女の子同士でキスをしたら子どもが出来ちゃう世界で、親友にキスされた
きっと怒られないはずです。
ギリギリセーフなはずです。
「ちょっ、ばっ、バカじゃないの!?」
私は親友の愛莉から離れて、口を拭う。
このバカは、今したことの重大さを本当に分かっているのだろうか。
「女の子同士でキスなんかしたら、赤ちゃんが出来ちゃうじゃない!!」
私たちはもう高校3年、つまり18歳で。
既に毎月アレの週間はやってきている。
そんな私たちがでぃ、ディープキスなんかしちゃったら、子どもが出来てしまう!
「バカ!ホントばかっ!しかも、私の方に舌を入れてくるし…!
私が妊娠したらどうするつもり!?」
女の子同士がキスをしたら、子どもが出来てしまう。
生物的にはあまりにも異常だけど、それは実際に起こってしまう。
人口があまりにも減少してしまった、超少子高齢社会の日本人女性だけに起こった進化。
キスだけじゃなく、女性同士で遺伝子情報を交換すると、受け入れた側の女性が妊娠する。
女性同士で出来る子どもは、全員女の子で、今では男女比が3:7になっている。
妊娠する確率は3%ほどらしいけど…キスなんか何回でも簡単に出来る。
今は1回だけだったけど…それでもっ!
「何か言いなさいよ!」
私が愛莉を睨み付けると、やっと愛莉は口を開いた。
「日花の口って甘いね」
「こいつ…!」
愛莉は特に表情を変えることなく、そんなことを言った。
なんでそんなに冷静なのか分からなくて、めっちゃ腹が立つ。
「あんた、本当にどういうつもり!?」
「だって、私のこと好きなんでしょ?」
「うぐっ」
「幼なじみで、親友の私のことが大好きって告白してきたのは日花じゃん」
そうなのだ。私は、つい5分ぐらい前にこいつに告白してしまったのだ。
今考えると、バカなことをしてしまった。
「私が、学校で男子に告白されてるのを見て、胸が痛くなったんだっけ?」
愛莉がにやぁと、口角を上げた。
今こいつが口にしたのは、私がさっき告白したときに言った言葉。
たまたま、放課後の教室に忘れ物を取りに戻ったら、愛莉がクラスの男子に告白されているのを目撃した。
別に、私は愛莉のことが好きだったはずじゃないのに、ついそこに横入りし、愛莉を家に連れて帰ってきてしまった。
そしてそのまま告白しちゃって…気付いたらキスされていた。
「それはそのっ、そうだけど…」
「じゃあ別に良くない?」
「よっ、良くないよ!」
「なんで?」
「なんでって…妊娠したら大変じゃない!」
「何が?」
「お金とか、学校とか!」
「お金は私が持ってるし、学校も、今妊娠しても春休みぐらいに出産でしょ?」
「たっ、確かに、愛莉は株でお金稼いでるし、もう6月だからそうかもしれないけど…あっ、大学もあるじゃん!」
「別に大学の授業は遠隔授業で良くない?私たちが受験するところって、家で授業を受けられるのが売りじゃん」
そうだった。大学の授業もどうにかなっちゃうんだった。
…あれ?じゃあ、別に問題はないの…?
「いや、いやいやいや、お母さんたちも怒るよ!だってまだ高校生だし!」
「怒らないでしょ。おばさんたちを思い出してみなよ」
うぅ…確かに、孫が可愛いって言ってる未来が見えるけど…。
「ちなみにうちは、自己責任でOKって言われてる」
「愛莉の家はそういうところだもんね…」
「ねぇ、まだ何か問題ある?もっとキスしたいんだけど?」
「うぐぐ…あ、待って!まだ愛莉の気持ちを聞いてない!」
私ににじり寄ってきていた愛莉を止めて、そう言った。
そうだった!まだ返事聞いてない!
「日花のこと好きだよ?じゃないと、こんなことしないし」
愛莉はサラッと、そう言った。
顔が熱くなっているのを感じて、恥ずかしくなる。
「そ、そんな軽い気持ちなの?」
「もう、まだ不満なの?ちゃんと言ったじゃん」
「そういうとこだよっ!なんか軽い!全然気持ちが伝わんない!」
「本当に伝わってない?顔も赤いし、日花なら分かってるよね?私が本気だって」
「むぅ…」
愛莉が即答するときは、本当のことしか言ってない。
それは、幼馴染みで親友の私はよく知っている。
「どっ、どこが好きなの?」
「全部。顔も好きだし、声も性格も言動も全部好きだよ」
「うぎゅっ」
凄く真剣な眼差しで、私を見つめる愛莉に、つい目を逸らしてしまう。
やめてほしい。そんなこと言われたら、もっと好きになってしまう。
「ねぇ、まだ何か不満があるの?」
「不満…」
よく考えると、断る理由はないのかな…?
いや、だめだめ、流されちゃダメ。
でも、学校もお金も親も、何も問題ないし…。
んー、何が引っ掛かるんだろ…。
あっ、そっか。
「私も愛莉の子どもが見たい」
「? 2人の子どもでしょ?」
「ちがう。愛莉が生んだ子どもが見たい」
「あ、そういうこと。
へー、つまりぃ、私を孕ませたいってこと?」
「そ、そういう言い方は良くないと思うっ!」
「でもそういうことでしょ。
日花は私を妊娠させたいんだぁ?」
愛莉がニヤニヤ見つめてくる。
やめて、恥ずかしいからそんな顔で見ないで。
「日花ってさー、結構むっつりスケベだよね」
「えっ!?」
「いっつも私をえっちぃ目で見てきてさー、本当に気付かれてないって思ってたの?
座って足を組んだら太ももを見てくるし、胸元の緩い服だったら上から覗こうとするし」
「そっ、そんなことしてない!」
「ほんとー?」
「本当ですっ!」
「そっかぁ。そういえば、この部屋暑いなぁ」
愛莉がそんなことを言いながら、制服のボタンを上から1つだけ外した。
あっ、今谷間が…!
「ガン見じゃん」
「あうっ」
ちくしょう、罠だった!
ついつい、ガン見してしまった!
やめろっ、ニヤニヤするな!
「ねー、いいじゃん。キスしようよぉ?」
「ちょっ、抱きついてこないで!?」
「なんでー?別に日花はむっつりスケベじゃないんでしょー?」
「それはっ、違うけどさ!?」
「じゃあいいじゃん」
「あっ、ちょっ!?」
右腕に柔らかいものが当たる。
腕の方を見ると、そこには白いものが…って!
「またガン見してるじゃん。ほらっ、もう認めちゃいなよ。
そして、私とチュッチュしよ?いつも誰かさんがえっちぃ目で見てくるから、私もそろそろ限界なんだけど?」
愛莉が首をかしげて、誘惑してくる。
凄くあざとい行動なのに、心がざわめく。
もう、いいんじゃないか?
だって、今までずっと大好きだった愛莉から誘われてるんだよ?
いや、いやいや、だめだめ!
まだ高校生だし!
「日花が妊娠したらさ、両親に言って、結婚届出しに行こうよ」
「えっ!?」
「そしてそのまま、2人で同居するの。
毎日同じ家から高校に行って、同じ家に帰ってくる。
学校の皆には内緒で、2人だけの秘密にして」
つい、愛莉の言った風景を想像してしまう。
今日愛莉に告白してた奴にも、いつも私たちと遊んでくれる友達にも、皆に秘密で同棲する。
私のお腹には愛莉の子どもがいて、それも秘密。
卒業式の頃にはさすがにバレてるだろうけど、その頃にはもう取り返しが付かない。
私は愛莉の赤ちゃんを産むしかなくて、そこには誰も入ってこれない。
「さすがに2人同時に妊娠して出産は大変だから、数年後に、私が日花の赤ちゃんを産んであげるよ。
想像してみてよ。私のお腹が大きくなっていて、私はお腹を撫でているの。その中には日花の赤ちゃんがいて、日花は私の赤ちゃんを抱っこしてるの」
「それは…凄く憧れる」
すごく、すごく、素晴らしい世界だと思う。
いつも2人と、2人の赤ちゃんと暮らしている。
それでも何回もキスしちゃって、どんどん妊娠しちゃう。
気付いたら片手じゃ数えられないぐらいの子どもがいて、全部私と愛莉の子ども。
「でしょ?それが今なら現実に出来るの。
日花が私を受け入れるだけで、そんな幸せな世界がやってくるの」
「愛莉を受け入れる…」
「そう。目を閉じて、私とキスするだけ。
ほら、目を閉じて?」
私は、愛莉の甘い言葉に導かれるまま目を瞑る。
すると、唇に柔らかいものが優しく触れてきた。
そしてそのまま、私たちは口を少し開き、ディープキスをする。
何回も何回も、キスをした。
半年後―――――
「ばかっ!なんで私たちが妊娠してることを皆に言っちゃうの!?」
「だって、聞かれたもん」
「あんた、もんとか言う性格じゃないでしょうに!」
「いいじゃん、別に隠すことじゃないし」
「それはそうかもだけど、でもっ!」
私は、自分と愛莉のお腹を見て、口を開いた。
「2人同時に妊娠したなんて、バカじゃない!」
そうなのだ!調子に乗ってキスをしまくってたら、2人とも妊娠しちゃったのだっ!
ばかっ、片方ずつって話はどこにいったのよ!
しかも、それを友達に聞かれたからって、教室で皆がいるときに言いやがって!
「だって、日花が可愛かったし」
「かわっ!?も、もうっ、すぐそんなこと言って!」
「日花、あんまり怒ると、赤ちゃんに悪影響だよ。
それに、私は日花の笑顔が好きだな」
「うぐっ…いつもそんなこと言って…」
赤ちゃんを出されると、さすがに怒れなくなる。
それを分かっていて言うんだから、愛莉は性格が悪い。
「ねぇ、そんなことより、しようよ?
今日も私のことをえっちぃ目で見てくる誰かさんがいて、ムラムラしてるんだけど」
「っ!?わ、わたしじゃないからね?!」
「別に日花って言ってないんだけど…もしかしてえっちぃ目で私のことを見てたの?」
「あっ、いやっ、ちがくてっ!」
「ふーん。まあいいけど。
ほら、こっちきて」
愛莉が私を誘ってくる。
その目は、半年前から変わらなくて。
ニヤニヤしつつも、真剣な眼差しで、キュンキュンする。
私は、そんな愛莉の目も好きになってしまっていて。
ふらふらと誘いに乗ってしまうのだった。