愚行
◇◇
夕闇が迫る頃、シェーナはこっそりと部屋を抜け出した。
疲れているから、休ませて欲しい。
そう言えば、双子は素直に部屋を後にしてくれた。
一人で抜け出るにしてもこの時刻を選んだのは、双子が夕食の準備などで仕事が立て込んでいてシェーナに常には注意を向けていないからと、カナスがまだ政務についているからだった。
血の繋がった従兄が現れてからすでに5日が経過していた。
容赦のない悪意にさらされた恐怖とトラウマは、カナスたちがそばにいてくれることでその日のうちにだいぶ薄れた。
この国にいる人たちは、フィルカでは考えられないほどシェーナに優しい。
フィルカではシュンヌの扱いが正解だ。
そこにいるのに「存在しない」。
その理を超えることが許されるのは、侍女のルーナなど王に許可をもらった者だけ。
シュンヌはその特別な人間の中でも、シェーナが父親と同列に苦手にしている人物だった。
現フィルカ王の姉の一番上の子である彼は、シェーナが生まれ、王妃が死んだそのときから王太子の地位についた。
王は妻を生涯一人しか娶らない。
そのシステムは血族を残すためには非効率的ではあったが、神に誓った者以外に心を移すことは神への一番の冒涜とされていた。
だから男子なく王妃が早世した場合には、すぐさま血縁から養子が立てられる。
子供の頃から王の子として育てられたシュンヌは、誰より王家の志に忠実だった。
それゆえ、シェーナの存在を忌み嫌い、最も憎んでいる人物といっても過言ではない。
あのまま王位がシュンヌに譲られれば、その一番初めの仕事として彼はシェーナを処刑台に送り込んだことだろう。
フィルカで信仰されているバンベール教の最たる原理主義者として、強硬な姿勢が目立ってきているとシェーナの耳にも入ってくるほどだった。
それは、天災に見舞われることが多く、周辺諸国の列強化で国力の衰退が深刻化してきていた時代に育ったが故のことであり、国民にも支持が高かった。
皆、貧困から抜け出るすべを探してもがいていたのだ。
過激な主張を繰り返す面はありつつも、混乱の世を導くにはいなくてはならないリーダーではあった。
だから、シェーナは一人でこんなところにいるのだ。
(騙してごめんなさい)
カナスに許可をもらって、従兄に会いに来た。
国のこともあり、人に聞かれずに話したいのでどうか一人で行かせてほしい。
シェーナが嘆願すれば、それはすぐに叶えられた。
守衛の兵士はちらりと不安そうな表情を覗かせつつも、地下牢へと繋がる階段を下りることを許してくれたのだ。
実際には勿論、カナスの許可などとっていない。
彼はシュンヌには並々ならぬ憤りを感じているようで、シェーナが何を言っても最早とりあってくれなかった。
謝るから怒りを収めてほしいと何度願いでても、却って彼を不機嫌にさせるだけだった。
お前が謝る必要など欠片もない。あいつに関わるな。
その言葉が返ってくるだけ。
けれど、昨日聞いてしまった会話は見過ごすわけにはいかなかった。
『日の指さぬ地下牢に繋がれ、随分と弱ってきているそうですが・・・』
『水も食料も十分に与えている。改善してやる必要などないだろう』
『しかし、不自由なく育てられた一国の太子です。捕虜のような扱いに対する、過多なストレスが原因だと思われます』
『・・・よろしいのでしょうか?』
『あいつに何故憐憫などかけてやる必要がある。あいつの言動のどれを取っても、その場で殺さなかっただけ俺はかなり堪えたと思わねえか?』
『確かに。あそこまでとは・・・我々の想像の範疇を超えておりましたね』
『おいたわしい・・・』
『同情の余地なしだ。フィルカ王からの返事が近日中に来なければあいつはもう用済みだ。さっさと始末して、その遺体をフィルカに送り返してやれ。あの頑固な国もそこまですれば対応を考えるだろう』
たまたま立ち聞いてしまったシェーナは、カナスの残酷な言葉に血の気が引くのを感じていた。
きっと、彼は王として正しい判断をしているのだろう。
不敬罪は死刑または流刑と決まっている。
その裁量は、徒をなされた者によって下されるというのがアキューラの法だ。
大国の王として、シュンヌの言動を許すわけにはいかなかったのだろう。
だが、シェーナはおとなしく受け入れられるわけがなかった。
かつん、と石造りの地下牢には、足音が大きく響いた。先ほどの守衛が火を入れてくれたので暗くはなかったが、どこか薄気味が悪い独特の雰囲気にシェーナはすっかりと怯えていた。
それでも、周りを見渡しながら一歩一歩前に進む。突き当たった一際広い牢の中に黒い影がいるのが見えた。
「・・・・シュンヌ王太子殿下・・・?」
「・・・・・・誰だ?」
「殿下、あの、ご、ご無事で、なによりで・・・ございます」
消え入りそうな声になってしまったのは恐かったから。それでもシェーナは牢の外から、気遣いを見せた。
「体調を・・・お崩しになられていらっしゃる、と聞き・・・ました・・・。大丈夫でございましょうか・・・?」
「お前は・・・!」
彼はその声の主がシェーナであると気がつくと、勢いよく身を起こして、鉄柵を両手でつかんだ。
その際にじゃら、と重そうな音がしたのは、彼の足を鎖が壁とつないでいるせいだ。余裕を随分ともたせてあるとは言っても、王族には耐え難い苦痛である。
「何故ここにいる!?」
「もっ、申し訳ありません・・・。身の程もしらず、“神官”の方にお声をおかけするなど・・・ゆ、許されぬことと存じてはおりますが・・・お話が・・・」
その剣幕にシェーナは怯えたが、シュンヌは舌打ちをして「許す」と一言呟いた。
これで、シェーナはそこに『いる』ことが許されたことになる。
シュンヌは初めてシェーナをその瞳に写した。
とはいえ、嫌悪と憎悪に満ち溢れた瞳ではあった。
「私をここから出せ。一刻も早く」
「申し訳ありません・・・それは、私の力では・・・」
「お前はこの国の国母となるのであろう。それぐらいできぬでどうする!“白の神官”となるべき私がこのような目にあっているのだぞ!」
「申し訳ありません、申し訳ありませんっ!でも、わ、私では陛下のお怒りを解くことができず・・・」
「どこに行っても役立たずな娘だな、お前は」
「・・・申し訳ございません・・・」
「愚図で無能のお前を生かしてやった恩一つ返せぬとは・・・本当にお前は呪われた存在だ」
「・・・・・・申し訳・・・」
「あと一日待ってやろう。それまでに、私をここから出すのだ。よいな?」
「・・・・・・・・それは・・・、殿下・・・どうか、お願いがございます」
「お前の願いなど聞き届けられるわけがなかろう」
「しかし、これは一刻を、あらそい・・・殿下の・・・お命・・・に関わることで・・・」
「何だと!?」
シェーナは始終びくつきながら、自分が断片的に聞いた会話をシュンヌに伝えた。
「へ・・・陛下がこのような、恐ろしいことをおっしゃるのは初めてなのです・・・あの方は本来は、とてもお優しい方で・・・きっと、お怒りが解ければ、必ず、必ず思いとどまってくださいます。ですから、どうか、陛下に対する非礼をお謝りください。そうすればきっと・・・っ!?」
「ふざけるな!この私に、あの蛮国の王に頭を下げろと!命乞いをしろというのか!?」
鉄柵をつかんでいたシュンヌの手が隙間から伸び、シェーナの胸倉をつかんだ。
強引に柵に引き寄せられたことで首が絞まり、息が止まりそうになる。
「この由緒正しき血筋の私が、戦しか能がないあのような野蛮人に・・・だと!?」
「で、殿下・・・お静まり・・・を・・・どうか・・・これ以上、は・・・」
更なる侮辱を重ねたことが知れれば、もうカナスの怒りは解けないだろう。
それほどまでに、野蛮人という言葉が優しかった彼を変容させるほどの禁句なのだとシェーナは信じていた。
「どぅ・・・か・・・フィルカの・・・民・・・のため・・・殿下が・・・いなけれ・・・ばなりませ・・・ん・・・どうか・・・この場は・・・」
「冗談ではない!お前が私を逃がせばそれで済む話だ!さっさとあの男を説得して鍵をもってこい」
「・・・・むり・・・です・・・わたし・・・では・・・っ」
もう息が持たない、と思った瞬間、シュンヌの手が離れた。
どさりと地面に膝をついたシェーナはごほごほとむせ返る。
だが、シュンヌは決してシェーナを解放してくれたわけではない。彼は手近にあった布で右手を包むとその状態でシェーナの耳から下に垂れ下がった黒髪を乱雑につかんだ。
「無理なものか。随分と可愛がれているようではないか。この髪も、随分手入れされている。こんな忌まわしいもののくせして」
「っあ・・・ぅ・・・っ!」
ぐいっとひっぱられてシェーナはまた錆びくさい鉄棒に顔を寄せることになった。
さらには引っ張られすぎて、ごつんと左の額をぶつけることになった。
「肌もきめ細かく、手入れが行き届いている。爪も光っていて、手には何一つ荒れたところがない。随分な身分だな、祖国が荒れ、人々が日々の生活にも苦しんでいるというのに。その呪いの根源たるお前が、誰よりも優雅な生活をしているとは、なんと民に申し開きをしたものか」
「っ申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありませんっ!」
シェーナは壊れたレコードのように謝罪を繰り返した。
―――なんと、民に申し開きをすればよいものか。
それをシェーナは幾度となく父から聞かされてきた。
そしてその言葉の出るたび、恐ろしい目に合ってきた。
だから、到底正気ではいられない。
まして、父よりも強硬派のシュンヌが相手だ。
シュンヌはまるで汚いものに触れるかのように、布で覆った手でシェーナの顎をつかんだ。
シェーナはただ震えて、彼と目を合わせないようにする。
その黒い瞳に姿を写せば、それこそ不敬として目を潰すくらい平気でする男だ。
「ふん、少しは乳臭さが抜けたか。とはいえ、こんなもののどこが『可愛いらしい』のか私にはまったくわからんがな。世界中の美姫を集めているという噂であったが、とんだ悪食だったというわけか」
シュンヌは心底カナスを馬鹿にしたように笑った。シェーナは表情を凍らせる。
自分のせいでカナスが悪く言われることはもっとも辛かった。
「まあ、“歌使い”としての価値があればこそではあろうが。とにかく、今はお前に価値を見出しているのだ。何としても気を変えさせろ。私のため、それぐらい役に立って当然であろう」
「・・・で・・・できるかぎりのことは、勿論させていただきます。けれど、私のみの力では・・・」
「できぬという言葉など求めていない!代わりに自らの命を差し出すほどのことも言えんのか。そこまですれば、あの男も折れるであろう。国のため、お前の“歌”を失くしたくはないであろうからな。それともお前はその命を惜しむか。その浅ましい命を、私のために使えぬというのか!その命、拾ってやったのは恩も忘れて、享楽を手放したくないと申すか!」
「っ・・・いいえ、いいえ。そんなこと思っていません、思っていません。命が惜しいなど、一度も、そんなこと思っていません・・・!」
またぐいっと髪をひっぱられてシェーナは短い悲鳴を口の中であげた。
それを出せば殴られることを知っているから。
とにかくまず謝らなければならない、痛みを口に出してはならない。
厳しくシェーナにそれを躾けたのは、フィルカの王とそしてこの厳格な従兄であった。
「ではさっさと・・・・!」
しかし、それ以上の命令はシュンヌの側で止まった。
おそるおそる開いた瞳に、影が写る。
そして次の瞬間には、シュンヌの悲鳴が上がった。
「貴様はどこまで俺を怒らせれば気が済むんだ」
カナスが、檻をつかんでいたシュンヌの左手を、足を上げて踏みつけたからだった。
「ぐ・・・あっ、ああ!」
「カナス様!やめ・・・やめてください!」
すぐには離せぬよう、さらに靴底でぐりぐりと踏みつけていたカナスに、髪を解放されたシェーナは慌ててすがりついた。
すると怒りをたたえた青い目がそのままシェーナに向けられる。
「お前は・・・何故、こんな奴をかばう!」
シェーナは、びくん、とすくみあがって目をきつく閉じた。
このまま自分も殴られるのかもしれない。
しかし、予想外にシュンヌの苦痛の声は止み、代わりにシェーナにはふわりと温かな腕が回された。
「怪我はないな?」
「・・・カ・・・ナス様・・・?」
「いきなりいなくなるな。肝が冷えた」
ほっと息をついたあと、カナスはシェーナの頭や頬を撫でた。まるでシュンヌに触られた痕を消すかのように。
「ごめ・・・なさい・・・。でも・・・カナス様が・・・お、怒りで・・・今までで、一番・・・“神官”の方を・・・し、始末・・・って、だから・・・」
「・・・あれを聞いていたのか」
「ごめんなさい!それほどまでに、殿下のお言葉にお怒りになられているとは分からなくて・・・、だから、で・・・殿下に、どうか、どうかお言葉を撤回していただけば・・・きっと、許してくれるって、そうやって思って・・・」
「それでこの状況か?」
シュンヌをカナスがにらみつけようとしたのを感じて、シェーナは慌ててカナスのシャツをつかんだ。
「申し訳ありません!ですが、どうか殿下をお許しください。フィルカは歴史を慮ります。時にはそれが・・・他国には、お、驕っているかのように言われることも存じています。ですが、決してアキューラを軽視しているわけではないのです。蛮国などと、本気で思っているわけはないのです。アキューラは文化の発展した素晴らしい国で・・・」
「ちょっと待て。お前は思い違いをしてないか?何故俺が怒ったと思ってるんだ?」
「え・・・そ・・・れは・・・」
シェーナはちらりと檻の中のシュンヌを見た。
またそれを口にすればカナスの怒りに油をそそぐことになりかねないと危惧したのだ。
だが、カナスはそんなものを見るなと言いたげに、シェーナの両頬を手で挟んで自分の方を向かせる。
「何だ?」
「・・・あの、決して殿下は本気で申し上げたわけではないのです。ただ、間違った言い回しをしただけです。・・・が、あの・・・カナス様を・・・野蛮人、と・・・」
その瞬間、はぁ、とカナスが大きく息を吐いた。
その音にシェーナは顔色を失くす。
しかし、すぐに落ちてきた掌はただ優しくシェーナの頭を撫でただけだった。
「そんなことぐらいでいちいち目くじら立てるわけがねえだろ。アキューラは傭兵が武力で建てた国だ。んなもん、ここより1年でも歴史の古い国には散々言われてきた言葉だぜ。本気で相手を殺したくなるほど怒る話じゃねえ。まあ、前王はどうだったかはわからんけどな」
「え・・・」
「俺がこいつを殺したいほどに憎んでるのは、お前に対する態度のせいだ」
「どういうことだ!」
答えにより早く反応したのは、シュンヌのほうだった。
「私がこのような場につながれているのは、その“シャンリーナ”のせいだと?」
「黙れ、下郎が」
カナスは檻の隙間からすばやく手を差し込み、シュンヌの胸倉をつかむと、またすぐさま後ろに突き飛ばした。
「カナス様っ!?」
「お前が気にすることじゃない。あんな奴にかけても、慈悲の無駄遣いになるだけだ。何の価値もない」
驚くシェーナの膝に腕を差し入れ、救い上げるようにしてカナスは立ち上がった。
「汚れてしまったな。すぐに湯浴みさせよう」
「ま・・・て、どういうことだ!まさか本当に、その娘のためだけに私をここに入れたと・・・?」
牢に背中を向けたカナスに、咳き込みながらシュンヌが尋ねる。カナスは顔だけで振り返る。
「だったらどうした?」
「ふ・・・ざけるな!そんな呪われた娘のために何故この私がこんな目に!ただ我らの慈悲によってのみ生かされていた娘のために、高潔たる私を投獄するとは笑止・・・」
「その先は口に気をつけた方がいい」
ぴたり、とシュンヌの口が閉じた理由をシェーナはカナスの体が邪魔で知ることができなかった。
そこでは、ジュシェとニーシェの二人が簪のようでいて、簪にはない先端の尖りと磨き上げられた金属特有の鋭い光をもつ武器を両側からシュンヌに突きつけていた。
二人の顔に表情はない。
「そいつらも、ここまでで随分と我慢をしてきたんだ。これ以上言ったら、永久に話せなくなっても責任は持てないな」
「・・・っ・・・」
「お前は、俺に黙ってまでシェーナがかけた慈悲にも、感謝をしなかった。あまつさえ、自分さえよければよいと俺の一番大切にしているものを傷つけた。何度殺しても物足りないな」
目を細めたカナスの顔に、シュンヌは檻の端まで一気にあとずさった。
笑ってはいたが、尋常でないほどの殺気を向けられたのだ。
大陸最強と恐れられるアキューラにおいて“軍神”とまで崇められたカナスの本気は、百戦錬磨の将軍ですら先陣をたじろがせると言わしめる。
戦場経験のない者には恐ろしくてたまらないことだろう。
「お前のやっていることは全て裏目だな。本当に何もわかっちゃいない。自分の目で何一つ見ようとしないからだ」
お前に今更言っても無駄か、とカナスはぽつりと呟いた。
そして、不安をいっぱいに顔に浮かべているシェーナを見下ろす。
「安心しろ。お前に免じて、王太子を殺したりはしない」
「・・・・!本当ですか?」
ぱっと顔を輝かせるシェーナに、ああ、とカナスはいつもの笑みを見せた。ありがとうございます、と嬉しそうに瞳を細めた彼女を抱えなおし、彼は歩き始める。
ただ、背中でシュンヌに一言残した。
「生きるか死ぬかは一度きりしかねえからな。死んじまったら、何もかもは一度きりで済んじまう」
シェーナは意味がただ分からずに首をかしげた。
けれど、先ほどまで殺気にさらされていたシュンヌには言わんとすることが自然と悟れた。
血の気を完全になくしたシュンヌに追い討ちをかけたのはすっかり裏の顔になっているジュシェとニーシェだ。
彼女たちはくすくすと笑って、ようやく凶器を引く。
「あらあら、陛下を本気で怒らせてしまわれました」
「陛下はご自分の敵にはまったくご容赦なされない方」
「素直に城壁に頭だけ乗っていた方がよほどましだったかもしれませんね」
「今更後悔なされても取り返しはつきませんけれど」
「・・・・・く・・・」
がくりと膝を突いたシュンヌは、石畳の床に強く掌を突いた。
「・・・やはり、災厄しか招かぬ娘め・・・!あのときに、処分しておけばこんなことには・・・っ」
「面白いことをおっしゃる」
「ちっとも反省なされない」
「「お前など、幾千幾万の罰を与えられ、もだえ死ぬがいい。だが」」
氷のように冷たい声音で告げた二人は、同時にまたしても手の中の凶器の切っ先をシュンヌの石灰色の瞳にそれぞれ向けた。
「ひ・・・!」
勢いのあるそれは、目に刺さるそのほんの寸前で止まる。
「「シェーナさまをこれ以上侮辱するならば、私たちがまずお前から光を奪ってやる」」
脅しにさすがのシュンヌも黙った。双子は顔を見合わせ、また同時に手を引くと、輪唱するようにくすくす、くすくすと軽やかな、そして、どこか恐ろしくもある笑い声をこぼす。
「では」
「ごきげんよう」
二人の刺客からようやく逃れたシュンヌは、ただ呆然と床に座り込んでいた。