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同キャラ使いの後輩ちゃん  作者: わさびもち
1/3

こんにちは、先輩

「あちょっ! 先輩! そこの立ち回り甘いです! あっ! そこ復帰阻止……あー下手くそ!」

「うるさいうるさい! 体揺らすなって!」


 真剣にオンラインでの対戦に勤しむ俺の神経を逆なでするかのように、そいつは逐一指示やらダメ出しやらを飛ばしてくる。



「だーもう! 見ててイライラするぅ! そこの回避読めたでしょ!?」

「いや、でもそれは……あっ」

「ほらー! 私の言った通りじゃないですかあ!」


 無様に画面外へと吹き飛んでいった俺のキャラクターを指差しながら、何故か得意げに胸を張るそいつ。


「はい、今の試合の悪かったところを考えましょう。 って言っても非常にたくさんあるんですが……ってなんでもう次の試合始めてるんですか!」

「いや、さっきの試合終わった後だって反省会したじゃねえか。 そんなに毎回やるより数こなしたほうがいいだろ?」


 俺の反論に、やれやれとでも言いたげな表情を浮かべながら有線の通信ケーブルを引っこ抜いた。


「はぁぁぁぁ!? 何やってんだお前!」


 強制的にインターネット接続を切断されたことで、俺のモニターには「通信エラーが発生しました」と無慈悲な文言が表示されていた。


「何もわかってないですよ先輩は! とりあえず、先輩は雑魚なんですから私の指示に従ってください!」

「てめぇ……」


 色々と言いたいことはあるが、俺はこのゲームに関して基本的にこの女「東雲 玲於奈」こと「シレにゃん」に逆らうことはできない。

 なぜならこいつは「同キャラ使いの女後輩」なのだから。


 ★


「あのーすいません。 あなたが笹倉先輩ですか?」


 そいつとの邂逅は突然のことだった。

 俺が作った大学のゲームサークルに、そいつがやってきたのだ。


「えと……君は?」

「私、東雲玲於奈って言います。 今年から入学した一回生です」

「そ、そっかー……。 あ!  俺は笹倉暁人、二回生だよ!  よろしくね!」


 初めて話した時はなんというか、小動物みたいな子だなという印象を受けたことを覚えている。

 見た感じの身長は150cmあるかないかで小柄な体格で華奢だし、顔も童顔だったからでぱっと見高校生かとも思った。

 まぁそれよりも……女子との接点が多いと言えない俺にとっては、浮ついた口調になってないかの方が心配だったのだけど。


「あの……Zで先輩がゲームサークルのメンバーを募集してるって知って……私も『ストシス』好きなんですよ! 良かったらサークルに加入させてもらいなって思ってまして」

「えっ! そうなの!? いやぁ嬉しいなぁ! うちのサークル、人数合わせで名前だけ貸してもらってる友達しかいないからさぁ! 大歓迎だよ!」

「はい! ありがとうございます!」


 単純に新しい仲間ができたことを喜んでいた俺が、東雲玲於奈の本性を知ることになるのはこの喜びの少し後のことである。


 ★


「それじゃあ、新人歓迎会? みたいなやつの前にとりあえず何戦かやってみない?」

「了解です! 対戦お願いします!」

「それじゃあとりあえずこのコントローラーを……ん?」

「あぁお構いなく。 自前のやつ持ってきてるので」


 俺は彼女のリュックサックの中から出てきたそのコントローラーに目を剝いた。

 無骨なフォルムで、リュックサックの大きさとほぼぴったりに収まるその設計。


「いや……それアケコンじゃねぇか!?」


 俺は思わず叫んだ。

『ストシス』は格ゲーではなくアクションゲームとして分類されることもままあるように、特殊なキャラクターでない限りコマンド入力を使用することはない。 

 だからこそ、基本的に競技シーンで使われるコントローラーも俺が使っているようなゲームパッドタイプのものであり、間違ってもアケコンなんてものは使われることはない。


「私はこれなんですよねー。 あ、キーコン失礼しますね」

「お、おう」


 驚く俺と対照的に淡々とキーコンの設定を進めていく彼女。

 俺がおかしいのかな? 

 なんてことを考えている間にキーコンの設定が終わってキャラの選択画面となる。


「笹倉先輩はどのキャラでいくんですか?」

「あ、あぁ……じゃあいつも通り」




 そう言いながら俺はいつも使っているメインのキャラを選択する。

『ストリートシスターズ』のゲームにおいて俺が使うキャラクターはいわゆる主人公枠のキャラクター『シスター』だ。

 そんな俺の選択画面を見て、東雲玲於奈は小さく「え」と呟いた。


「ん? どうした?」

「い、いや……なんでもないです!」

「そうか……?」


 しかし俺の気のせいか彼女の目元が一瞬ひきつったようにも見えたのだが……。


「わ……私も『シスター』を使いますね!」

「あ、君も『シスター』使いなんだね。 それじゃあミラーになっちゃうね。 まぁ、どっちが勝っても恨みっこなしでいこう!」

「は、はい!」


 ミラーになることに気を使っていたのだろうか?

 どこか煮え切らない態度に若干の疑念を抱きながらも画面内では『3……2……1』とカウントが進んでいき、大画面の『GO!』の合図とともに試合が開始する。

 ……それと同時に虐殺が始まった。


 ★


「あの……そ、そろそろやめようか」

「あ! はい、対戦ありがとうございました」


『GAME SEAT』の文字とともにシスターのリザルト画面が流れる。

 しかし、残念ながらそのシスターは俺のものではなく彼女のものであった。

 五回勝負をして0勝5敗。

 同キャラ使いの後輩に俺は完膚なきまでに叩き潰されたのだった。

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