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光の宝石箱  作者: roka-ha
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第四章 

     第四章

     莉子

     1

 JR鎌倉駅西口の御成町にあるスターバックスコーヒー店は、黒い壁に斜めの屋根という面白い形の建物で、通り過ぎる観光客の目を引く。

 入口近くのソファにアイーシャと腰かけていた莉子は、店内に入って来た長身の二人組を見て、手を上げて手招きした。蒼が莉子に気づき、笑顔になって近づいた。莉子の隣にはアイーシャが座っている。

「ごめん、待った?」

「ううん。運転、お疲れ様」

 蒼の後ろには、大柄な白人男性がいて、蒼と莉子の遣り取りを興味深そうに聞いていた。蒼がそれに気づいたように言った。

「あっと、じゃあ、ここからは英語で話そう。俺はアオイ。アオでいいよ。大学生。富士山の麓に住んでいる。隣はレイ、レイモンド。俺の地元の友達の留学先の友人。レイ、彼女がリコだよ」

「ハイ」と言って、レイモンドが莉子に手を差し出した。穏やかな、優しい雰囲気の青年だ。「それから」と、蒼が莉子の隣にいたアイーシャを見る。

 アイーシャは心得たように、レイモンドに手を差し出した。

「アイーシャよ。ニューヨークから来たの。よろしく」

 レイモンドは、アイーシャの手を握りながら、笑顔になった。

「オハイオのコロンバス出身だよ。OSUの学生をしている」

 蒼とアイーシャも、笑顔で握手を交わした。

 飲み物を注文しに行った二人の姿を見ながら、アイーシャが楽しそうに言った。

「なんだか不思議。一人旅の日本で、禅寺に坐禅を体験しに行ったら、リコに会って、次の日には、こんな素敵なスターバックスで、日本の大学生とOSUの学生と会って、みんなして英語で話しているなんて」

 莉子も頷いた。物事の展開の速さに驚いている。

 昨日、建長寺の総門前で、蒼からのメッセージを確認した後、その場で蒼に電話した。蒼はすぐに出てくれた。

 莉子はそこで驚くべき事実を知った。蒼もまた莉子と同じように幼児期の記憶を失っていたこと。今、蒼の旅館に滞在している彼の幼馴染のアメリカ人の友人も同じで、彼もまた、蒼が撮った例の写真に反応したこと。

 莉子もまた、隣にいるアイーシャの顔を見ながら話した。自分でも気づかないうちに興奮して大きな声になってしまい、アイーシャが驚いた顔をして見ていた。

「わたしも、今日、会ったの。小さい時の記憶がないという女の子に。今、目の前にいるの。彼女もアメリカから来ているの。さっき、建長寺で一緒に坐禅をしていて、その時に、二人一緒に、声のようなものを聞いたの。他の人には聞こえなかったみたい。わたし達だけがそれを聞いたの」

 莉子の話を、蒼が正しく理解したかどうか、分からなかった。それでも、この状況が普通でないことだけは伝わっただろう。

「その声のようなものって、何て言ってたか、憶えている?」スマートフォンの向こうから、蒼の緊迫した声が聞こえてきた。

「たしか、ユーリイって、聞こえた気がする・・」

 しばらくの沈黙の後、蒼が言った。

「・・さすがに今からじゃ、夜になってしまうから無理だな。・・あのさ、俺とレイとで、明日、そっちに行っていい?一緒にいるその女の子にも会えるかな」

 アイーシャに確認すると、アイーシャは、不思議な表情を浮かべたまま、頷いた。


 朝十時過ぎのスターバックスコーヒーの店内は、太陽の光を浴びて明るい。莉子達は四人で互いに向かい合うように座った。

 七時過ぎに河口湖の実家を出発してきたという蒼とレイモンドは、シナモンロールとバナナのマフィンを勢いよく食べ、スターバックス・ラテをごくごく飲んだ。それぞれ、家とホテルで朝食を食べてきた莉子とアイーシャは、二人の胃が甘いもので満たされるのを黙って見守った。

「・・お待たせ。ようやく落ち着いた」蒼が、紙ナプキンで口元を拭いながら言った。

「今日はどのルートで、ここまで来たの?」

「御殿場まで出て、246を通って、国府津から西湘バイパスに乗って来た。レイが、海が見たいって言うから」

 レイモンドが、にっこりと頷いた。「海!すごかったよ。オハイオには海がないから。感動した。太平洋、すごいね!すごく綺麗だった」

「まあ、山梨県民の俺も、その気持ち、ちょっと分かるからね」

 蒼とレイモンドは、すっかり打ち解けているようだ。二人の遣り取りを聞いている莉子とアイーシャに、レイモンドは説明するように言った。

「僕は大学の合気道クラブに入っていて、今回は日本武道館で行われる師匠の演武を見るために日本に来たんだ。来るときはクラブのメンバーと一緒だったんだけど、演武が終わったら、自由行動になって。僕は富士山を見たかったから、山梨県に行ったんだ」

「富士山?山梨県?」訊き返すアイーシャに、レイモンドは優しく頷く。

「アオの幼馴染のタカヤって奴が、僕のOSUの友達なんだけど、そいつの部屋に富士山のカレンダーが飾ってあって、いつも気になっていたんだ。それに、アオのこともタカヤからよく聞いていたから。僕と同じように記憶を失くしている奴がいるって」

 レイモンドの言葉に、蒼が頷いた。

「ここからは、メモが要るね」と黒いリュックからノートパッドとペンを取り出す。

「昨日、電話でも話したけど、俺達は、住んでいる場所も育った場所も違うけど、確かな共通点が三つある。十五年前の記憶がないこと。みんな、英語を話すこと。リコも俺も、かつてアメリカにいたこと」

 日本での暮らしが長かったので気づかなかった。確かに蒼の言う通りだ。莉子はアメリカで生まれていた。

「他に何か共通点はあるかな?」

 レイモンドの言葉に、蒼がペンをくるりと手の甲の上で回してから言った。

「一つ一つ挙げてみよう。それぞれの、これまでのこと。家族のこと。最近の出来事。もちろん、話せる範囲でいい。何かつながるかもしれない。リコ、身体の調子はあれからどう?眠れないって言っていたけど、それは具体的に、いつから始まったんだい」

「調子が悪くなったのは、今年の三月くらいからよ。薬のおかげもあるけど、今はだいぶ楽になってきたわ。寝る前と朝起きた後に、瞑想をするようになったから」

「瞑想?・・ああ、だから坐禅か」と蒼が納得したように頷いた。

「あたしは、春くらいからよく夢を見るようになった!」アイーシャが叫ぶように言った。「いつも途中で起きちゃうの。夢の中で、あたしは、保育園みたいなところにいて、そこには、子どもが他にも何人かいる感じなの」

「睡眠に関しては、僕も一緒だ」とレイモンドが手を上げた。

「僕も、三月ぐらいから夢を見るようになった。目覚めると、いつも真夜中だ。どこかの家の部屋の中にいる夢だ。そもそも僕は、それまで夢なんて見たことがなかったんだ」

 蒼が頷いて言った。「俺はあんまり眠れないってことはない。何となく共通しているのは、春からの体調変化。不眠。中途覚醒。それから夢か。他に何か気になっていることはある?俺の場合は、湖の向こうにある富士山の絵か写真。それはリコもレイも気になるって言っていたよな」

「富士山の絵って?」

 訊ねるアイーシャに、蒼は、了解したように頷いて、スマートフォンを操作した。

「ああ、ちょっと待って。写真データがあるから。これだ。ちょっとこれを見てみて」

 アイーシャにスマートフォンの画面を差し出す。一緒にそれを見ながら、やはり莉子はこの富士山の風景に心を動かされる自分に気づく。この風景は、どこか懐かしい。どうしてこんな風に感じるのだろう。

 だが、アイーシャは、その画像を見ても、特に何も感じないようだった。その表情には、何の変化も見られない。

「どう?」と蒼に訊かれて、アイーシャは首を捻った。「ごめんなさい。あたしには何とも・・。ただ、バランスがとれた、綺麗な山だなあってくらいしか・・」

 そうか、と落胆した表情を浮かべた蒼に、レイモンドが励ますように言った。

「もっと挙げてみよう。四人いれば、本来、憶えている筈の思い出だって、それぞれ違うだろうし。アイーシャが憶えていることって、何かある?君を育ててくれた人は、君に何か言っていたかい?」

 アイーシャは顔を上げ、蒼、レイモンド、莉子の顔を見て言った。

「・・ごめん。あたしは、自分が両親の間にできた子どもだとずっと思っていたし、今でも思っている。記憶がないのは、パパが交通事故で亡くなったショックだと思っていたの。・・あたしが小さい頃のことで憶えているのは、『ヌアナ』という名前だけよ。ママは、保育園でお世話になった先生の名前だったんじゃない?って、言ってたけど」

「ヌアナ・・」蒼とレイモンドが、同時に呟いた。

 確かに、昨日、半僧坊で初めてアイーシャに会った時、アイーシャは莉子を見て、その名前を発した。

「ヌアナか・・。スペルは、こうかな」蒼が、白い紙の上に、〈Nuana〉と書いた。

「どう、レイ?何か引っかかる?」

 レイモンドは首を捻る。莉子も同じだった。女性の名前だというのは、何となく分かる。だが、よく分からない。

「ヌアナは、俺も、よく分からないな。・・じゃあ、ユーリイはどう?」

 蒼が真剣な目をして言った。その名前こそ、昨日、莉子が、建長寺で坐禅中に聞いた名前だ。アイーシャが莉子の方を見た。

「アオは、ユーリイを知っているの?」莉子が訊くと、「・・知っているわけじゃない。むしろ全然知らない」と、蒼は怒ったように言った。

「何故かは分からないけど、その名前だけは、俺はしっかり憶えているんだ。一年前、富士山の五合目の駐車場にいた時に、急に思い出した。俺は、そいつに怒鳴ったんだ。何かすごく腹を立てていたんだと思う。でも、それがどんな状況だったのか、ユーリイが実際にどんな奴なのかということまでは、全然、思い出せない」

 蒼は、紙に、〈Yuri〉と書いた。それを見ていたレイモンドが言った。

「ユーリイって名前、スラブ系だよね。ヌアナは、なんとなくハワイ語の名前っぽいけど」

「うん。ヌアナは、わたしもハワイ語っぽいなって感じた」莉子も同意した。

「十五年前の記憶喪失。英語。アメリカ。ヌアナ、ユーリイ、富士山の絵。どこかの部屋の中。複数の子ども達。あとはあるかな?」

「パッヘルベルのカノンは?」

 レイモンドが蒼を見て言うと、蒼が、ああ、と少し笑って頷いた。

「わたしもその曲、大好きよ」莉子は思わず大声で言った。

「と言っても、有名な曲だしなあ・・。アレンジされたCDも色々と出ているし、あまりヒントにはならないなあ・・」

 蒼が、〈Pachelbel, Canon〉と書いてから、うーんと、頭を抱える。

「黒髪と黒い瞳」と突然、アイーシャが言った。

「え、何、それ?」蒼とレイモンドが同時に言うと、アイーシャは、少し恥ずかしそうに、自分の髪を摘まんで言った。

「あたしの髪、こんな真っ赤で、くるくるでしょう?わたし、長いサラサラの黒髪の人を見ると、街中でもその人に目がいっちゃうの。ブロンドとかじゃなくて、長い黒髪が好きなの。黒い瞳も神秘的だと思う」

「アイーシャ、あなたの髪は、とっても素敵だよ」莉子が言うと、アイーシャはにこりと笑った。

「ふふふ、ありがと、リコ。でも、ここでは正直に言わせて。あたし、どういうわけか、昔から、黒髪黒眼の人に憧れみたいな気持ちを抱いていたの。あたしにとっては、特別な色なの」

 蒼が〈black hair, dark eyes〉 と記した。

「黒髪と黒い瞳じゃ、俺とリコが当てはまるけど、俺は、髪は短いから、まさにリコが該当するな。リコ、その髪は、ずっと伸ばしているのかい?」

 莉子は頷く。そう言えば、家に残っている写真の中の莉子は、いつも背中に届くほどの長い髪だ。時折、毛先は切っているが、確かにショートヘアにしたいと思ったことは、一度もない。このヘアスタイルでいることが、自分にとっては自然なことだった。

「・・ひょっとしたら、リコのことなんじゃない?」

 レイモンドが思ってもみないことを言い出したので、莉子は驚いた。

「え、それって、どういうこと?」

「・・うーん、僕さ、アオに会ってから、ずっと考えていたんだ。僕達には、共通点が多すぎる。アオと僕との二人だけなら、ただの偶然だと思えたけど、アオからリコのことを聞いた時、鳥肌が立ったよ。さらにここには、四人目のアイーシャもいる。昨日、アオが言っていたよね。僕達は以前、どこかで会っていたかもしれないって。もしかして、僕達四人、十五年前に、どこかで、実際に一緒に暮らしていたんじゃないのかな」


     2

 午前十一時を過ぎ、スターバックスコーヒーの店内も混雑してきた。観光客と見られる団体客も次々に入ってきた。

 かつて自分達四人が一緒にいた可能性について考えたが、蒼がメモに書いた以上のことは、誰も考え出せなかった。そもそも、自分達には十五年前の記憶がないのだ。

 カップの中のコーヒーもなくなり、全員が口を噤んだ時、蒼が、「そろそろ出ようか」と言った。

「せっかくアイーシャとレイがアメリカから来ているし、どこか鎌倉を案内しようか」

 莉子が二人に言うと、少し疲れた表情のアイーシャが、「少し静かな所がいいな」と言った。「海の方は、眩しくて、賑やか過ぎて、落ち着いて物を考えられない」

 レイモンドも、「僕もアイーシャに賛成」と笑った。


 莉子が昨日、蒼がアメリカ人の友人と鎌倉に来ることを父ブライアンに伝えると、父は、「蒼くんも、今は夏休み中だろう。何泊かこの家に泊まればいい。車もうちの駐車場に置けるし」と提案してくれた。富士五湖旅行に行って以来、少しずつ前向きになってきた莉子のことで、蒼には感謝しているらしい。蒼に父からの提案を伝えると、

「何泊もってわけにはいかないけど、じゃあ、せっかくだから、一泊させてもらおうかな。いいかな、レイ」とレイモンドを見る。レイモンドは、「もちろん」と、にっこり笑った。

 まずは、莉子の家がある二階堂に向かおうと、スターバックスコーヒーを出て、駐車場まで歩いた。蒼の富士山ナンバーの臙脂色のミニクーパーを見つけた。なんだかとても懐かしく感じた。この車に乗って、河口湖や西湖、精進湖、本栖湖を回った時のことを思い出した。

「リコ、隣でナビして。鎌倉は車で来るものじゃないって聞くけど、本当だな。道は狭いし、観光客もわんさか歩いているし、電柱があってすれ違いは大変だし・・」

 蒼はぶつぶつ言いながらも、助手席に座った莉子の指示に的確に反応し、ゆるやかにハンドルを回した。

 今小路を走り、JR横須賀線の踏切を越えてから、住宅街の中の一方通行の道路に入り、観光客でごった返す小町通りを抜け、鶴岡八幡宮の前を通る横大路に出た。小町通りから鶴岡八幡宮へと向かう歩道には、観光客の列が続いていた。

「すごい観光客の数ねえ。車道に溢れているわ!」アイーシャが驚いたように言った。

 鶴岡八幡宮の三ノ鳥居の前を通り、道なりに進んだ後、〈岐れ路〉の交差点を左折する。一本に伸びた道路の先に、明治天皇が創建した鎌倉宮の白い鳥居が見えてきた。莉子の家は、鎌倉宮のさらに奥にある。

「ここもまた、運転しづらいなあ・・。うわっ、前からバスが来たよ」

「すれ違いポイントがあるから大丈夫。あともう少し進んだら、止まっていて」

「了解。さすが、地元の人だな」蒼が莉子の言う通りに車を停めた。バスは、蒼のミニクーパーのサイドミラーすれすれのところを走って行く。

「ひゅう、さすがプロだな」と蒼は子どものように声を上げた。

 家に着くと、父ブライアン、母沙知絵、弟ダニエルの三人が玄関前で待っていた。

「お姉ちゃん、お帰りい!蒼くん、こんにちは!」

 ダニエルがはしゃいだ声で手を振った。

「やあ、いらっしゃい。河口湖では世話になったね」父が言うと、蒼は軽く会釈した。

「とんでもないです。こちらこそ、急にお邪魔してしまって、すみません。こちらが、友人のレイモンドです。レイ」

 レイモンドが、一歩進み出て、父に手を差し出した。「こんにちは。初めまして」

 レイモンドは、母、ダニエルにも順に挨拶をしていった。次に莉子がアイーシャを紹介すると、アイーシャもそれに倣う。ダニエルが大きな目をして、レイモンドとアイーシャを見て言った。

「お姉ちゃん、すごいや。こんなにたくさん外国のお友達がいるんだもの!」

 興奮しているせいか、日本語と英語が混ざっていた。それを見て、みんなが笑った。



 沙知絵が淹れてくれた紅茶を飲み、しばらく歓談した後、四人で鎌倉宮まで歩いて行ってみることにした。

 境内は緑の木々に囲まれ、広々としている。鶴岡八幡宮のように、観光客でごった返すほど混んではいないから、いつもゆっくり見て回れる。

 公衆トイレの近くに、飲料水とセブンティーンアイスの自動販売機が並んでいた。蒼が目を留めて言った。

「お、懐かしいな、セブンティーンアイスか。子どもの時、よく食ったな」

「なあに、これ。アイスクリーム?みんな美味しそう!」

 アイーシャとレイモンドが、興味深そうにそれを眺めていた。

「食べてみる?」と莉子が訊くと、二人は嬉しそうに頷いた。

「うわー、これは悩むね。こんなに色んな種類があるんだもの。レイ、どれにするか決めた?」

「うん。僕は、アイスクリームは、いつもチョコレートって決めているんだ」

「えー、そうなんだあ。あたしは、どうしようかなあ」

 二人はすっかり仲良くなり、自動販売機の前で子どものようにうろうろとしている。それを見ていた蒼が莉子に言った。「俺達も食べようか」

「うん」莉子も頷いた。


 それぞれ選んだアイスを手に、自動販売機近くの石段に腰かけた。ちょうど日陰になっていて、そんなに暑くない。

「アイーシャ、急げ。溶けちまう!」「下の方も時々食べて」

 蒼と莉子が、セブンティーンアイスの食べ方を伝授する。四人でペロペロと舌を出してアイスクリームを食べている姿を見ながら、莉子は言った。

「わたし達、なんだか子どもみたいだね」

「身体はこんなにでかいのにな。アイーシャ以外は、学生やっているし」

「もしかして、この中では一番お姉さんなのはあたし?働いて、一人暮らしもして、アパートの家賃も払っているもの」

 アイーシャが胸をそらすようにすると、レイモンドが頷いた。

「うん。きっとそうだね。アイーシャが一番、大人だよ。独立している。アイーシャのお父さんは交通事故で亡くなったと言っていたけど、お母さんはどうしているの?」

「ママもニューヨーク市にいるのよ。施設にいるの。特別な治療が必要だからって」

 アイスを食べ終えてから、アイーシャが改まった表情で言った。

「・・あのね、そもそも、あたしは、昨日、お寺でリコに会ったばかりだし、自分の両親が本当の親じゃないかもしれないなんて、考えたこともなかった。自分に幼児期の記憶がないことも、そんなに深く考えていなかったし」

「たぶん、それは、君が僕達よりも小さかったからだと思うんだ」

 レイモンドが言うと、アイーシャは頷いた。

「うん。そういうことなんだと思う。でも、それだけじゃないの。さっきリコの家族を見て、分かったんだ。あたしには、そんなことを考える余裕なんて、なかったのよ」

 強く光る青い目で、アイーシャは一同を見回した。

「あたしがニューヨークで、一人で暮らしているのは、そうするしか他に方法がないからよ。パパが交通事故で亡くなってから、ママの心は弱くなってしまったの。ママの彼氏は、あたしやママをしょっちゅう、ぶったわ。そいつにぶたれるのが怖くて、ママは自分であたしをぶつようになった。そいつと一緒にお酒を飲みながらね。・・ねえ、分かる?あたしは、そういう場所で生き延びてきたの。大学に行くために勉強する時間も、お金もなかったの。今もそうよ。あなた達から見たら、あたしがニューヨークから遊びにやってきた呑気な観光客に見えるかもしれないけど、あたしはただ、代理人としてここに来ただけ。海沿いの素敵なホテルにも、本当は別の人間が泊まる予定だった。あたしは本来、太平洋を越えて、日本みたいな遠い国に旅行に来られるような身分じゃないの。不動産屋のアルバイトと、ヨガインストラクターのアシスタントの仕事を掛け持ちして、アパート代を支払わなければいけない。あなた達みたいに学もない、両親も揃っていない人間なのよ」

 黙ってアイーシャを見つめる一同に、アイーシャは軽く首を振って見せた。その目にはうっすらと涙が滲んでいた。

「・・ごめん。こんなこと言って。初めて会っても分かるのよ。あなた達が優しくて、いい人達だってことは。あたしよりも二つも三つも年上なら、きっと記憶がなかった違和感も大きかったと思う。・・でもね、あなた達には家に帰れば、今の家族がいるんでしょう?誰かがあなたの帰りを待っているんでしょう?そういう恵まれた場所にあなた達はいるのに、これ以上、何を望んでいるの?思い出せない過去を掘り起こして、それからどうするの?過去が分かったって、あたしのこの傷は消えないのに」

 そう言って、アイーシャは、Tシャツの袖をまくって、右の二の腕を見せた。そこには、まだそう古くない、痛々しい傷跡があった。

 しばらく誰も口を聞かなかった。一番先に口を開いたのは、蒼だった。

「ごめん、アイーシャ。俺はリコとは前に話をしていたから、リコの事情は知っていたけど、君のことは確かに何も知らなかった。昨日、リコから君のことを聞いて、君も俺達と同じなんだって咄嗟に思った。この数か月で、同じような体験をしている人間が集まるなんて、普通じゃない。もしかしたら、このことには、何か意味があるんじゃないかって思ったんだ。アイーシャのこれまでのことなんて何にも知らないのに、新たな仲間を見つけたような気でいた。やった!って、思った。無神経だったな。・・本当に、ごめん」

「僕も、ごめん」

「わたしも、ごめんね」

 レイモンドと莉子も謝ると、アイーシャは涙を拭いながら、少し笑った。

「みんなで謝らないで。・・本当にあなた達、一緒にいると、なんだか子どもみたいね。ねえ、アオ、聞かせて。どうしてあなたは過去のことを知りたいの?自分でも思い出せないことを掘り出そうとしているの?何のために?」

 アイーシャの質問は、莉子にも向けられた問いだった。

 何故、過去のことを知らない自分をそのままにできないのか。ただ未来だけを向いて生きていこうとしないのか。

 一緒に暮らしている家族に対してわだかまりを持ちながら、本当の家族として振舞わなくても済むのなら、莉子は前だけを向いていく。でも思うのだ。思ってしまうのだ。自分は、とても大切な誰かとの記憶を失っているのではないかと。それは、本来は、自分の心の中にあるべきだったもの。ずっと自分の記憶の奥底にあって、莉子を安心させてくれるものなのではないか。それは、本当は、忘れてしまってはいけないものなのではないか。

 蒼は、真剣な眼差しで、アイーシャと莉子とレイモンドとを見回した。

「・・俺は、記憶がないことで、自分自身の核みたいなものが何なのか、よく分かっていないと感じている。今の両親は好きさ。住んでいる場所も環境も気に入っている。それでも、安定しないんだ。何か大切なことを忘れている気がするんだ。だから、それを見つけたい。だって、自分のことだから。自分の記憶だから。でも、それは、俺個人の希望であって、リコやレイ、アイーシャの希望でないのなら、これ以上、俺のためにみんなの時間を使う必要はない。もう、終わりにしよう。後は、楽しく鎌倉を観光して、それぞれの場所に帰ればいい」

 しばらくの沈黙の後、レイモンドが口を開いた。

「僕は、正直、どっちでもいいって思っていた。うちの両親が血のつながった親でないことは、幼い頃から聞かされて知っていた。オハイオに来るまでの記憶がすっぽり消えていることも自覚している。背中に古い傷があることも。だからと言って、アオみたいに、自分の記憶を探ろうとは思わなかったし、やろうとしたこともなかった。ただ、漠然と、自分はどういう訳か、何かに流されてきて、ここにいるんだなあって、そう思っていた。川の水みたいにさ。だから、日本人の友達からアオのことを聞いた時、逆に興味を持ったんだ。自分とはまったく違う奴がいるって。そしたら、たまたま日本に行くきっかけができた。だからこうしてやって来た。もちろん、旅費はアルバイトで賄っているよ。親の金なんかじゃないよ。って、全然威張ることでもないけど。・・それでね、僕の今の気持ちとしては、アオと一緒に探ってみたいと思っている」

 レイモンドの優しい口調に、アイーシャはかすかに頷いた。

「わたしは」と莉子は言った。

「弟のダニエルが生まれた時に、自分の家族はおかしいことに気づいたの。父の髪がブロンドなのに、わたしの髪と目は真っ黒なんだもの。顔立ちも純日本人そのもの。ダニエルとは全然違う。無邪気にわたしを慕って、わたしの後をついてくる幼児だった弟を見ていて、自分はその頃の記憶が何も残っていないことを思い知らされた。それは変だし、不自然なことだと。でも父も母も、わたしが二人の子どもなんだって言って、それ以上の話をしてくれない。小さい頃の記憶がないのは、交通事故に遭ったからだ。きっととても怖い思いをしたんだろうって。幼少期までの写真がないのは、以前、住んでいたアパートが火事で燃えちゃったからだ。写真もその時に全部、燃えちゃったんだって言われていて・・。いまどき、写真はデータでだって保存しておくでしょう?言っていることに違和感がありまくりだよね。でも、それ以上の追求はできなくなっちゃった。その話はもうおしまいって、されてしまったから。・・わたしも、納得しようと思ったの。他の友達と同じように、大学に行って、サークルに入って、楽しく過ごせばいいんだよって自分に言い聞かせて。でも、駄目だったの。わたしは、自分の失った過去のことを考えることをやめられないし、家族に対してもわだかまりを感じるようになってしまった。春から体調が悪くなってつらかったけど、六月の富士五湖旅行の宿泊先でアオに会って、あの富士山の写真を見た時、うまく言えないんだけど、心が動いたの。アオにドライブに連れて行ってもらって、わたしの話を聞いてもらった時、気持ちがすごく楽になった。もっと元気になりたいって、心から思った。前を向けるようになった。だからアオには感謝しているし、こうやってまた会えて、とても嬉しいと思っているの」

 蒼がちらりと莉子を見る。まるで恋の告白のような言葉だ。でも本当の気持ちだ。それは今、ここにいるレイモンドやアイーシャに対しても当てはまる。莉子は、二人に言った。

「レイにもアイーシャにも、同じように感じているの。それぞれ、昨日と今日、会ったばかりなのに、スターバックスにいた時から感じていた。わたしは二人に会えて嬉しい。こうして一緒にいられることが、すごく嬉しい。そう感じる自分が嬉しい。だから、こうやって出会えたことを大切にしたいと思っている。たとえまた、みんながそれぞれの故郷に戻って、バラバラになってしまったとしても。もう以前のように忘れたりしたくないって、強く思うの・・」

 話しながら、莉子はようやく理解した。自分の中で溜まっていた不安、不満。拠り所になる家族との記憶を失っていることで、莉子は他者との関係をうまく築けずにいた。家族のことを、本当は大切だと思っていても、大好きだと思っていても、記憶の空白の上にその感情を積み上げることは難しい。

「わたしだけじゃなかった。わたしと同じように、これまでを過ごしてきた人がいる。こうやって目の前で笑っている。みんなに会えて、一緒に歩いて、アイスクリームを食べている。そんなことが、今、とても嬉しい。アオがレイと一緒にここに来たのは、わたしとアイーシャに会うため。失った過去を探し出す手掛かりを探すため。わたし達には、一緒にいる時間が限られている。今しかない。それなら、わたしはやりたい。探ってみたい。みんなとチャレンジしてみたい」

 莉子の言葉を三人は静かに聞いていた。

 アイーシャが、小さくため息をついてから、言った。

「・・リコの言葉の、みんなに会えて嬉しい、には百二十パーセント同意するわ。あたしも、今、ここにいることが、まるで夢の中の出来事のように感じられているから。・・ごめんね。あたし、嫉妬したの。みんなに。こんなのただの八つ当たり。最低だね。あたしにも、ちゃんと家族はいたのに。優しかったパパとママが確かにいたのに。たくさん可愛がってもらったのに。そんなことも忘れていたわ。忘れてはいけないことだったのに・・」

 アイーシャは髪をかき上げてから、蒼に向き直った。

「オーケイ、あたしも一緒にやるわ。もう一回、一緒に何か他にヒントがないか考えるわ」

「サンキュ」蒼はアイーシャに優しく微笑んだ。


     3

「もう一回、考えてみよう」蒼が先程、スターバックスコーヒーでメモしていたノートパッドとペンを取り出した。「各自で気づいたことを挙げてみて。どんな些細なこと、荒唐無稽なことでもいいからさ」

 レイモンドが頷いて、言った。「共通点ははっきりしているよね。僕らはみんなアメリカから来て、英語を話す。ということは、アオもリコも、もともとはアメリカ人だったんじゃないかな。何らかの事情があって、養子に出された。僕みたいに」

 莉子は蒼と顔を見合わした。確かに莉子はアメリカで生まれ、今もアメリカと日本の二重国籍の状態だ。アメリカは出生地主義を取っている。アメリカで生まれれば、アメリカ国籍を得ることができる。それは蒼も同じだろう。

「あとは、あたし達以外に出てくる名前ね。ユーリイとヌアナ。全員が知っている名前じゃないけど。そもそも、この人達、何者?この人達も昔、一緒にいたことがあるってことなのかしら?」

「俺は、ユーリイを知っている気がするんだ」と、蒼が言った。

「俺は、ユーリイに怒鳴った自分を、かろうじて憶えている。どんな状況だったのかは分からない。俺はすごく焦っていて、すぐ側で俺を見ていたユーリイに怒鳴ったんだ。ユーリイ、馬鹿野郎って・・」

「と言うことは、ユーリイは、わたし達の仲間だったってこと?ユーリイもどこかにいるのかしら。アメリカか日本か、あるいはまた別の場所に。・・でも、どうやって探したらいいんだろう。わたし達、今だって、たまたま出会っただけなのに・・」

 莉子が呟くと、アイーシャが顔を上げた。

「ねえ、リコ、さっき、体調が悪くなったのは今年の三月に入ってからだって言ってたわよね。あたしも似ている。今年の春から、夜中に頻繁に夢を見て目覚めるようになったの。レイもそう言ったわよね。今までは夢なんか見たことなかったのにって。それって、もしかしたら、何か意味があることなんじゃない?」

「体調が悪くなったり、夢を見たりすることが?」

 莉子の言葉に、アイーシャは頷いた。「うん。それって、まるで、何かのアラートみたいじゃない?誰かが、何かをあたし達に知らせようとしている、伝えようとしている。あるいは、コンタクトを取ろうとしている。みんなの話を聞いていると、そんな風にあたしは感じたんだけど」

「それが、ユーリイとつながるの?」そう言うのと同時に、莉子は自分の胸の鼓動が早くなっていくのを感じた。さっきから変だ。ユーリイの名前を聞く度に、口にする度に、胸の奥が反応する。ざわざわと動く。何だろう、これは。

「うん」とアイーシャが頷いた。「昨日の坐禅だって、他の人達はずっと静かに坐禅をしていた。警策を持って歩くお坊さんの様子も、全然、変わらなかった。リコとあたしだけが、あの時、あの声を聞いた。確かに、遠くで、誰かがユーリイって叫んでいた。どうして叫ぶの?何もなければ叫ぶ必要なんてない。あの時、あたし達はびっくりして顔を上げ、互いに共通の声を聞いたのだと認識したよね」

「あれも、アラートなの?わたし達に何かを知らせようとしているの?」

「はっきりとそうだとは言えないけど、もしかして、そうなんじゃないかと思う」

 アイーシャは目をひそめるようにして言った。

「・・なあ、二人が聞いた声って、もしかしたら、俺の声だったんじゃないかな」

 蒼が腕組みをしたまま言った。

「えっ、それって、どういうこと?」アイーシャが蒼を見る。

「つまり。この四人が、かつて一緒にいたことがあると仮定したら、記憶も重なる部分がある筈だろう?俺は、最後の最後に、ユーリイに怒鳴ったことだけは憶えているんだ。ユーリイの名前を叫んで」

「・・でも、それを、どうして昨日、わたしとアイーシャが聞くの・・?」

 莉子の問いに、蒼もアイーシャも、口を閉ざす。

「ねえ、アオ、どうして君はユーリイを怒鳴ったんだろう」とレイモンドが穏やかな声で言った。「もう少し、思い出せるといいんだけど。ユーリイはどんな奴だったのかな。顔は憶えている?髪は何色だった?」

「う・・ん、漠然となんだけど、ユーリイの髪は、少し長めの、暗めのブラウンか栗色だったかなあ・・」

「どうして君は、ユーリイを怒鳴ったりしたんだろうか。ユーリイは、君に何かをしたんだろうか」

 蒼が、記憶を辿ろうとするように、目を閉じた。眉間に皺を作る。

「はっきり分かっているのは、自分が横になっているってことだ。ベッドの上じゃない。どこかの部屋の床の上で、俺は横になっていた。・・夜じゃない。昼間だ。目を閉じていても、窓から明るい光が差してくるのが分かった。すごく静かだった。ユーリイは、俺の左隣にいた。・・右隣にも、誰かがいたかもしれない・・」

 蒼がきつく眉を寄せた。「・・ああ、そうだ。あれは、お遊びの儀式だって、言っていた。俺達が、もっと仲良くなれるように、もっと楽しく暮らせるようにって・・」

 蒼の呼吸がせわしなくなる。蒼の言葉は止まらない。蒼の他には、誰も何も言わない。みんな、分かっていた。彼の話を遮ってはいけない。彼は今、大切なことを話している。自分達にとっても、とても大切なことを。

「・・俺達は、順番に眠らされたんだ。・・ヌアナが、そう言ったんだ。とっても気持ちいいから、やってごらんって。何もしなくていい。ただ、目を瞑っているだけでいいよって言われて。最初は、・・リコ、次にレイ。それから、小さなアイナ・・。まるで穏やかな海の上をぷかぷか浮いているみたいに、気持ちがよくて、俺はすごく眠くなった。でも、どうしてだろう。すごく気持ちがいいのに、何かがおかしいって思ったんだ。どうしてそう思ったんだろう・・?俺は、目を瞑りながら、ずっとそれを考えていた。ああ、その時だ・・」

 蒼が目を開けて、莉子達を見た。

「左隣で同じように横になっていたユーリイが、起き上がって、立ち上がったんだ。ドアの方に歩いて、振り返った。そして俺を見た。いや、俺達を見ていた。その時のユーリイの顔を見た時、俺ははっきりと分かった。これは、お遊びの儀式なんかじゃないって。もともと計画されていた儀式なんだって。・・ヌアナは、俺達に何かをしたんだ。そしてユーリイは、最初からそれを知っていて、黙っていたんだってことが。俺は、すごく焦って、頭に来て、精一杯の力を振り絞って目を開いて、怒鳴った。ユーリイ、馬鹿野郎って・・。ユーリイは、びっくりした顔で俺を見た。その後の記憶はもうない・・」

 蒼の言葉が途切れた。しばらく続いた沈黙を破ったのは、アイーシャの明るい声だった。

「・・あたし、もともとは、アイナって名前だったのかな。そっちも可愛い名前だね」

 蒼が、ふっと笑って頷いた。「・・うん。俺達はいつもアイナのことを、『小さなアイナ』と呼んでいた。リコは、小さなお母さんで、アイナはいつもリコの後を追いかけていたよ・・。不思議だな。今までどんなに思い出そうとしても思い出せなかったのに、どうしてこんなに急に色々なことが思い出せるようになったんだろう・・?」蒼が首を捻りながら言う。

「それなら、何故、そもそも、僕達は記憶を失う必要があったのかな」と、レイモンドが言った。

「僕達四人はそれまでの記憶を完全に失い、それぞれの養親の下で暮らしてきた。それまでどこかで一緒に暮らしていたとしたら、どうして離れ離れになったんだろう。そして、これまでそうやって、過去を忘れたまま暮らしてきたのに、何故、ここ数か月で、僕達に急激な変化が訪れたんだろう。僕達は、まるで何かに導かれるみたいに出会って、今、ここにいる。気づいているかい?こうやって四人でいると、少しずつ、誰かが、何かを思い出している。これはいったい、どういうことなんだろう」

「・・四人じゃない。あの場所に、子どもは五人いた」莉子が呟いた。蒼達が莉子を見た。「まだ、ユーリイがいないわ・・!」

 どんな人だったのか、顔も思い出せない。でも、その名前を口にするだけで、懐かしさがこみ上げてくる。これはいったい何なのだろう。

「アイーシャとわたしが昨日聞いた声が、アオの声だったとしたら、それを実際に聞いたのは、ユーリイその人の筈でしょう?それなら、もしかして昨日の声は、アイーシャとわたしに、意図的に届けられたものなのかもしれない」

「僕も、もしかしたらそうなんじゃないかなと思っていた」とレイモンドが言った。

「それに僕達はもう一人、重要な人物を忘れているよ。十五年前、僕らは幼稚園児ぐらいの歳だった。アイーシャに至っては二、三歳だろう。ユーリイが幾つだったのかは知らないけど、子どもだけで生活できるわけがない。僕達には庇護者がいた筈だよ」

「ヌアナよ・・!」アイーシャが泣きそうな声で言った。

「それがヌアナなのよ。あたし、ずっと不思議に思っていたの。どうしてみんなヌアナのことを言わないのか?どうして忘れてしまっているのか?」

「ヌアナ・・」蒼が呟く。首を振る。「・・駄目だ。思い出せない。分からない!」

「わたしも分からない。ユーリイの名前を聞くと、懐かしい気持ちになるけど。ヌアナのことは分からない」

「僕もだ。よく分からない」レイモンドも言った。

「そんな、どうしてあたしだけ・・?」アイーシャが目を見開いて、莉子達を見た。

「こう考えよう」と蒼が言った。「俺は今まで、記憶を探るために、自分の頭に浮かんだこと、感じたこと、思ったことは、全て意味があることだと考えてきた。今もそう信じている。だから、リコとアイーシャに会いに、今日、ここ鎌倉までやって来た。たぶん、それぞれの持っている記憶や印象や体験、それで十分なんだと思う。俺がユーリイの名前を憶えているように、アイーシャはヌアナの名前を憶えている。誰かが憶えていれば、十分なんだよ。だって、俺達がこうやって集まったら、互いに憶えていることを共有することができるだろう?みんなで、一つ一つ、手持ちのパズルのピースを当てはめるみたいにしてやっていけばいい。そうしていけば、完成図に近づける筈だ」

 蒼の言う通りだった。莉子自身、蒼の話を聞いて、記憶が鮮明に思い出されるわけではない。蒼がそう言うのなら、そうだったのかなあ、というくらいの感覚でしかない。

 それでも、四人でいるから、大丈夫だと思える。今までは、たった一人だった。ずっと一人で、空っぽな記憶を抱えながら生きてきた。でも今は、蒼、レイモンド、アイーシャがいる。空っぽでも怖くない。一つずつ思い出のかけらを見つけて、それを共有していけばいい。わたし達は、今、一人ではないのだから。

「・・ユーリイは、どこにいるのかしら?」莉子が呟くと、三人が一斉に莉子を見た。

「わたし達が今、ここにこうしているように、ユーリイもどこかでわたし達のことを考えているのかしら。それとも、ユーリイは、今もわたし達のことは忘れていて、どこかで新しい家族と暮らしているのかしら?」

「そのことなんだけど、あたし、ずっと考えていたのだけど」アイーシャが言った。

「あのね、あたし、夢を見て目覚めるようになったのが春からなんだけど、その時間がわりと一定なの。夜中の三時とか三時半くらい」

「ああ、僕も一緒だ。僕はだいたい目覚めると三時くらいになっていた」

「そう。レイからそれを聞いた時、同じだなって思ったの。あたしとレイはだいたい同じ時間に夢を見ていた。それって何か、意味があると思わない?」

「どういうこと?」

「時差よ。日本と違って、同じアメリカでも地域によって時差があるの。あたしとレイは同じイースタン・スタンダード・タイム」

 アイーシャは腕時計を指さしながら、続けた。

「昨日の四時半、ちょうど坐禅が終わる時間は、ニューヨークやオハイオだと同日の夜中の三時半なのよ。あたし、昨日の声って、ただの偶然なんかじゃないと思う。ただの偶然で、リコとあたしの二人が、同時にあの声を聞くなんてあり得ない。あの時、あたし達が二人であの声を聞いたのには、ちゃんと意味があるんだと思う。言い換えると、春からの出来事は、ずっと誰かの意志が働いていたんじゃないかしら?」

「誰かって・・」呟いた蒼が、はっとした顔になった。

「・・まさか、ユーリイか?」

「そう」とアイーシャは頷いた。「これはあたしの勝手な想像。アオの話を聞いていると、ユーリイは、あたし達がその儀式を経て、眠ってしまった中、ただ一人、起きて立ち上がったのでしょう?つまり、ユーリイは儀式をせず見ていただけってこと。あるいは、参加するふりをしていたってことでしょう?それなら、ユーリイは、あたし達みたいに記憶を失っていないのかもしれない。全て憶えていて、ヌアナのこともちゃんと知っていて、その上で、あたし達にコンタクトを取ろうとしているのかもしれないって考えたの。何故、今になって、とも思うけど・・」

「何か事情があるのかもしれない」とレイモンドが言った。「ユーリイが僕達に働きかける理由が、何かは分からないけど」

「でも俺達は、ユーリイがどこにいるか分からない」と蒼が怒ったような顔で言った。

「俺の記憶の中の奴は、今でも子どもの姿だ。背も低い。ずっと子どものままだ。今、奴がどこで暮らし、何をしているのか、俺達にはまったく分からない」

 莉子は、左手首にしている腕時計を見た。時刻はもうすぐ三時半になろうとしている。昨日の今頃は、建長寺の方丈で坐禅会が始まった頃だ。それから一時間、莉子とアイーシャは方丈の中で坐禅をしていた。そしてあの声を聞いた。アイーシャが言うように、あの時に聞いた声にユーリイの意志が働いていたとしたら、今日もまたその声を聞くことはできるのではないだろうか。

 莉子は顔を上げた。

「ひょっとしたら、何か条件が必要なのかもしれない。眠っていたり、瞑想状態だったり、一点に集中していたり、わたし達のうち、誰かが一緒にいたり。今、三時半になるところなの。もし、昨日、声を聞いた時間に意味があって、わたし達四人が一緒にいれば、また何かを聞くことができるかもしれない」

「そうだな。可能性はある。リコ、今から建長寺に行けないか。みんなでその坐禅会に参加するのはどう?」蒼の問いに、莉子は首を振った。

「無理よ。坐禅会は途中では入れないわ。わたしの家でするのは両親や弟がいるから無理だし。誰も入ってこられない、どこか静かな場所はないかしら」

「それならあたしが泊っているホテルの部屋はどう?」アイーシャが言った。

「四人で足を伸ばすくらいの空間は確保できるわ。瞑想なら任せて。これでも、ヨガインストラクターのアシスタントをしてお給料を貰っているんだから」

 アイーシャが胸をそらすようにして言う。その可愛らしい仕草に、蒼とレイモンドが笑った。

「よし、車を取って来る。ホテルに行こう」と蒼が立ち上がった。


     ユーリイ

     1

 ヌアナの容態が悪化している。

 高熱が続き、苦しそうに呼吸をする。意識が朦朧としている時間も多くなった。

 訪問診療をお願いしている主治医のマクミラン先生は、首を捻る。

「ヌアナさんは、四十代とまだ若いし、何か特定の疾患があるわけでもない。どんな検査をしても、結果は異状なしだ。正直、わたしにはどうしたらよいのか分からない。解熱剤と栄養補給のための点滴と、そのくらいしかやってあげることがないのだよ」

 病院に入院して看護を受けることを、ヌアナは頑なに拒否した。ユーリイの母ミーナも、病院に入院した後、すぐに亡くなってしまった。おそらくその時の印象が強く彼女に残っているのだろう。

 誰にも話すことはないが、ユーリイには、ヌアナが衰弱していく理由が、何となく分かっていた。

 ヌアナは、能力を使い過ぎたのだ。

 ヌアナの能力が、いったいどういうものだったのか、今でもうまく説明できない。

 彼女は人の心を読み、その人にまつわる過去を見た。多くの人間の悩みを受け止め、それを癒す力を発揮した。そんな時、彼女は自身の中にあるエネルギー、言い換えると、生命力を削っていたのではないかと、ユーリイは考えている。

 仕事の後のヌアナの激しい消耗ぶりは、側で見ていてよく分かった。それでも、ヌアナは仕事をやめなかった。アオとレイ、リコとアイナを迎い入れてからは、尚一層、仕事に励んだ。ユーリイ達五人の子どもを養うためだった。

 どんな理由で、どこからアオ達をアパートに連れて来たのか、どうしてそれがいっこうに警察沙汰にならなかったのか、ユーリイには未だに分からない。はっきり分かっているのは、ヌアナは嘘をつかないということだけだ。

 初めて会った時、アオの身体には暴行された跡のような痣が無数にあり、レイには背中に痛々しい傷跡が残っていた。リコは大きな声や物音に過剰に反応した。アイナは、上半身裸でオムツをつけただけの格好で、真冬の夜の公園を一人で歩いていたのだという。彼らの身には、ヌアナがどうしても放っておけなかった、何かがあったのだ。ヌアナはそれを知っているから、アパートに連れて来た。そしてアパートに置く以上は、世話をしなければならない。金を得るためにヌアナができること、それは、街に出て、人の話を聞くことだけだった。



 後から振り返ると、何か得体の知れない、不穏なものを感じ始めたのは、アオの〈誕生日〉に、ヌアナが仕事から帰って来た時からだった。

 ヌアナは、子ども達がヌアナとユーリイのアパートに初めて来た日を〈誕生日〉と決めた。順番で、月に一人ずつ、誰かの〈誕生日〉に、みんなでささやかなお祝いをすることにした。ユーリイ以外は、実際の誕生日も、年齢も分かっていなかった。背格好から、何となくアオとレイは同い年で五歳、リコはその一つ下の四歳。アイナは二歳という風に数えていた。ユーリイはその時、十歳だった。ヌアナは、どこにも子ども達の存在を届け出なかったので、誰も幼稚園や小学校には行っていなかった。

 その日は、みんなでパーティーの用意をして、ヌアナの帰りを待っていた。

 アオとレイとで、クラッカーに生クリームを塗って、チョコレートチップや色とりどりのグミでトッピングをし、皿に並べた。リコは上手にゆで卵とハムと胡瓜のサンドイッチを作った。可愛らしいミニサイズのサンドイッチで、アイナが懸命に手を伸ばして摘まもうとするのを、アオとレイが必死に止めていた。

 窓の外は次第に夕闇に変わっていった。ユーリイは、いつものようにレコードをかけた。外が暗くなる頃、レコードをかけ、ヌアナの帰りを待つのが習慣になっていた。

 リコがユーリイの隣に座り、ユーリイの手元をじっと見ている。くるくると回転する黒いレコード盤の上に、レコードプレーヤーの針がふわりと乗ると、ヴァイオリンの音が、古びたスピーカーから聞こえてきた。

「ねえ、ユーリイ、この曲は何て曲?」リコが訊いてきた。

「パッヘルベルのカノンって言う曲だよ。パッヘルベルっていうのは、この曲を作った人の名字だよ。ヨハン・パッヘルベルと言ってドイツの作曲家だよ」

「ふうん」リコは耳を澄ますようにして聴きながら、壁の上にかかっている絵を見つめていた。その絵は、いつだったかヌアナが仕事のお礼に貰ったと言って、持ち帰った絵だった。富士山という日本の山を描いた絵だそうだ。日本。ユーリイが住んでいるアメリカとは太平洋を隔てて遠く離れている島国。

 額縁に入った絵を壁にかけた時、みんなでその絵を一緒に眺めた。ヌアナが言った。

「この山には、神様がいるんだって。女神様だそうよ」

「へええ、女神!どんな神様なんだろう!」アオが目を丸くして言った。アオは何にでも興味津々だ。「いつかみんなで日本に行って、本物を見に行きたいねえ」

「そうね、アオ、みんなで本物を見に行こうね」ヌアナがアオに笑う。

「日本はとっても遠いよ。日本に行くには、太平洋を越えなくちゃ。飛行機に乗らなくちゃ行けないよ。空を飛ぶんだよ」ユーリイが言うと、

「平気、平気!みんなで行けば、飛行機なんて怖くないさ。なあ、レイ」とアオが隣で絵を見つめているレイに話しかけた。レイは、こっくりと頷く。

「う、うん。みんなで行くのなら、大丈夫だね」

「はーい。わたしも、わたしも行きたい!」リコが手を上げて元気よく言うと、リコの膝の上にいたアイナが、「あたちも行きたい!」と真似をしたので、みんなで大笑いした。

 リコは、レコードを聴きながらヌアナを待っている時、よくこんな風に絵をじっと見つめていた。その横顔を眺めていると、リコが不意にユーリイの方に向き直り、にこりと笑った。

「わたし、この曲、大好きなの。だって、この曲を聴くと、もうすぐヌアナが帰って来るって知っているから」

 いつの間にか、ユーリイとリコの間に入ってきていたアイナが、リコの腕につかまって、得意げにユーリイに言った。「あたちも、この曲、大好きなの!」

 ユーリイは笑って、アイナの小さくてふわふわした赤い髪を撫でた。

 すぐ側では、アオとレイが、床にカードを広げて、カードゲームをしながら笑い声を上げていた。真冬でも、暖房機がなくとも、こうやって人がいるだけで部屋は暖かく、ユーリイの心も温めてくれていた。誰かが喋る声、笑い声が、パッヘルベルのカノンの優しいメロディーと混じり合う。それは、ユーリイにとって、この世で奏でられる音楽の中で、最も美しい音楽だった。

 パッヘルベルのカノンが終わり、レコード盤の上の針がツーッと上がり、元の位置に戻った。

「・・ヌアナ、遅いね。ちょっとお外を見て来ようか」

 リコがそう言った時だった。玄関のドアが開く音がした。

「あっ、ヌアナが帰って来た!」

「ヌアナ、お帰りい!」アオとレイが、手に持ったカードを放り投げて、玄関に向かって駆け出した。

「ああっ、ヌアナ!どうしたの?」二人の驚く声が聞こえた。ユーリイは立ち上がって玄関に急いだ。リコもアイナも付いてくる。玄関口に佇むヌアナの姿を見て、誰もが言葉を失った。

 ヌアナの顔は腫れて膨れ上がり、服は泥まみれになっていた。


     2

 ユーリイは、ヌアナの額に浮かぶ汗を濡れタオルで拭った。

 ヌアナのこけた頬を見つめながら、十五年前、ヌアナの頬を打った憎い人間を思い出す。

 リューキ・ウルレヒト。通称<スネイク>は、ヌアナとユーリイが暮らしていた街の裏組織を牛耳る男だった。

 ヌアナの不思議な能力が、次第に人に認められ、噂が広がり、彼女に話を聞いてもらおうと順番を待つ列ができ始めた頃、<スネイク>はヌアナの前に現れた。

 ヌアナは他の人間に対するのと同じように、<スネイク>を見てやった。<スネイク>は驚嘆し、気前よく礼金を払ってくれた。

 だが、それだけでは終わらなかった。<スネイク>はヌアナの能力を利用して、金儲けをしようと考えた。別の街の大物の前にヌアナを連れて行って、紹介し、紹介料として上前をはねた。圧倒的に利己的な<スネイク>に、ヌアナは抗えなかった。その頃には、ユーリイはもうヌアナの仕事に同行することを許されなかった。

 <スネイク>の要求が増すごとに、ヌアナは疲弊していった。ヌアナが仕事を断ると、<スネイク>はヌアナに手を上げるようになった。

 あの日、アオの誕生日パーティーが終わり、みんながベッドに入って眠りについた後、ユーリイは、ヌアナの口から初めてそれを聞いた。

 今なら、ヌアナが、<スネイク>に搾取されていたのだと分かる。だが、当時十歳だったユーリイは、突然、ヌアナの前に現れた<スネイク>という、悪意ある巨大な存在に、ただ驚愕し、恐怖することしかできなかった。

「もっと仕事をしろ!お前の取柄はそれだけなんだからな。もっと金を稼げ。俺が上客を見つけてきてやるからな!」

 <スネイク>はそう言って、ヌアナを急き立てるのだと言う。

 <スネイク>には、ドリスという一人娘がいた。ユーリイは一度だけその娘に会ったことがあった。<スネイク>とは似ても似つかない優しげな美しい少女で、<スネイク>は死んだ妻に生き写しだというその娘を溺愛していた。その娘の前では、欲にまみれ、醜悪な<スネイク>の顔も、少しばかり穏やかに見えた。

 ある日、娘は密かに心を通じていた男と駆け落ちし、それを阻止しようと追いかけた<スネイク>の手下達から、車に乘って逃れようとした。彼女が乗った車は、運転を誤って街路樹に激突し、車は炎上し、乗っていた二人は死んだ。

 最愛の一人娘を失った<スネイク>の悲嘆は、彼自身の人間性を、より複雑に歪めていった。<スネイク>は、ヌアナを責め、ドリスの死の全てをヌアナのせいにした。

「何故、こうなることを俺に言わなかったんだ?何故、止めなかった!全部、お前のせいだ。お前が悪い。お前が黙っていたせいだ!」

 ヌアナには未来は読めない。誰にも未来など読むことはできない。その人間の意志と行動は、その人自身のものだ。ドリスの行動の結果をヌアナのせいにするのは、おかしい。それは間違っている。十歳のユーリイにも、その理不尽さは理解できた。

 だが、誰も、ヌアナに対する<スネイク>の怒りを鎮めることはできなかった。<スネイク>は知らぬ間にヌアナのことを調べ上げ、アパートにユーリイを含めた五人の子どもがいることも把握していた。ヌアナが五人の子どもを養育するために仕事をしていることも。

 <スネイク>の歪な復讐心は、何の罪もないヌアナに向けられた。

「そもそも、なんでお前には五人も子どもがいるんだ?俺にはドリス一人しかいなかったのに。おかしいだろう。お前はなんで俺の大事な娘を見殺しにしたんだ?お前には、最初から分かっていたんだろう?あの男がドリスを連れ出すつもりだったことは。何故、それを前もって俺に言わなかった?お前が言っておいてくれたなら、俺は何としても、二人を逃がしはしなかった。・・お前のせいだ。お前がドリスを殺したんだ。・・おい、自分の子どもが死ぬってことが、どんなにつらいかお前に分かるか?お前にもそれを味あわせてやるよ。お前のところにいるガキどもを、ドリスと同じように燃やしてやる・・!」


最終章に続きます。

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