間にか静香ちゃんの周囲を密かに護衛するようになり、彼女を害そうとするもの、あるいは彼女に近づこうとするものを徹底的に排除してきた恐ろしい結社。と言われている・・・。

と言われているというのは、実際本当にあるのか判断がつかないのだが、しかし、不思議と静香ちゃんに告白アタックをしかけるものはおらず、いたとしてもよほどのショックからか記憶喪失。知らない場所にいて迷子になった。なぜかボコボコにされていたなどという噂が広がり謎の組織「円卓機関」という都市伝説が生まれたのである。

 俺はだが、こうした陰の秘密結社が存在していると疑わない。

学校掲示板にはなぜか「円卓機関」を名乗るもののメッセージがのっており、「今日も一人始末」といつもコメントされているのだ。最近は全くコメントがのっておらず、忘れかけていたが伝説的な存在の彼ら、もしくは一個人が表舞台に再び出てきたのは驚きである。

実際、俺は一度も妨害されたことはないのだが、彼女に近寄りすぎて血祭りになったという案件が山のようにあるのを思い出すと、鳥肌が立ってしまう。

「ど。どういうことだ・・・?まさか、静香ちゃんに告白しようとしたものをまた血祭りにあげたのか?」

「・・・。その逆だ・・・」

「逆?」

「お前がそれを知ったら・・・乱世に突入するだろう・・・覚悟はあるのか?」

「乱世乱世うるせーなぁ・・・いいから教えろよ?」

「もう・・・人がせっかく気分にのっているのに・・・はい・・・」

そういって口を尖らせながら夏美は、双眼鏡を俺に渡した。

「なにこれ・・・?」

「テニス部のほう見てみ?」

言われて、運動場の端にあるテニスコートのほうへ双眼鏡を向けて覗き見る。

「うーん?あっ!静香ちゃんだ・・・水泳部今日休みなのかな?なんでテニス部の試合見ているんだろう・・・?」

「彼女の視線の先を見るがいい・・・」

「お・・・うーん・・・早風くんがいるね・・・」

三年の早風先輩。彼はテニス部のエースにしてイケメンである。高身長でジ〇ニーズ事務所のセンターとかで輝いていそうな人。爽やかで女子から爽やかな風こと「爽風」という綽名までつけられている。

しかし・・・。この早風の存在が・・・。

なにか嫌な予感がしつつあった。

「もう一度静香ちゃん先輩を見るがいい。孟徳よ・・・。静香ちゃんさぁ・・・。目がハートになってね・・・?」

「んな。エロ漫画みてーになるわけねーだろう?」

双眼鏡を再び覗くと・・・・。

・・・ってなっている―――!なっているよ―――!

「ど、ど、ど、どゆこと?」

「どゆことって孟徳。おめぇ。もう、静香ちゃん先輩は、彼にホの字なのよぉ」


「うそだどんどこどーん!」

 

と、俺は屋上で思わず叫んでしまう。

「もうあれよ?プロエロ漫画家が書いた女の子みたいな目しているっしょ?今の静香ちゃんぜってぇーハート型のパンツ履いているってばよっ!」 

「やめろよ・・・目がハートなだけじゃんかよ・・・あとその例えやめろよ・・・静香ちゃんを卑猥な目でみたくねーんだよ・・・パンツのほうに視線がいっちゃうじゃないかよ・・・ハート型のパンツなんて履く女いねぇーよ・・・常識的に考えて・・・」

「でも見てみるお?あれだれが見てもあいつら恋しあっているお?もうエロゲの登場人物の動きを見ているような感じだお?」

「た、たしかに・・・」

その一挙一動を観察すると、休憩時間に水筒渡したり、タオルで汗を拭いてやったり、肩揉んでやったり、ボディタッチしまくったりしている・・・。

ファ〇ク!

 って、あれ・・・?なにかがおかしい・・・。

「なんで・・・件の円卓機関は早風を抹殺しないのだ?ああして静香ちゃんにボディタッチするなんて・・・俺でもやれないのに・・・。や、やつらは近づこうとするものを排除してきた噂があるのに・・・所詮は都市伝説でしかなかったのか?」

「グッドな質問だ。実はね、その件の円卓機関は彼らの交際を応援すると振れがでたのだ・・・」

「な、なに!?」

「さっき、学校掲示板に載せられた・・・」

「な・・・ぜ・・・?」

「それは、静香ちゃん自身が恋した人・・・だから・・・かな・・・?」

「嘘だろ・・・そんな・・・冗談だと言ってくれよ・・・」

「ところがどっこい・・・・・・・夢じゃありません・・・・!現実です・・・・!これが現実・・・・・・!」

そんな無慈悲な現実を聞いた俺は

「ファアアアアアアアアアアア!」

絶叫した。

「おのれぇ・・・。騎士アロンゾの領土であるこの校内で乳繰り合うとはいい度胸だぁ早風ぇ・・・」

いつから俺の領土になったかは聞かないでいただきたい。すべてはグレートな目的のためなのだ。

「領主の妻をNTRするとは、さすがは早風・・・といったところ・・・か・・・」

と言ってふっと冷笑を浮かべる夏侯惇。

「くそ!こうなったら早風をぶっ潰しに行くぞ!夏候惇!決闘裁判だ!」

と、言って腕を天高く上げた。

俺は血走った眼をしているだろう。

「ベルセルクの異名を持つ白銀の騎士を怒らせるとどうなるか見せてやる。この校舎は紅蓮の炎に包まれ地獄の業火によって焼き尽くされるのだ・・・」

クククと怪しい笑みを浮かべゴゴゴゴと効果音もつける。

「孟徳。自分の領内を焼き尽くすのはよくなくね?」

と夏侯惇が突っ込む。

困ったやつだ。これだから甘ちゃんは困る。

「ふん・・・いい機会だ。俺を妄想狂のバカよばわりする輩どもにこの力を見せてひれ伏させることも大事だ・・・」

「暗・・・君・・・」

「なんとでもいうがよい。今こそあの力を解放するときっ!ふおおおおおおおおおおお!」

「この禍々しいオドは・・・・。いいだろう孟徳・・・乗ってやる。してどうする?」

「よし。やつをぶっ潰す。今からテニスコートに突撃する。んで、やつを腹パン」

「あのさぁ。孟徳。めっちゃシンプルだけど、それって脳筋・・・」

「んだよ・・・じゃあなにか策でもあるのか?」

「ククク。お任せあれ・・・パパパラパー」

と効果音を出して夏美は、どこかの鍵を取り出した。

「それはなんですか?」

と俺は中学英文に出てくる例文のような質問をする。

「これは鍵です」

と夏美は答えた。

「鍵・・・?まさか、異界の門を開けるときが来たというのか・・・」

「ああ・・・その通りだ・・・世界のコンドラチェフ波動の終期が近い・・・我らはゲートを抜けて新世界にたどり着くのだ・・・」

「で・・・。真面目な話、その鍵ってどこの鍵・・・?」

「うん・・・。テニス部の鍵だ・・・」

「部室の?おお・・・で、そんな鍵をなにに使うのだ・・・?」

「鍵を開けて・・・することと言えば・・・」

っ!?

夏美がなにを言いたいのか俺は瞬時に理解した。

「うちの学校のテニス部は硬式テニス・・・つまり・・・硬式ボールを全て廃棄してしまい軟式ボールにする・・・さすれば、チェリーボーイの早風はぽにょんぽにょんのオッパイみたいな感触の気持ちいボールに惚れてしまい、静香ちゃんを諦める・・・そういうことか・・・」

「孟徳・・・ふざけているのか・・・?」

「んだよ。じゃあ、なんだよ・・・ほかにどんな手が・・・」

「この鍵を開けて孟徳が早風くんのタオルをパクッてくるのよさ」

「なんでさ?」

「わだすがほすぃーのです」

そういって夏美は鼻の下を伸ばしてゲへへと笑う。

「馬鹿か!?」

「うぬに言われとうない!」

夏侯惇こと夏美はそういって赤面する。こんな時に女の顔をするとはさては・・・こいつ・・・。

「あ!さてはてめぇ早風のファンだなぁ!」

「ち、違う!私はこっそりと彼を愛でるのが好きなのだぁ!早風を独り占めにする静香ちゃん先輩にはこの粘着銃を使う!」

と、注射器にトリガーがついた銃を夏美はどこからか取り出した。

それは、18禁ゲームの触手が出す愛液のような粘液であった。

「お、お、おまえ・・・静香ちゃんになにをする気だ!?」

「これをかけてしまえば、静香ちゃん先輩に惚れるものたちは、黙ってはおられまい」

「貴様・・・まさか・・・」

こいつがなぜ俺に双眼鏡であのシーンを見させたのかこれで理解できた。

要するに風早ファンにとって静香ちゃんは亡き者にしたい存在なのだ。

しかし、都市伝説である円卓機関の存在がある。UMAとかめっちゃ信じるこいつはとくに警戒して自身で排除はできない。

そこで、夏美は俺を利用して静香ちゃんを排除しようとしているのだ。

「させないぞ・・・夏候惇・・・おまえの反逆を俺は止める!」

「やはり、こうなる運命であったか・・・これが世界の選択だというのか・・・」

「・・・こい夏候惇!」

睨み合うこと数秒。

「・・・あ!そうだ!」

と、突然夏候惇が手を叩いた。

「どうしたのだ・・・?」

「この18禁ゲームの触手が出す愛液のような粘液を早風くんにかければいいんだ・・・さすれば、もっとゲへへなシーンを手に入れることができる・・・ククク・・・」

と言って不敵な笑みを浮かべる。

「・・・ど、どうしてそうなる?」

「孟徳よ・・・なぜだと思う?わかった時、おまえは深淵の一端を覗き見ることになる・・・」

いや、キリッとした顔で言われても・・・。

と、いうことで早風に粘液をかけるために俺たちはテニスコートへ向かった。


「いいか、孟徳よ。チャンスは一度きりだぞ?」

夏美は手にカメラを持って茂みに隠れた。

「ああ。わかっている。風早の顔にぶっかければいいんだな」

「そうだ。早風くんに顔射すればいいのだ」

「よし、参る!」

賊徒早風!姫に手を出すとは万死に値する。忠臣アロンゾが討ってくれん。我が領土内での不埒な行いを正す!

「チャアアアアアアアアジ!」

と俺は片手に粘着銃を持って疾駆した。

相手との距離はわずか10メートル。粘着銃は射程距離が1メートル。

ベンチで休む早風と目が合う。傍には静香ちゃんの姿も。

「死ねええええええ!」

と銃を構えた瞬間。

目の前の風景が変わっていた。

「え・・・・?」

ドボォと音を立てて俺はどこかに落下した。口と鼻に水が入り込み、溺れかける。

「ゲゲゴボ・・・」

海・・・?

手をバタつかせながら上に上がる。見覚えがある風景であった。

そこは、校舎のプールの中であった。

「な・・・なぜ・・・こんなところに・・・?」

頭にクエッションマークが何個も浮かんでいると、空からフラフープのような円が浮かび円の穴から夏美が落ちてきた。

「ゲゲゴボ・・・」

と俺と同じように溺れかける。救い出してやると夏美もわけがわからない顏をしていた。

プールから上がった俺は、空にあった円があった場所をみたがそこにはなにもなかった。

「なぁ・・・さっき俺たちテニスコートにいたよな・・・」

と言って俺はテニスコートのほうを見た。

「・・・。瞬間移動したようだぞ・・・孟徳・・・」

と夏美は顔面が蒼白している。

「ま、まさかこれが円卓機関の力!?いや、それかエイリアンの仕業・・・?あのフラフープはUFO?クククク・・・フハハハハハハ・・・」

と、俺は笑い飛ばすが次第に背筋が凍るように寒くなってきた。

「ど、どうやら、そのようだな・・・孟徳。ついにやつらは”アレ”を完成させてしまったようだぞ・・・アハハハ・・・ハハハハハ・・・」

「「わあああああああああああああああああ!」」

俺たちはたまらなく怖くなってその場から逃げ出した。しかし、ずぶ濡れで服が重くなっているのでうまく逃げられない。

それでも、びちゃびちゃと音を立てながら夏美はその太った体で素早く脱兎のように帰り、俺は、逃げようと思ったがこんなときばっかり少佐のメロンソーダをふと思い出してしまった。エイリアンよりも怖い存在であるので、慌てて部室に向かうことにした。

そして、この“事件”をだれかに知ってもらいたくて俺は走った。

途中の廊下で、視界が歪む。

「あん?あれ・・・視界が・・・」

立てなくなって地面に膝をつくと、床に見たこともない文字が浮かんだ。文字はあらゆる形に変形していき、見覚えがあるラテン語や英語になったかと思うと頭の中にその言葉の意味が浮かんだ。

『一切を忘れろ』

と赤い血の色で書かれてある。

途端身震いがした。そのままなにかに激突しかのような衝撃が頭に走り、俺は気を失った。


目を覚ましたのが保健室であった。どこをどういう経路でここに来たのかわからないが、だれもいない無人の保健室のベッドで目を覚ました。養護教諭の姿がないというのは奇妙なものだ。

制服はびしょ濡れにはなってはおらず、まるで先ほどの奇妙な出来事が夢のような感じであった。

“まるで最初からここにいたかのよう”な錯覚を覚えたがその感覚は一瞬で終わる。

とにかく脱力感がひどく恐怖と興奮で頭も混乱したまま俺は部室へ向かった。

「どうやら夢でも見ていたのかなぁ・・・」

 とポケットの中を見ると粘着銃が入ってあった。

夢・・・ではない・・・だと・・・?恐ろしくなった俺は、急いでそれを廊下の窓から放り投げた。

よろよろとした足取りで部室に行くと柿崎少佐と直江が楽しそうに女子トークをしていた。

ゆらりと亡霊のように部室に入る。

二人とも俺のいつもと違うただならぬ雰囲気に驚くことだろう。

「あ、守さぁ。あたしもメロンソーダを買ってきて」

と直江。

「アロンゾ。メロンソーダ買ってくんの遅くねぇ~?一時間もかけて、どこをふらついていたんだよ?」

 と少佐。

ちっとも俺を気にかけてくれない。

「おい。おまえら・・・ちっとは俺の表情見てなんか声かけたりするべきじゃないのか?」

俺がたしなめると

「「え・・・?」」

と首をかしげる両者。

「こいつら・・・」

俺はぷるぷると怒りのあまり震えてしまう。なんだよ・・・。そんなに冷たいやつらだったのかよ・・・。

「あー・・・なんかあったの・・・?」

と直江はどうでもよさそうに聞いてくる。

「くっ・・・俺は今・・・とても悲しくそして恐ろしい体験をして鳥肌が立っているのだ・・・」

と言って俺は俯き震える。

「え?どうしたの?あっ!入れ歯排水溝に落とした?」

と少佐は心配そうに聞いてくる。

「入れ歯じゃねぇーよっ!てか、入れ歯してねーよ!」

「じゃあ、なんだろう?あー・・・差し歯!差し歯落としたん?」

「あんたどんだけ俺の歯を欠けさせたいの?」

「じゃあね・・・あ~。うんこ?入れ歯飲んで便秘になったの?」

と少佐は保母さんのようにおなかに手をあてる。

「毎日快調だよ・・・あと、入れ歯は飲んでない」

と俺はため息をつく。

「うらやましい・・・」

と少佐。

少佐は便秘なのか・・・。じゃなくて!

「そうじゃなくてだなぁ・・・。俺は静香ちゃんに彼氏ができたみたいで悲しいのだ・・・」

「へー・・・え?マジで?デジマ?」

と、直江は今さっきまでくだらないテレビをジッと見て尻を掻いているおっさんのような目から打って変わっていた。

「あー・・・NTRされた・・・くそ・・・」

と俺は舌打ちする。

「いやさ、もともと静香ちゃんはおまえのものじゃないからNTRにならなくねぇ?」

直江はそういって小ばかにしたような笑みを浮かべる。

めっちゃムカつく・・・。

「ぐぬ・・・」

俺は歯ぎしりする。た、たしかにそうだけど・・・さぁ・・・あんまりじゃないかよ・・・。

「で、その相手はだれなのです?です?」

直江は目を輝かせてマスコミのように聞いてくる。

「早風先輩らしい・・・」

と俺はうなるように言った。

「あー早風先輩かぁ・・・」

納得した、という顔で直江は急に冷めた顔になった。あの早風という男と静香ちゃんなら意外性もないということなのだろうか。二人の仲の良さはここ最近有名であったらしい。

んだよ・・・。知らないのは俺だけだったのかよ・・・。

今までの静香ちゃんへの誘いや、ひた隠しにしながら騎士として彼女を守っていたこと。それらすべての行動が一挙にピエロ化したようだった。

「早風くんねぇ~女子に人気みたいだね~成績もいいみたいだし。アロンゾ君も彼を見習わないとねぇ~」

と少佐はのんびりと腹立つことを言った。

早風先輩。下の名前は知らないがその名を知らないものはこの学園にはいないだろう。粘着銃を撃つ前に遠目で見た感じ、目鼻立ちが整った黒髪の背が高い少女漫画から出てきたようなクールな男で、めちゃくちゃモテそうな顔をしていた。こういう輩を見ていると腹が立つ。比較されるともうトサカきちゃう。

「で、でもさぁ。双眼鏡でたまたま静香ちゃんが目をハートにして早風先輩とたまたまイチャイチャしているように見えただけ・・・。まだ、二人が付き合っているとは決まったわけじゃない!そう!そのはずだ!そう!こ、これこそシュレーディンガーの猫箱!箱の中はNTR静香ちゃんとNTRされない静香ちゃんがいるのだ!」

と俺はあらがう。

「で、でたぁ~中二大好き用語。シュレーディンガーの猫箱。最近聞かないけど、まさか出るとは・・・。てか、もう公然の事実みたいだし、観測者いるし、猫箱関係なくね?てか、猫箱理論にすらなってなくね?」

と直江はひどい現実をつきつける。

「そ、そうなんだが・・・や、やつの周囲はおかしいのだ」

と言って俺はプールに瞬間移動したことを話した。恐らく円卓機関が関わっている。少佐は興味津々な顔で聞いており、直江は、「まーた始まった・・・」という顔で聞いていた。

「円卓機関あぁぁん?ばっかじゃねぇーの?んなぁのあるわけねぇーつうの」

と直江はしかめ面である。

「いや、しかし、確かに瞬間移動したんだよ!」

俺は必死になって説明したが直江はまるで話を聞いてはくれない。

「ああ。じゃあさ。円卓機関?とかいうあんたが好きな秘密結社が二人を守っているんでしょう?もうさぁ。ほうっておけばいいじゃない?はい。おしまい」

と言って直江はこの話を締めくくろうとする。

「いやさ・・・その円卓機関は・・・もともと俺のメインヒロインに近づこうとするやつをボコってきたの・・・」

と、その時ティンと俺の頭の中でなにかがひらめいた。

「あ、そうだぁ!円卓機関と早風はつながっているんだ!早風こそ円卓機関の影のボス!己が静香ちゃんと繋がりたいために組織を占有し、暴君となって我が姫をかっさらいにきた魔王なのだ・・・なるほど・・・」

俺は腕を組んでうんうんと頷く。

「いや、まったく理解できないんだが・・・」

と直江は呆れた顔をしていた。

なぜこいつはいつも俺の名推理を理解できないのだろう。

だが、そういうことだったのだ。あれはトリック。謎の新兵器を導入して俺と夏美を巨大なトランポリンみたいなのを使ってプールへ飛ばしたのだ・・・。図にするとアホぽいがそうとしか考えられない。そういう変則な思考こそ真実ッ!これぞコペルニクス的転換・・・。

うむ・・・天才か。俺は・・・。

「決めたよ。俺、円卓機関をぶっ潰し、早風もぶっ潰して静香ちゃんを取り戻す!」

柿崎少佐もすくっとソファを立って明後日の方向を指さす。

「そうだ!いけぇええええアロンゾ!己が信念を貫けぇ!」

「よっしゃあああ!俺は、静香ちゃんを守る!」

「あのう・・・先生・・・この馬鹿に燃料投下するようなことやめてくれませんか・・・?」

と言って直江は頭が痛いのか額に手を当てていた。

「かっかっかっか。なんか楽しそうだったから」

と少佐は愉快そうである。

「うおおおおおおお!」

と咆哮する。俺は燃えていた。二人がなんか可哀想な目で俺を見ている気がするが気にしない。

わけのわからない魔法?を使い俺と静香ちゃんの恋路を邪魔する円卓機関!

俺はおめぇらをぜってぇーゆるさねぇからなぁ―――!

「で、アロンゾさ。メロンソーダはどこにあんの?」

少佐は俺が手ぶらなことに気が付いた。

 「今から買ってくる・・・」



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