11章「風車とむくろの村」
11章「風車とむくろの村」
一本のけやきの木が風で揺れていた。
「どこだ・・・ここ・・・」
後ずさると枝を折る音がした。
あたりは紅葉と、枯れた樹木があった。
それでいてセミが木にはりついて元気に鳴いている。
前を見れば、壊れた風車がキィーキィーとゆっくりとくるくる回っている。
異様でさびれた村だった。
廃村なのかもしれない。
草木に覆われた小道にはコオロギが跳ねていた。
「どこだよ・・・ここ・・・」
と俺はまた同じセリフを吐いていた。
バックの中からクスクスと笑い声がする。
中をあけると、涙を流しながら首が大笑いしていた。
俺は震えた声で
「なにを・・・した・・・?」
と問い詰めた。
バックから伸びていた首の髪の毛を乱暴に掴んで出す。
白く青ざめた醜い顔でにんまりと笑いながら
「あなた転送されたのよ?」
と首は平気な顔で言った。
見れば、切断された首の血は黒くなって固まっていて、かつて好きだった女性の姿が痛々しくなっている。
顔もボコボコとどこか変形している。
まるで別物だった。その上、悪意に満ち、邪悪な笑い方をする。
「もとにもどせ」
俺は首をぐらぐらと揺らすが、首は愉快そうに笑うだけだ。
「無理よ。戻れないわよ」
ミイラの顔になっているが、ああ、青ざめることもできやしない。まったく笑えないぞ。
俺は騙されたのだ。
そしてはたと気づいた。ああ、エナトに言われたとおりだ。聞いてはいけなかった。話してもいけないのに。
俺はそこでうずくまるようにして頭を抱えた。
この先どうしたらよいのか。またとんでもないことをやらかしてしまった。エナトになんて言われるか。
ポケットの中から携帯を取り出したが県外だ
風が吹いたのか。
かたっと風車の隣の小屋から音が聞こえた。
「なにかいるみたいね」
と首が小声でささやく。
首を抱えて慌てて、木の陰に隠れると、口のなかでざらついた感覚がした。
吐き出すと砂のようなものを混じっていた。
俺は今ミイラになっているのだ。
だからか変なものがまじっているのだろう。だがとても不愉快だ。
その様子を首はニタニタと楽しげに笑っている。
俺の今の姿も、そして首だけのしずかちゃんもひどく陰惨である。
こんなものを俺は愛していたのか?そう考えてしまったことに、急に腹が立って首の口を乱暴にふさぎ、息を殺す。
やがて、甲高い邪悪な子供の笑い声が聞こえてきた。
にゅうっと大きな青白い顔が風車の後ろからでてきた。
それは、ピエロのように笑いながら顔が歪んでいた。
手足は短く小さいが、体と胴体が異様に大きく、巨木のようであった。
まだ幼く、きいろい子供の声でキャッキャッとはしゃいでいる。
その中には、頭を兜だけつけた異業種もいる。手には斧や長い槍をもち、歓迎しているわけではない。
「集まり始めたわよ?」
ともごもごと首はしゃべる。
「逃げるしかない・・・。いいからはやくもとの場所へ戻せ」
と俺はカラカラなしわがれた声がでた。
首は返事の代わりに目を閉じた。
「はやく、もどせ」
俺は首を強く揺らす。絶望的な悲鳴をあげたくなってきた。
「さっきも言ったわよね?戻れないわよ?」
と首は疲れた声をだす。
「エナトがこんなこと許さないぞ」
首はイライラした調子で
「エナトエナトとうるさい。あんなまがい物。わたくしはなにも怖くないの。あとね。許されなくていいわよ。わたくしはただ欲しいだけの。すべてを。称賛を。愛を。承認を。名誉を。安泰を。情欲を」
「くそが・・・おまえをやつらに投げてやりたい」
苦々しくいったつもりだが、首は急にさめざめと静香ちゃんのように泣き始めた。
情緒が不安定なのか。それがわざとらしくて余計に腹が立ってくる。
「とにかくここから離れるぞ・・・」
そういうと急に憤怒のような。燃え盛る炎のような目でにらみつけてきた。
「なんだよ・・・」
と俺もにらみ返す。
「あなたはなぜ戦わないの?その力を持っているのに」
その力とはドゥベルクの鎧のことだろうか。でも俺は鎧を着て戦ったことはない。エナトに止められたし、やったのは銃を撃ったことだけだ。
「戦えないんだ・・・おれは・・・それに戦いかたもわからない」
と正直に言った。
「愚かね・・・。力があるのになにもしないなんて」
と首はぶつぶつとささやくように言った。
「あるようだが、使うと呪われるんだよ・・・」
俺は風車がある小屋を観察しながらいう。
「嘘。そんなこと。あの醜いものたちを容易く倒せるのに。あなたは万の軍を葬れる神話の世界の戦士なのよ」
「いい加減黙ってくれ。どうせ俺をだますつもりだろう?しゃべったらその舌を切り裂くぞ」
俺は脅したつもりだがまるで効果はなかった。
「わたくしはだましてない。あなたはそう感じているかもしれないだけ。むしろだましているのはエナトなのよ」
「なにを」
「わたくしがあなたを騎士にしてあげる。ねぇ、わたくしに身をゆだねて。そうしたらあなたに力の使い方をおしえてあげる」
「やめてくれ・・・俺を誘惑しないでくれ」
とてつもない不安を感じた。もうこんな首を置いて逃げ出したい。でもエナトの期待を裏切りたくない。もしもこの首をおいて逃げたらどうなるのだろうか。
「ねぇ。一緒に私たちの世界にいこう?ね?守も大好きでしょ?異世界?」
首がささやく。
「・・・。」
俺は気づけば自分の干からびた手の皮膚がぴくぴくと震えているのに気付いた。
この声を聴いてはいけない。だが、耳をふさぐこともできない。
首は静香ちゃんの甘美な声でしゃべる。
「かわいそうなあなた。醜い姿にもなって。友にも親にも認められず、信じた大人はあなたを裏切り、あなたは利用されている。そして美しい神のような。魔法を使う女はあなたをたぶらかし騙している。あなたをこんな醜い姿にして。砂のように乾いたあなた。わたくしは違うわ。あなたを潤い、満たせてあげる。わたくしたち今はこんなにも醜いけど。ねぇ。きっととても美しくなるわ。一緒にあちらの世界に行きましょう?ねぇ?一緒に行ったらきっと毎日楽しいわよ?あなたは本当の騎士になるのよ?いいや、騎士だけじゃない。王にもなれる。わたくしたちの王になって。そして、わたくしと一緒になりましょう?あなたが望むものをわたくしはあたえてあげる。あんな魔女なんかと一緒にいたってダメ。あの女は自分のことと自分の描いた世界しか考えてないの。その世界にあなたはいないのよ?あなたは世界を裏切り、エナトはあなたを裏切り、残ったあなたはただ一人後悔するのよ?わたくしは違う。あなたを甘やかし、あなたを愛し、あなたを認め、あなたを王にする。わたくしはそれだけで満たされてしまうの。あなたは移ろいゆく情念に嫌気がさしてしまうかもしれないけど、それでいいのよ。あなたは物語となるのよ。語られるの。永遠に。あなたははじめて生きているという実感がわくのよ?あなた生きていると感じたことが今ままであって?わたくしはなかったの。いくら欲しても足りないのよ。欲望のなにがいけないの?もつことはいいことよ。制限してどうするの?あなたたちがあがめてきた聖人という人たちも欲望には勝てなくてよ?勝てるのならなぜ、教えや悟りを他者に伝えたいとなさるの?伝えたいという承認欲求には勝てないの。ならばわたくしたちは聖人になる必要なんてないの。ねぇ。絶対的ななにか。とても美しくて、かっこよくて、可愛らしくて、すばらしくて、そんな存在から愛されたいと感じたことはない?あるわよね?それは親かもしれないし、女や男かも。でも、そうした存在もいずれあきてしまったら?あるいはその人から飽きられ、愛が信じられなかったどうする?ねぇ?どうする?ええ。そうよね?超越した存在。永遠不滅のものから愛されれば生きていると実感がわくわよね?わたくしを愛して欲求を満たしてくれる永遠のお方。そう。神様の愛を感じたいの。絶対の愛が欲しいの。でも、そんなものがないってわかったらあなたどうなると思う?きっと絶望するわ。狂ってしまうわ。生き方がわからなくなるの。どうしたらいいの?決まっているわ。永遠を求めて求め続けるの。渇き乾いてしわがれた声しか出なくなって、やがて口をきけなくなるその日まで。ね?わたくしたちから欲望をのぞいたらどうなるの?ねぇ?異世界へいけないってわかったらどうなると思う?ねぇ?何者にもなれないんてことを知ったらどうなると思う?ねぇ?騎士にもなれないんて知ったらどうなると思う?ねぇ?あなた、それでも自分が生きている価値があるって言えなくなったらどうなるの?他者なしで生きている価値をどう説明できるの?ああ。きっと口をきけなくなってしまうわ。悲しいことよ?とても・・・。それは・・・。ねぇ?わたくしの言っていることがわかって?なにものも信じられない絶望しかないこの世界でどう生きたらいいのかしらね?」
「お、俺はおまえの言っていることがちっともわからないよ・・・」
「本当はわかっているのでしょう?ねぇ?」
猫なで声で甘えたように言ってくる醜い首。
その声に俺はなぜかうなずいてしまう。
俺は・・・。帰りたい・・・。
エナト助けて・・・。
俺はエナトの助けを呼んだ。ずっと頭のなかで叫んだが、無駄だ。
首は甘美な声で誘惑してくる。
俺はこんな女の言っていることが半分も理解できないが。ああ。なんでなんだ。急に首がしずかちゃんにも何物にも見えなくなってきた。歯をむき出しにして微笑む首を俺は大切に抱えている。
輪郭がぼやけていく。目がくらみ、砂だらけの口の中に水の味がした。
直江の姿がちらつく。なんで直江の姿がちらつくんだ。
戦うしかないのだ。目の前の誘惑から。甘美な声にのりながらも戦うのだ。
この戦うという選択事態が誘導され誘惑されているのかもしれない。いいやもう無駄だ。もうなにもわからない。
とにかく戦うしかない。戦えば答えがでるんだ。戦えば誘惑から逃れられる気がする。
「・・・。な、な、なら戦いかただけ教えてくれ・・・どうしたらあいつらを倒せる?」
と俺は振り絞るようにして声を出した。
「簡単なことなの。あなたは私に身をゆだねるだけでいい。そして願うだけでいいのよ?」
「願う?」
「あなたが願う騎士像。力を・・・」
かつては巫女だった。首。欲求の化け物。
そんなものに身を委ねるとろくなことがおきるはずがない。
ほんとうの俺は・・・。
本当の俺・・・?
俺はなんなのだ・・・。なにを求めたのか。
なんのためにここにいるのだ?エナトの期待に応えたいからか。
俺は静香ちゃんの騎士となって、エナトの力となって特別になりたかっただけなのに・・・。
パチッと光りがあった。
――もし、あなたが望むのなら、それは御伽ではない。この言葉・・・。私ね。実は好きなんだよ――
女の声が聞こえた。首から発せられた声なのだろうか。
どこかで聞いたような言葉だった。どこで聞いたのか。ああ。この声は・・・。静香ちゃん自身の声だ・・・。
幼き頃。
親に絶望し、お互いがお互いを認め合ったと俺が錯覚していた時代。
その言葉を俺は・・・。
俺は・・・。
その声はうおんうおんと大気中に響いているようだ。
一度に何十羽もの鳥が羽ばたく音が鳴った。それは現実ではない。それは、記憶であった。何十羽もの白い鳥が羽ばたく中を馬に乗った騎士が後ろに兵をつれて町のなかを歓呼の声で迎えられ行進している。
手がぷるぷると震えだした。
見れば、じわじわと黒くなり、甲冑に覆われていく。
俺は何者になるのだろうか。
敵がキャッキャ笑っていたのが、声を静めじっとこちらを見ていた。
甲高い耳障りな金切り声が鳴る。こだまし大音量となる。
あの赤子のような敵が一斉にこちらにむかって歩いてきた。
首の声が聞こえた。
――さあ、まずはあの贖罪の剣を思い出して。その剣で切ればすべての罪が消える――
――さぁ。次は槍を思い出して何千もの裏切りものの首を奪ってきた槍を――
腰に差してあったあの剣を思い出す。剣だけではない。己の槍も思い出す。
――さぁ。次はあの魔弾を放つ銃を思い出して。あらゆる強敵を屠ってきたあの銃を――
今まで見えていなかったものがふっと現れたかのようだった。
全身が甲冑姿だ。異様な模様と装飾の黒い騎士。腰には禍々しい模様の剣をさし、手には古いが穂先が鋭い槍をもっていた。腰にはあの短銃がさしてある。
赤子の敵。彼らの構えは奇妙であった。
急にぷらんと糸につるされた人形のような恰好となり横一列に隊形を組んできた。
いつ突っ込んでくるのかわからない。
俺は槍を手に構える。鎧の力のおかげなのだろう。あらゆる武術を極めた動きができた。
なんの焦りも抱かなかった。
俺はこいつらを全滅できるという絶対の自信があった。
赤子はじりじりと包囲してきて、金切り声をあげたかと思うと突撃してきた。
ひるまずに槍を構えて、一番前に出てきた敵の喉元を狙う。
敵は神速の一撃をかわす。常人では決してかわせない一撃であった。
だが槍は、二突き目には敵の巨木のような頭の兜と鎧の隙間を通り見事に貫通する。
槍を引き抜くと、敵の喉元から茶色の絵の具のような臭いがする血を噴水のように噴出して、最初の一騎が倒される。
倒された強大な赤子は、一瞬のうちに中身が灰となって空っぽとなり兜と鎧だけが地に落ちる。
怯むことなく次に迫る敵を、再び槍で突くが、しかし、それは弾かれてしまう。
敵の槍は俺の顔面に向かって迫るも、鎧の力が発動し、時間がゆっくりと流れていく。躱す瞬間をとらえた俺は瞬時に回避する。
俺は敵の斧を掴みそれを強く引き寄せて、斧を腕力でへし折る。そして、折れた斧の柄を赤子の首に深々と突き刺した。
人間の動きではとらえられない一撃を俺はドゥベルクの鎧でカバーできている。
巨大な赤子たちの悲痛な叫びが響く。
彼らはどこから持ち出したのかクロスボウをもってきて一斉に発射させる。
俺は冷静に槍で矢を薙ぎ払う。
心臓の鼓動が鳴るのが聞こえた。
乱れる息使い。乾く喉。武器と武器とが衝突する音。鎧の軋む音。すべてが懐かしく感じられた。
俺は、叫びながら持っていた槍で敵を次々と首を刺す。
だが、その後ろから、まわり込まれてクロスボウに足を射られた。ガクンと膝を屈してバランスを崩して、地面に叩きつけられる。
我一番にと、俺に迫る敵。
「うおおおおおおおおお!」
すぐに立ち上がって、迫る敵の兜に槍を投げつける。
槍は、敵の兜ごと貫通し、敵兵を沈黙させる。
――ドゥベルクの鎧よ、力をよこせ!
俺は呼びかけていた。
どこかに。
その声を何者かは聞き入れ俺に力をよこすだろうということを俺は知っている。
身体の傷も不安も精神の負担も一瞬のうちに癒えていき、力がみなぎる感覚。
俺は一瞬のうちに鞘から抜刀して斧を振り下ろそうとする残りの敵の胴を真っ二つに切り裂いた。
凄まじい切れ味と膂力であった。
力がみなぎる。なんでもやれるような高揚感がわいてくる。
呪いの力がなんだというのだ。何物にもなれないというのがなんなのだ。
俺はこの力をエナトのために、つかえるのだ。
おびえて、逃げ去る最後の赤子の敵があった。
腰に下げていた短銃を抜くと、狙いを定め引き金をひいた。
火打石に、当たり金があたり、紫色の火花が散る。
轟音が鳴り響き、銃口から弾が発射された。
噴煙で視界はさえぎられるが、すっと煙が抜けると赤子の頭は破裂してどっと地面に倒れていた。
しばらくの間俺は、殺した敵をじっと見ていた。この赤子の遺体だけ灰とならなかった。
なんでなんだろ?そんな冷静に考えている自分があった。
鎧のおかげなのか。それとも自分がミイラになったせいか。あるいは首の誘惑のものなのか。俺はなんの罪悪感もなんの感情も抱かなかった。路傍の石を蹴った感覚に等しい。あるいは、道を歩く虫を踏みつけてやったような感じだ。
「ね?簡単だったでしょう?」
気づけば首の髪の毛を掴んでもっていたようだ。
振り子のように首がぷらんとぷらんと揺れる。
ひどく悪臭を放ち、蛆が頬につき、眼球にハエがとまっている。
セミが鳴き、雲は大きく、日は照り燃えさかるようで、次第に俺の影がのびてくる。
「どこへいけばいい?」
と俺は首に尋ねた。
とにもかくにも。エナトに合わないといけない。
「ここは鏡の騎士の世界なの」
と首は目を細めた。「鏡の騎士?」と俺は聞いた。
「ええ。そうよ。鏡面世界。あなたがいた世界と似たようにした世界なの。見た人は左右反転になっているそうよ」
と首は言った。
「左右反転?そんなものは錯覚だろう・・・」
「その錯覚に私たちはいるのよ?」
「どういうことだ・・・?」
「あなたは鏡面世界に入り込んだのよ、と私が言うとあなたは見たこともない風景をみて本当に鏡面世界に来たと錯覚している」
「なにがいいたいんだ?」
「ここは、本当は、どこだと思う・・・?」
視線を下に移す。地面は乾いている。影も伸びている。
だが影の伸び方に違和感を抱いた。
剣をこんどは抜き、転がっていた灰になぜかならなかった遺体の腹を裂いた。
胃の中を調べてみると、小さな手鏡が入っていた。
その鏡をもって太陽を反射させてみる。
反射しなかった。
「わけがわからない」
首は目を閉じて黙したままだった。異臭がひどく、ハエがやたらたかってきて鬱陶しい。
風車の小屋に近づくと、小屋に鏡がつるしてあった。
地下にあったあの地獄のような鏡の部屋を思い出した。
剣を抜き、鏡をたたき割ると、ぱらぱらとつるしてあった鏡たちが割れていく。
ぱりんと切断した音がなった。世界が断絶したかのような感覚。
木々に覆われていると俺は思った。巨大なけやきの木があると。そうさ。錯覚だったのだ。
巨大な木と思われるそこは、骸骨のツリーあった。
あらゆる骸骨がつまれ、木々のつたにからまり、つなぎあわせ巨木のようになっている。小屋のなかは、ミイラと、白骨体だらけだ。
ここは地獄のようだ。
ネズミがわっと去り、太陽は日食のように暗くなる。
世界は影に覆われ、灯は消えていく。
世界は急に静粛となったかのようだった。だが、耳をすますとしくしくとすすり泣く声がきこえた。
小屋からでると骸骨の林のむこうに灯が見えた。真っ暗な世界にほんのりと明るくそこが教会であると俺にはなぜかわかった。
「ああ。公爵夫人の絵が今日も泣いているのね」
と首はせつなそうな表情をしていた。
――そこになにがあるというの?――
とどこからか声がした。
――なにもなかった。わたしの・・・――
悲しげな声。この声はどこから来ているのか。
「あそこにいけばなにかあるのか?」
「・・・」
首はだまったまま目を閉じている。
首をひっさげて俺は教会にむけて歩き出した。




