幸せの結末2
最終話です
カナスの表情を見てると綺麗、よりも、格好いい、が上回った。どちらも素敵だけれど、シェーナは格好いい、のときのほうが好きだ。
カナスが笑ってくれるのは、今みたいに困らされるときもあるけれど、とても素敵なことに思えるから。
「からかってねえよ。俺に見とれてます、って顔がすげえ可愛かった。そんな無防備な顔、他の奴に見せんなよ」
「そんな・・・わからないし。ぼうってしてしまっていて、みっともないなら分かるけど」
見とれてるなんて、指摘されるのは恥ずかしくて、シェーナは慌てて表情を引き締めた。
すると今度はカナスからじーっと見下ろされる。
「な・・・なに?おかしいところある?」
「いいや、自分の花嫁に見とれてただけだ」
「な・・・っ!」
さらりと言ってしまうカナスに、シェーナは対応できずに耳まで真っ赤に染めた。
「やっぱりお前、だいぶ大人っぽくなってるな。可愛いってだけだったのに、こうやってると綺麗だと思うもんなあ。可愛らしくて、綺麗な妃なんてなかなか手に入るもんじゃねえし、俺はついてるな」
どう考えても恥ずかしくさせる意地悪をしているとしか思えないのに、それでもシェーナは素直に反応してしまう。
「・・・い、意地悪しないで・・・」
「意地悪?本当のことしか言ってないが」
根をあげるシェーナに、カナスはまたにやっと笑った。あ、やっぱりこっちが好き、とシェーナはひそかに思う。
言ったらやり返されて、辛い目にあうのは自分だから言わないけれど。
若干学習能力のついたシェーナだった。
「その衣装もやはりよく似合っているな」
「ありがとうございます」
何度か練習で着ていたのを見られていたためかカナスはさっぱりとその言葉をくれる。
しかし、初めて見たシェーナは同じことを思っても、うまく口にはできない。
何度も何度も視線が惹かれるように見上げては下ろしを繰り返しつつも、「綺麗」以外の褒め言葉が出てこないシェーナはしゅん、と小さく肩を落とした。
すごく賞賛したいのに、うまくできない。
そんなシェーナの耳に、またくすっと小さな笑い声が届いた。
「そんなに言いたいなら、まあ、いいけどよ」
「え、あ・・・いえ・・・その・・・ご、ごめんなさい。他に言い方が思いつかなくて。でも、ご衣裳もとても綺麗で素敵で、カナス様によくお似合いなので」
「ありがとな」
嬉しそうに頬を染めて賞賛したシェーナだったが、同じように礼を返したカナスがにっこりと、上品に笑ってくれたので、ぷしゅっと一気に茹で上がった。
外面用の笑顔を浮かべたのだと少しして理解したが、飛び跳ねる心臓はそんなにすぐには収まらない。
すると、こらえきれないようにカナスが噴出した。
彼はシェーナがうらみがましい視線を向けても、そのまましばらく笑っていた。
「・・・もう、今日一日で心臓が壊れてしまうかもしれない」
普通にしているカナスにどきどきし、からかわれてもっとどきどきし、とても一日持つとは思えない。
情けない表情で呟くシェーナに、まだ腹を抱えて笑っているカナスが思わぬ提案をしてきた。
「そこまで落ち着かないなら髪を下ろしてやろうか?見慣れてねえから戸惑ってるんだろ?」
「え?それはそうだけど・・・でも、せっかく綺麗に整えられていますし、もったいないと思う。下ろしてしまったら、整えた方に申し訳ないし、それに、ジュシェとニーシェが怒る気がするし」
「ああ・・・まあ・・・あいつらはうるさいからな。そういうのに」
しっかりと想像できたせいか、提案者本人がすぐに嫌な顔になった。
「それに、髪を下ろしてもカナス様はカナス様だから。だったら、綺麗なことには変わりがないので、やっぱりどきどきしてしまうと思う」
「ん?今まで普通に顔見て話してたじゃねえか」
「えっと・・・それは・・・たぶん、カナス様がこんなにも綺麗という言葉がお似合いになるなんて、そこまでは考えたことがなかったからかと」
「あ?」
「カナス様は格好が良いし、素敵な方だとずっとずっと思ってた。でもそれだけじゃなくて、本当に整っていて彫刻のようなお美しさなんだなって。職人の芸術を見ているようで」
あまりに直截的な賞賛にカナスは、なんとも言えない表情を浮かべた。
シェーナはすぐカナスのことを、からかってひどいというが、無邪気な分、シェーナの方がたちが悪い。
何の羞恥プレイだと文句の一つも言いたくもなるのは仕方がないだろう。
しかし、そこまで思って彼は急にまた笑いがこみ上げてくるのを感じた。
それを素直に顔に出せば、シェーナは今度は何だと首を傾ける。
「覚えてるか?お前、最初に、俺のことを顔が怖いって言ったんだぞ」
ぱちぱちと二度大きく瞬きをしてから、シェーナはこれ以上ないほど慌てた。
「あ、あ、あれは・・・、その、こ、殺されるかと・・・。それに、男の人を近くで見るのは、初めてだった・・・からで・・・ごめんなさい」
本当に顔が怖いと思っていたわけではない。
ただ、感じたことがないほど近くでのぞきこまれたりすることが怖かっただけだ。
あわあわと、何度も謝罪を繰り返すシェーナの肩を、カナスはぽん、と叩いた。
「別に責めてんじゃねえよ。ただ、あんときからは考えられねえなって思ったんだ」
「考えられない?」
「ちっとも笑わなかったお前が、笑うようになった。俺に惚れたかとからかっても、首をかしげていたばかりのお前が、好きだと言ってくれるようになった。それはすげえなって、いまさらしみじみと感じたんだ」
変化にはシェーナが一番驚いている。
そして、一番感謝をしている。
「いろいろ考えると感慨深いな。シェーナ」
「・・・・・うん」
今日までたくさんのことがあった。
あの狭いフィルカの部屋にいた頃とは、全く比べ物にならないほど、本当にたくさんの目まぐるしいことが。
「・・・・・・うまい言葉が思いつかねえ、が・・・ありがとな」
さきほどの上辺の礼とは違う「ありがとう」。照れているのか、少しぶっきらぼうに告げられたそれに、シェーナは目を見開き、それから視界を涙でゆがめた。
「ば、馬鹿!泣くな。化粧がとれたら、俺が双子に怒られる」
焦っている彼の言葉に、シェーナは頑張って涙をこぼさないようにした。
「すみません・・・嬉しくて、感激して」
「これくらいでいちいちそんな感激しなくていい。つか、泣くな。嬉しいなら笑え」
「うん。はい」
慌ててシェーナは今できる限りの笑顔を浮かべた。嬉しい気持ち、そのままに。
無垢な子供のような、何の打算もない笑顔がどれほど愛らしいのかシェーナは知らない。
ただ、カナスがまぶしそうに目を細めたことだけを知った。
そんなカナスを見ているとほっこりと気持ちが柔らかくなり、不思議と、落ち着いた。
もしかしたら、さっきまで極度に緊張していたのかもしれない。
そのとき、カーン、と大きな銅鐘の音が高く鳴り響いた。式の開始が近いことを告げるその音に、カナスがふっと小さな息を吐く。
「シェーナ、手を貸せ」
「はい」
すっと差し出された白い手袋をはめた掌に、シェーナは爪を淡いピンク色に染められた手を重ね、立ち上がった。
だが、ふんわりとした外観ながら結構重みのあるドレスと慣れないヒールの靴で少しよろめいてしまう。
リアに散々歩き方を仕込まれたとしても、動きづらさがある礼服では咄嗟にうまくいかないようだ。
すぐに伸びてきた腕に背中を支えられて、シェーナは礼を言った。
「ったく、お前はよく転ぶ」
「すみません・・・」
「ちゃんと支えててやるから。手を離すなよ」
「はい」
言われたとおり、しっかりと手を握ったままシェーナは歩き出した。
今までそうしてきたように。そして、これからもそうするように、カナスと一緒に、前へ歩き出した。
誰よりも幸せな笑顔と共に。
**
アキューラ王国はかつて軍事に優れた国であった。
しかし、数十年後には商業国家として名を馳せることになる。人種や身分にかかわらず試験に合格した優秀な者は誰でも中央に仕官することが許され、医学にも力が入れられたため、周辺国からも積極的に交流が行われた。
もちろん国内の小競り合いは続き、その度に容赦なく鎮圧されたが、決して非道な扱いはされなかったという。
カナス=フェーレは若く即位し、王位の簒奪が繰り返されたアキューラでは珍しく在位期間が長く賢王とたたえられた。その隣にはいつも控えめに微笑む王妃がいた。
賢王は、小国出身の王妃を大層大切にしており、王妃を害そうとする者に対してだけは一切の慈悲も見せずに苛烈な罰を与えたと伝えられている。
アキューラは、この国としては肌の色の白い青い瞳の青年に引き継がれ、その子孫にわたって永く発展していくことになる。
歴史の古い神の国とされた王妃の出身国がどこにあったのか、あとの歴史では、もう誰も知らない。
Fin
二人の物語にお付き合いいただいてありがとうごさいました。
実はまだまだこの先も平坦な日々とはいかない二人ですが、一男一女に恵まれお互いに縁の薄かった家族を得て幸せに過ごしていきます。
彼らの周りの人々も色々設定はあるのですが、一番意外な取り合わせではグィンとリアかなと。傲慢だけれども悲劇的でもある意地っ張りの元姫君は、抜けたところもある人間くさい真面目で素直な従者に絆されてしまうわけですが…、設定だけで満足して筆が進まない不思議です。
子供たち世代は新しい世代としての苦労や不幸もあり、ニコニコ笑いながら腹黒満載な王子がカナスに「お前はほんと誰に似たんだ?」って言われながら「母上だけではないことは確かですね」と微笑むのを想像して楽しんでます。気が向いたら載せるかもですが…あんまり気の進まない設定もあるからまた機会があれば。
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また別の連載(執事もの)始めたのでよければお付き合いください。




